「世界は広いぞ?」
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年12月01日 19時50分23秒
リブラネスタのとある裏路地。物陰に身を潜めるギド・フェルミは、資材の影から顔を覗かせた。
――まいたか。
路地の先にも後にも人影はない。追手はまいた――そう思い、ようやく一息ついたギドは胸元のマントのふくらみに視線を落とす。
無事だ。これを奪われるわけにはいかない。何せ、聖霊節の――。
「しばらく見ない間に腕が落ちたんじゃないか」
「っ!?」
突然かけられた声に、ギドはハッと顔を上げる。――後ろだと?
「まさかあの程度で私をまいたとでも思っていたのか?」
コツコツと靴を鳴らし、人影はこちらに歩いてくる。
「一体、誰だ……何の目的があって、俺を狙う」
「誰だって? まさか忘れたのか?」
――どうする。ここは逃げの一手か。
自分は冒険者でありシーフだ。全力で逃げを打てばこの場を脱することは難しくはない。
――だが、なんだこの胸騒ぎは。
何かが引っかかる。目の前に迫る人影に会わなければいけない。なぜかそんな気がしたのだ。
そして、ついに人影が視認できる程近づいて――。
「あー、誰?」
ギドの声に盛大にすっ転んでいる人物。――顔はもちろん知っている。だが、今更なんの用だ。
「お前の頭空っぽ具合は相変わらずだな、ギド・フェルミ!」
――目的はなんだ。
「まあいい。私の顔を覚えていないというのは、可能性の一つとして考えていた――本当は気付いてほしかったけど――だが、これならば覚えているだろう!」
と、荒げた呼吸を整えた女は、羽織っていたマントを勢いよく脱ぎ捨てた。
「……その服は!」
随分と懐かしいものを着ている。となると目的は、そちら関係か?
「ようやく思い出したようだな。そうだ、私達の制服――いや、元制服だ。かつて帝国に――」
「それ……いつから着てるの? え? まじで? もしかして、4カ月前からずっと着てるの? えっ嘘……」
「違うわっ! ちゃんと洗濯してるわ! ちょっとお水が冷たくなってきたけど、一生懸命手洗いで、よれよれにならないように丁寧にな!!」
「なんだよ、びっくりさせるなって。俺はてっきり……」
ギドの憐みの視線に女は必死になって反論する。
「ちがわい! お前が人の顔を全然覚えないから、制服を着て来れば気付いてもらえると思ったんだ! だから、わざとこれで来たんだよ!」
「えっ、健気……?」
「お前ってやつは……!」
女はプルプルと震える拳を握りしめた。
――こいつを御すのはたやすい。だが目的がはっきりとしない。どうする、まくか? いや、ここでまいたところで再び現れる。こいつはそういう面倒臭い奴だ。
「とりあえず、こんな所じゃなくてどっかでお茶でもしないか?」
一先ず場所を移そう。ここはあまりにも人目が――無い。
そうして、何やら嬉しそうな女を連れ立ち、ギドは通りを目指す。
●
通りへと向かう道中、二人は話に花を咲かせすっかり打ち解けていた。
「お前、吟遊詩人なんかやってるのか? あんなに音痴なのに……?」
「おいおい、見くびるなよ。これでも『木枯らしギド』って呼ばれて一角の吟遊詩人として通ってるんだぜ」
「その二つ名はどうかと思うが……まぁ、あのギドが市井に溶け込めていて私も嬉しいぞ」
和やかな声で互いの近況報告を行う。そう、表向きには――。
――話だけでは目的が掴めないな……一度、鎌をかけてみるか。
「なんだよ、俺はてっきりこの――いや、なんでもない」
おっと危ないとマントのふくらみを押さえたギドに、女は不思議そうに首をかしげる。
――目的はこれじゃないのか。なら、これではどうだ?
「まてっ!」
と、ギドは広場を前にいきなり立ち止まり、女を手で制した。
「ど、どうした……?」
「見えるか。あの少女」
「あの噴水前に佇む少女か? あれが一体どうしたというんだ」
「見た目に騙されるなよ?」
「なにっ……一体どういう――」
女は再びゆっくりと噴水前の少女に視線を移す。
何の変哲もない少女に見える。この寒風吹く中、半袖ワンピースを装い、鼻水を垂らしながらロリポップをぺろぺろしている、いたって普通の――。
「あれは……俺の宿敵だ」
「宿敵だと……? あんな少女がか」
「見た目に騙されるなと言っただろう。あれは、たった一つの小石で俺に(心の)致命傷を与える怪物だ」
「ち、致命傷っ、冒険者のお前にか……!? まさか、あの少女は授恵者だとでもいうのか?」
――冒険者だと。なぜ俺が冒険者だと知っている。
ギドの言葉に女は瞠目している。
再会してから正体は明かしていない。会話の流れからも予想されないよう細心の注意を払ったはずだ。
――なのになぜだ。くそ、情報が少ないな。
だからギドは、あえてそのまま会話を続けた。
「全てが謎だ」
「い、一体何者なんだ……!?」
ギドの口上に女の混乱はさらに増す。
――演技なのか?
「言った通り宿敵だ。容易に視界に入るなよ。――(自信を)消されるぞ」
「わ、わかった」
ゴクリと喉を鳴らした女を連れ、ギドは一軒の店へと駆けこんだ。
●
二人は店に入り席に着く。女は安堵したように息を整えていた。
――おかしい。いたって普通だ。普通過ぎる。まさか、本当に旧知に会いに来ただけなのか……?
ギドはこれまで何度となく鎌をかけてきた。しかし、この女はボロを出すどころか、本当に楽しんでいるように見える。
「なぁ、ギド。さっきから何やらピヨピヨ聞こえるんだが」
ギドがそんな事を思っていると、注文を終えた女が問いかけてきた。
「ふっ、気付いたか」
――目的がこれでないのなら、見せても構わないだろう。
「見て驚くなよ?」
ギドは懐の袋に手を突っ込むと、それを手に乗せ女に見せた。
「……は? なんで懐にひよこなんて入れてるんだ……?」
「いやぁ、もうすぐ聖霊節だろ? チキン食うだろ? でも、聖霊節の時期ってチキン高いんだよな」
「お前まさか……」
「そう、育てようって思ってな」
ピヨピヨと可愛く鳴くひよこに、思わず目尻が下がってしまう。
「ギド……一ついい事を教えてやろう」
「うん、なんだ?」
「ひよこが鶏になるまでの期間は、約半年だ。今から育てても聖霊節までに鶏にはならない」
「――――――なっ、んだ……と」
――え……うそ、え?
「は……はははっ! お前は何も変わってないな、ギド」
愕然とひよこのつぶらな瞳と目を合わせるギドを、女は大声で笑った。
「その突飛な発想と謎の行動力。あの頃に私達を散々に振り回したお前は、冒険者になっても健在だったようだ」
「なんだよ、俺傷ついてるんだからほっといてくれよ……」
ひよこをそっと袋に戻し目尻に涙を溜めるギドに、女の口上は続く。
「だから、そんな変わらない元同僚にひとつ言っておこう――やはり、お前は危険だ」
瞬間、女の殺気が膨らんだ――。
――ヒュン。
「ふっ、よくかわしたな」
「人が心に傷を負っている隙に攻撃とは、相変わらずやることが汚いな、メルモ・ブーリオ」
頬を掠め背後の壁に突き刺さったフォークを横目で見やり、ギドは女の名を呼んだ。
「なんだ、覚えてるじゃないか」
「本当は忘れたかったがな。――今更何の用だ」
右手でナイフを遊ばせるメルモに、ギドは椅子から腰を浮かせ問いかける。
「私は復讐に来たのだよ、ギド・フェルミ」
「復讐だと……? 一体、アンタに何の恨みを買ったって言うんだ」
――油断した。まさかこの時を待っていたのか。
机を挟んで対峙する二人。
「忘れたとは言わせないぞ」
女は立ち上がり、ギドにナイフを向けて言い放った。
「お前が奪った『姫』の座を!」
「……え?」
「男のくせにちょっと顔がいいだけでちやほやされて……。私が長らくキープしてきた組織内の『姫』の座をたった1日で奪い去ったお前の悪行、忘れたとは言わせないぞ!」
「え……? ちょま……え?」
「なにが『俺って超かわいいじゃん?』だ! なにが『俺ってさ、エルフと美の女神のハーフじゃん?』だ! 私がどれほどの努力を重ね『姫』の座を守っていたか、お前にはわかるまい!」
突き出したナイフが小刻みに震えている。
――やばい、流石の俺でもこの超展開への答えが思いつかない。
「勝負だ、ギド」
「ま、待て。落ち着いて話せばきっと分かり合えるはずだ」
――考えろ。この展開をどう攻略する。
「もはや問答無用だ!」
「俺は冒険者だぞ! 一般人のお前では、勝負になら、ない――まさか!」
「ようやく気付いたか。お前だけではないんだよ、授恵者として目覚めたのはな!」
「くっ!」
更に突き出されたナイフの一撃を何とか避け、ギドは椅子から立ち上がる。
だが、メルモは逃がさないとばかりに、ナイフを投擲してきた。
再び寸での所で避けたギドだったが、メルモは再びナイフとフォークで武装している。
――まずい、今の俺には武器と言えるものが、ひよこしかない!
客の目も気にせず、メルモはゆっくりと机を迂回し距離を詰めてくる。
ギドは懐のぬくもりに手をかけ、じりじりと後退する。まさに一触即発。この絶対的な不利をどう切り抜けるか。ギドが頭を巡らせた、その時。
「うるさい、迷惑」
――え? この声は。
そう思った時には天地がひっくり返っていた。
強烈な衝撃が後頭部を襲い、目の中で火花が弾ける。
そして、隣でも盛大に床を打つ音が聞こえた。
メルモも何者かに転倒させられたのだろう。
――何者か? そんな事はわかっている。これは広場のあの少――。
ギドはそこまで考え、意識を手放した――。
●
冷たい石牢の中、ギドは壁に向かって声をかける。
「どうだ、俺の宿敵の強さは」
「……はは、世の中は広いな」
返ってきた声はすっかり冷静さを取り戻していた。
「なぁ、メルモ」
「なんだ」
「冒険者にならないか?」
「なに……?」
「授恵者になった者の義務だぞ」
「い、いや、しかし……」
壁から聞こえる声は戸惑っているようだった。
だから、こう言ってみる。
「また俺と組もう。世界は広いぞ?」
と――。
――まいたか。
路地の先にも後にも人影はない。追手はまいた――そう思い、ようやく一息ついたギドは胸元のマントのふくらみに視線を落とす。
無事だ。これを奪われるわけにはいかない。何せ、聖霊節の――。
「しばらく見ない間に腕が落ちたんじゃないか」
「っ!?」
突然かけられた声に、ギドはハッと顔を上げる。――後ろだと?
「まさかあの程度で私をまいたとでも思っていたのか?」
コツコツと靴を鳴らし、人影はこちらに歩いてくる。
「一体、誰だ……何の目的があって、俺を狙う」
「誰だって? まさか忘れたのか?」
――どうする。ここは逃げの一手か。
自分は冒険者でありシーフだ。全力で逃げを打てばこの場を脱することは難しくはない。
――だが、なんだこの胸騒ぎは。
何かが引っかかる。目の前に迫る人影に会わなければいけない。なぜかそんな気がしたのだ。
そして、ついに人影が視認できる程近づいて――。
「あー、誰?」
ギドの声に盛大にすっ転んでいる人物。――顔はもちろん知っている。だが、今更なんの用だ。
「お前の頭空っぽ具合は相変わらずだな、ギド・フェルミ!」
――目的はなんだ。
「まあいい。私の顔を覚えていないというのは、可能性の一つとして考えていた――本当は気付いてほしかったけど――だが、これならば覚えているだろう!」
と、荒げた呼吸を整えた女は、羽織っていたマントを勢いよく脱ぎ捨てた。
「……その服は!」
随分と懐かしいものを着ている。となると目的は、そちら関係か?
「ようやく思い出したようだな。そうだ、私達の制服――いや、元制服だ。かつて帝国に――」
「それ……いつから着てるの? え? まじで? もしかして、4カ月前からずっと着てるの? えっ嘘……」
「違うわっ! ちゃんと洗濯してるわ! ちょっとお水が冷たくなってきたけど、一生懸命手洗いで、よれよれにならないように丁寧にな!!」
「なんだよ、びっくりさせるなって。俺はてっきり……」
ギドの憐みの視線に女は必死になって反論する。
「ちがわい! お前が人の顔を全然覚えないから、制服を着て来れば気付いてもらえると思ったんだ! だから、わざとこれで来たんだよ!」
「えっ、健気……?」
「お前ってやつは……!」
女はプルプルと震える拳を握りしめた。
――こいつを御すのはたやすい。だが目的がはっきりとしない。どうする、まくか? いや、ここでまいたところで再び現れる。こいつはそういう面倒臭い奴だ。
「とりあえず、こんな所じゃなくてどっかでお茶でもしないか?」
一先ず場所を移そう。ここはあまりにも人目が――無い。
そうして、何やら嬉しそうな女を連れ立ち、ギドは通りを目指す。
●
通りへと向かう道中、二人は話に花を咲かせすっかり打ち解けていた。
「お前、吟遊詩人なんかやってるのか? あんなに音痴なのに……?」
「おいおい、見くびるなよ。これでも『木枯らしギド』って呼ばれて一角の吟遊詩人として通ってるんだぜ」
「その二つ名はどうかと思うが……まぁ、あのギドが市井に溶け込めていて私も嬉しいぞ」
和やかな声で互いの近況報告を行う。そう、表向きには――。
――話だけでは目的が掴めないな……一度、鎌をかけてみるか。
「なんだよ、俺はてっきりこの――いや、なんでもない」
おっと危ないとマントのふくらみを押さえたギドに、女は不思議そうに首をかしげる。
――目的はこれじゃないのか。なら、これではどうだ?
「まてっ!」
と、ギドは広場を前にいきなり立ち止まり、女を手で制した。
「ど、どうした……?」
「見えるか。あの少女」
「あの噴水前に佇む少女か? あれが一体どうしたというんだ」
「見た目に騙されるなよ?」
「なにっ……一体どういう――」
女は再びゆっくりと噴水前の少女に視線を移す。
何の変哲もない少女に見える。この寒風吹く中、半袖ワンピースを装い、鼻水を垂らしながらロリポップをぺろぺろしている、いたって普通の――。
「あれは……俺の宿敵だ」
「宿敵だと……? あんな少女がか」
「見た目に騙されるなと言っただろう。あれは、たった一つの小石で俺に(心の)致命傷を与える怪物だ」
「ち、致命傷っ、冒険者のお前にか……!? まさか、あの少女は授恵者だとでもいうのか?」
――冒険者だと。なぜ俺が冒険者だと知っている。
ギドの言葉に女は瞠目している。
再会してから正体は明かしていない。会話の流れからも予想されないよう細心の注意を払ったはずだ。
――なのになぜだ。くそ、情報が少ないな。
だからギドは、あえてそのまま会話を続けた。
「全てが謎だ」
「い、一体何者なんだ……!?」
ギドの口上に女の混乱はさらに増す。
――演技なのか?
「言った通り宿敵だ。容易に視界に入るなよ。――(自信を)消されるぞ」
「わ、わかった」
ゴクリと喉を鳴らした女を連れ、ギドは一軒の店へと駆けこんだ。
●
二人は店に入り席に着く。女は安堵したように息を整えていた。
――おかしい。いたって普通だ。普通過ぎる。まさか、本当に旧知に会いに来ただけなのか……?
ギドはこれまで何度となく鎌をかけてきた。しかし、この女はボロを出すどころか、本当に楽しんでいるように見える。
「なぁ、ギド。さっきから何やらピヨピヨ聞こえるんだが」
ギドがそんな事を思っていると、注文を終えた女が問いかけてきた。
「ふっ、気付いたか」
――目的がこれでないのなら、見せても構わないだろう。
「見て驚くなよ?」
ギドは懐の袋に手を突っ込むと、それを手に乗せ女に見せた。
「……は? なんで懐にひよこなんて入れてるんだ……?」
「いやぁ、もうすぐ聖霊節だろ? チキン食うだろ? でも、聖霊節の時期ってチキン高いんだよな」
「お前まさか……」
「そう、育てようって思ってな」
ピヨピヨと可愛く鳴くひよこに、思わず目尻が下がってしまう。
「ギド……一ついい事を教えてやろう」
「うん、なんだ?」
「ひよこが鶏になるまでの期間は、約半年だ。今から育てても聖霊節までに鶏にはならない」
「――――――なっ、んだ……と」
――え……うそ、え?
「は……はははっ! お前は何も変わってないな、ギド」
愕然とひよこのつぶらな瞳と目を合わせるギドを、女は大声で笑った。
「その突飛な発想と謎の行動力。あの頃に私達を散々に振り回したお前は、冒険者になっても健在だったようだ」
「なんだよ、俺傷ついてるんだからほっといてくれよ……」
ひよこをそっと袋に戻し目尻に涙を溜めるギドに、女の口上は続く。
「だから、そんな変わらない元同僚にひとつ言っておこう――やはり、お前は危険だ」
瞬間、女の殺気が膨らんだ――。
――ヒュン。
「ふっ、よくかわしたな」
「人が心に傷を負っている隙に攻撃とは、相変わらずやることが汚いな、メルモ・ブーリオ」
頬を掠め背後の壁に突き刺さったフォークを横目で見やり、ギドは女の名を呼んだ。
「なんだ、覚えてるじゃないか」
「本当は忘れたかったがな。――今更何の用だ」
右手でナイフを遊ばせるメルモに、ギドは椅子から腰を浮かせ問いかける。
「私は復讐に来たのだよ、ギド・フェルミ」
「復讐だと……? 一体、アンタに何の恨みを買ったって言うんだ」
――油断した。まさかこの時を待っていたのか。
机を挟んで対峙する二人。
「忘れたとは言わせないぞ」
女は立ち上がり、ギドにナイフを向けて言い放った。
「お前が奪った『姫』の座を!」
「……え?」
「男のくせにちょっと顔がいいだけでちやほやされて……。私が長らくキープしてきた組織内の『姫』の座をたった1日で奪い去ったお前の悪行、忘れたとは言わせないぞ!」
「え……? ちょま……え?」
「なにが『俺って超かわいいじゃん?』だ! なにが『俺ってさ、エルフと美の女神のハーフじゃん?』だ! 私がどれほどの努力を重ね『姫』の座を守っていたか、お前にはわかるまい!」
突き出したナイフが小刻みに震えている。
――やばい、流石の俺でもこの超展開への答えが思いつかない。
「勝負だ、ギド」
「ま、待て。落ち着いて話せばきっと分かり合えるはずだ」
――考えろ。この展開をどう攻略する。
「もはや問答無用だ!」
「俺は冒険者だぞ! 一般人のお前では、勝負になら、ない――まさか!」
「ようやく気付いたか。お前だけではないんだよ、授恵者として目覚めたのはな!」
「くっ!」
更に突き出されたナイフの一撃を何とか避け、ギドは椅子から立ち上がる。
だが、メルモは逃がさないとばかりに、ナイフを投擲してきた。
再び寸での所で避けたギドだったが、メルモは再びナイフとフォークで武装している。
――まずい、今の俺には武器と言えるものが、ひよこしかない!
客の目も気にせず、メルモはゆっくりと机を迂回し距離を詰めてくる。
ギドは懐のぬくもりに手をかけ、じりじりと後退する。まさに一触即発。この絶対的な不利をどう切り抜けるか。ギドが頭を巡らせた、その時。
「うるさい、迷惑」
――え? この声は。
そう思った時には天地がひっくり返っていた。
強烈な衝撃が後頭部を襲い、目の中で火花が弾ける。
そして、隣でも盛大に床を打つ音が聞こえた。
メルモも何者かに転倒させられたのだろう。
――何者か? そんな事はわかっている。これは広場のあの少――。
ギドはそこまで考え、意識を手放した――。
●
冷たい石牢の中、ギドは壁に向かって声をかける。
「どうだ、俺の宿敵の強さは」
「……はは、世の中は広いな」
返ってきた声はすっかり冷静さを取り戻していた。
「なぁ、メルモ」
「なんだ」
「冒険者にならないか?」
「なに……?」
「授恵者になった者の義務だぞ」
「い、いや、しかし……」
壁から聞こえる声は戸惑っているようだった。
だから、こう言ってみる。
「また俺と組もう。世界は広いぞ?」
と――。