アルパカ牧場で遊ぼう!

キャラクターノベル(グランド)【A】アルパカ牧場で遊ぼう!制作 アルパカコネクト運営納品 2023年08月30日 12時00分00秒

 空には入道雲。牧場の一角に設けられたイベント会場には、動物ふれあい広場やゲームコーナー、はたまたフリーマーケット(ドゥジンシ即売会)までもが軒を連ねていた。
『パッパカ~! それでは、これより第3回パカケットマーケットを開催します。パカ!』
 どこからともなく、底抜けに明るく能天気な声がイベントの開始を告げる。

「さぁ、売るわよ!」
 威勢よく言い放ったエウフェミアの、その横顔をバルトロマイは見つめていた。右を見て、左を見て――傍らに立つクリストフォロスと目が合った。
「ふふん、我々が最大手ということでよろしいか!?」
 彼は周囲のブースと自分たちの立つそれを見比べてご満悦だ。確かに装飾満載のスペースを準備している参加者など他にはいるまい。その意味では確かに目立っているのは間違いないが――何か、違うのではないだろうか。そんなバルトロマイの問いかけは、だが言葉になることは無かった。
「きっと皆さま、ワタクシたちの作品を手に取っていただけますわ」
「神のご威光を知らしめる良い機会ですね」
 ああ、神よ。味方と思われた(バルトロマイは信じていた)ソランジュとセシリアが微笑みあっている姿を見て、哀れな子羊は天を仰ぐ。神は死んだ。『布教活動』のため、協力して欲しいと連絡を受けてわざわざ予定を空けて準備したのだ。その俺に、斯くも過酷な試練をお与えになりますか? スーツの男は己の信心を問う。そんな彼を横目に、他の四人は意気軒高だ。
「ジャパンでは、なんか三角形の建物でこうやって自分の思想を広める大規模なマーケットが毎年夏と冬に開催されているんでしょ?」
「素晴らしい活動です」
「……と、始まるようだな」
 そうこうする間に開場を告げるアナウンスが響き渡った――と、さっそく何人かの参加者が彼らのスペースを訪れる。今回五人が準備したのは、自作の絵本に武術指南書。宗教画のポストカードに、分かりやすく和訳された聖書だった。絵本は流行りのタッチで描かれた五人組が、悪夢や怖い悪鬼から街の子供たちを守るという内容だ。
「これを読んだら、きっと悪魔も悪さできなくなります!」
「これは言うなれば……我々信徒が信仰を全うする為に心身を強化する教典だ! 神にばかり頼らず、自分の身は自分で自分で守るがいい!」
 朗々たる声で自身らのドゥジンシを語るセシリアやクリストフォロスに加え、購入者一人一人に丁寧に握手で感謝の意を伝えるソランジュ。客が来てしまっては常識人(苦労性)であるバルトロマイとしても内心を押し殺して大人らしく、笑顔で応対せざるを得ない。
「おつりが欲しい? そんなバカみたいにデカいお札で、ポストカード一枚っきり買うんじゃないわよ」
 多少の難があるエウフェミアの接客を抜きにしても、バリエーション豊かな美男美女がスーツや礼装姿で、荘厳な祭壇と見紛うばかりのスペースに陣取っているのである。興味本位の客を惹きつけるには掴みは十分。一度手に取らせてしまえば、そこは信心篤い本職が準備した超絶ハイクオリティの頒布物(布教リーフレット)である。あれよあれよという間に、準備した全てが捌けてしまった。何となれば和訳した聖書でしかないバルトロマイの作品(私が訳しました)ですら一冊も残らなかったのだから恐れ入る。
「ありがとうございますわ。アナタにも、神のご加護がありますように」
 ソランジュが最後まで気を抜かぬ握手と微笑みを与えて最後の一冊(ラストワン)を購入した参加者を見送ると、めいめいにパイプ椅子へと体重を預ける。少し汗ばむほどの陽気の中、経緯はともあれやり切ったという達成感がエウフェミアたち五人を包んでいた。なお、打ち上げでは今回の盛況に気をよくしたエウフェミアが同じ面子での次回の参加を早くも宣言したとかしなかったとか。

「今日は隣同士、どうぞよろしく」
「ああ、ご丁寧にどうも」
 そんな挨拶を交わしながら、ソニアとユリシスは互いにサンプルを交換し合う。ここはオールジャンルと分類された区画の片隅。全年齢を対象とした同人誌や頒布物の中でも、独自色の強い物(ジャンルとしてまとめきれなかったもの)が集う一角だった。
「ユリシスさんの作品は紀行文なのね」
 パラパラと手渡された冊子に目を通してソニアが呟く。ユリシスの作品は、とある南国の島国へ彼が旅した際に目にした珍しい風物――特に島の花形でもある『郵便屋さん』と交流して得た驚きを、見たまま聞いたままに綴った力作だった。そこに描かれた情景は、ソニアの故郷とも重なる部分があり、少しの慕情を呼び起こさせる。
「ええ、そうなんです。ソニア殿はメリーバッドものですか」
 彼女から手渡されたのは文庫本といっても通用するほどの大作。聞けば、愛ゆえに狂いながら、最終的には二人だけの閉じた世界で幸せを見つけるといった筋書きらしい。誰かの性癖に刺さればと熱っぽく語るソニアの瞳には、妖しい光が宿っている。
「全部は売れなくてもいいの。私の情熱の全てをここに詰め込んだわ」
 見るべき者だけがこれを評価してくれればいい。趣味の創作とはそういったものである。意図せず意見が合った二人は、熱く創作談義を語り合うのであった。

 パカケットは自由の祭典である。故に、壁サー(青空イベントなので壁はないが)の一角、天國・ミカドが突如として大声を上げたぐらいではスタッフが飛んでくることは(他の参加者に迷惑を掛けない限り)無い。
「流行にも敏感な、我が、ド健全サークル『天上天下』の新刊はこれだ!」
 手には決して薄いとは言えない厚さのウスイホンが掲げられている。そして、その背後には大量の段ボール。彼女の全身全霊を籠めた健全ギャグ本に、さまざまな人脈から寄稿された原稿も制限なしで詰めていったらいつの間にかこうなった。
 サークル合わせの形で並び出展となった猪原城・美雲、深栖 侑輝、時遠 茨らもそれぞれの作品を搬入し終えて一安心だ。直前まで原稿に掛かりっきりで印刷所泣かせの極道入稿(with割増料金)をした挙句、上がったままのテンションでコピー本まで作っていたのだから若干の疲れが見えるのは致し方なし。
「ひゃっほーい! やってきたよ! 今日はちゃんと全年齢対象作品だよ!」
「青空即売会……素敵ですわね!」
 いつもよりもテンションも声量も3割増し、ランナーズハイになっている彼らは互いの頒布物を確認しながらまずは準備が無事に終わった健闘を称えあう。今回の帝会(ミカドとゆかいな仲間たち)は、会場でもあるアルパカ牧場にちなんで『牧場合わせ』で挑む布陣だった。その中でも、パソコンを持ち込んで何やら動画を流している侑輝のスペースは嫌が応にも目立つ。
「パー子……これ、ゲーム?」
 キミも忙しいだろうにと、動画を見ては嘆息の声をミカドが漏らした。
「そうだよ、ミカドちゃん先生もやってみる?」
 本業の制作で忙しい最中に、知人の助力も受けて作り上げた侑輝の作品は、経営有り、結婚有り、過労死有りのリアリティ志向ヴァーチャルライフゲームらしい。コンシューマ顔負けのPVを目にして、さすがのミカドも悪友の本気を認めざるを得なかった。
「ゲーム面白そうですね……死亡もあるのがリアリティあっていいな」
「皆様の作品も是非是非! 楽しませていただきたいのですわ!」
 設営を終えた茨と美雲も、自然と合流してサンプルを交換し合う――とはいえ、茨と美雲は既に学校で互いの作品を読みあっていたのだが。他の三人と比べて創作に不慣れな美雲をサポートする形で、普段はWeb漫画家として活躍する茨がその制作を支援したのだ。その甲斐もあって美雲の作品『牧場主の俺にラブストーリーは来ない』は、あれもこれも美雲の「これ入れたい」を満載した珠玉の一品となった。その横でちゃっかりとWeb小説投稿サイトに新作を書き下ろしつつ、加筆修正までして同人誌に仕立て上げた茨の実力は疑いようもない。そんな和気藹々と仲睦まじい時間を過ごす四人の視線の先を、一人の少年が通り過ぎる。
「あれー……お母さん、こっちに来たと思ったんだけど……」
 きょろきょろと辺りを見回すのはハスロ 晶だ。何やら人を探しているのか、あっちへふらふら、こっちへヨロヨロ。人の波に揉まれるうちに、『天上天下』からはるか向こう――R18ジャンルの方へと流されかけている。そんな彼の姿を見て、ミカドがまたしても叫ぶ。
「いかん晶そちらは秘密の花園だ! ミミミミカドお姉様と、アイスおデートをせんか!?」
 スペースから飛び出して晶の腕を掴めば、見知ったお姉さんの顔を見つけて少年もにっこり笑顔になった。
「あ、ミカド先生! アイスおデート!? するー!」
 チョコミント味あるかな! と、ご機嫌な子供の様子を見て侑輝や美雲、茨も釣られて微笑む。後のことは任せてと、屋台コーナーに気もそぞろな晶とミカド(保護者)を見送るのだった。

 繰り返す。パカケットは自由の祭典である。
 そこに創作に対する愛があれば、全てが受け入れられるのである――例え、かつて『見る青酸カリ』と評された上でありがたくも評定1を受け取ったことがある天国 コハクであったとしても。
(命が惜しけりゃ、この本には近寄るな……)
 顔面蒼白、何やら物言いたげな目で必死に通りゆく来場者へ訴える大地 奏名が売り子だったとしても。性癖博覧会である同人誌即売会にはそう言った独創的な作品を求める同好の士が――きっと居るに、違いない。コハクが主催するサークルP(パァ)は、修羅場の中で激しく輝く一瞬の美しさに焦点を当てた意欲作『RAVA』を持って此度のパカケットへと参戦した。
 コハクには同人誌の知識はない。ただ、そこには悲劇に対する深い愛があった。そして、彼女の隣には哀れなる同居人(被害者)が居た。その二つがあれば、彼女の想いが形(同人誌)となるのにそう時間は掛からなかった。
「コハ……」
「? なぁに、カナさん」
 客がいない事を良いことに、長机へと突っ伏した奏名がコハクへと声を掛ける。
(クソ、相変わらずいい笑顔しやがって……)
 制作中、それはそれは楽しそうにコハクは作業へと取り掛かっていた。その姿を見ては、手伝わない――況や売り子を断るなんてことは奏名には出来なかった。だから彼は保護者として最後の責任を果たす。
「お前、ゴーントにIA使うより絵ェ描いた方が早えよ」
 そこまで告げて、奏名は精魂尽き果てた。

「それじゃ、夜城さん。こっちのリスト頼んでいいかな?」
「うん、いいよ。手分けしたほうが効率いいもんね」
 藤堂・皐から送られてきたメッセージを確認し、夜城・海愛は頷く。今日は皐が『不滅の刃』の同人誌を買いたいというので、デートがてらにここ(パカケット)までやってきたのだった。
「それにしても皐君、おぼ瑞好きだよね」
 これまでにも推しカプへの愛は何度も聞いているので、原作未修勢である海愛ですら主要なエピソードは何となく覚えてしまった。
「本当に、最高なんだよ!」
 今度、原作も貸すよ。彼とそんな約束を交わした後で、海愛はぶらぶらと一人、買い物がてらに会場を散策する。頼まれたリストの同人誌を買って集合場所に戻る途中、遠目に見知った顔を見つけたので――そのまま皐へと声を掛けた。
「お疲れさま。向こうで売り子してるのって……弥生さん?」
 それに、コハちゃんたちも別のブースに居たみたいだよ。そう告げると、皐の目が泳ぐ。
「え……ホントに!?」
 知り合い(コハちゃん、カナくんや猪原城さん)のブースに立ち寄るのは構わない。というか、それはこちらから提案する積もりでいた。だが――実姉(弥生)の同人活動を目の当たりにするというのは、どうだろう。出来れば避けたい(正直こちらが恥ずかしい)と、敢えて触れずにいた皐の内心を知ってか知らずか、海愛は皐の手を引く。これは惚れた弱みというべきだろうか。差し当たってどんな顔で姉の前に立つべきか? 青年の瞳に差す、陽の光はいつもよりも眩しかった。

「深雪くん!」
 その声に顔を上げてしまったのが鈴原 深雪の悲劇の始まりだった――いや、そもそも頒布物の同人誌(夢小説)を兄(鈴原 凛太郎)へ見せたのが運の尽きだったかもしれない。単に売り子を頼むだけであれば中身まで解説する必要はなかっただろうに。作中にこれでもかと書き連ねた先輩たちへの愛を語らずにはいられなかったのだ。
「……く、クロト先輩!?」
 汗が噴き出たのは会場が暑いせいではないだろう。目の前にはにこやかにほほ笑むクロト クロフォードの姿があった。
「どうしてこんなところに?」
「人だかりも賑やかで、面白そうだったからさー」
 普段であればこんな所に縁がある先輩ではない。お祭りの物見遊山って恐ろしい。一般人であるクロトは、興味のままに平積みされた同人誌の一冊を手に取り、あろうことか朗読し始める。飛び上がるように椅子から立ち上がり、クロトへと掴みかかろうとする(すみません公式バレNGなんです)深雪の必死さは、だが、隣に座った凛太郎へは1ミリも伝わらなかった。
「お前、何やってんだよ……」
 無慈悲にも深雪を押さえつけた凛太郎は、そのままクロトへと顔を向けて悠長に自己紹介する。そこだけを見れば和やかな一幕だが、その間も手にした同人誌の頁を繰るクロトの手が止まることは無い。
「こいつ(深雪)の兄、凛太郎だ」
「よろしくー。深雪くんが本売ってるなんて、知らなかったなー」
「そうなのか? お前さんのことも書いてあるぞ」
 和気藹々と会話する二人の横で、深雪が藻掻いている――だが、凛太郎に動きを封じされて何もすることが出来ない。これ以上暴れては設営したブースが乱れるのもあって、歯噛みするのみである。
「そんな、大したことは書いてない……ですよ?」
 そう呟くのが精いっぱいの深雪に対し、クロトは無常にも死刑宣告を下す(知らないって怖いですよね)。
「そうなのー? 立ち読みもなんだし一冊、買って帰るよ」
「どうも、ありがとうございます(判決は受理されました)」
 持ち帰り用の紙袋に入れられた同人誌(罪の物証)が凛太郎からクロトへと手渡されるのを、ただ見上げていることしかできない。彼(深雪)の悲劇は嗚呼ここに極まれり。

 パカケットの楽しみは、同人を頒布するだけではない。一般的なイベントであればコスプレは専用コーナーでのみ着用や撮影が許されるところだが、この会場ではコスプレ着用の上でブースを回ったり各種のイベントに参加することが出来る。様々なケースに対応した熟練のスタッフが多数配備されていることで可能になった幅広い楽しみ方は、参加者からも好評であった。

 そんなコスプレ参加者の中でも、ひと際ハイレベルなコスを身に着けた集団がフリーマーケットコーナーへとやってきた。
「うっわ~、美亜ちん髪の毛のクオリティ高っ!?」
「千夏子ちゃんこそ! それに甘美ちゃんも、ソフィアちゃんもみんなすっごく良くできてる~」
 上半期覇権ゲームと名高い『電能戦潜アプリェーリ』の人気キャラクターに扮しているのは、狩野崎・千夏子(ファラーシャ)や霧ヶ原 美亜(ミア)、それにソフィア・ウッド(ソニア)と十六島・甘美(440-Hϟ)の四人だった。普段は夢渡の仲間であり、プライベートでも親交がある彼女たちだが、今年の春先は四人ともが揃いもそろってアプリェーリにドハマりした。攻略情報をお互いに交換し、時に協力ミッションをこなしながらそれぞれの推しキャラを完凸させるところまで遊びつくしてしまったのだ。
「結局、画像イベント走りなおしてスチル全部集めちゃった……それにしても、みんなが手伝ってくれなかったら再現無理だったかも?」
「ゲームのキャラって結構衣装が複雑だし……それに、意外と肌が見える部分が多くって……」
 普段からコスプレをやり慣れている訳ではない。だから、一人だったら恥ずかしくて出来なかったかもしれない。華やかな彼女たちの装いは、会場の耳目をもひっそりと集めている。でも――こうしてお互いに制作過程を切磋琢磨しながらコスチュームを完成させ、今日初めて実物を披露しあうことができた。そんな高揚感が、彼女たちを少しばかり大胆にさせているのかもしれない。会場のあちらこちらでポーズを決め、写真撮影をしたり――目当ての買い物をしたり。時にゲームのスチルに合わせたポーズや組み合わせを再現して、2.5次元の空間を楽しんでいた。
「ウィッグとエクステだけでも、結構再現ってできるんだね」
「あ、この小物とかあのシーンのコスに使えるんじゃない?」
 他愛もないおしゃべりをしながら、ぐるりと会場を一巡りする。ハンドメイドのアクセサリーや小物、ちょっとした工芸品に野菜までが所狭しと並んだスペースを一つ一つ回っていくと、一日が瞬く間に過ぎ去っていく。
「また次もやろうね!」
「今度はどのキャラがいいかな……」
 そんなことを話しながら、彼女たちは忘れられない夏の一日を過ごした。

 そこには、巨大なドーナツがあった――否、正確にはとあるブースを幾重にも取り巻く人の垣根の、その中心部だけがぽっかりと空白のようになっていた。
「どうして皆さま、私たちの作品を手にとってはいただけないのでしょうか……お義母様、何かご存じですか?」
「う……ん、それが分かれば苦労はしないのだけれど」
 サークル『月下美人』が今回準備した新刊は二冊。それぞれ見目麗しい男女(ウィリアム×グリゼルダ)、あるいは姉妹(吸血鬼)が表紙を飾っており、レタリングの題字も最新の流行を取り入れた――はずだった。自信作の作品を、それも二冊も発行するにも関わらず、これはいったいどうしたことだ。顔を見合わせるグリゼルダとベラドンナの母娘(ではない)。悲しいかな、死霊術師とその最高傑作である二人には、彼女たち自身が発している濃密すぎる死臭が一般人を遠ざけている事に気が付くことは出来ないのだ。
(売り子さん、顔はいいんだけどな……)
(なんか雰囲気ヤバいよね……)
 そんな密やかなささやきを交わしながら、人々はどこか別のブースへと去っていく。そこへ現れたのは二人のケンタウロス。人の垣根を意に介す様子もなく、『月下美人』のブース前へと歩みを進める。
「これが……人間の流行りなのデスね!」
 手渡されたドゥジンシ(同人誌)をパラパラとめくってみれば、そこには仲睦まじい吸血鬼の姉妹が活躍する物語が。目を輝かせるランランの横で、保護者(レミーラ)は今一つ何が面白いのか分からないといった表情を浮かべる。過剰なまでの修飾句に飾られた夢小説は、彼女にとってあまり馴染みがないものだったらしい。それよりも、「今なら二冊セットで買っていただければ、特別なエステをご体験いただけますわ」と語るグリゼルダの、そのオマケが気になってしょうがない。誇り高きケンタウロス族の大族長とはいえ、美容の話となれば耳を傾けざるを得ない。隣に並んだランランへ(要るかい?)と問いかければ、孫(ランラン)は祖母の提案に首がちぎれんばかりに頷いた。
「ちなみに、エステってぇのは……」
「中心になるのは、最新式の整形手術ですわ」
 なんでも、首から下をまるっと総とっかえ(アンチエイジング)したり、二の腕が引き締まったり(筋骨隆々のドラゴンになったり)するそうです。
「行くよ、ランラン」
 そこまで聞いて、レミーラは有無を言わさずランランを引きずってブースを去っていった。悪徳エステ業者には用が無い。
「……チッ」
 その背中を見送りながら、ベラドンナが特大の舌打ちを打つ。もう少しで売上げられそうだったのにと臍を嚙むその姿は、可憐なメイド服の補正を有り余って人々を遠ざけるに十分なほど、ガラが悪かったという――。

『新刊あります』
 そう言って売り子として微笑んでいればいい。それだけの簡単な頼まれごとの筈だった。だからアルシェイド・ファーナはその冊子の表紙が例え過激な春画であっても――それを見ない振りして引き受けたのだった。彼は同人誌文化を知らない。これまで人の代わりに文を認めることはあっても、それは手紙が殆どであり――こういった創作活動には縁が無かったのだ。
 だから山と積まれた冊子のひとつに、実は自分自身の絡みが描かれているなど知りようがない。こちらの顔を見て何やら驚いた顔をする人々を訝し気に感じながらも、彼は誠実に役目をこなす。
「ありがとうございます」
 その言葉と微笑みがどれほど罪深いかを知らずして。

「!? これは……」
 ルーキス・ネア・ニエは、手にした小冊子に不思議な引力を感じていた。
『天才薬師の私が作ったポーションで従弟の少年が完璧な旦那様に!?』
 そこには、そう記されている。バッと思わず顔を上げて、周囲を見回すが――護衛対象であり、師匠であり、大切な人でもあるウルスラ・エルメンライヒの姿はまだそこには無かった。
『珍しいものばかりだな。試しにいくつか買っていこうか』
 その言葉の通り、市でいろいろと買い回っているらしい。『おねショタ成長逆転もの』と書かれたじゃんる(?)は理解できなかったが、これはルーキス一人で確認するべき物だと本能が理解した。代金を支払い、冊子を袂へとしまうと丁度そこへウルスラがやってきた。
「すごいな、此処は。個人で本を出版するばかりか、タスクの管理や出展交渉まで全て自分でこなしている者ばかりらしい」
 公社にもこういった優秀な人材が欲しいものだな。しみじみとこの一年の苦労を振り返ってはそう声を掛けるが、肝心のルーキス(お前にも期待しているんだ)は上の空で彼女に気が付いていないようだった。前へと回り込んで見上げると、漸く気が付いたようで何やら目を白黒させていかにも落ち着かない。
「行くぞ。向こうにもまだ市があるようだ」
「……はいッ、師匠!」
 殊更に肩肘張った声を上げるルーキスを後目にウルスラは歩いていく。背後で、また別の本にルーキスが目を留めたことに、彼女は気が付く由もなかった。

「アイタタタ! ちょっと、ひかりちゃん。アーム、アームがっ!」
「うるさい……もうちょっとだから」
「そうは言っても、鼻が!」
 賑やかなのはパカケット(同人誌即売)会場だけではない。牧場内、パカケットに隣り合うように設営されたゲームコーナーも負けず劣らずの盛況だった。コーナーの入り口付近、目立つように並べられたクレーンゲームの筐体の周りでは八上 ひかりと八上・麻衣の二人がやいのやいのと何やら騒がしい。筐体のガラスにへばりつくようにして景品に意識を向けている、首無しの人……体(?)と、眼光鋭くレバーを握る妙齢の女性。そして、そんな二人を心配げな面持ちで筐体の中から見つめる一つの生首――は事情を知らぬ者からすれば一種異様な風景だったかもしれない。
 一方で当の本人たちは必死である。デュラハンである麻衣がうっかり落としてしまった首を、スタッフが景品と間違えてクレーンゲームの中に陳列したのが運の尽き。彼女たちの訴えむなしく、なんとか景品を手に入れる以外にはこの事態を打破する方法は無さそうだった。腕まくりしてアームを操作するひかりは、既に連コインの構えである。首無しデュラハンとなってしまった麻衣にはもはや手の出しようがない。
「我慢しなさい。必ず取ってあげるから」
「その科白、これで何回目!?」
 ちょっとしたトラブルは祭りに付き物のスパイス。彼女たちにも忘れられない思い出となったことだろう。

 その日、アシュレイ・エファメールと朽木 星音は新しい世界の扉を開いた。
「君たち、もし良かったら少し座っていきませんか?」
 そんなセリフで言葉巧みに誘いをかける皓月に抗いがたい何かを感じたのが一つ、ところどころに休憩所は設けられているとはいえ広いパカケット会場を歩き回って些か疲れを覚えていたのが一つ。そして――なにより可愛らしい少女趣味の絵柄にも関わらずカブトムシや無数の昆虫と中年男性が表紙を飾る同人誌の強烈なインパクトに当てられてしまったのだ。決して、にこやかなグラサン成人男性に臆した訳ではない。設営場所といった点でも、皓月は上手かった。同人誌頒布会ゾーンの中でも少し外れに位置する、主流とは言い難い場所である。その分、休憩スペースとなるような椅子や机を無数に配置し、あまつさえ出店で買い求めた食事やスナックを食べることすらできるように快適な空間を作り上げたのだ。
「……少し、なら……構わないでしょうか?」
「ぼくも、うん。時間あるよ」
 アシュレイと星音同士だって知り合いという訳ではない。互いに相手の出方を伺いつつも、結局は腰を落ち着けて皓月謹製の見本誌を手に取ることになってしまった。そして、それが出会いのきっかけとなるのだからイベントの妙と言わざるを得ない。
「これは、凄いですね」
 プロの本気とは斯くも恐ろしい物か。博識な学者であるメイナード大先生に恋する少女が、彼と昆虫との真実の愛に感銘を受けてひっそりと身を引く、その悲恋の物語がここまで読者を惹きつけるものと誰が想像するだろうか。クライマックスでヒロインがカニ鍋を一人、つついているシーンは涙無しでは読み進められない。作者の強烈な情熱が、文字という垣根を越えて感情へと直接訴えかけてくるのだ。知らず、アシュレイは涙してしまう。
「アシュレイさん……大丈夫、ですか?」
 年上の女性の、理知的な瞳から零れる無垢な雫もまた、星音にとっては新鮮な驚きであった――。

「ねえ、早く行こう?」
 手を引く夷野・ビイ(夷 熊蜂)の姿に、夷野・満義(夷 壺蟻)は目を細めた。思えばこうして娘と一緒に出掛けるのも久し振りだ。多忙を理由に、子供にあまり目を掛けられていなかった事を彼は内心で反省する。
「分かった分かった。今日は一日、父さんも逃げないから」
 それに、お母さん(妻)もじきに来るはずだ。そんな自身の言葉に目を輝かせるビイは、いつまでも可愛い自分の娘(養女)だった。
「あ! お母さんだよ!」
 そんな言葉に少し遠くを見遣れば、二人を探すように立って待つ女性の姿があった。ああ、無事に仕事を抜けられてきたんだね。そんな言葉を掛けて労いながら、満義とビイはそちらへと歩み寄る。家族三人、こうして揃う時間を取れて本当に良かった。蚤の市で古着を見たり、馬やアルパカ――リャマやウサギに触れあってみたり。大きくなった娘と並んで写真を撮るのは少しこそばゆかったが、それもいい思い出だ。スマートフォンの待ち受けに撮ったばかりの写真を設定しながら、そうしみじみと思う。そんな楽しい家族のひと時を過ごしていると、あっという間に時間は過ぎ去っていく。
「そう言えば……最近、ラップをやっているんだって?」
「そうなの! 今度、ライブあるけど聞きに来る?」
 そんな他愛のない会話がこの上なく愛おしく、一分一秒を惜しむようにビイも満義も今日の一日を楽しんだのだった。

「いやあ、壮観だね。この牧場……不思議に人が多い」
 安楽木 大可子は探偵である。彼女にとって、好奇心を抑えることは死に等しい。そんな彼女が、謎と楽しみに満ちたパカケットを素通りすることなど出来ようもなかった。出店やゲームコーナー、牧場を一通り歩けば、人外(モンスター)めいた連中と行違うこともある。長い尾を持つ竜人のそれをうっかり踏んでしまった大可子が口論に巻き込まれそうになったところに、スタッフの腕章を付けた北斗・順凪が助け舟を出した。
「何か、トラブルか?」
 大可子も竜人の男も事を荒立てたい訳ではない。順凪の仲裁に従う形で事を収めることが出来た。
「……フリーマーケットは見ての通りの混雑だ。動物ふれあい広場の方が、ゆっくり楽しめるぞ」
 順凪が言う通り、牧場の広大なスペースを活用したふれあい広場は、数々の動物たちや来場客を受け入れてなおのびのびとした空間が広がっていた。
「なるほど、羊などと違って少し毛が硬めなんだな」
 なかなか日本では珍しいアルパカの、その背を撫でながら大可子が言う。残念ながらアルパカに乗る体験は出来ないとのことだったが、動物たちとの触れ合いをスタッフ業務の合間を縫って順凪も楽しむことが出来た。参加者や来場客だけではなく、スタッフも楽しむことが出来たパカケットは大成功と言っていいだろう。



【執筆:かもめ】


⚫︎
 此処はアルパカ牧場、鳥類ふれあいコーナー!
 餌やり体験教室には、沢山の子供達が集まった。
 色んな鳥達が居るけれど、とびきりカラフルで大きな体と嘴を持つロサ(オニオオハシ)は一番のアイドルだ。
「ロサは、ガ~って鳴くけど怖くないから大丈夫!」
 アスルの笑顔に合わせ、ロサは元気に鳴いて、子供達からは歓声が上がった。
「でも、こんな風にご飯を持ったまま放置していると……悪戯して勝手に食べちゃうこともあるんだ」
 アスルは神妙な表情で器とロサを見比べる。
「リルピスお姉さん、そういう時はどうしたらいい?」
 アスルの問い掛けに、リルピスがふんわりと微笑んだ。
「まずは、アスルお兄さんがお手本を見せるわ」
 リルピスは、アスルの持つ器へバナナや林檎、パパイヤや蜜柑を入れていく。
「ロサちゃんはいっぱい食べる子なの。ごはんを見せたらすぐに食べさせてあげて」
 リルピスの解説に合わせ、アスルはロサに器を寄せた。直ぐにロサは美味しそうに果物をつつく。
「ほら、そしたらロサちゃんもいい子にしててくれるわ」
 可愛いー! 僕らもご飯あげたいー!
 子供達のキラキラの瞳と声に、アスルとリルピスは顔を見合わせて、フフッと笑みを溢した。
「可愛いな」
「可愛いわね」
 子供達を見つめる、リルピスの優しい笑顔が――。
 子供達に接する、アスルのやわらかな微笑みが――。
 自然と想いが重なって。
 流れる穏やかな時に、ロサが嬉しそうに大きくガ~っと鳴いた。


⚫︎
 鳥との触れ合いコーナーの隣では、アルパカ達がのんびりと過ごしている。
「みゆりちゃん、この子めっちゃ可愛くない?」
 笑顔で振り向いた大神(オオガミ) 聖(ヒジリ)に、犬耳が見えたのは幻覚だろうか。
 否! ニコニコな大神さんも可愛いです。
(なんて、言えません~!)
 心の中で百面相しつつ、白嵜(シラサキ) みゆりは平静を装い微笑んだ。
「ええ、とっても可愛い子ですね……!」
 聖(想い人)とのデート。みゆりの心臓はドキドキと早鐘を打っている。
 アルパカ達はとても人懐っこく、気付けばみゆりと聖はモコモコ軍団に囲まれていた。
 鼻先を押し付けてきたり、体をスリスリしてきたり……みゆりはその毛並みをうっとりと堪能する。
(会社の先輩からチケット貰えて、みゆりちゃんを誘えて良かったな)
 聖はスマホを手に、アルパカとみゆりを撮影していく。
(アルパカも可愛いけど、それ以上に……みゆりちゃんも可愛いな~)
 スマホの写真フォルダが、みゆり色に染まっていくのが嬉しい。ニコニコしてしまう。
「……あの、私も、写真……撮っても、いいですか??」
 夢中でシャッターを切っていると、遠慮がちな上目遣いでみゆりがそう言ってきた。勿論と頷く。
 みゆりは嬉しそうに、アルパカと聖をスマホのカメラに収めた。
(……えへへ、こっそり待ち受けにしちゃいましょう……!)
(一緒に撮る? ……とか言えねぇ~!)
 二人とアルパカ達との触れ合いタイムは、まだ始まったばかり。


⚫︎
 アルパカ達がもこもこ自由に過ごしている向かい側では、3匹の犬達が元気に集合している。
 オバーチャ・アーンが笛を鳴らせば、彼女の相棒(パートナーの犬)達――テグ、ユス、タヴィが嬉しそうな声を上げた。
 手が挙がると牧畜犬のユスがまず飛び出して、短い肢で駆け回りアルパカ達を器用に檻へと誘導する。
 災害救助犬のテグは、動きのおかしいアルパカが居ないか注意をしつつ、静かに目で威圧し追い込んだ。
 タヴィは介助犬でありながら、元牧羊犬だった経歴がある――ユスの誘導から逸れるアルパカを檻へと送り届けた。
「不思議なおばあちゃんなのだ!」
 犬達を操り、アルパカ達をあっという間に囲いの中に集めてしまうオバーチャ・アーンの手腕に、大福(ダイフク)は感嘆の声を上げた。一緒に歩いていた狼の粽(チマキ)も興味津々に犬達の動きを目で追っている。
「犬達とアルパカを追いかけるのだ?」
 大福の問いに粽が頷くと、更にくいっと鼻先で大福を促す。
「えっ、大福も参加するのだ? 犬側なのだ?」
 駆け出す粽を追い掛けて、大福はオバーチャ・アーンの前に飛び出した。
「参加させて欲しいのだ!」
「飛び入り参加も歓迎よ~。あら、あなた素敵な相棒を連れているわね!」
「ありがとうなのだ!」
 大福と粽は、テグ達と鼻先をフンフンさせて挨拶する。
「大福、ドッグショーだって」
 そこへ、愛犬『大福(ポメラニアン)』を抱えて散歩中だった狗巻(イヌマキ) 庚(カノエ)が通りがかった。
「あの着ぐるみの子も大福なんだって。可愛いね!」
(背中にチャックないけどどうやって着てるんだろ)
 前座の自己紹介を聞きながら庚は首を捻るも、まあいいかとショーを観る事にする。ここは不思議な牧場。きっと何だって有りだ。
 オバーチャ・アーンの指示で、テグ達と粽が見事なランでアルパカを追い込む。しかし、大福だけが速度に追い付けず置いてきぼり。庚はがんばれ! と声援を送る。
「粽~!!」
 大福が叫ぶと、粽が踵を返して彼の元へ駆ける。そして、大福に背に乗るように促した。
 大福が飛び乗れば、風のように大福と粽はテグ達に合流し、アルパカ達を一つに纏める。
「凄いや!」
 庚と大福、観客達は拍手喝采。ドッグショーは大成功に終わった。


⚫︎
 アルパカを象った耳付きのモコモコパーカーを着るのは、牧場のスタッフだ。
「アルパカの毛刈り体験はこちらですよー!」
 リルク・C(シャーロット)・ラトウィッジは、パーカーの耳をぴこぴこさせつつ笑顔を振り撒いた。
 直ぐに毛刈りショーのステージの周囲に、観光客達が集まってくる。
「パカちゃん達、集合してね~♪」
 同じくもこもこパーカーのルーシェ・アルジェントがステージから手を振ると、アルパカ達が我先にとルーシェを囲んだ。
 ゴロンと横になるアルパカ。光る毛刈り鋏。
 ちょきちょきと、リルクとルーシェが慣れた手付きで優しく毛刈りすれば、アルパカは気持ち良さそうに欠伸をする。観光客達から歓声が上がった。
「皆にもやって貰おっか」
 ルーシェはキョロキョロと辺りを見渡し――。
「……よし、そこのアルパカップルっ!」
 黒と白のお揃いのアルパカパーカーを着た男女を指差した。
(……オレ達の事か!)
 ジルギス・ランバートは思わず跳ねた胸を押さえ、隣のエィレニア・ティス・フェンガーリを見た。
 可愛いニアがいっそう可愛らしいこのアルパカパーカー。
(自分が着るのはどうかと思ったが……GJパカパー)
 心の中でぐっと拳を握る。オレの彼女が最高に可愛い。
 エィレニアもうっとりとジルギスを見上げる。
(可愛い服をと思ったのだけど、黒だからかしら……イケパカ(イケてるアルパカ)だわ?)
 ジルギスはエィレニアの手を取ってエスコートし、ステージへと上がった。
「鋏で怪我しないよう気をつけてね」
「おとなしい子だから、大丈夫ですよ」
 ルーシェが説明をし、リルクがアルパカを優しく保定する。ジルギスとエィレニアは協力してアルパカの毛をカットしていく。
「彼氏さん上手~!」
 ルーシェにジルギスが褒められて、エィレニアの頬が緩んだ。そう、彼は格好良いのだ!
「夏は暑いわよね。刈り甲斐があるわ」
「あぁ、涼しそうになったな」
 ジルギスもまた、楽し気な彼女の様子に幸せいっぱいの笑みが溢れる。
(アルパカップルの微笑ましい様子も撮っちゃおう!)
 アルパカが落ち着いているのを確認し撮影係へと回ったリルクは、毛刈りを楽しむ二人を写真に収めた。
「お疲れさまでした! 他にも乗馬体験とかもあるから色々楽しんでね♪」
 綺麗に毛を刈られたアルパカがふえ~と鳴き、ルーシェが微笑んで言った。
「二人乗りも出来ますよ♪」
 記念写真を渡しながら、リルクが付け加える。
 乗馬コーナーでは、既に楽し気な声が上がっており、エィレニアは瞳を輝かせた。
「乗馬ですって。行ってみる?」
「乗馬か……いいね、行ってみよう」
 二人は手を繋ぎ、隣のコーナーへと向かった。繋いだ手からはドキドキが広がる。

 乗馬体験コーナーには、ムキムキなアルパカ――もといスタッフパーカー(アルパカパーカー)を着たアルバス・ロウルが居る。
 その隣には、対照的に小さなアルパカ――ルルト・アーキスがニコニコ笑顔で、並んで観光客達を受け入れていた。
 パルドとウォーゼルも観光客なのだが、アルバスのムキムキっぷりに一瞬思考が停止する――むっちゃマッチョなアルパカが居る!
 パルドの腕の中に居た猫(ショコラ)に至っては、シャーシャー威嚇を始める始末で。
「落ち着けショコラ、あれは人だ」
 パルドは猫(ショコラ)の背を撫でて宥める。
 そんな様子を見ながらも、アルバスのニコニコのお日様スマイルは崩れない。
「でもあのパーカー可愛いよな」
 ルルトを眺め、ウォーゼルが小声でパルドに囁いた。
(チョコ達に着せてみたい……売店をみてみよう)
 腕の中でミニコボ(チョコ)がわんと鳴く。
「皆いい仔だから大丈夫だよ、好きな仔を選んでね!」
 ルルトがずらっと揃った馬達を紹介した。皆ルルトに良く懐いている。
 それからアルバスとルルトによる丁寧な乗り方講座を経て、パルドは猫(ショコラ)と、ウォーゼルはミニコボ(チョコ)と一緒に馬に乗った。
 まずは体験コーナー内を軽く一周する。馬の背中から見える景色は爽快なものだった。
「次は俺達が先導するから、牧場内を回ってみよう」
 二人が慣れたのを確認すると、アルバスは黒馬の手綱を取り、ルルトと猫(タマさん)がその前に乗る。
「しゅっぱーつ♪」
 乗馬ツアーの開始である。
「あっちは鳥類ふれあいコーナー。あっちではアルパカの毛刈り体験もやっている。気になる所があれば後で行ってみるといい」
「僕のお勧めはね……ドッグショーかな!」
 アルバスとルルトの案内を聞き辺りを見渡していると、やたらと人の多いコーナーが視界に入った。
 パルドは目を凝らして見る――色とりどりの本やグッズ、色んな格好をしている人達。
(パカケットに似てる?)
 以前悪魔っ娘コスのウォーゼルを夢で見て以来、ちょっと気になっているパルドである。
「にゃー?」
 猫(ショコラ)が首を傾げて鳴く。
「興味なんてないぞっ」
「何を見つけたの?」
「わふ?」
 パルドの様子に不思議そうにしたミニコボ(チョコ)とウォーゼルは、目を細めて彼と同じ方を見た。
「フリマ……かな? 賑やかそうだね、行ってみる?」
「だな、行ってみよう」
「近道はこっちだ」
 アルバスの先導で、馬達は軽やかに進む。


⚫︎
 ミーアキャット。『湖のネコ』という意味を持つマングースの仲間。
 群れで暮らす彼らは集団で行動する。そう、集団で。
「ミーアキャットちゃん達今日も元気だね……って叔父さああん!!」
 牧場の一角で、金牧(カナマキ) 昴(スバル)の悲鳴が響き渡った。
「叔父さん、しっかりー!」
 昴は大量のミーアキャットの間から辛うじて出ていた湘間(ショウマ)・影踏(カゲフミ)の腕を引っ張って助け出す。
 ミーアキャット達に揉みくちゃに蹂躙されていた叔父(影踏)は、死んだ魚の目をしていた。
「……助かった……」
「叔父さん、ミーアキャットちゃん達に弄られ……モテ過ぎ問題」
「……不穏な単語が聞こえた気がするんだが?」
 影踏は、牧場の一角でミーアキャットのブリーダーを営んでいる。大変フリーダムなミーアキャット達に日々愛されている不幸系おじさんなのだ。昴の補助が無ければやって行けないだろう。
「気のせい気のせい。あ! お客さんだよ」
 昴の視線の先に、カメラを手にした家族が歩いてくる。
 影踏が俄かに仕事人の顔になったのに、昴は微笑んだ。
「いらっしゃいませー!」
 くぅーくぅーと可愛く鳴くミーアキャット達の可愛さに、家族達(父と母と子)は早くもメロメロになっている。
「これは甘えてる時の鳴き声なんですよ」
「太陽の光を浴びられる時間は直立して全身を温めますから、シャッターチャンスです」
 家族達は昴の案内でミーアキャット達と触れ合い、影踏の助言でミーアキャット達との写真撮影を楽しんだ。


⚫︎
 レオナ・マイグレックヘンは困惑していた。
 いつの間にかアルパカ牧場(見知らぬ場所)に居た。
 広大な緑の中、のんびり過ごす動物達。その動物達と触れ合い癒される人々。
 特にモコモコな動物(アルパカ)が気になる。
「あの……」
 レオナは意を決して、『スタッフ』と書かれた腕章を付けた人物に声を掛ける――狐の耳と尻尾のアクセサリーを着けているようにレオナには見えた。
「アルパカ牧場へようこそ!」
 ルベア・ベルニは渾身の営業スマイルで振り返った。彼女は牧場の臨時スタッフとして働いている最中(さいちゅう)だ。
「此処はアルパカ牧場、というのですか?」
「ええ、アルパカがいっぱい居るから……かしら」
 レオナは瞬きして、白いモコモコを見つめた。
 ルベアが白いモコモコ(アルパカ)の頭を撫でると、ふえ~と声を上げた。
 レオナの傍にもアルパカが歩み寄ってくる。レオナはそっと手を伸ばし、もこもこの毛を恐る恐る撫でてみた。温かい。思わず頬が緩んでしまう。
 レオナの表情が和らいだのに反応したのか、次々とアルパカ達が頭を差し出してくる。
「餌やりもやってみる?」
「いいの、ですか?」
「勿論」
「――ナーディルも、興味がある」
 後ろからの声に、二人とアルパカ達が振り返る。
「ナディールにも、この子達の事、教えて欲しい」
 ナーディルは、ルベアとレオナを真っ直ぐに見ていた。
 ナーディルもまた、レオナと同じく気付いたら此処に居た。いきなり転移した事に最初は警戒していたが……平和な動物と人々。術らしき気配も全く感じない。となれば、もうどうしようも無い。
 ナーディルは牧場を満喫する事にした。
 動物と触れ合うのは初めてであったが、何故か無性に落ち着く。『知りたい』という欲も出て来た。
 もっとこの子達が喜ぶ方法や、この子達自身の事を、知りたい――。
 かくして、聞こえて来た会話に参加したのである。
 ルベアは微笑んで、ナーディルを見た。
「歓迎するわ」
 レオナも大きく頷いて、ルベアを先生としたアルパカふれあい教室が始まった。


 レオナとナーディルと別れ、仕事に戻ったルベアは、女の子の視線に立ち止まった。
 見た事ない服装の子。こんな服装の人達があちこちに存在し、ルベアは不思議に思っていた。
「え、この耳とか尻尾は衣装とかじゃなく本物なんだけど……ちょ、痛いから引っ張らないで……!」
 無邪気な手から、ルベアは慌てて逃亡した。
「休憩がてら飲み物でも買いに行こうかしらね」
 ルベアの仕事はまだまだ続く。


⚫︎
 アルパカ牧場は、今日もなごやかで賑やか。
 人々の、動物達の、楽しい声が響き渡る――。


【執筆:雪花菜 凛】


 青年が瞬きすれば、そこはふぇふぇ~と鳴くふわふわの生き物で溢れた牧場。驚く奈喜良 待雪に声をかけたのは、美波 シャルロットだった。
「牧場へようこそ! アルパカに会うのは初めて?」
 動物と縁のない人生を送ってきた彼にとって、その名前を聞くのも初めて。素直に頷けば、どうぞどうぞ、と世話係は手招きした。
「可愛いけれど、噛んだりするのかい?」
「大丈夫ですよ、優しい子なので」
 促されてそっと撫でれば、アルパカは気持ちよさそうに目を細める。きっとこれものどかな侵蝕の類、楽しむほうがよさそうだと割り切って、待雪はその毛並みを感じる。
 隣ではアイドルユニットff(フォルテッシモ)の二人が、人気番組『ffの休日』のロケに来ていた。けれど仕事をすっかり忘れて、響(畔上 茜音)は歓声をあげている。
「わー! パールちゃん見て見て、アルパカがたくさんー!」
 もふっても逃げないかな、とそわそわする相方につられるように、Pearl(遠野 杏樹)もときめきが抑えられない。
「本当、とってもかわいい……!」
 台本や段取りもちゃんと覚えているけれど、あのかわいさにはやはり勝てない。触り方を教わりふわふわを堪能すれば、思わず埋もれたい衝動に駆られる。
「仲良くしてね?」
 響の言葉に了承したのか、ぐい、と頭をくっつける様はなんとも愛らしく、少女の頬もゆるゆるに。
「そうだ、皆さん餌やりはいかがです? この子達、おなかがすいてるから」
「わ! やりたーい!」
「いいんですか?」
 シャルロットの提案に少女達がはしゃいでいる隣、なるほど、と頷く待雪も、せっかくだからと牧草を受け取る。それを見つけた数頭が、物欲しそうにゆっくりと近づいてきた。
「遠慮せずに食べるといい」
 もそもそ草を食む姿はまったりしていて、最初は緊張していた青年の心も、穏やかな気持ちでいっぱいになっていく。
「おいしい? あなた達、とってもいい子なんだねぇ」
 響は牧草を食べるアルパカ達とスマホで自撮り。そうしてパールちゃん、と相方の名前を呼んだところ……なぜか返事がない。
「パールちゃん?」
 振り返れば、大量のアルパカに囲まれあわあわとしているPearlの姿。
「まってまって、皆にあげるから……!」
 うれしい悲鳴の彼女をシャルロットが助け出し、ほっと落ち着く時間が来ると、青年は世話係に声をかける。
「ところであそこの頭以外が細い生き物はなんだい?」
「ああ、アルパカです。毛刈りした」
「毛刈りした、アルパカ……?」
 予想外の答えに疑問符を浮かべる待雪と少女達の前に、世話係はほっそりした一頭を連れてくる。
「この子、芸が上手で! ほーら、パカちゃん。お座り。お座りだってば!」
 ふぇ~ん。あっかんべーでもしているように舌を出したパカちゃんは、まだまだ彼女をナメているらしい。
「がんばって、世話係さん!」
「私達、応援してます」
 成長途上な世話係を励ます二人と、同じく頷く青年に、シャルロットはちょっとだけ気恥ずかしかった。

 牧場へとやってきた日月 菊ノ進は、初めて見る生き物達をぼんやり眺めていた。
「これが……アルパカ……」
「ふわふわでかわいいですねぇ」
 砂森 真由子もほんわかと笑んで、もふもふとした姿をじっと見つめている。その視界をふっと横切ったのは、パカちゃんという名札を下げた、毛刈り済みのほっそりしたアルパカ。
「こっちのアルパカさんは……うーん? かわいい? ですね?」
 なんとなく疑問形になったものの、ふぇふぇ~と鳴くのは他のアルパカと同じ。触ってみたいような、けれど触れてもよいものか迷ってしまう。
「真由子、餌やり出来るらしいがやってくか?」
「そうなんですか?」
 菊ノ進に勧められ、そわ、と少女は好奇心を動かされる。けれども、猫のしろちゃんと違って大きいものだから。
「すこし、緊張します」
 その様子を見た青年が頷いて、牧草を手に取り一頭の前へ。のそ、と動いたアルパカは、もしゃもしゃと彼の手元の草を美味しそうに食む。
「わぁ、菊くん、すごいです」
「真由子もやってみろよ」
「はい。あの……どうぞ~?」
 おそるおそる野菜を差し出せば、小柄な一頭が真由子の手にある野菜をもぐもぐ。時折うれしそうに尻尾を動かす姿に、少女もうれしくなって。
「慣れればかわいいもんだな」
「はい、ずっと撫でていたいですねぇ」

 牧場には大小様々なアルパカが居るように、様々な客も居る。現に顔嵌め看板の裏で誰かを尾行するオリヴァー・ウッドは、隠れているにしては妙に目立っていた。
 妹からだいすきな人と二人で出かけると聞いた途端、アイドルの彼はマネージャーにすぐ電話して、
「もしもし、アルパカ牧場でのロケ受けます」
 そして今に至る。件の彼のことは信用しているが、それとこれとは話が別。
「見て見て、桜侍くん! アルパカすっごいもふもふだよ、人参食べるかな……」
 そうとは知らないソフィア・ウッドは、アルパカ達を前にして満面の笑みを見せている。
「確か自由に触っていいんだよな」
 明坂 桜侍も、はしゃぐ彼女につられてそっとその毛並みに触れば、あまりに夢見心地な感触に衝撃を受ける。
 餌やり体験のコーナーへと赴けば、スティック状にカットされた人参を手渡される。餌を手にした二人を見つけたアルパカ達は、いそいそとそちらへと近寄ってきた。
「お、ソフィア大人気だな」
「順番にあげるから、ね! えっと……」
 おずおず人参を一頭の前に差し出すと、はむ、とアルパカは迷いなく食べ始める。
「わっ! 食べた! 見て、可愛い!」
 うれしそうなソフィアと彼女を見守る桜侍の和やかな雰囲気を、じぃっと見つめるオリヴァーに、アルパカが一頭近づいてくる。ふぇふぇ~と鳴きながらぐいぐい頭を押しつければ、うお、と青年も多少驚いた。
「悪いが今は忙しいんだ、別の人間に遊んでもらえ」
 ぶぇえん。なんだか不服そうな鳴き声をあげるアルパカが居るな、とそちらを見た桜侍の視界には、間違いなくソフィアの兄が在った。
「え……もしかしてあれ隠れてるつもりか?」
 思わず口に出した正直な感想に、どうしたの、とソフィアもそちらを見る。こうして、過保護な兄の尾行はあっさりとばれるのだった。
「アンタ何やってんだよ」
「あっいや俺はロケ現場の下見にだな……」
 もごもごと苦しい言い訳をする兄に、くすくすとソフィアは笑みをこぼす。
「もう、なら教えてくれたらよかったのに! ねえ桜侍くん」
「ああ、これスゲェもふもふだぞ」
 ずいっと勧められるがまま、オリヴァーもアルパカを撫でる。やっと構ってもらえたことに、アルパカもうれしそうな鳴き声をあげた。

 ふぇふぇ~とあちこちでアルパカの鳴く牧場に、テンションが爆上がりしてしまう人間も少なくない。
「青い空! 白い雲! 緑の草! アルパカ牧場にきーたーぞー!!」
「みゅみゅもー!」
 どどど、と爆走しはじめた中野・詩繫を追いかける明坂 みゅみゅあんの二人を、じっとカメラが映す。撮影しているのは泉河・羊で、今日の思い出をインタビューと共に残そうとしていた。
「二人とも転ばないようにね!」
「おいおいあたしがそんなミスをするワケが……ハッ」
 きらん。ふいに詩繫と一頭のアルパカの視線がかち合う。強者同士にしかわからない意思疎通が起きた瞬間、一人と一頭は同時に駆けだす。
「えっどうしたの?」
「負けられない戦いっぽい!」
 追うのをやめたみゅみゅあんは、どこからともなくフェニックス★シトラの痛うちわを取り出し、カメラを回す羊の横で楽しそうに応援を始める。
「ところでアルパカって魔界の王女の乗り物に良くない……え、連れ帰れない?」
 マジか、と衝撃の表情をして、く、と口惜しそうなみゅみゅあん。
「仕方ない、達者で暮らせよスーパーみゅみゅちゃん号パカパカ」
 長い名前を付けられたパカパカは、ふぇえんとひと鳴きして長い首をかしげた。
 対策室の賑やかしで有名な七人は、それぞれ思い思いの場所で散策をしている。フリーマーケットエリアではありとあらゆる物が自由に売られていて、手作りの雑貨や小物、はたまた怪しげな呪物に見える類もあるような。
「フリーマーケットとはいいますけど、本当にフリーというか……」
 一応老若男女問わず手に取ってよいものだけが置かれているようだし、と、蘭 鏡子は出店のフリーダムさについてはスルーし、同じくらい自由なメンバー達をそっと見守る。
「鏡子さんっ」
 彼女に声をかけたのは篠森 繭で、あら、と鏡子もそちらへ近寄る。
「繭さんはお買い物?」
「はい、お土産を探してて……あ、」
 きょろきょろ見て回っていた視線が、ふっと止まる。その先にあったのはころんとかわいい印象のアルパカの置物で、ちょっとした文鎮にもなりそうだった。色違いのふたつを購入する繭に、鏡子が目を細める。
「大切な人とのお揃い、かしら?」
「え、ええっと……!」
 わたわたと頬を赤らめ慌てる少女に、女は優しい気持ちで微笑む。そんな二人が次に向かったのは、猪原城・美雲のブース。
「美雲ちゃん、お疲れ様」
「繭様、鏡子様。来て頂いて嬉しいですわ!」
 卓上に並ぶウスイホンは、既刊と新刊共に、もう随分と数を減らしている。新刊ください、という繭の言葉に、ありがとうございますわ、と美雲も慣れた手つきで会計を済ませた。
「美雲さんも、抜け出せそうなら見て回らない?」
「ええ、ちょうど休憩しようと思っていたところですの!」
 そうと決まれば話は早い。ブースを一旦軽く片付け、お隣さんに留守を頼んで、美雲も牧場散策へと向かう。
「動物との触れ合いも、美味しい食べ物もいっぱいで、どこから向かうか迷いますわね~」
「とても広いので、迷子にならないように気をつけてくださいね」
 最年長の鏡子の言葉に、少女達ははい、と元気よく返事をした。
 羊が乳製品のコーナーへと足を踏みしめれば、再び見知った顔を発見する。
「天音さん、こんにちは!」
「羊さん、こんにちは。ちょうどいいチーズがないか探していたの、チーズケーキ用に最適な牛乳をだしそうな牛を見かけていませんか?」
 せっかくこんなに素敵な牧場に来たのだから、最愛の妹のためにおいしいレアチーズケーキをつくりたい。天音(乃木平 天音)の言葉にふむ、と考えて、そういえば、と羊が顔を上げる。
「さっきあっちですっごく美味しそうなチーズを売ってたから、そこの牛なら! ……あれ、でも天音さん牛ごと買うの? チーズじゃなくて?」
 ふっと湧き出た疑問を口にしても、カメラに映った天音はおっとりにこにこ笑うのみ。真実は彼女のみぞ知る。
「いやー、走り回ったらなんかお腹すいちゃった! あ、ソフトクリームみっけ!」
 爽やかな汗をかいた詩繫とみゅみゅあんがソフトクリームコーナーへ向かえば、そこには偶然にも他の五人も集合していた。
「あ、皆も甘いもの食べたくなっちゃったクチ?」
「ふふ、そうみたい」
 みゅみゅあんの言葉に答える繭に、皆が同意するように頷く。それじゃあやることはひとつ、と、順番に並んでソフトクリームチャレンジが始まる。
「みゅみゅにかかればこの鬼盛りだってチョー絶盛ってあぁー!」
「慎重に、慎重に……あっ半分になっちゃった」
「牧場で即売会なんて貴重な体験もできぎゃー! ソフトクリームが大変なことに!」
 みゅみゅあんと繭、美雲が想定よりも控えめな量になったところで、天音が素晴らしく美しい形状の盛り方を魅せ、全員の拍手を受ける。
「天音さん、とってもお上手ね」
「みんなの自由な盛り方も素敵よ。個性があってとっても良いことだもの」
 微笑みあう鏡子と天音にカメラを回し、バランスよく盛ったソフトクリーム片手に羊が詩繫へと振り返る。
「さてさて、詩繫ちゃんは……なにそれすご!?」
「あたしの芸術的センスが爆発しちゃったぜ……★」
 バベルの塔よろしく絶妙なバランスで成り立つソフトクリームが危うく落ちるのは、あと数秒後のこと。
 最後に七人揃って記念撮影すれば、そこには楽しげな笑顔だけが写っていた。

 牧場では、恋人達の幸せな光景もあちらこちらで見られる。牧場に来る機会なんて殆どなかった影は、見延 光永とのデートがいつもとはまた違って新鮮に思えた。
 ソフトクリームをはむりと食べれば、口いっぱいに広がる冷たさと甘さに、ほんのわずか頬が緩みそうになる。
「影、」
「ん……」
 名前を呼ばれた影がそちらへ向けば、する、と光永の指が彼女の頬についたクリームを拭う。そのまま指先のついた白は男の口へと運ばれたものだから、影は目を見開いた。
「な、なにを」
「恋愛小説のようなワンシーンだな。舐め取った方が良かったかい?」
 なんてやわらかく笑った彼に、すこしだけ頬を赤らめ言葉を詰める。
「じゃあ、光永サンがクリームをつけたら、今度は僕が舐めとろう」
「それは楽しみだな」
 ソフトクリームを食べ終えたなら、今度はアルパカとのふれあいコーナーへ。小動物はなんだか潰してしまいそうで怖いけれど、おおきな動物なら問題ない。
「触り心地はどうかな」
「このふわふわ具合……悪くないな……」
 もふもふ、もふもふもふ。エンドレスにアルパカのふわふわな魅力に魅せられた影の愛らしさに微笑みつつ、光永もぎこちない手つきでゆっくりと触れてみる。
「……存外柔らかく、温かい」
 ふぇふぇ~。二人に可愛がられて、アルパカもうれしげに鳴いている。時間いっぱい二人で、その感触を味わっていく。

 一方同じくふれあいコーナーでは、目をきらきら輝かせる神楽坂 礼蘭の姿が。
「真幸、記念撮影しよう。ピースだピース」
「うん。お願いできますか?」
 羽柴 真幸に頼まれて、係員は快くそれを承諾する。はいチーズ、とぱしゃり一枚撮影すれば、二人のまんなかに陣取るアルパカもどことなく満足そう。
「アルパカはもこもこして……可愛いぞ、真幸」
「そうだな、可愛い」
 そんな礼蘭さんが可愛いけれど、と思いつつ、係員に促されてアルパカの上に乗ってみないか、と青年は彼女に提案する。
「一緒に乗りたいけど、二人分の重量はアルパカには荷が重いか」
「礼蘭さんは軽いからいいけど、俺はなー」
 腰を支えて抱きあげると、そっとふわふわの上に彼女を乗せてみる。思ったよりも頑丈なアルパカはふぇふぇんと得意げだった。
 真幸が手綱を引いて、ゆっくりと牧場を歩いて回れば、礼蘭には爽やかな草原の景色がいつもよりも広い視界で見られる。
「此処からの眺め、なかなかだぞ」
「アルパカも君に懐いてるみたいだ」
 ぐるりと一周すれば、降りる前にもう一度記念撮影を。楽しかったね、と真幸が礼蘭を見上げると、ん、と礼蘭は彼へと両手をのばす。
「ああ、うん」
 降りられないアピールの微笑ましさに和みながら、そっと抱きあげゆっくり地面へと降ろす。そうして、アルパカの首を撫でる。
「ありがとな」
 二人から餌をもらったアルパカは、またふぇふぇ~と嬉しそうにひと鳴きしていた。


【執筆:遅咲】


 夏の爽やかな風が、神楽坂 礼蘭の花飾りを撫でてゆく。
「真幸、ジンギスカンを食べたことはあるか?」
 私は初体験だと高揚した声を上げる彼女を微笑ましく思いながら、羽柴 真幸は記憶を手繰る。故郷の村ではよく食べられていたと記憶しているが。
「俺は食ったことないな」
「なら共に初体験だ」
 メニューに視線を落とせば、食欲と好奇心を刺激するものばかりで。
「腸詰めと~ソフトクリームも食べられる~♪」
  礼蘭の紡ぐそれが楽しみが高じてのものだとわかるから、真幸もついつい笑みをこぼしてしまう。
「ご注文を繰り返します――」
 注文を取るLumie=Ver=Beataは、いつのまにかここにたどり着いていたとは思えぬほど、堂々としていて。日焼けの心配よりも、ここでのお手伝いが楽しくてそちらが勝ってしまった。
「シュヴァルツさん、注文入るよ~」
「了解ッス。あちらにお水お願いッス」
 伝票を受け取ったクリストファー・シュヴァルツは、厨房へと注文を伝える。
 彼もまた気がついたらここにいて。流れでこのお店で手伝いをすることになったのだが……ここがアルフライラではないことには全く気がついていない。

「自家製チーズも食べられるのね」
 仲良し女友達の獅子原 璃緒奈と連れ立って訪れた久我山・漸羅が興味を惹かれるのは、やはり牧場ならではの食材だ。
「こちらのお席へ」
 案内されて店内を歩けば、肉の焼ける良い匂い。
「新鮮な肉のいい匂い……」
 腰を掛けて早速メニューを手に取った璃緒奈だが、ついつい目移りしてしまうのが止められない。
 ステーキ丼にスペアリブ、自家製腸詰めとチーズのピザに搾りたてミルクのアイスクリーム、etc。
「璃緒奈、シェアしない?」
「いいね!」
 漸羅の提案に頷かない選択肢はない。
 あとは料理が来るまで、店内を見渡しながら話に花を咲かせるだけ。

 ジンギスカンとラムの腸詰めに舌鼓をうつ礼蘭と真幸。肉も野菜もとても美味くて箸が進む……が。
 近くのテーブルにグラスを運ぶクリストファー(雰囲気にピッタリの格好をしているお兄さん)を見て、二人は気づいてしまった――ジンギスカンには酒が合う。
「今日はお祭りだから飲んでもいいかな?」
「勿論。俺も飲みたいと思ってた」
 窺うように告げる彼女に笑みを向けて、真幸は店員(クリストファー)を呼び止めてお酒を注文するのだった。

「牛乳もチーズも売ってるわ。買って帰ってなにか作ろうかしら」
 食事を終えた漸羅と璃緒奈は、併設されたショップでお買い物。
「璃緒奈、ソーセージ作り体験ですって。行ってみない?」
「ソーセージ作り? そんなん行かないわけないじゃん?」
 レジ横の張り紙に気づいた漸羅の声に、吸い寄せられる璃緒奈。
「待って漸羅さん……ご当地ビール飲み比べイベントやってるっぽい……行こ……」
 張り紙の下部、ご当地ビールの記載に気がついてしまったらもう、ね?
「ずるいわ……絶対ビール欲しくなるじゃない」
「今なら次の回のソーセージ作り体験、間に合いますよ!」
 催しの時間を確認したLumieの声に、善は急げと申し込むふたりだった。

「頑張って巻くッス!」
 クリストファーが意気込んで向かったのは、ソフトクリームメーカー。搾りたて牛乳のソフトクリームを売っているのだが――真幸と礼蘭の注文は、なんと10段巻き。
 息を呑んで見守る二人に10段巻きを差し出せば、大喜びの礼蘭と彼女のその様子を微笑ましそうに見守る真幸。喜んでもらえてよかったと、クリストファーは胸をなでおろした。
「はい、礼蘭さん」
 テラス席に戻って。匙で救ったソフトクリームを差し出す真幸。
「ん~♪」
 口に広がるミルクの風味。溶けて消えるのが惜しくて。ついもっと、とねだる礼蘭であった。

「この牧場にならきっと私達を満足させてくれるものがあるはずです」
「最高の物を届けるために頑張る天音様、素敵だと思いますわ」
 眼の前に広がるこの景色は、すべて妹へ捧げる最高のチーズケーキのための材料に過ぎない。瞳を輝かせる乃木平 天音と、全力で彼女をサポートすると心に決めた上梨 鳳果。
「まずは必要な材料のピックアップですわね!」
 鳳果の知識を元に、生クリームやクリームチーズ、卵などを求めて飲食店に併設されたショップへ。
「たくさんありますわね」
 どれが最高に相応しいのか迷う天音に声をかけてきたのは、若い店員(クリストファー)だ。
「チーズの試食出せるッスよ」
 その提案はありがたい。暫くすると別の店員(Lumie)が試食用のチーズを持ってきてくれて、どれがどのチーズか説明ししてくれる。
「こっちの方がいいと思いますわ」
 どのチーズも新鮮で美味しいけれど、鳳果はその中からひとつを選んだ。お嬢様として鍛えられた舌が、コレだと告げている。
「では、このチーズにしますわ」
 そんな彼女のことを、もちろん天音は信頼しているから。疑いも迷いも一切なく、彼女の選んだチーズを手に取った。

 気がついたら知らないところへ来ていた。けれどもリンタロウ・イナバは、瞬時に状況を把握して出店の手続きを済ませる。陳列するのは薄荷水や果実水にドライフルーツ。隣を見れば新鮮な果物が並んでいるが、競合はしないだろう。三味線を取り出して、ベンベンと陽気に奏でる。
「えー、暑さも吹き飛ぶ爽やか薄荷水に新鮮搾り立ての果実水はいかがっすかー」
 隣のブースから三味線の音が聞こえて、リヒャルト・フックスはハーモニカを取り出した。
「いらっしゃい、美味しい果物が揃ってますよ! 瑞々しいオレンジも、甘いリンゴも、どれもオススメです!」
 呼びかけてのち、ハーモニカに口をつける。三味線の音と競うのではなく寄り添うように、共に一つの音となるように奏でれば、隣の店主(リンタロウ)と視線が合った。あちらもリヒャルトの意図を察してくれたようで、明るい旋律が場を満たしてゆく。
「ちょうどいいタイミングみたいだな」
 隣の空きブースに移動販売用の特注軽トラを留めたのは、野々上 宝。
「やっぱお前らの瑞々しい肌を味わってほしいもんな」
 優しい手付きでセクシー野菜を陳列してゆく。
「皆様、ご機嫌ようなのですわ!」
 旋律に負けじと響き渡る元気な声は、向かいのブースから。
「こちらのお野菜はわたくしがお世話になったカッツ様が自らお育てになられたお野菜ですわ!」
 その鮮度と味は誰よりも知っているから。ウエンズデイ・リルシュ・キメラプランツは自身を持って声を張り上げた。

 小気味良い音楽と賑わいに、あれよあれよと人が集う。
「あれ……ここ……?」
 アルパカの毛をもふもふしていたはずの羽野・遥奈は、いつの間にやらフリマブースに。抱きついたアルパカの気ままな歩みに引きずられて、ここまで来てしまったようだ。
「おいしそう……」
 フレッシュな果実水を見て、思わず呟いたけれど――アルパカは止まらない。アルパカの歩むまま、遥奈はブースを通過してゆく。
(あれは何かしら?)
 アルパカと遥奈を見送りながら瞬くのは、リタ・ロイ。馴染みのバーで飲んで、ほろ酔い気分の帰り道――だったはずなのに。気がつけばそれまでとはまったく雰囲気の違う場所に来てしまっていた。こういう経験は初めてではないけれど、今回は一人きり。さてどうするかと考えたのち、開き直って買い物。
「そこのお姉さん薄荷水はどうだい? 果実水もあるぜ」
「せっかくだけどお酒のほうがいいわ」
 三味線の手を止めたリンタロウに、リタは手にしていた紙袋を軽く掲げて応える。アルフライラでは見たことないような酒がそこ(二重にされた紙袋)に詰まっているのだ。
「なら、つまみにドライフルーツはどうだ?」
「じゃあオススメを貰うわ」
「まいどありぃ」
 商談成立だ。

「お店で使う野菜が切れちゃって……」
「あら、それは大変ですわ!」
 慌てた様子のLumieに、ウエンズデイは胸を張る。
「味は保証しますわ!」
 揃えた野菜を彼女持参のバッグに詰めて差し出せば、彼女が安堵した表情を浮かべて礼を言うものだから。
(お屋敷の皆様にも、お伝えしたいですわ!)
 野菜が売れた、それだけでも嬉しいのに。飲食店で使用されて多くの人の口に入るのだ。屋敷の皆の代わりに売りに来た甲斐が、あるというもの。
「美味しい野菜、まだまだございますわ! ぜひご賞味あれ! なのでございますわ!」
 自然と呼び込みにも更に熱が入るのだった。

 人がたくさん。形代 雛が店から距離を取って品物を眺めるのは、自身が接すると関わった人に不幸な事故が起こると知っているから。
 けれども見たことのないものがたくさんで、ドキドキする。
「おじょーさん、それ、面白いだろ?」
「……! はい……」
 車に陳列された野菜は、どれも面白い形をしていて。なかでも人間が足を組んで座っているような人参や大根が珍しくて、ついじっと見てしまっていた。
「大根(雪子)と人参(多恵)はスタイル抜群だが、ナス(葵)のくびれた腰も最高じゃね?」
 店員さん(宝)がおどけたように(だが本人はいたって真剣)言うものだから、自然と雛も笑みが溢れる。
 きっと今日は、不幸なんて起こらないから。
「お料理するのは少し可愛そうだけど、葵さんをください」
「まいど。じゃあこれはおまけ。可愛がってくれよ?」
 ウインクして宝が差し出したのは、手乗りサイズのセクシー野菜ぬいぐるみ。慌てて礼を述べ、思わぬ贈り物を大切に握りしめる雛であった。

「お買い上げ、ありがとうございます。これはおまけのオレンジです!」
「おにーちゃんありがとー!」
 小さなお客さんにオレンジを渡してリヒャルトは、手に手を振り返す。思わぬセッションのお陰で、たくさんの人に果物を手にとって貰うことができた。
「天音様、私フルーツソースを添えたりフルーツを混ぜたチーズケーキを頂いたことがありますの」
「さすが鳳果さん。いい案ね。一緒に来ていただいてよかったですわ」
 足を止めた女性たち(鳳果と天音)はどうやら、お菓子の材料を探している様子。
「ケーキに使うフルーツですか? オレンジもレモンもありますよ。ベリー系もいろいろあります!」
 リヒャルトの売る果物はすべて新鮮。お試しにとナイフで切り分ければ、舌の肥えた鳳果も納得の味で。
「お買い上げ、ありがとうございます!」
 トレードマークの笑顔が、更に咲いたのは言うまでもない。

「地味っ……」
 つい、口に出てしまった。鉱物好きを活かして出店だと意気込んだペデラ・ウォーカーだったが、ただ石を並べただけの店頭は非常に地味で。加えて自身のモブ顔である。存在に華がないのは自覚しているが、商売としては問題なのでは。
「ペデラ」
「遅かったなレピ――」
 聞き覚えのある声に振り返ったが、その視線の先にあったモノの衝撃たるや!
 おかしい。声の主は確かにレピド・クロサイトだ。しかし――。
「どうしてそうなった!?」
 ペデラが叫ぶのも無理はない。だって彼は、メイド服を着たアルパカと化していたのだから。
 どこから突っ込んだらいいのかわからないが、メイド服に頭部がアルパカ。アルパカメイドである。ほら通りすがりの、赤毛のお姉さん(リタ)が見なかったことにして目をそらした!
「……硬い鉱石と柔らかアルパカのコラボレーション」
 表情は動かないが、サムズアップが彼の自信を表している。彼自身は狙ってボケているわけではない。本人としては至って真面目に考えた末の格好だ。彼にとっては売り子の定番=メイド服なのだから仕方あるまい。
「まあ、目立つのは間違いないか……」
 自分の地味さとプラマイややプラスくらいにはなるかもしれないと、自分を納得させるペデラだった。

「フラ屋~フラだけ~、カワイイフラミンゴフラ~。買うミンゴ~」
「フラ屋~をよろしく~!」
 どこかで聞いたような旋律で宣伝をしているのは、アルフラミンゴ君とホノッカ・ピオヴェッロ。
 嫌でも目立つ容貌を利用してこの、見覚えのないものや人の多い場所でやることといったら、一つしかない。
「アルフラミンゴ君グッズで知名度を上げていくミンゴよ!」
 遠巻きに見つめる子どもたちに翼袋を振ってみたり。
「ホノッカちゃんも協力ありミンゴ!」
「アルパカさん人気にまけないようにがんばろー」
 寄ってきた子どもたちの中には、小さなお財布からお小遣いで買ってくれる子もいて。
「お買い上げありがとうね~」
 手を振って見送ったホノッカの視界に、突如現れるもふもふ。
「あ、アルパカさんだー」
 女性(遥奈)がアルパカに引きずられていた。皆の視線を一心に受けるアルパカに、アルフラミンゴ君の心の炎が燃え盛る!
「負けないアル! フラミンゴの力、舐めるなフラァ!」
「ふわふわしてるアルパカさんのほうがさわり心地いいかも?」
「ホノッカちゃん!?」
 思わぬ指摘(ある意味事実)に驚愕するアルフラミンゴ君。だが。
「うふふふ、さわり心地よりアルフラミンゴ君は、抱き心地を追求しなきゃね!」
 ぎゅむっと抱きついてみれば、安心感のある抱き心地。
「あっちにアルパカのメイドさんいたよ」
「どこミンゴ!? 負けられないフラァ!!」
 聞こえてきた噂話に燃え上がる彼を、どうどうと落ち着かせるホノッカだった。

 アルフライラのバザーと似ているようで、どこか違う雰囲気。lotが目を輝かせるのも無理はない。
「アル、見て。不思議な雑貨に不思議な服……素敵が沢山だわ」
 きょろきょろする彼女を微笑ましく思いながら、アストルム=ウォカーレは繋いだ手を握り直した。せっかくの新婚旅行だ、はぐれないように。
「うん、初めて見るデザインのものも沢山あるね。エディ(lot)は気に入ったものはある?」
「このお皿なんてどうかしら?」
 彼はどんな自分でも受け止めてくれる、それはわかっているけれど、はしゃいだのが恥ずかしくて。誤魔化すようにお皿を示した。軽くて丈夫で柄が可愛いなんて、日常使いにぴったりだ。
「こっちにアクセサリーがあるよ」
「素敵だわ」
 ずらり並んだシルバーアクセサリーの作者はランドルフ。普段はネット販売が主でフリマなどで売ることは滅多にない。対面販売は慣れていないが雇った売り子が優秀なので、接客は任せる。
 作品は攻撃的で厳ついデザインが多いが、ぽつぽつとうさぎやねこがいて、ギャップで目を引いていた。
「あの、他、回って……」
「いいですよ」
 売り子の許可を得て、ランドルフは他のブースを見て回る。折角の機会だから他の人の作品も見てみたい。
「手にとっても、いいですか……?」
 奥手ゆえにおどおどしてしまうが、作品に触れるなら断りを入れてからがマナーだからと頑張って話しかけた。
 見て回った充実感に浸っていると、アルパカメイド(レピド)と商品たちが目に入る。
「これ、研磨とかカットとかは」
 自分の作品に鉱石をはめ込んだら幅が広がるのでは、そう思い恐る恐る声をかけると、見た目とは裏腹に大真面目に質問に答えてくれて。店主(ペデラ)も紹介してくれたから、ランドルフにとって有意義な出会いとなったことは間違いなかった。

「さこ、マーケットやって。見るだけしてもい?」
「折角だから何か欲しい物があったら買う?」
 賑わいに惹かれて問う犬吠埼 るぅいに沙古田 玫は穏やかに提案をしたが。
「買い物はほら、節約せんと」
 どうやら彼女は働かずに居候している状態なのを気にしているようで。
「こういう時くらい別に気にしなくても良いだろ。好きにしな」
 だが折角の機会だ。少しくらいならと連れ立って歩いていく。
「ん、じゃあ明日のご飯に使えそうなんとか料理に役立つ物があれば見たいなぁ」
「俺は暇潰しに読む事もあるし本でも買おうかな」
 猫型や肉球型の小皿は食事が楽しくなりそう。
「こんにちはぁ、これよく見せてください!」
 にこにこ笑顔で声をかければ、店主も悪い気はしないもの。
「スパイスセット! この値段で!?」
 自分じゃなかなか買わない(買えない)スパイスとハーブのセットが恐ろしいくらい手頃で、るぅいは思わず声を出してしまった。
 その声を聞きながら、玫は隣のブースに視線を向けて。古書がたくさん並ぶ様子に惹かれる。
「様々な本がありますね……」
「文芸とかはこっちで、ここは漫画で、あっちは薄い本です」
 店主の言葉に視線を向ければ、パンフレットの様な冊子も並んでいる。
「薄い本? 頁数が少ない本に特別な呼称が? 知りませんでした」
 知らないならそのままでと、何故か必死に止められてしまった。
 そんな二人のそばを通り抜けていくのは、アルパカと一緒の遥奈。ぽかぽか陽気ともふもふの効果で眠気が増して、そろそろ売り物を見るどころではなくなってきている。
「さこ、アルパカもふもふしにいきたい~!」
 戦利品を手に玫へと寄れば、ちょうど目についた数冊を買い終えたところだった。
「手、つなご。こういう時、やし」
「ほら、るぅ、迷子にならないよう気をつけて」
 躊躇いなくすっと差し出された手に手を重ね、るぅいは笑みを浮かべた。

 アルパカの歩みが止まった。どうやら木陰で一休みするらしい。
(ここなら、日頃の不眠に負けずにぐっすり眠れそう)
 座ったアルパカに合わせて体勢を変えて、遥奈は目を閉じる。
「むにゃ、おやすみなさい。。。」
 ふわふわ、もふもふ、夢の中へ。

 一休みしようと木陰に腰を下ろしたアストルムとエドナ(lot)。蒼い空を眺めるエドナの首に、硬い感触。
 彼の手によってつけられたのは、翡翠色の石が飾られた繊細な細工のネックレス。いつの間に買ったのだろう、予想外の贈り物に鼓動が早くなるのを感じる。
「アル、私も」
「俺にもプレゼント? ありがとう」
 彼女が差し出したのは、黄色い天然石のブレスレットを。
「大切にするよ」
 優しく笑んだ彼が額に降らせる口づけを、エドナも笑んで受け止めた。

 店頭に並ぶのは、チーズやハーブティー、リンカネーロ刺繍の施された布や木製の素朴な民芸品。そしてナイアラ・リンカネーロの本。
「ぜひ見て行ってください!」
 手にしたチラシを行き交う人々に手渡すリリィ・ガーデン。
 リンカネーロ観光区のPRにと出店したのだ、多くの人に興味を持ってもらいたい。
「おひめさま?」
「お姫様のお話聞いていくかい?」
 綺麗な衣装を纏ったナイアラちゃん人形に惹かれて近づいてきた子どもたちに、アレックス=ガーデンツィオは紙芝居を披露する。リンカネーロ王女をモデルにした、リンカネーロの話。
 何だ何だと足を止める人が増える。通りかかったリタは聞き覚えのある単語がやたら聞こえると思って足を止めたのだが。
(げっ……)
 人だかりの中に金髪の女性をみつけ、嫌そうな顔を浮かべて瞬時に回れ右。エウラリカ・オブ・サジスターなんて見てない見てない。
「平和を取り戻した世界で王女様はいつまでも幸せに暮らしたのじゃ! でした。めでたしめでたし」
「わー!」
 紙芝居が終わると、歓声と拍手がアレックスを包み込む。想像以上に多くの人が足を止めてくれていた。
「あの紙芝居の絵本とかないんですか?」
「紙芝居のお話そのものではないのですが、お姫様の本ならあります!」
 問い合わせに対して臨機応変に対応するリリィ。せっかく興味を持ってくれたのだ、この機会を逃す手はない。
「さこ、チーズ買ってもい?」
「パンと一緒でもお料理に使っても美味しいチーズですよ。アレックスさん、まだ在庫ありますよね?」
 足を止めてくれた二人連れ(るぅいと玫)にチーズの説明をするリリィ。アレックスは後方からチーズの包みを取り出して、空いた場所に並べていく。
「お買い上げありがとう」
 去りゆく客に礼を告げて、商品を眺めている客に目を配る。盛況で客が途切れず忙しいが、それもまた。
「人がたくさん……ふふ、楽しいですね!」
「ああ」
 うきうきした様子のリリィと同様に、アレックスも接客を楽しむのだった。

「凄く広いわね、この牧場!」
「こんな所があったなんて!」
「那須でも八ヶ岳でもなさそうだけど……深く考えたら負けみたいね、これは」
 眼の前に広がる牧歌的な景色。御手洗・華呼、ハスロ・弥生、那珂湊・沙夜、片町 リナの四人は、即座に切り替えてこの状況を楽しむことにした。
「そういえばアルパカ見るのって初めてなんですよ」
 おそるおそる近づき、けれどももふもふの手触りにはしゃぐリナ。
「お酒売ってるわ、飲む?」
 弥生に尋ねて沙夜は近くの屋台へ。
「今度夫とうちの子達、メロンパン(コーギー)とも一緒に来たいわ」
「お子さんたち、もふもふ喜ぶんじゃないですか?」
 全力でもふもふを堪能しているリナを見てると、子ども達のはしゃぐ姿が目に浮かぶ。
「あら?」
 紙カップを手に戻ってきた沙夜が、きょろきょろしてる――そう、華呼の姿がないのだ。

「アルパカの毛を使った鍋敷きにミトンは毎日の料理に使えるわ」
 いつの間にか。本当にいつの間にかフリマに出店していた華呼を見つけた三人。どうやらアルパカの毛で作った品を売っているようだ。
「もふもふ……」
「触り心地も抜群よね」
「これ、ください」
 料理好きの雛。普段遣いできるなら嬉しいと、セットでお買い上げ。おまけの、羊毛フェルトの要領で作ったアルパカのストラップが嬉しい。
「皆さんにもおすすめの品、取り置いておいたわ」
 接客が落ち着いたのを見計らって近づいてきた三人に、華呼が差し出したのは。
「あら沙夜さん、こちら如何?(クリスマスカラーで神が描かれたひちすらダサいセーター)」
「弥生さんにはこれどうかしら(コーギーのぬいぐるみ)」
「リナさんは便座カバーもおすすめよ」
 セーター、床マットから便座カバーまでなんでもある豊富な品揃え。
「尻尾付きのコーギーのぬいぐるみ!?」
 弾かれたように反応したのは弥生。無理もない、毛の模様まで愛犬にそっくりなのだ。他の人の手に渡るなんて考えられない。
「買うわ!」

「あー……せっかくだし、勧めてくれたセーター買おうかな?」
「便座カバーも一緒にいかが?」
「それは遠慮するわ」
 その場の雰囲気に気圧されて、セーターを購入した沙夜だが。どう見てもダサい。そして冬まで取っておく気にならないものだから。
「リナさんどうぞ」
「いいですね、もふもふ!」
 セーターを纏って便座カバーを抱えたリナだが――なんだか妙な視線を感じる。ああ、アルパカたちが、殺意マシマシの視線を向けてきているではないか。
「うん、だめですねこれ、めちゃくちゃ警戒されますね!」
 素早く脱いで布袋へ。こうすればクッションとして利用できる。ナイスデザインは犠牲になったのだ。
「フードもスイーツもたくさん売ってるし、買ってきてみんなで楽しみましょうか?」
 仲間たちのやりとりを微笑ましいと眺めていた弥生の提案。手分けして食物と飲物を買い込めば、きっと素敵な女子会ができるはずだ。


【執筆:篁みゆ】


 フリマエリアをとことこ歩いていたシスネ・ティールの目の前に飛び込んできたのは『アルパカの餌(クローバー)あります』の文字。

「クローバーはアルパカさんよろこんでくれるの?」
「えぇ、あの子たちの大好物なの」

 シスネの問いに店の手伝いをしていた影谷 揺楽は笑顔で答える。一袋くーださい! の元気な声に頷き、わさっとクローバーを掴み溢れんばかりに袋に詰める。

「ええと……このくらいかしら?」
「影谷、ちょっと多い」

 ちょっとどころではないのだが「これはお客さんへサービスな」と二ノ宮 鉄騎が即座にフォローへ入る。
 サービスの言葉にまた嬉しそうな顔を見せ、二人にぶんぶんと手を振って牧場へ向かうシスネを見送った後に揺楽が小さくため息をつく。

「鉄君の手伝いに来たはずなのにうまくいかないわね」
「やっていくうちに慣れるもんだ。ほら、また次のお客さんだぜ」

 今日は裏方作業のつもりだったが接客対応に不慣れな揺楽のフォローで鉄騎もちらほらと顔を出していた。
 それに揺楽は申し訳なさを感じているのだが、鉄騎からすれば彼女からの申し出で手伝ってくれること自体の心遣いが嬉しいものである。
 励ますように揺楽の背中を押す。次に店に顔を出したのは鉄騎も知っている人気デュープ遥奈(羽野・遥奈)であった。

「ここでアルパカの餌、買える?」
「あぁ、大丈夫ッスよ」

 ぱっといつもの接客対応に切り替え揺楽にバトンタッチするものの、彼女がある種同業者である揺楽に気付かないか気が気でない。
 変装はしているものの揺楽の芸能人オーラは健在だ。

「あれ、キミ……もしかして」
「これ番組のロケで……なんで、頼んます」

 今度こそ適量を、と意気込む揺楽の横で鉄騎がしぃーっと人差し指を口元に当てれば遥奈もあぁ、と小さく頷く。

「はい。楽しんできてね」
「ありがとう。キミもね」

 笑顔でクローバーの袋詰めを渡せば遥奈も笑顔で返し、店を後にする。

「(確か揺楽さん猫好きだったよね、今度機会があれば話してみたいな)」

 猫の話をしたかったが、それはいつかの機会に取っておいて。
 アルパカの元へ行く前にもう少しフリーマーケットを見て回ろうか、と遥奈が思案顔をしながら歩いていると。

「ねえあの『ソフトクリーム』ってなんだろう?」
「行ってみるか?」

 仲の良さそうなペルラン=ラパセル=ペルシュとミラン=ミグラテリ=ペルシュの兄妹がソフトクリーム屋の前に並んでいた。それに釣られ遥奈もその列に並んでみる。

「(牧場を楽しむ姿が見られるのはいいが、このはしゃぎっぷりは気が気じゃないな)」

 ソフトクリーム屋に並び「どんな味かな~」とわくわくしているミランは大人しいものだ。
 しかし、初めて見たアルパカなる生き物にも「かわいい~!」と飛びつく等はしゃぐ姿は迷子や怪我をしないかと兄であるペルランは常時はらはらしていたのだ。顔には出ないが。

 しばらく待てば店員さんから手渡される美味しそうなソフトクリーム。一体どんな味がするのだろうと口に含むと。

「「すっごくおいしい!!」」

 兄じゃない誰かとハモった声に思わずミランが目をぱちくりさせれば、同じような表情をした遥奈と目が合う。

「生乳ソフトクリームってこんなに美味しいんだね、こんなの食べたことない!」
「ね~、冷たくてびっくりしちゃったけど甘くて美味しい~! お兄ちゃんも食べてほら!」
「それじゃ、一口」

 美味しいをその場にいた人と共有し、その際に遥奈からおすすめの雑貨ブースも教えてもらう。
 こういう縁も楽しいよね、と彼女と別れて向かった雑貨店で兄妹が見つけたのは鳩のストラップ。

「ねえねえお兄ちゃん、この鳩のストラップ買おうよ! 色違いでお揃いにしない?」
「鳩……平和の象徴か」

 色違いの想い出を手に二人は笑い合った。
 そして微笑ましい姿は兄妹だけではなく。

「揃いのものを買って帰るのも悪くないね。後で寄ってみようか」
「さっきアルパカのぬいぐるみを見かけたな」

 カップアイスとクレープをそれぞれ片手にベンチで休憩をしているのは大学生カップルの二人。
 仲良し兄妹の姿を見送りつつ、ジュスト・ヴェルジーの手は婚約者であるローザリカ・L・ディオールの口元へ甲斐甲斐しくアイスを運ぶ。
 甘い一時であることは間違いない……のだが。

「ジュスト、僕は召使と遊びに来たんじゃないんだが」
「ロゼが可愛いからついなんでもしてあげたくなってしまってね」

 僕ばかり甘やかされているのはどうなんだ、とローザリカが唇を尖らせてもジュストにはそれすら愛おしい。

「ほら、ジュストも……あーん」

 負けてられないとばかりのお返しに自分のクレープを差し出せば、にこりと笑顔で一口頬張る。

「君はもう少し照れたらどうなんだ!」
「嬉しいとどうしても笑顔になってしまうよね」

 なんだか負けっぱなしじゃないかとむくれるローザリカの頬にジュストが口を寄せる。

「これは嬉しかった分のお礼だよ」
「~~~~っ!!」

 お互いに食べさせ合っている姿はスイーツに負けない甘々っぷり。
 これにはアルパカも食わずに思わずにっこりふぇ~と鳴いてしま……。

「ふぇ~~~ですわ~~~~!?(鳴いてるのはアルパカではなかった)」

 暴れアルパカだ~! と、突如フリマエリアがざわつく。
 暴れと言いながらも華麗に人込みを避けているのはある意味匠アルパカの技なのか。
 そしてその背にはまるでロデオのようにぐわんぐわん揺れながらもアルパカにしがみ付いているリリリリスの姿。

「これはこれで新体験ですがががが、牧場の方へ戻ってくださいまいたっ」

 この振動、踏まれるのとはまた違う目覚めがありそうなのだが揺れている状態で喋ると舌を噛む。
 どうしてこうなってしまったのか。アルパカと友好を結ぶべくリリリリススペシャリテを振舞おうとしただけだというのに。

「アルパカさん、これを!」
「ぎゃふん!」

 その状況を見て通りすがりのシスネがサービスしてもらったクローバーの袋をばばん!  と差し出せば暴れアルパカも急ブレーキで餌をはむはむ。
 リリリリスの顔面が首元のもふもふにずぼっと埋もれることにはなったが今は無事に止まったことが幸いだろう。
 そしてアルパカ登場にこれ幸いと思った人物はもう一人。

「このアルパカ借りてもいいか?」
「構いませんわよ」
「あ、わたしもアルパカさんさわりたい~!」

 渡りに船とばかりにやってきたアルパカに駆け寄ってきた足綛 八。
 乗り回していたリリリリスに断りを入れ、アルパカに興味津々のシスネまで引き連れて戻った先で待っていたのは強面顔の遠獄 丈暁。絶賛不機嫌中。

「遠獄さん、ほらアルパカっすよ! これで機嫌直して!」
「お前どっから連れてきたんだよ……」

 すぐそこから、の言葉にマジかよ。となりながらも思わず圧倒的なモフみにつられてもふもふ。

「わたしもいっしょにもふもふしていい?」
「もちろん」

 丈暁の姿にひるむことなくアルパカへきらきらの瞳を向けるシスネ。
 強面と美少女が並んでアルパカをもふもふする不思議な光景が繰り広げられていた。

「このかわいいおめめがすてき! って思っていたけど……もふもふもすごい……」
「悪くねぇな……」

 そんな二人の姿を見ながら八はほっと胸を撫でおろす。
 牧場に来てまで古着を売る丈暁に呆れていたが、まさかその強面により客足も遠のき不機嫌オーラでさらに悪循環になることまでは想定していなかったのだ。
 アルパカさまさまである。
 うんうん、と頷いているとどうやらアルパカに一目惚れをしていたらしいシスネがへちょんと眉を下げ呟いた。

「アルパカさんかわいいんだけど、とりさんとなかよくできるかなぁ?」
「これだけ人慣れしてんだから鳥慣れもするんじゃねぇか?」
「アンタ鳥好きなのか? そこで古着売ってるんだけど鳥柄あるよ、どう?」

 とりさん! と目を輝かせるシスネに本日一人目のお客さんを捕まえられそうで八はもう一度胸を撫でおろした。

「ニルスさん大丈夫でしょうか」

 少し離れた場所で暴れアルパカが出たらしいとの噂を聞き、フィオナ・フォーサイスは自分のスペースの前で心配そうな顔を見せていた。
 スペースには牧場関係者であるニルス・ファミーユからもらったパカ毛で作られた可愛い関心アルパカぐるみたち。
 展示用のサマーカットアルパカぐるみを抱えて先のスペースが見えないかと身を乗り出せば。

「販売は順調かな?」
「ニルスさん! 順調ですが……そちらは大丈夫ですか?」

 ひょこっとニルス当人が顔を覗かせる。
 アルパカはちゃんと送り届けてきたよ、と答える彼にフィオナもほっと胸を撫でおろす。

「せっかくだから俺も1ついいかな」
「もちろん!」

 このぬいぐるみが作れたのもニルスさんのおかげですからと笑うフィオナにニルスも笑顔で返す。

「本当によく出来ているね。どの子もかわいいな、この子はパカ太郎に似てる。こっちはパカ美にパカ左ヱ門」

 それぞれぬいぐるみの個性にどれも可愛くて一匹を選ぶのが難しいと悩むニルス。

「わ、アルパカぐるみすごい! ぬいぐるみももふもふしてる!」
「ぬいぐるみ、可愛いわね」

 何が売っているのかと覗き込み目を輝かせたのは神薙 焔。それに釣られてか同じように散策をしていたリリアもスペース前に立ち止まる。

「うちのアルパカでーす!どの子もそっくりだから牧場の子と見比べてみてね」
「ぬいぐるみの素材もここのアルパカさんから頂いたんですよ」

 ちょうど手にしていたパカぬいを頭上に掲げて見せるニルスに続いてフィオナが続ければ、二人も感心したように頷いてみせた。

「ちょうどこれから牧場の方に行こうと思っていたの。アルパカの毛刈りもチャレンジしたくて。せっかくだからこの子と一緒に行こうかな」
「私も牧場らしいお土産ないかなって探していたから。1ついいかしら」

 それなら牧場の案内もしようか、と毛刈りが得意だと言うニルスが申し出る。
 それぞれがパカ太郎、パカ美、パカ左ヱ門ぐるみを片手にスペースを後にするのをフィオナが笑顔で手を振り見送った。

 案内と共にフリマスペースを抜けて牧場へやって来てみればこちらも大賑わい。
 恐る恐る初めてのアルパカに触れてそのもふもふっぷりにぴゃっと驚く子や、ぼふんと抱き着いてもふもふを堪能している子等思い思い楽しんでいるようだ。

「私はアルパカの毛刈り体験やってみようかなって思ってるんだ」
「そうね、やってみようかしら」

 とここまで一緒にやってきた縁で焔の申し出にリリアも頷く。
 ぐるりと牧場一周ぐらいで考えていたが、せっかく体験もできるのならば試してみるのも悪くない。

「アルパカ、結構大人しいんだね」
「スタッフの腕もあるのかしら。完全に身を任せているわね」

 二人で左右から少しずつアルパカの毛を刈っていくが刈られているアルパカは微動だにせず大人しい。
 その姿に感心しつつバリカンを動かしていけば二人の手により見事なサマーカットアルパカに。

「もしかして毛刈りの才能あったかも!」
「そうね。一緒にできていい想い出になったわ」

 せっかくならと毛刈りアルパカを挟んで記念撮影。夏の日の想い出を残していく。
 そして、ふれあいエリアの方ではアルパカをはじめ小動物等様々な動物たちとの触れ合いをそれぞれが楽しんでいた。

「アルパカさんたち、可愛いですね!」
「家畜に餌をやるのは初めての経験だ。コイツ等は何を喰うんだ?」

 もふもふと優しくアルパカを撫でるゲルダ・クラインの隣で戸惑いながらもその手を伸ばしているのはナハティガル=ラー。
 この場に似つかわしくはないと思うものの彼女と同じものを見て共有するべくナハティガルはアルパカに歩み寄る。

「色々あるみたいですけれど、ここでのオススメはクローバーみたいですね。ナハティガル様もどうぞ」
「あぁ、ありが……っ!?」

 ゲルダから餌を受け取り差し出そうとしてみれば、ごはんだ! とばかりにわらわらと寄ってくるアルパカたち。
 それおいしいね(ふぇ~~~)。もっとちょうだい(ふぇふぇ~)。もっとあるんじゃないの?(ふぇっふぇっ~~)ねぇねぇ(ふぇふぇ)。と言わんばかりにナハティガルを取り囲みエサを持っていた手をもぐもぐしたり髪を引っ張ったり頬を舐めたり好き放題。

「は、はわ……ナハティガル様がアルパカまみれに」
「――くっ! どうにかしてくれ、ゲルダ……!」

 動物たちに強気で当たるわけにもいかず成すがまま、ヘルプの声にはっとしてゲルダが動こうとするもその手の中にも美味しそうなアルパカの餌が。

「ナハティガル様、今……まーーーー!?」
「ゲルダ!」

 慌ててお互いに手を伸ばすも餌に目を輝かせるアルパカの前には無力。
 しばらくアルパカに揉まれた後、再合流した二人は困った顔で笑い合っていた。

「あのアルパカ? という動物、羊でもラクダとも違うみたいだし……なんだか人懐っこい不思議な生き物だね」
「そうだな。愛嬌のある顔もしているし見ていて面白い」

 アルパカに囲まれている人たちを眺めながらフェオ・デ・アンフェルボスとヘイズ=K=ランカスターは小動物とのふれあいエリアに向かっていた。

「お、フェオ。兎もいるみたいだぞ」
「え? 本当だ、うさぎさんもいる……!」

 白や茶色のふわふわした兎たちがつぶらな瞳で二人を見上げている。
 怖がらせないようにそーっと近付きフェオが抱き上げてみれば兎も気持ちよさそうに目を細める。

「雲みたいにふわふわ……故郷では遠くから見るだけだったから、たくさん、触ってみたかったんだ」
「ふふ、思ったとおりだ。なんだかあんたに似合うよ。せっかくなんだ、今のうちに――うわっ!?」

 たくさん触れ合っておくといい、と嬉しそうに兎を抱くフェオを優しいまなざしで見守るヘイズに迫る食パンのような弾丸もといコーギー。
 アルパカたちを追いかける仕事の最中(さいちゅう)、彼らの様子も気になったようだ。

「その子もヘイズが好きなのかもね」
「……いきなり突っ込まれるのは困るがな」

 ヘイズのそばをぴょんぴょんと飛び跳ねるわんことフェオに抱かれてすやすやしている兎と。
 小さな可愛いものたちに囲まれて穏やかな時間は続く。

「うむ、今日もアルパカ牧場は平和だな……」

 そして、動物たちと戯れる人々やフリマを楽しむ人々を牧場柵(・)の(・)内(・)側(・)から眺める男、もといパンダがいた。
 牧草を美味しそうに食べるアルパカの群れと共にいるのはハッタ・ムラムラ。

 アルパカ牧場を外(・)か(・)ら(・)眺(・)め(・)る(・)日(・)があれば、アルパカ牧場の中(・)で(・)暮(・)ら(・)す(・)日(・)があっても良い。
 そう、何事もバランスが大事なのだ。

「昨日は運動が少なかったな。それなら今日は動かねばなるまい」

 ふぇ~と鳴くアルパカたちに見守られつつ前転ごろん。
 いつの間にか用意されたタイヤをごろごろごろん。
 この牧場にパンダいたか? そんな人々の些細な疑問もなんのその。ハッタはアルパカ達と皆を見守る。

 そして今日もアルパカ牧場で出会いやふれあいが生まれ、楽しい想い出が作られていくのであった。


【執筆:蒼絃】

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0