アルパカロードでパレード!
キャラクターノベル(グランド)【C】アルパカロードでパレード!制作 アルパカコネクト運営納品 2023年08月30日 12時00分00秒
「フェ! 皆にはお仕事がアルパカ!」
ネクタイをつけたアルパカが喋った。セリオはびっくりしたが、そんなもんかと秒で納得した。
「はい! お仕事頑張ります」
特務局員として仕事を頑張ると決意していた。だから怪しい動物のお願いも勇んで引き受ける。しかし疑問も残る。これは特務局員の仕事なのか?
他にも戸惑う人達が多く、皆が何をしたらいいのか迷っていた。
「はいはい、みなさーん! ごちゅうもーく!」
無名は皆に呼びかけて、芝居がかった仕草で堂々と語る。
「一体何がどうなってるの? そんな疑問は全部ゴミ箱に捨てちゃえ! 今一時この出会いとパレードを全力で楽しもう!」
無名の言葉に人々の緊張が緩む。セリオは感心して話しかけた。
「スタッフの方ですか?」
「僕? 僕はただの通りすがり! えーと……これでいいんだよ、ね?」
ちらりとアルパカを見ると「フェ!」と鳴く。愛らしい仕草にセリオは「さわったら失礼かな~」と内心そわそわ。
どこの街かも分からないが郵便屋さんの仕事はあるだろう。セリオは困ってる人を探しに行った。
大通りでパレードが始まる。
パレードの先頭は着物姿の猫又・川村萌夏。和傘をくるくる回しながら静々歩く。傘の上を八上ひかりの頭が回っていた。萌夏の隣を歩くひかりの体には首から上がない。アイルランド伝説の妖精デュラハンだ。
「いつもより多く回っております~♪」
ひかりは傘の上で転がりながら賑やかに告げる。シュールな絵面に驚く者、笑う者、怖がる者、反応は様々だ。
「ひかりちゃん、このパフォーマンス、最近の若い子たちには分かんないと思うんだケド」
少々古すぎる昭和スタイルの芸風を気にする萌夏は、親友へ元気いっぱい抗議した。そこへバドル=アーケイナが声をかける。
「じゃあ、一緒にやるか? 『お祭り好き』としては黙っちゃいられないぜ!」
バドルの手から放たれた金属の輪が傘の上へ。萌夏は尻尾をピンとたて傘の傾きを調整する。ひかりが口でキャッチすると拍手が湧く。バドルは萌夏の隣でリングを放り投げジャグリング。手を止めぬまま萌夏の芸に言及する。
「傘の上に物を乗せる曲芸は初めて見たぜ。なんていう芸だ?」
「枡を回す『枡回し』の方が有名でしょうか。日本の伝統演芸で……」
「ふご、ふご」
リングを口にしたまま喋れない。ひかりがリングをバドルに放り投げる。咄嗟に受け取ったバドルは声をあげた。
「いけね、間違えた!」
繋ぎ目のないリングが、いつの間にか繋がっていた。手品師の技に皆が拍手する。傘の上でひかりの頭がコロコロ転がって跳ねる。
「ひかりちゃん、どうしたの?」
「次はダンスみたいよ」
照出依乃雨が飛び上がって両手で倒立からの回転。ブレイクダンスだ! 地面の上をくるくる回りながらパレードを進む。独学で身につけたブレイキンを駆使して人々を魅了する。立ち上がってポーズを決めると拍手が湧く。
傘の上からひかりが驚きの声をあげ、首無しの胴が拍手する。
「凄いわ」
「アンタも凄いな! ……ところでこのパレード、何のお祝い?」
「なんでしょうか?」
傘を回しながら萌夏が首を傾げる。どうやら誰も知らないらしい。意外と真面目な依乃雨が悩むとバドルがツッコむ。
「楽しけりゃいいだろ。あんたのダンスマジマベだぜ! もっと見せてくれよな!」
「ああ、いいぜ。一緒にやるのが楽しいだろ」
依乃雨は頭を地面につけて回り出す。跳び上がり、手に、肩に着地面を変えながら回り続ける。
バドルにはブレイクダンスは分からない。その凄さを一生懸命観客に説明する。
萌夏は笑顔を浮かべて話しかける。
「いつもより多く回っています……でしょうか?」
「そうだな。もっと派手に回るか」
依乃雨は身軽に回りながら行進を続ける。
最初に霧があった。
死後の世界で出会ったエルモサ・デ・アンフェルボスとルーカス=K=ランカスターは、現と夢の狭間を辿る旅をしていた。霧の中を迷いながら、なんとなく懐かしい気配の方へ進む。
霧を抜けると祭りが行われていた。
「これは……千年祭かな?」
「こんな景色は私も知らないのよね」
エルモサは世界中を旅した。ルーカスより色んな事を知っているつもりだったが、知らない場所だ。
ルーカスは周囲を観察して屋台に目を付ける。並んだ品々に目を細めた。
「それにしても見たこともないものがたくさんだ、面白いね。このおもちゃは何でできてるんだろう?」
「これはゴムじゃない? こっちは硝子よ。綺麗」
「ああ、こんな細工始めてみるよ」
ガラス職人としての好奇心でじっと眺めていると、エルモサは不意に顔を上げた。懐かしい声が聞こえたのだ。
「フェオ?」
弟を想い出し、祭りを見て思いついた旋律を口ずさむ。
「エルモサさんが少し羨ましいよ。僕だってこの景色を硝子に描きたかった!」
「羨ましいなら、一緒に作ってみない?」
「僕が歌を?」
「硝子のように美しく、色鮮やかな音色をどうかしら?」
――愛しの人達よ。私達の心。世界と夢の果てまで連れて行って。
エルモサの歌に続いてルーカスも歌う。二人の歌はパレードの方へ流れていった。
「姉様?」
フェオ・デ・アンフェルボスは亡き姉の歌声を聞いた気がした。隣にいたユニーフィア・シャオンスが問いかける。
「フェオさん、どうしました?」
きっと気のせいだとフェオは首を横に振る。ユニーフィアは夷熊蜂とEllaに目を向けた。
「お二人が歌い進む後を、私達が続きます」
「は、はい」
「よろしくお願いします」
熊蜂はおどおどとEllaはふんわりと頷き、パレードの列へ並ぶ。
最初に躍り出たのはEllaだ。スカイブルーのドレスを身にまとい、トップモデルらしい洗練された足取りでランウェイを歩く。妖精のような可憐さに観客がため息を漏らすと歌い出す。
――私の、あなたの、歩みゆく道、過ぎゆく景色。
かつて絶望し、諦めようとしたこの命。また表舞台に返り咲き歌える喜びを噛み締めながら、小さな足で一歩一歩大地を踏む。
――空に、心に、いつも穏やかな音楽の花が咲いていますように。
遍く命、今日という日を祝福する様に、華やかな旋律に心躍らせ、天壌へ登るように高らかに唄う。
Ellaの祝福を受けて、熊蜂は自信を持って歩き出す。眩しく照らす光から目を背けずに、たとえ夢でも遠慮はしない。
歩き出したその時、観客の中に月鈴の姿を見かけた。
(月鈴様に、皆様に、楽しんでほしい)
月鈴の苦労を、献身を、この目で見てきたから、この歌と踊りがご褒美になるといい。沿道で見守る皆様に、楽しんでほしい。
眩しい光に手を伸ばし、軽やかに踊り出す。己が研究している自由律歌唱術を駆使して独特の節回しで唄う。ひとときの栄光、脚光を、一身に望んで。
アルフライラが見せた夢に、私はなる。なりたい。
あるがまま望むまま、輝き踊る女王蜂。
妖精と女王蜂は、くるくると立ち位置を変え、時に音を重ねて歌い合う。
Ellaと熊蜂の競演を見つめ、ユニーフィアはほうとため息をついた。
「行きましょう」
フェオの言葉に頷いて歩き出す。ユニーフィアのステップに合わせひらりひらりとスカートの裾が揺れる。上品な美しさのドレスは、ユニーフィアの踊りを引き立てた。
観客達へ向けて笑顔で手を振りながら歌い歩く。
(私の知らない人、知らない文化、知らない世界。これはいい機会かもしれない)
フェオは多様な観客達を見つけては笑みを浮かべた。ユニーフィアとフェオの目があって二人で斉唱しながら唄う。
――平和と自由を願い、想いや夢を歌に乗せて。翼を広げ世界の果てまで飛んでいこう。
――この喜ばしき日を、来年もその先も、迎えられますように。
――どこまでも行こう、世界の果て、夢の果てまで。
二人は歌いながら手招きする。一緒に歌おうと誘いかけるように、それに応じた人々がパレードに加わって歌い歩む。
フェオが歌詞に願いを込めて唄っていると、遠くから聞き馴染みのあるハーモニカが聞こえてきた。柑橘の香りを思い出す。ユニーフィアもどうやら気づいたらしい。
同じ空の下、音楽で仲間と繋がっている。翼の歌は、どこまでも飛んでいく。
「……ここはどこだ? とりあえず大通りに……」
コルト・ラリー・アートは見知らぬ土地を歩き、知り合いを見つけた。
「アンタもいたのか」
「どちら様でしょうか?」
「アンタの弟だよ。バイ……じゃなかった、マーリンさん」
マーリンと呼ばれたM・R・2は小さく頭を振った。
「知り合いだったのですね。昔の名前でも構いませんよ」
「まだ慣れなくてな。パレードに出なくていいのか?」
「たまには客席から見るのもいいと思いまして」
M・R・2の手品師の技を見せれば観客も喜ぶだろうが今日は見る側に。二人が大通りに出るとクジャナ ヴァーミリオンが声をかける。
「あら、ラリー」
「よお!」
互いに手を挙げて軽く挨拶する。
「ご一緒しても?」
クジャナの問いにM・R・2が頷くと、コルトが二人を引き合わせる。
「おう。マーリンさん、コイツは紅花……じゃなかった、クジャナだ」
「はじめまして」
何も知らない調子でM・R・2が挨拶すると、クジャナは一瞬言葉に詰まった。
「……マーリンさんとは初めてお会いするわね」
「おや。では以前の私はお嬢さんとも?」
「ええ。でも別にどっちだっていいわ」
M・R・2は記憶を失くして久しい。きっと親しい人だったのだろう。
「申し訳ないです。どうしても思い出せないものですから」
「珍しい事じゃないわ」
クジャナは何でもない顔で笑った。どんな縁か分からないが、かえって変に気を遣わずに付き合えそうだ。
「改めて、よろしく頼むな」
「はい」
「あ、パレードが来たわよ!」
クジャナが指差す先、パレードの中にはなぜかアルパカもいた。
「なに、あの生き物? アルパカ?」
「何だろうな。あれ、人間の言葉を喋ってないか?」
「ここは夢の世界なのでしょうか? 不思議な人々が観客にもいます」
肌が緑色だったり、角が生えていたり。初めて目にする人々が共にパレードを待ち望む。
「……夢なら、今だけ兄弟に戻れるな」
コルトの呟きは歓声に紛れた。誰も気づかぬ小さな本音。
マーチングバンドの先頭で旗を振るのはラズリ・クロックロックだ。
「わー! すごくキラキラしてて綺麗だねぇ、ムーさん」
肩に乗る相棒のオウムから勢い良い言葉が返ってくる。
「キレイッ!」
「俺とムーさん二人でパフォーマンスしながら行進しよっか!」
「コウシン、スルッ!」
「服までいつもと違って楽しいね」
ラズリは鼓笛隊の制服に身を包み、ムーさんも首に蝶ネクタイをつけている。一人と一匹の隣をリリアが軍隊ラッパを吹きながら歩いていた。
「その鳥はムーさんというの?」
ラッパから口を離しリリアは物珍しげに問いかける。会話が成立する鳥は興味深い。
「そうだよ。俺の相棒」
誇らしげに語るラズリが眩しいようにリリアは目を細めた。
二人と一匹の後を演奏者達が続く。
時を少し巻き戻す。
リタリーン・モデナは気づくと箱を持って祭りにいた。箱を開けるとヴァイオリンが入っていて首を傾げる。
「ちょっと~何なのヨ、ここは? それにこの箱……一体なに?」
「ここ、どこかしら? 普通に寝たはずなのに……」
いつの間にかクラリネットを手にして羽野・遥奈は祭りの中にいた。黒猫の姿だから悪夢かと思ったが、それにしては楽しそうだ。
たぶんここでは楽器を奏でる立場なのだろう。楽器の演奏は慣れないはずが、なぜか吹き方がわかった。持ち前の音感とリズム感で適当に吹いてみる。
シービック・イーケー・ナインもトロンボーンを手に呆然としていた。
「なんなのこの世界……? ……どうしろって……」
戸惑うシービックへ、リタリーンは話しかける。
「これでパレードに参加しろってことかしら?」
「え? パレード? これを吹きながら? なるほど、そう言う事ね!」
適当に合わせてみたが、どう言う事かはイマイチわからない。
ジョーイ・ジョーハンソンも祭りの中心で目覚めた。手にはスティック、脇には持ち運び用のスネアドラム。
「もしかして、これ、ドラムスティック?? パレードがあるの?」
「そう、みたいですね」
リヒャルト・フックスは困ったような笑顔を浮かべた。気づいたらパレード待機列に混じっていて、どうしたらいいのか途方に暮れていた。
幸いなことに馴染みのハーモニカが手にあった。落ち着くために吹いてみると良い音が響く。遥奈がハーモニカの音に合わせてクラリネットを鳴らすと、リヒャルトと目があった。
「よかったら、一緒に演奏しましょうか?」
「……まあ、いいわ! 楽しそうだし、演奏に加わってあげようじゃないの!」
リタリーンが同意するように頷き、ジョーイも続く。
「せっかくだし、ボクもこれを叩いて参加しよう!」
「楽しそうだし、アタシも参加するわ! 張り切っちゃうわよ~!」
シービックも加わって、リリアのラッパと旗を掲げるラズリも合流する。7人のマーチングバンドはこうして結成された。
「行進を開始するよ」
軍服のリリアがキリリと表情を引き締め軍隊ラッパを高らかに鳴らす。開幕を告げるファンファーレ。
シービックの堂々とした演奏ぶりに、リリアは問いかける。
「とても上手ね。演奏したことがあるの?」
「昔は、トロンボーンを吹かせたらシシリーに敵う者はいないって言われたのよ!」
「私は演奏がよくわからないんだよね」
遥奈はぼんやりと答えた。傍目にはやる気なさそうに見えるが、遥奈は内心この状況を楽しんでいた。
ヴァイオリン、ハーモニカ、ラッパ、トロンボーン、クラリネット。様々な音の重なりにドラムがリズムで彩る。不思議と纏まって聞こえた。
ジョーイが正確に刻むリズムのおかげで演奏しやすい。リヒャルトは軽やかな身のこなしで踊りつつ、時折ハーモニカを吹いた。
「歌ったり踊ったり、パレードするのって凄く楽しいですね!」
「ムーチャン、タノシイッ!」
オウムのムーさんが返事をして、ラズリが「ムーさんって言うんですよ」と紹介する。
リタリーンが視線を向けた先に知り合いを見つけた。
「あら? あそこに座ってるのはクジャナさん?」
クジャナも気づいたようで手を振っている。楽器を弾きながら頷き返し、視線を別に向ける。
「月鈴さんもいるじゃない!」
「本当だ。月鈴さーん!」
ジョーイもドラムを叩きながら声をかける。月鈴は目立つのが恥ずかしいのか控えめに手を振りかえした。隣に立つテュチュアニエはそわそわと行進を眺めている。一緒に混ざりたいのかもしれないとジョーイは考えた。
「一緒に参加しませんか? ハンドクラップとか!」
スティックから手を離し手拍子を叩いて見せる。リタリーンも楽器を持ちながら叩く仕草をしてみせる。
「月鈴さんも、一緒に手拍子お願いネ!」
テュチュアニエと月鈴がどうしようと顔を合わせた時に、無名が躍り出る。
「戸惑うくらいなら一緒に拍手! スタンドアップ! 踊って歌って楽しもう!」
迷子の案内に、忘れ物を届けに、右往左往していたセリオもやってきて、お手本のように手を叩く。
「ほら、こうやって、できるでしょ?」
セリオを見習って先にテュチュアニエが手拍子を始め、引きずられるように月鈴も叩く。
「ほらほらそこのかわい子ちゃんたちも! 一緒に叩こう、ね!」
無名が声をかけて周り、手拍子の輪はどんどん広がっていく。
シービックが高らかに楽器を鳴らし、口から離した。
「観客の手拍子に合わせて演奏するの、気持ちいいわ~!」
「そうだね。ところで今日は何のお祭り?」
遥奈の素朴な疑問に、皆が目を合わせて首を傾げた。誰もその問いに答える言葉を持っていない。
(慰霊祭の宣伝のために歌ったり踊ったりしたのも、丁度去年の今頃だったな)
リヒャルトは懐かしい想い出に目を細めた。行列の前方、遠くに慰霊祭で一緒に歌った仲間の背が見えた。
「慰霊祭みたいだな……」
「……そうだね」
リヒャルトの独り言に、リリアは相槌をうつ。
この不思議な世界が夢か幻かわからないが、死者の国にも通じるかもしれない。自分達の演奏が死者の慰めとなるなら。慰霊祭と同じく意義のあるものだ。
リリアは亡き戦友達を偲ぶようにラッパを吹き鳴らす。
真夏の夜の夢の如く儚いパレードは、皆の心のどこかに残り続けるのかもしれない。
【執筆:雪芽泉琉】
●夢でも嬉しい、嬉しくても夢
パレードは音楽と人々の熱狂と共に進む。
「ドンなのだ、お久しぶりなのだ。シグちゃん殿もこんにちはなのだ」
隊列の後方でドン・ゴーフルとシグルランに会ったストレガ・L・リベルガストラが、恭しく一礼する。肩掛けのドラムを指せば二人は納得した顔をし、ストレガはそれを肯定する。
「お察しの通り、一夜の夢みたいなものなのだ。楽しむといいのだ」
列が進む。パフォーマンスを始めたシグルランを横目に、ドン・ゴーフルも大太鼓を抱えて仏頂面で歩き出す。隣のストレガが、ぽつりと言った。
「こちらはなんやかんやうまくやっているのだ。暫く休んで、ゆっくり此方に戻ってくるといいのだ」
そうか、とだけ答えがある。響く音色は、かすかに愁いを帯びていた。
●Happiness on parade!
先頭近くの楽隊は愁いを知らず、祝祭に沸く。
レピド・クロサイトは先導のアルパカに随行している。頭に愛猫、手には横笛。表情こそ死人のように――実際、ホムンクルスは只人より死人に近くはあるが――いかめしく冷ややかだが、歓声やアルパカのもふもふぶりに、心は弾む。
(……いいものだな)
笛の音も弾み、愛猫も音に合わせて尻尾を振っている。
「楽しいか、ショウガ」
曲と曲の合間に問えば、なぁーお、と上機嫌さを感じさせる返事。暖かな一人と一匹が奏でるハーモニーはパレードに相応しく、華やかさを帯び始めた。
その様子を、ユーヴィン・ヤサンは前髪に隠れた目でこっそり追っていた。揺れる猫の尻尾が気にかかる。加えて、先頭を行くアルパカも気にかかる。とてもモフりたい。だが今はパレードの踊り手という大役の最中だ。
(……あとで思いっきりモフらせてもらおう)
決意とともに、アルフライラ伝統の踊りを再開する。港湾都市としての誇りを内に抱く、諸国の様式が融合した身のこなしに、観客たちは釘付けになった。己の仕事ぶりを実感してユーヴィンは安堵し、さらに張り切って声をあげる。
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! パレードは始まったばかりですわ!」
パカ~! とアルパカが鳴き、後続のマーチングバンドが伴奏を始めた。
笛のメロディーを華やかな行進曲として飾るマーチングバンドの先陣は、メルカトル・妖のバスドラムとピンカッソン・フロイドのボンゴ、そしてミーニャ・ローバーのフルートだ。自由に躍り、しかし足並みを揃えて奏でられる音は、祝祭によく調和していた。
自由に躍るままに、曲の合間を縫って三人は笑いさざめいてる。
「いい音が……します!」
妖がどぉん、とドラムを打ち鳴らす真似をすると、右隣のピンカッソンが満足げにうなずいた。普段は引っ込み思案な面が目立つ妖だが、この突然の晴れ舞台に臆さぬようにと即席で施したメイクによる勇気の賜物だろう、十二分にこの状況を楽しんでいる。
「アヤちゃんも楽しそうでよかった! ニャーちゃんもいるんだもの、盛り上げましょ!」
ピンカッソンの言葉に、左隣のミーニャがうんうんと同意する。
「突然フルートを持って列にいたときはどうしようかと思ったけど、ピンクちゃんとアヤちゃんがいてくれてよかった! 人数揃えてえんやこら、だもの!」
「あら、“三人揃えばなんとやら”じゃない?」
「ふふ、九輔幇の格言ですね――お二人が居てくれて、本当に心強いです」
異境でも変わらぬ絆に、力づけられる。と、笛の音が新しい旋律を奏で始めた。
三人が、すっと前を向く。
「それじゃ、素敵なパレードにしましょう!」
「ええ!」
「はい!」
三つの長身が足並みを揃えれば、後続がそれに続く。妖のバスドラムがリズムを作り、ピンカッソンのボンゴはそこに軽快で繊細な装飾を加えていく。そうしてメインのメロディーを行進に適した調子に整えたところへミーニャのフルートが見事な和音を奏でれば、後続がそれに導かれる。
皆の楽しむ心がもたらす当意即妙のマーチが、鳴り響く。
●祝して踊り、歌いて言祝ぎ、門出はそこにある
音楽と共に進む長大なパレードの中央近くで目立つのは、四頭立ての白亜の馬車。乗っているのはジュスト・ヴェルジーと、ローザリカ・L・ディオールだ。気づけば席に座っていた二人は、顔を見合わせながらもおとなしくしている。
「しかし外も中も派手な馬車だね。まるで砂糖菓子だ」
「あ、ああ。甘ったるいったら!」
何の気なしにジュストが言うのを、ローザリカはどぎまぎしながら肯定する。そう、オープンスタイルの馬車はどんな王族のそれより壮麗で、中の自分たちは如何なる富豪でも息をのむほどの豪奢な布とレースで作られた白と淡青の正装風の衣装。いつ採寸したのか、馴染んでいるそれを着こなすジュストから、ローザリカは目が離せなかった。そこに、自分たちの姿に歓声が上がって我に返る。
「……笑顔で手を振るべき?」
ジュストの問いに、ローザリカは頷く。
「かも、ね」
二人が手を振りながら外を見れば、同じく甘い出で立ちに身を包んだパフォーマーたちがいる。
「――〈空よ大地よ見ているか、我らの旅路の来し方を〉、」
常とは異なりチョコレートの甘い黒を身に纏う深海・月音と、
「〈行く末はまだ見えずとも、ここに謳おう喜びを〉!」
こちらも常とは少し違う、メレンゲの軽やかな白を纏ったノネ=ェメが歌う。
「さあさあお祝い、お祝いだよ!」
「どうか楽しんでいってくださいねー!」
歌に合わせて、ウサギ耳のヘッドドレスが印象的な揃いの衣装を着たLumie=Ver=BeataとLionette=Pommierが即興でタンバリンを叩きながら踊る。Lionetteがステップを踏むLumieに添って打音を鳴らせば、Lumieはくるりと旋回しつつロールを奏でて応える。献身と誠実さが生み出すリズムは、焼き菓子のように軽快だ。
歌が止むと、わああっと波のように声が上がった。
「ぃいね~、みんな楽しんでる~」
興が乗ったノネが、馬車の周囲を走り出す。観衆に手を振って、ハイタッチをして、列にいるアルパカたちとたわむれ、そして元の位置に戻ってゆるりと高く片手を上げた。
「のってるかぁーい」
『Yeahー!』
「うんうん、いぃ返事~。それじゃあ、次ゎ月音てゃにリードボーカルをやってもらぉ~」
「……!」
それが意味するのは、即興での作詞と歌唱。確かに控え室で打ち合わせた急造の曲は歌い終えてしまったとはいえ、歌手であってシンガーソングライターではない月音の目は焦りに泳ぐ。しかし、現場で狼狽を見せてはならないと思考を切り替えた。
「どんなものがお好みかしら」
「んー、楽しくて、しぁわせな感じの」
そうだょねー? とノネが観客に問えば、また歓声の波。
月音は目を伏せた。幸せという単語は、自分には縁遠い。それでもやってみせるのであり、不思議と“できる”気がした。仕事と割り切っていたつもりだったけど、いつの間にか場の空気に染まっていたのかも、と口が笑みを形作った。視線がウサギのヘッドドレスへ動く。
「ウサギさんたち、四拍子をお願いできる?」
水を向けられて、はわっと慌てたLionetteがしゃんしゃんしゃん! とタンバリンを連続で打ち鳴らした。くすっ、と月音がかすかに吹き出し笑いをする。
「一番楽な速度で大丈夫よ。あまり速いと歌には向かないから」
「がんばって! 私もがんばるから!」
「お嬢様が頑張るなら私も頑張りませんと……!」
気合いが空回りしそうになる気配を察知したのか、ノネが「りら~っくす」と三人の中央に立つ。ゆるやかにつま先をとん、とん、と踏み鳴らして手で促せば、アンダンテの速度でタンバリンが鳴る。
するりと、月音の歌声が響き始めた。
「〈忘れたとしても覚えている 世界に祝福があることを〉」
始まった歌の詞に、LumieとLionetteはそっと視線を交わし、微笑んで頷く。
「〈今日という日を覚えていよう 祝福がこの身にあることを〉」
『――今日という日を覚えていよう!』
二人は拍子を取りながら、軽やかにステップを踏んで観客たちへ姿を見せに行く。肌を苛まない柔らかな光があふれる地で、過去と日々の痛みを忘れて踊るその光景は、確かに幸福のかたちをしていた。
その光景を見ていたジュストは、膝に降ろしていた手を手拍子のために持ち上げようとして、暖かな感触があるのに気づいた。視線を落とせば、繊細なレースをまとったローザリカの手が重なっている。
「ロゼ?」
「こ、婚約者殿は僕の婚約者殿なのだから、将来ための練習としてだな」
外を向いたままこちらを視線だけでうかがう婚約者は、耳をほの赤く染めている。
「――そうだね、予行演習にはもってこいだ」
ジュストはそっと微笑み、その手を握り返した。
●叶わぬことが叶う、今なら
そんなふうに内も外も鮮やかなパレードを眺める人々の中に、美しいがどこか彩度の低い、言ってしまえば生気の薄い青年がいる。
「見事なものだね」
奈喜良 待雪は誰に言うでもなくつぶやいた。表情こそ常とそう変わることはないが、その瞳には新鮮な楽しみを湛えて流れを眺めている。と、最後尾が何やら騒がしい。
「ようこそ、すべてが祝福されるパレードへ! 一緒に踊りましょう!」
パレードの隊列に、観客が誘われている。案内された者たちは、小柄なアルパカがひと鳴きすればたちまち鮮やかな出で立ちに変じ、外に手を振ったり思い思いに踊ったりと賑やかだ。その中にあってなお美しいのは、華やかな生花の花冠をつけた、人々に花を贈る明朗な乙女――リュリュ=ソレイユ。待雪の姿を捉えた彼女は、手を伸ばした。
「そこの、春告げの花のような方! お祝いしましょう!」
待雪は驚愕した。己とは違う、歓喜と陽光の現し身。それが己を”春告げの花”と形容したこと。去来する感情は戸惑いに似ているが曰く言いがたく、しかし体は意識より先に動いて手を取り、パレードへと急ぎ歩む。表情と言葉が遅れて紡がれた。
「……うん、こんな機会だもの」
上手く笑えていたかはわからない。
「でしょう? さあ、楽しみましょう!」
だが眼前の乙女はやはり、心からの喜びに満ちた笑みを見せた。
そうした賑わいを少し離れたところで見ながら、上阿井・流はかたわらの少女に視線を移す。
「行ってみます?」
問いに、形代 雛はゆるゆると首を横に振った。
「まだ、何が起こるかわからないから」
ここまでは何事もなかったけれど、注目を集めてしまえばどうなるかわからない。突然の異境で同じダイバーに会えたことは心強いし、ここでは自分が不幸をもたらすことはないのだとわかってもきたが、まだ不安は拭えなかった。見ているだけでも楽しいのだと告げれば、ダイバーであることの連帯感か、詮索はなく微笑みだけが返ってくる。
「では、眺めていましょうか」
流は花冠がひときわ目を惹くリュリュを、正確にはその髪を眺め始めた。明るい赤毛は長くしなやか、ゆるいウェーブも活発で良い。許されるならあれを解いて指通りを確かめ、時間をたっぷりかけてセットしたい。そんなふうに考えながら歩いていたので、知らず知らずのうちに列へ追いつく。
「さあ、どうぞご一緒に!」
アルパカを伴ったリュリュにすかさず声をかけられ、おわっ、と思索に沈んでいた流が驚きつつも首を縦に振った。しかし隣についてきていた雛は、首を横に振る。
「私は、その、台無しにしてしまうから」
「大丈夫! ね、アルパカさん」
「パカ! ここには楽しいことだけがあるパカ~」
喋るアルパカ、という夢でしかなさそうな光景。雛の瞳に、水鏡が太陽を映すような、常にはない輝きが宿った。
「……はい!」
手を伸ばす。それを咎める宿運は、ここにはない。
祝祭は、パレードは、まだまだ続いていく。
夢といえども、夢はこれから。
【執筆:川並もも】
パレードの行われている大通りには、多くの観客が集まっている。その人混みの中を、マイクを手に里家 実果は、カメラに向かって笑顔を浮かべつつ歩いていた。
「すごい盛り上がり! 会場の皆さんにお話を伺ってみましょう」
否、人をかき分けて進んでいた。何しろ右を見ても左を見ても、前も後ろも人、人、人なのだ。
随分と国際色豊かだったり、コスプレや着ぐるみの人が居たり、アルパカ達がふぇ~と歩いていたりで、パレードは大いに盛り上がっていて。
(ADさんは『OKです!』しか言わないけど、大丈夫でしょうか)
時折そんな疑問が胸に過るが、パレードなのだしそういう事もあるだろう。ゆえに実果は観客へ、「ちょっとお話聞かせて貰えますか?」とマイクを向け――向けられたマイクに戸惑うように、バンシーがぱちりと目を瞬かせた。
「あの……?」
「どうですか、今日のパレード。こちらへは見物に?」
「いえ――パレードの衣装の準備や、機材のメンテナンスのお手伝いをさせてもらったんです」
そうして尋ねた実果の言葉に、バンシーはそう首を振る。そうして「あれも」と指さしたのはパレードの中に居るリッリ――ジャッシュ・ジャンディーニが乗る搭乗型ウォーカー。
ロボット、と目を瞬いた実果に、ロボット? と小首を傾げつつも、リッリが問題なく駆動していることに満足を覚えるバンシーだ。一般局員として整備士の職についてから、縁の下の力持ちのような役割を好む気質に磨きがかかった気がする。
ゆえに満足にバンシーが見つめるリッリの上では、カラーガードの旗を持つリディア=マッケンジーが、笑顔を弾けさせていた。
「よく分かんねーけど、こういうのは楽しんだ者勝ちってな! なあ、ジャッシュ?」
「うるせぇ!」
ちら、と背後へ視線を向けて、リッリを操る男へ話を振れば、そんな叫びが返ってくる。ひょい、と肩を竦めて足元のリッリにも同意を求めたが、さすがに返事はない。
ゆえにリディアはニッと笑って、くるんと大きく旗を回す。このパレードの参加者は誰もが決まりも振付も何もかもバラバラで、だからこそひどく楽しげだ。
そんなリディアの雄姿を見つめ、ユーリル=マッケンジーは感動に打ち震える。
「リディー! ああ、なんて素晴らしい光景なんだ!」
「少しは黙ってください、毎度毎度喧しい」
「くそっ携帯撮影機を持っているやつはいるか!?」
それに辛辣なコメントをしつつ、ダンは呆れた息を吐く。どうしてユーリルと居合わせてしまったのだろうと、げんなりするダンの言葉を、だが当のユーリルは華麗にスルー。
「俺の麗しい妹リディの勇姿をしかと納め……ってなんだ? この状況?」
辺りを忙しなく見回したユーリルは、そこでようやく異常に気付いた。やっとか、とダンが呆れ眼で見つめるのに、コホン、とユーリルは1つ咳払いをする。
「ふん、俺はいつだってリディの為に冷静だ」
「そうですか」
「ふむ……恐らくパレードの終わりがこの状況を変える鍵。となればそれまでリディを愛でるのみ!」
「結局は妹馬鹿ですか」
カッと目を見開くユーリルに、ダンは腹の底から大きな、大きなため息を吐いた。せめて自分くらいは真面目にこの空間について調べるべきか――だがそれもバカバカしいと、また息を吐きつつ天を仰ぎ。
ふと、なぜか我が物顔でパレードにふぇ~と混じっている、アルパカを見た。
「アルパカの焼肉でもしますか?」
「ふぇ~!?」
「冗談ですよ――多分ね」
そうして真顔でそう言った、ダンから慌ててアルパカが距離を取る。ふ、と鼻で嗤ってそれを見送るダンや、賑やかな兄を見てリディアが、笑いながら「おーい!」と少し離れた所で踊り歩くナーディルへと旗を振った。
「一緒に盛り上げようぜ、ナーディル! そこの皆も!」
「……!」
「これでも楽しんでいるぞ」
「顔がそう見えないんだろ」
「ほっとけ、表情筋が固いだけだ」
その言葉に、ナーディルが嬉しそうに頷きながらポーンと飛び上がり、一緒に声をかけられたノエル=ウィスタリアが、いかにも心外だと蒸気トラックの操縦席で顔を顰める。その顔に、すぐ隣を歩く狐型ウォーカーの操縦席でシュネー=ヴァイス=フェーがニヤニヤと笑った。
それにさらに顔を顰めつつ、ノエルはハンドルを握る手にぐっと力を込める。日頃はブレーキをあまり踏まないノエルだが、幾らなんでも場所と空気はわきまえられた。
パレードに相応しく電飾やノウム管で飾り付けたトラックは、しっかりと安全に配慮した徐行運転で粛々とパレードを進む。荷台からは時折、仲間の打ち上げる花火や空砲の賑々しい音。
それに混じって聞こえてくるのは、こちらもパレードらしい電飾で飾り付けられたシュネーの運転するウォーカーの背で、パシオン=A=アレグリアが吹き鳴らしているラッパの音色。鳴らす音色はどこか懐かしい、バルテス海軍でも耳にする事のある勇壮な曲で――それでいて耳馴染みの良い音色に、パレードで歩く人々の足取りも自然と軽やかになる。
その音色に合わせてナーディルは、ポーンと大きく飛び跳ねた。なかなかいけますわね、と瞳を光らせたパシオンが吹き鳴らすメロディに変調を加えれば、おお、と嬉しそうにナーディルが笑ってそれに応じ、くるくると幾度もターンを描きながら舞い踊る。
パパッ、とそれに拍子を添える心持ちで、ノエルが蒸気トラックのクラクションを鳴らした。シュネーが狐型ウォーカーをステップを踏む様に小刻みに動かし、向こうの方ではリッリもまるで応えるように拍動する。
プァー! と一際高く鳴らしたラッパの音が、まるで何かの合図のよう。蒸気トラックの荷台から上がる花火が、白い煙を青空にまき散らしながら色を添える。
「シュネー! やりますわよ」
「まかせとけ!」
同期かつ親友がそう頷き合って、ウォーカーを少しばかり派手に動かせば、観覧席から歓声が上がった。その背でラッパを危うげなく吹き続けるパシオンの動きも、さながら曲芸のよう。
おお、とそれにナーディルは目を輝かせる。屋台巡りも楽しいし、見知った者同士で美味しかったものを教え合うのも楽しいし――こうして皆で行進するのも、何だか楽しい。
ゆえにナーディルはアルパカの蝶ネクタイを借りて結びつつ、行進の中で舞い踊る。身に沁みついた呪術が完成しないよう気を付けながら、笑顔を浮かべて楽しげに。
そんなナーディルの楽しげな気配に惹かれたように、アルパカも隣でふぇ~と蹄を鳴らし始めた。その、如何にも楽しげな様子に観客席は勿論、周囲の参加者からも微笑ましい眼差しが向けられ――アルフラミンゴ君が闘志を燃やす。
(アルパカには負けられないアル!)
そうしながら高らかに、軽快に吹き鳴らすのは笛の音。パレード衣装のフラミンゴの頭も左右に振りながらの演奏行進は、一見して華やかで賑やかなパレードに良く似合っている――のだが。
(もう少しフラ……!)
着ぐるみの中ではアルフラミンゴ君が、チャンスを狙っている。アルパカからパレードを奪い取ろうというのだ。
名付けて『ハーメルンの笛吹きミンゴ』作戦。時が来れば列から離れ、パレードと別の方へ笛の音で皆を誘導しようという、恐ろしい(?)計画であった。
ゆえに先頭を歩こうとするアルフラミンゴ君と、ふぇ~と歩き続けるアルパカの攻防(?)を、観客席からナイアラ・リンカネーロがパチパチと瞬きしながら見つめる。一体何が起こっているのかと、グルグルし続けている親友にリリィ・ガーデンは微笑みかけた。
「ほら、ナイアラさんも! これは宣伝のチャンスですよ……!」
「せんでん?」
こくりと首を傾げるナイアラに、ええ、と頷くリリィが纏うのは、リンカネーロ風のパレード衣装。彼女達が長らく取り組んできたリンカネーロ観光区のPRをと話せば、はっ、とナイアラが瞬いた。
そんなナイアラにもお揃いのパレード衣装を着せれば、リンカネーロ観光区御一行様は完成だ。否、まだちょっと寂しいから、
「アルパカさん達にも衣装を着てもらって……ふふ、かわいい! さあナイアラさん、ペナントを振りながらみんなで歩きましょう!」
「うむ!」
リリィが差し出した、リンカネーロ伝統刺繍を施したペナントを手に、意気揚々と歩く親友をにこにこ見守るリリィである。それを遠くから見つけ、おーい、とミリア・クロステル・ヴァリスは大きく手を振って。
その拍子に手に持っていたタンバリンが鳴って、うわっ!? とびっくりする。
「ななななんスか、これは……!? このタンバリンを一体どうしろと……」
「ミリアさん。ご一緒にPRしませんか?」
「リリィさん、ナイアラちゃん! ならアタシも……あぁっ、ミニーちゃん発見ッス!」
リリィの言葉に頷きかけたミリアはだが、少し離れた所にいるミニー クーパーを見つけてまたぶんぶんと大きく手を振った。そんなミリアに気付いてミニーは、良かったぁ、と胸を撫で下ろしながら駆け寄る。
あのもふもふの生き物は可愛いけれども、いきなりパレードの真っただ中だし、手にマラカスは握っているしで、もうわけが解らなかった。そんな中で見つけたミリア達の傍までやって来て、ようやくほっと一息ついて。
リンカネーロ風衣装を着たアルパカに、首を傾げる。
「結局、ここどこ? どうなってるの?」
「どうやらパレードが行われるらしいッスね。アタシたちもこのまま参加しようッス!」
一足先に落ち着いた、ミリアが笑ってそう提案すれば、なんか面白そうかも! とミニーも目を瞬かせる。歓迎するようにふぇ~と近寄って来たアルパカを、もふりと撫でれば気持ち良い。
そうしてミリアのタンバリンと、ミニーのマラカスもパレードに加わった。4人で色々と歌いながら歩いていれば、自然と足取りも弾む。
そんな4人の横にふいに、シャーッ、と走り寄ってきた自転車があった。おや、と視線を向ければ乗っていたのは制服姿のアレックス=ガーデンツィオだ。
アレックスは4人にひらりと手を振りつつ、軽快に走り抜ける。かと思えば観客に手紙型色紙を配り、記念撮影を請われて快く応じたり――これぞ郵便屋さんの鑑。
そんな風に賑やかしに勤めていたアレックスは、不意に公社の制服からパレード衣装に早着替え。次の瞬間、そこに居たのは――ディアンドルを身に纏った可憐なヒューラント連邦乙女・アレキサンドラであった。
観客がどよめく。もちろん、最前列で一緒にパレードを見物していたパルドとウォーゼルも――ついでにショコラとチョコも、ピーンと尻尾を立てて驚き顔。
そんな2人と2匹に気が付いて、アレキサンドラ嬢がパチンとウィンクしつつ投げキッス。その麗しい姿に観客席のあちこちから「オエエー!?」と歓声が上がった。
その様がどうにもおかしくて、パルドとウォーゼルは笑いながらアレキサンドラ嬢にぶんぶんと手を振った。そんな風に幾つかの団体を見送って、様々なパフォーマンスをキラキラとした眼差しで楽しく見物するうちに、眼前にやって来たのはリルク・C・ラトウィッジ達の一団だ。
大きなカラーガードの旗を空へと掲げ、リルクが仲間達へと声をかける。
「さあ、盛り上げていくよー!」
「OK! いっくよー♪」
その言葉に呼応して、ルーシェ・アルジェントも揃いの旗を掲げながら、大きく明るい声を上げた。そうして2人息を合わせて、大きな旗を同じように、かと思えば左右対称に、くるりくるりと回すたびに閃いた旗が、観客席の方までくすぐるように流れてきた。
その後ろから元気に歩いてくるのは、三味線を抱えてベインベインと奏でる、アルバス・ロウルとルルト・アーキスだ。片手に下げた三味線を反対の撥でベインとかき鳴らし、元気な行進を披露するルルト達の足元では、イイズナのシロも三味線のリズムに乗って、軽快なダンスを披露していて。
その三味線が奏でる旋律に絡むように、ジルギス・ランバートの指がマンドリンの弦の上を踊る。そうして1つの楽しげな響きとなった旋律の上を滑るのは、エィレニア・ティス・フェンガーリののびやかな歌声だ。
微笑みを浮かべながら身振り手振りを交え、時に観客席へと手を差し伸べながら歌うエィレニアに、ジルギスが眩しく目を細める。そんなジルギスの眼差しに気が付いて、エィレニアがはにかむような、いたずらな微笑みを浮かべた。
かっこいいなぁ、とそんな6人の見事なパフォーマンスに、パルドとウォーゼルはうずうずしながら食い入るように見つめる。その視線にルーシェが気が付いたのと、先ほどから目の前をちらちらと動く旗に、我慢し切れなくなったショコラがついにじゃれついたのは、同時。
「あっ、こら、ショコラ!」
「ふふーん、キミも一緒に踊りたいのかな?」
驚いたパルドが止めようとするが、ショコラはそのまま旗に釣られて行ってしまう。否、ルーシェの巧みなカラーガードさばきで旗が絶妙にパレードの方へと動き、吸い寄せられていく。
あぁ……、と困った顔のパルドと、そんなパルドを困ったように見るウォーゼルに、そうしてルーシェは「ほら、キミたちも!」と笑顔を向けた。友人であるルルトとアルバスも、パルド達に向かって声をかける。
「おいでよ!」
「一緒に歩こうぜ!」
危うげなく三味線を弾きながら、器用にぴょんぴょん跳ねる友人達の言葉に、パルドとウォーゼルは目を丸くした。それから、おず、と他の3人を見回せば、やはりにっこり笑顔で2人を手招きしてくれている。
それを見て、2人は顔を見合わせてから、うん、と大きく頷いた。そうして2人は手を繋ぎ、えいや、と観客席から熱気溢れるパレードの中へと飛び込む。
ルーシェとリルクがカラーガードの旗を器用に閃かせながら、そんな2人の姿を観客の視線から束の間、隠した。その間に早着替えで2人が身につけたのは、6人と同じ揃いのパレード衣装。
ばさりと旗が翻れば、そこにはもう2人のパフォーマーが居た。ベベン、とルルトが三味線を大きくかき鳴らし、アルバスとアイコンタクトをして奏で出したメロディが、まるで2人を誘うかのよう。
そんな友人達の合図に、気付かないパルドとウォーゼルではない。にっこり笑顔で大きく頷くと、あっという間にメロディに乗って、楽しげに踊り始めた。
最初は確かめるように、次第に激しく飛び跳ねるように。身軽なパフォーマンスを繰り広げる2人の足元では、シロとチョコ、ショコラが楽しげにくるくる走り回っていて。
そんな2人と3匹をにこにこ見守りながら、ルルトとアルバスの三味線がどんどんとテンポを上げていく。そのメロディに重ねてマンドリンの弦を弾いていたジルギスは、ふと気遣うような眼差しをエィレニアへと向けた。
「ニア、大丈夫か?」
「ええ」
テンポが速すぎるのではないかとか、歩き続けて疲れていないかとか、そんな色々の想いを乗せて尋ねた言葉に、エィレニアが返したのは楽しげな笑顔である。他の7人と同じ――そしてこの大規模なパレードに参加する多くの者が浮かべる笑顔と、それは同じ類のもの。
自身を案じてくれる、ジルギスの瞳を見た。ルルトの、アルバスの、リルクの、ルーシェの、パルドの、ウォーゼルの――皆の瞳が虹色の光の様にも見えて、エィレニアは眩しく瞳を細める。
とても嬉しくて、楽しくて、幸せな気持ちだった。ゆえにエィレニアはその想いを声色に乗せて、先よりものびやかに大きな声を出し、楽しげな歌を透き通るように紡ぐ。
そうしながらジルギスをチラリと見れば、心得ていると頷きが返った。そうしてジルギスはマンドリンの曲調を巧みに変えながら、エィレニアの歌声に寄り添うように歌い始める。
彼女の歌声に寄り添うように、だが決して存在感を示し過ぎないように、エィレニアの歌声の美しさが1番引き立つように。歌う2人の声と眼差しが優しく絡み、嬉しそうに微笑み合う。
そんな2人の様子を見つめ、カラーガードのリルクとルーシェも嬉しくなって、にこにこしながらくるりと旗を閃かせた。向こうの方ではいつの間にか、アルパカに乗ったバンシーが嬉しそうにはにかみながら、そっとパレードに加わっている。
賑やかで華やかな、パレードはそんな風に続いて行くのだった。
【執筆:蓮華・水無月】
「『これでパレードに参加してほしい』と持たされた、のだと思います。ええ、夢か幻でなければ」
和無田 美蘭の紡ぐ内容へ、縋る表情たちが幾つも向けられている。
「和無田君が微々でも現状を知っていてくれて助かった、が。何故コレを俺に?」
エース ニーセンの手には、数十秒前に美蘭から「こっち、お願いします!」と手渡されたアコースティックギターがあった。
「だって私一人で二ついっぺんには演奏できませんし……ニーセンさんに似合いそうなのはこちらかなと」
自身はマンドリンを片手にしている美蘭である。
「……だが、俺は演奏など出来んぞ」
「あ、それなら大丈夫だと思いますよ」
「おいアーニャ、何を根拠に」
途方に暮れるエース、追随して困り顔をするシルエイティ・ワンビア、二人に向けてアーネスティン・アーニャ・ハーグローブが微笑む。
「僕もいつの間にか手の中にあったんで、試しに吹いてみたんですけど。初めてじゃないみたいに上手に吹けたんですよコレ!」
「お前、もう試していたのか……」
喜々としてトランペットを掲げるアーニャに、ワンビアは感嘆と呆れの声色で呟く。そんな彼の手の中にも、すでにテナーサックスが握られている。
「先輩も吹いてみたらどうです?」
「え、だから、こんなの吹いたことないよ」
「いけます」
キリッと言われれば何故かすごい説得力。いっそ潔くマウスピースを咥えワンビアは息を送った。
すると勝手に指はキーの上を流れ、メロディが奏でられる。
パッと明るい表情になるワンビア。
隣りでは、エースも滑らかに弦を弾いて赤銅色の瞳を細くしているところであった。
「一緒にパレード、どうでしょうか……?」
控えめに美蘭が尋ねれば、一同から同時に「折角だから参加しようか!」と笑顔が得られた。
アコーディオンの音色が響く。
金糸雀の歌声が旋律に寄り添う。
「それにしても、一体ここはどこですの?」
「ねこさんたちに定期かいじゅーしてたはずなんだけどなー」
ウエンズデイ・リルシュ・キメラプランツとシスネ・ティールが、疑問いっぱいながらも仲良く軽快に道をゆく。困惑などなんのその。すでに世界観への順応はバッチリである。
「すっごくじょうずだねー!」
「まあっありがとうございます! 弾いたこともなくどうしようかと思ったのですけれど。
何故かとっても手に馴染みますの。貴方の歌声も天使みたいですわ!」
「ほんと? えへへーありがとー!」
「これならパレードに参加できますわね!」
「ぱれーど、ぱれーど!」
二人の正面から丁度賑やかな行進がやってくれば、咲く笑顔二つが駆け出して。
「アコーディオンでお邪魔しますわ!」
「わ、素敵な音ですね」
フイゴの空気に鍵盤の音色が乗るのを聞いて、美蘭がマンドリンをそれに合わせた。ウエンズデイの翠の瞳に喜色が輝く。
「可愛らしくも懐かしい音ですわね、このままご一緒しても?」
「勿論です」
「はっ……綺麗な歌声の御方!」
ウエンズデイと美蘭が意気投合する横で、歌いながら混じるシスネにアーニャが思わず声を掛ける。
「やっほー、シスネだよー、ごぞんじー?」
「時々スキッパーで配達しながら歌ってるの、お見掛けしたことがありまして」
「わーい! きいてくれてありがとー! わたしもさんかするよー!」
みんな笑顔になりますように。とりさんも寄っておいでー、ぴよっぴー。
下げた籠から彩り溢れる花びらをまきながら、優しく、高らかに、シスネが歌う。
アーニャのトランペットが華やかに歌と寄り添い、そしてエースのギターが歌と楽器を繋ぎ合わせるように響く。
(……銃を持つより、こちらの方がずっと良いな……)
鎮魂の曲でもなく。誰かの未来を祝福するパレードの中で、緩やかに笑みが作られる。
そんな皆の楽器のメロディをワンビアは一つ一つ把握し、ここぞという時にテナーサックスが威厳に満ちた存在感を発揮する。
「先輩ノリノリですね」
「ははっ、意外と向いてるかもしれないな、オレ」
祈るだけの祭りに比べ、エネルギーに満ち溢れたこの場は確かに前へ進んでいると実感出来て。
温かな歓声に包まれて、息の合った音楽隊が艶やかに笑顔を振りまく。
片や軍服に鮮やかなカラー混じる鼓笛隊衣装。
片や東方系のロングドレスが長身にピタリと映えて。
「ひゅー! パレードに参加できるなんて、人生何が起こるか分かりませんねっ。いつの間にか衣装も準備万端、流石僕!」
「そうだね、こんな楽しい衣装まで戴いて、貴重な体験だ。ところで、」
睦月 アヤオリが述べる事に、ポワレ=エマニュエル=ソティースがにっこりと同意して。
そしてその赤虹彩宿す瞳は、アヤオリの肩の一点に集中する。
「あ、このコですか。僕の相棒、マロさんです!」
にゃー、とメインクイーンのコがお返事した。
「素敵な相棒さんだ。それじゃあ一緒にパレードをもっと賑やかすとしようか」
猫の如く目を細めて、ポワレがウィンク一つ。
徐にシンバルを地面で叩いて、ちゃんと鳴るな、なんて確認すると次には颯爽と跳躍していた。
1回、2回。高々と宙に掲げられた黄金色の楽器を、そのまま地面に打ちつけた。
ガシャリィーンッ。
大音量が木霊する。
「うわー! それカッコイイです!」
声高に叫ぶとアヤオリもポワレの後に続く。
マーチングバンドの先頭付近で、演奏というより賑やかなパフォーマンスショー。
ポワレがシンバルをひっくり返して構えたそこへ、猫がジャンプして着地する。
「可愛い子だ」
「ですよね!」
今度はアヤオリが構えると、またそちらへジャンプ。
長身二人のシンバルの舞に猫が加わり、それは見事なショーとなった。
パレードがまだ通らぬ所、すでに通り過ぎた所にも、音が途切れぬよう誰かの為のお立ち台が設けられる。
今、この場の雰囲気を作り上げているのは、影谷 揺楽と二ノ宮 鉄騎のペアであった。
「時間も、世界の壁も、飛び越えて進みましょう」
観客を引き寄せるのは、歌とダンスのパフォーマンス。
二段ある台の上段で揺楽が魅せる。一つ下の段で彼女に寄り添うように鉄騎が誘う。
「鉄くん、本当に何でも出来るのね」
「確かにいざって時こなせるよう、色々やってっけど……これは俺も吃驚だ」
コソリ。すれ違う際に密談がなされたり。
やっぱりすげぇ。鉄騎は思う。
彼女の歌声を孤独だと言った奴全員に聞かせてやりたい。この温かく力強い旋律を。
歌がクレッシェンドすれば動きを抑え。音が引いたら、己が身体能力を駆使しアクロバティックに。今度は揺楽が、彼を引き立てるよう音量落とす。
宙返りと共に鉄騎が揺楽のステージに上がった。
差し出された広い掌に己が手を添え、彼のリードで揺楽がステップを踏んでいれば、突如手を引かれた。
「ちょっとごめんな……っと!」
「!」
打ち合わせのない抱き上げを鉄騎がしてみせて、揺楽は必死にブレぬよう歌い続ける。
(もう、たまにそういうことするんだから)
けれど、嫌じゃない。
大サビで彼の首に手を回し、顔を寄せ合いユニゾンする。
互いの瞳を、慈しむように見つめ合いながら歌いあげれば、大歓声の拍手が二人を包み込んだ。
目に鮮やかな紙吹雪。
湧く歓声。
パレェド、祝祭――縁起物!
ならば出番。
此処がどこであろうと、嘯いて、粋がるのが人生ってェもんだァ。
廻 三千幸、いずこから出したるフワモコお耳を付けまして。
沿道を通り掛かる人へと商魂を発揮する。郷に入ったなら楽しまなきゃ損々。
「其処ゆくお姐サン、お一つ如何?」
「……おねーさん、ってアタシのことか?」
降って沸いた眩しい世界に面食らい、流されるまま観客の一人となっていたトトコ=ヘンペルが、左右を探した後自身を指さした。
「お姐サンですよォ、ちょいと小柄の立派なお姐サン!」
「いや、普段あんま呼ばれ慣れねーから……」
そういうアンタはでけえな、との言葉は飲み込んで。
「で、何なんだその、すげー色のぬいぐるみ」
「おっと、知らざあ言って聞かせやしょう」
三千幸は「ご覧なすって」と両手を広げる。
曰く、並んでいるのはカラーアルパカ。
黄色が金運、青が仕事運、健康運の緑に、恋愛成就の桃色。
縁起物……こんなモンが?
「で、お姐サンがお求めの運気は何で御座いましょ?」
「……赤にしとく」
「毎度あり!」
パレェドの紙吹雪に倣って白紙が舞う。冷たくない雪のように。
一瞬トトコが目を見開いた。
――もどき、でも、こーいうもんかもな。
苦笑い一つ。
「で、これは何に効くんだ」
「赤ですかァ、それはですね」
お耳を拝借、なんて。
三千幸は目一杯しゃがみ込み、笑顔で囁いた――。
「リーチ君、暑い~」
「なら脱ごうよシマさん」
「いやぁ、いつの間にか着せられていたんだけど。どうしてか使命感がね」
パレードの様々な衣装が居並ぶ行列に、竹内・島は現在すっかりとけ込んでいた。
胸に名札『シマルパカ』を付けたアルパカの姿で。
隣には人間、夜絣・利壱が未だ不思議そうな色を瞳に浮かべながらも、どこか楽し気に周囲を見渡している。
沿道から時々「かわいいー!」などと女性陣から声援が送られる。
島は愛想よく、しっかり手を振り返して……「ペッ!!」――アルパカ特有の唾吐く真似。
利壱、呆気に取られる。試しに自分も島へ手を振ってみた。
ペッ!!
あ……やっぱりペッてされたペッて。
「はっ。ごめんリーチ君! 何だかやらなきゃいけない気がして」
変なところでリアル感を追及してしまうのは、怪談師ゆえなのか。
「シマさんが楽しいならいいよ。それより、どっかに屋台とか無いかな? 何か食べたい」
「よし、このシマルパカさんが持ち前の視力で探してあげ、……大変だリーチ君、これ視野せっまい!」
打てば響く会話。見知らぬ場所でもお互いが居れば楽しい。
アルパカってなんでフェ~って言うのかな? と首を傾げる様を見ながら。
写真撮ったら残るかな。母へのメールに添付してみようか、なんて。
「ところでこれ何のお祝い?」
「何のお祝いだろう、俺も分かんないフェ~」
「リーチ君も着るフェ~?」
日常であって日常でない日も、共有する確かな思い出。
いつもなら街中で浮く衣装も、本日はいっそ粋な感じにマッチして。
修験道の衣に身を包む夜絣・剣治は、しかしあまりにキョロキョロし過ぎた動きが現在目立っていた。
「確かにっ、利壱がいたのだがっ。アルパカに手を振ってアルパカに笑いかける利壱が……っ」
「……ちょっと何を言っているか分からない」
「おお!? ブッキーじゃないか!」
「ブッキーはやめろと」
見つけたくなかった……といった具合に現れた矢吹・真功郎へ、剣治は喜色の笑みを向ける。
「ブッキー、ちょっと利壱探すの手伝ってくれよォー!」
「まて、大声を出すな、うっ頭痛が……」
おかしい。
仕事の修羅場明けに、やたら外が賑やかなのを確かめに来ただけなのに。
気付けばパレードの波に流され、半ば逃避気味に歩いていたらば旧友と鉢合わせ。
今度はその旧友の言動に流されようとしている。
「利壱、タッパがあるから目立つし大丈夫だと思っていたんだが……なんか背高いやつ多くない!? 気のせい!? 利壱が怯えてたらどうしよう!?」
彼もイイ大人だから問題ないだろう、という言葉が出かかったが。
剣治が甥っ子に過保護になってしまう理由を思い、喉の奥に仕舞い込む。
「ああ分かった分かった、俺も利壱くんを探そう」
「さすがブッキー!」
結局、叔父と甥の邂逅は叶わなかったけれど。
代わりに旧友同士、久しぶりに殺伐としていない、ただただ明るく和やかな雰囲気を楽しむのだった。
パレードが最高潮の沸き立ちを迎える。
歌は喜びを生み、舞いは幸せを呼びこみ。
楽器や声援、参加する者たちの紡ぐ言葉の一つ一つが縁となり、未来への道標を照らすのだった。
【執筆:蒼色クレヨン】
ネクタイをつけたアルパカが喋った。セリオはびっくりしたが、そんなもんかと秒で納得した。
「はい! お仕事頑張ります」
特務局員として仕事を頑張ると決意していた。だから怪しい動物のお願いも勇んで引き受ける。しかし疑問も残る。これは特務局員の仕事なのか?
他にも戸惑う人達が多く、皆が何をしたらいいのか迷っていた。
「はいはい、みなさーん! ごちゅうもーく!」
無名は皆に呼びかけて、芝居がかった仕草で堂々と語る。
「一体何がどうなってるの? そんな疑問は全部ゴミ箱に捨てちゃえ! 今一時この出会いとパレードを全力で楽しもう!」
無名の言葉に人々の緊張が緩む。セリオは感心して話しかけた。
「スタッフの方ですか?」
「僕? 僕はただの通りすがり! えーと……これでいいんだよ、ね?」
ちらりとアルパカを見ると「フェ!」と鳴く。愛らしい仕草にセリオは「さわったら失礼かな~」と内心そわそわ。
どこの街かも分からないが郵便屋さんの仕事はあるだろう。セリオは困ってる人を探しに行った。
大通りでパレードが始まる。
パレードの先頭は着物姿の猫又・川村萌夏。和傘をくるくる回しながら静々歩く。傘の上を八上ひかりの頭が回っていた。萌夏の隣を歩くひかりの体には首から上がない。アイルランド伝説の妖精デュラハンだ。
「いつもより多く回っております~♪」
ひかりは傘の上で転がりながら賑やかに告げる。シュールな絵面に驚く者、笑う者、怖がる者、反応は様々だ。
「ひかりちゃん、このパフォーマンス、最近の若い子たちには分かんないと思うんだケド」
少々古すぎる昭和スタイルの芸風を気にする萌夏は、親友へ元気いっぱい抗議した。そこへバドル=アーケイナが声をかける。
「じゃあ、一緒にやるか? 『お祭り好き』としては黙っちゃいられないぜ!」
バドルの手から放たれた金属の輪が傘の上へ。萌夏は尻尾をピンとたて傘の傾きを調整する。ひかりが口でキャッチすると拍手が湧く。バドルは萌夏の隣でリングを放り投げジャグリング。手を止めぬまま萌夏の芸に言及する。
「傘の上に物を乗せる曲芸は初めて見たぜ。なんていう芸だ?」
「枡を回す『枡回し』の方が有名でしょうか。日本の伝統演芸で……」
「ふご、ふご」
リングを口にしたまま喋れない。ひかりがリングをバドルに放り投げる。咄嗟に受け取ったバドルは声をあげた。
「いけね、間違えた!」
繋ぎ目のないリングが、いつの間にか繋がっていた。手品師の技に皆が拍手する。傘の上でひかりの頭がコロコロ転がって跳ねる。
「ひかりちゃん、どうしたの?」
「次はダンスみたいよ」
照出依乃雨が飛び上がって両手で倒立からの回転。ブレイクダンスだ! 地面の上をくるくる回りながらパレードを進む。独学で身につけたブレイキンを駆使して人々を魅了する。立ち上がってポーズを決めると拍手が湧く。
傘の上からひかりが驚きの声をあげ、首無しの胴が拍手する。
「凄いわ」
「アンタも凄いな! ……ところでこのパレード、何のお祝い?」
「なんでしょうか?」
傘を回しながら萌夏が首を傾げる。どうやら誰も知らないらしい。意外と真面目な依乃雨が悩むとバドルがツッコむ。
「楽しけりゃいいだろ。あんたのダンスマジマベだぜ! もっと見せてくれよな!」
「ああ、いいぜ。一緒にやるのが楽しいだろ」
依乃雨は頭を地面につけて回り出す。跳び上がり、手に、肩に着地面を変えながら回り続ける。
バドルにはブレイクダンスは分からない。その凄さを一生懸命観客に説明する。
萌夏は笑顔を浮かべて話しかける。
「いつもより多く回っています……でしょうか?」
「そうだな。もっと派手に回るか」
依乃雨は身軽に回りながら行進を続ける。
最初に霧があった。
死後の世界で出会ったエルモサ・デ・アンフェルボスとルーカス=K=ランカスターは、現と夢の狭間を辿る旅をしていた。霧の中を迷いながら、なんとなく懐かしい気配の方へ進む。
霧を抜けると祭りが行われていた。
「これは……千年祭かな?」
「こんな景色は私も知らないのよね」
エルモサは世界中を旅した。ルーカスより色んな事を知っているつもりだったが、知らない場所だ。
ルーカスは周囲を観察して屋台に目を付ける。並んだ品々に目を細めた。
「それにしても見たこともないものがたくさんだ、面白いね。このおもちゃは何でできてるんだろう?」
「これはゴムじゃない? こっちは硝子よ。綺麗」
「ああ、こんな細工始めてみるよ」
ガラス職人としての好奇心でじっと眺めていると、エルモサは不意に顔を上げた。懐かしい声が聞こえたのだ。
「フェオ?」
弟を想い出し、祭りを見て思いついた旋律を口ずさむ。
「エルモサさんが少し羨ましいよ。僕だってこの景色を硝子に描きたかった!」
「羨ましいなら、一緒に作ってみない?」
「僕が歌を?」
「硝子のように美しく、色鮮やかな音色をどうかしら?」
――愛しの人達よ。私達の心。世界と夢の果てまで連れて行って。
エルモサの歌に続いてルーカスも歌う。二人の歌はパレードの方へ流れていった。
「姉様?」
フェオ・デ・アンフェルボスは亡き姉の歌声を聞いた気がした。隣にいたユニーフィア・シャオンスが問いかける。
「フェオさん、どうしました?」
きっと気のせいだとフェオは首を横に振る。ユニーフィアは夷熊蜂とEllaに目を向けた。
「お二人が歌い進む後を、私達が続きます」
「は、はい」
「よろしくお願いします」
熊蜂はおどおどとEllaはふんわりと頷き、パレードの列へ並ぶ。
最初に躍り出たのはEllaだ。スカイブルーのドレスを身にまとい、トップモデルらしい洗練された足取りでランウェイを歩く。妖精のような可憐さに観客がため息を漏らすと歌い出す。
――私の、あなたの、歩みゆく道、過ぎゆく景色。
かつて絶望し、諦めようとしたこの命。また表舞台に返り咲き歌える喜びを噛み締めながら、小さな足で一歩一歩大地を踏む。
――空に、心に、いつも穏やかな音楽の花が咲いていますように。
遍く命、今日という日を祝福する様に、華やかな旋律に心躍らせ、天壌へ登るように高らかに唄う。
Ellaの祝福を受けて、熊蜂は自信を持って歩き出す。眩しく照らす光から目を背けずに、たとえ夢でも遠慮はしない。
歩き出したその時、観客の中に月鈴の姿を見かけた。
(月鈴様に、皆様に、楽しんでほしい)
月鈴の苦労を、献身を、この目で見てきたから、この歌と踊りがご褒美になるといい。沿道で見守る皆様に、楽しんでほしい。
眩しい光に手を伸ばし、軽やかに踊り出す。己が研究している自由律歌唱術を駆使して独特の節回しで唄う。ひとときの栄光、脚光を、一身に望んで。
アルフライラが見せた夢に、私はなる。なりたい。
あるがまま望むまま、輝き踊る女王蜂。
妖精と女王蜂は、くるくると立ち位置を変え、時に音を重ねて歌い合う。
Ellaと熊蜂の競演を見つめ、ユニーフィアはほうとため息をついた。
「行きましょう」
フェオの言葉に頷いて歩き出す。ユニーフィアのステップに合わせひらりひらりとスカートの裾が揺れる。上品な美しさのドレスは、ユニーフィアの踊りを引き立てた。
観客達へ向けて笑顔で手を振りながら歌い歩く。
(私の知らない人、知らない文化、知らない世界。これはいい機会かもしれない)
フェオは多様な観客達を見つけては笑みを浮かべた。ユニーフィアとフェオの目があって二人で斉唱しながら唄う。
――平和と自由を願い、想いや夢を歌に乗せて。翼を広げ世界の果てまで飛んでいこう。
――この喜ばしき日を、来年もその先も、迎えられますように。
――どこまでも行こう、世界の果て、夢の果てまで。
二人は歌いながら手招きする。一緒に歌おうと誘いかけるように、それに応じた人々がパレードに加わって歌い歩む。
フェオが歌詞に願いを込めて唄っていると、遠くから聞き馴染みのあるハーモニカが聞こえてきた。柑橘の香りを思い出す。ユニーフィアもどうやら気づいたらしい。
同じ空の下、音楽で仲間と繋がっている。翼の歌は、どこまでも飛んでいく。
「……ここはどこだ? とりあえず大通りに……」
コルト・ラリー・アートは見知らぬ土地を歩き、知り合いを見つけた。
「アンタもいたのか」
「どちら様でしょうか?」
「アンタの弟だよ。バイ……じゃなかった、マーリンさん」
マーリンと呼ばれたM・R・2は小さく頭を振った。
「知り合いだったのですね。昔の名前でも構いませんよ」
「まだ慣れなくてな。パレードに出なくていいのか?」
「たまには客席から見るのもいいと思いまして」
M・R・2の手品師の技を見せれば観客も喜ぶだろうが今日は見る側に。二人が大通りに出るとクジャナ ヴァーミリオンが声をかける。
「あら、ラリー」
「よお!」
互いに手を挙げて軽く挨拶する。
「ご一緒しても?」
クジャナの問いにM・R・2が頷くと、コルトが二人を引き合わせる。
「おう。マーリンさん、コイツは紅花……じゃなかった、クジャナだ」
「はじめまして」
何も知らない調子でM・R・2が挨拶すると、クジャナは一瞬言葉に詰まった。
「……マーリンさんとは初めてお会いするわね」
「おや。では以前の私はお嬢さんとも?」
「ええ。でも別にどっちだっていいわ」
M・R・2は記憶を失くして久しい。きっと親しい人だったのだろう。
「申し訳ないです。どうしても思い出せないものですから」
「珍しい事じゃないわ」
クジャナは何でもない顔で笑った。どんな縁か分からないが、かえって変に気を遣わずに付き合えそうだ。
「改めて、よろしく頼むな」
「はい」
「あ、パレードが来たわよ!」
クジャナが指差す先、パレードの中にはなぜかアルパカもいた。
「なに、あの生き物? アルパカ?」
「何だろうな。あれ、人間の言葉を喋ってないか?」
「ここは夢の世界なのでしょうか? 不思議な人々が観客にもいます」
肌が緑色だったり、角が生えていたり。初めて目にする人々が共にパレードを待ち望む。
「……夢なら、今だけ兄弟に戻れるな」
コルトの呟きは歓声に紛れた。誰も気づかぬ小さな本音。
マーチングバンドの先頭で旗を振るのはラズリ・クロックロックだ。
「わー! すごくキラキラしてて綺麗だねぇ、ムーさん」
肩に乗る相棒のオウムから勢い良い言葉が返ってくる。
「キレイッ!」
「俺とムーさん二人でパフォーマンスしながら行進しよっか!」
「コウシン、スルッ!」
「服までいつもと違って楽しいね」
ラズリは鼓笛隊の制服に身を包み、ムーさんも首に蝶ネクタイをつけている。一人と一匹の隣をリリアが軍隊ラッパを吹きながら歩いていた。
「その鳥はムーさんというの?」
ラッパから口を離しリリアは物珍しげに問いかける。会話が成立する鳥は興味深い。
「そうだよ。俺の相棒」
誇らしげに語るラズリが眩しいようにリリアは目を細めた。
二人と一匹の後を演奏者達が続く。
時を少し巻き戻す。
リタリーン・モデナは気づくと箱を持って祭りにいた。箱を開けるとヴァイオリンが入っていて首を傾げる。
「ちょっと~何なのヨ、ここは? それにこの箱……一体なに?」
「ここ、どこかしら? 普通に寝たはずなのに……」
いつの間にかクラリネットを手にして羽野・遥奈は祭りの中にいた。黒猫の姿だから悪夢かと思ったが、それにしては楽しそうだ。
たぶんここでは楽器を奏でる立場なのだろう。楽器の演奏は慣れないはずが、なぜか吹き方がわかった。持ち前の音感とリズム感で適当に吹いてみる。
シービック・イーケー・ナインもトロンボーンを手に呆然としていた。
「なんなのこの世界……? ……どうしろって……」
戸惑うシービックへ、リタリーンは話しかける。
「これでパレードに参加しろってことかしら?」
「え? パレード? これを吹きながら? なるほど、そう言う事ね!」
適当に合わせてみたが、どう言う事かはイマイチわからない。
ジョーイ・ジョーハンソンも祭りの中心で目覚めた。手にはスティック、脇には持ち運び用のスネアドラム。
「もしかして、これ、ドラムスティック?? パレードがあるの?」
「そう、みたいですね」
リヒャルト・フックスは困ったような笑顔を浮かべた。気づいたらパレード待機列に混じっていて、どうしたらいいのか途方に暮れていた。
幸いなことに馴染みのハーモニカが手にあった。落ち着くために吹いてみると良い音が響く。遥奈がハーモニカの音に合わせてクラリネットを鳴らすと、リヒャルトと目があった。
「よかったら、一緒に演奏しましょうか?」
「……まあ、いいわ! 楽しそうだし、演奏に加わってあげようじゃないの!」
リタリーンが同意するように頷き、ジョーイも続く。
「せっかくだし、ボクもこれを叩いて参加しよう!」
「楽しそうだし、アタシも参加するわ! 張り切っちゃうわよ~!」
シービックも加わって、リリアのラッパと旗を掲げるラズリも合流する。7人のマーチングバンドはこうして結成された。
「行進を開始するよ」
軍服のリリアがキリリと表情を引き締め軍隊ラッパを高らかに鳴らす。開幕を告げるファンファーレ。
シービックの堂々とした演奏ぶりに、リリアは問いかける。
「とても上手ね。演奏したことがあるの?」
「昔は、トロンボーンを吹かせたらシシリーに敵う者はいないって言われたのよ!」
「私は演奏がよくわからないんだよね」
遥奈はぼんやりと答えた。傍目にはやる気なさそうに見えるが、遥奈は内心この状況を楽しんでいた。
ヴァイオリン、ハーモニカ、ラッパ、トロンボーン、クラリネット。様々な音の重なりにドラムがリズムで彩る。不思議と纏まって聞こえた。
ジョーイが正確に刻むリズムのおかげで演奏しやすい。リヒャルトは軽やかな身のこなしで踊りつつ、時折ハーモニカを吹いた。
「歌ったり踊ったり、パレードするのって凄く楽しいですね!」
「ムーチャン、タノシイッ!」
オウムのムーさんが返事をして、ラズリが「ムーさんって言うんですよ」と紹介する。
リタリーンが視線を向けた先に知り合いを見つけた。
「あら? あそこに座ってるのはクジャナさん?」
クジャナも気づいたようで手を振っている。楽器を弾きながら頷き返し、視線を別に向ける。
「月鈴さんもいるじゃない!」
「本当だ。月鈴さーん!」
ジョーイもドラムを叩きながら声をかける。月鈴は目立つのが恥ずかしいのか控えめに手を振りかえした。隣に立つテュチュアニエはそわそわと行進を眺めている。一緒に混ざりたいのかもしれないとジョーイは考えた。
「一緒に参加しませんか? ハンドクラップとか!」
スティックから手を離し手拍子を叩いて見せる。リタリーンも楽器を持ちながら叩く仕草をしてみせる。
「月鈴さんも、一緒に手拍子お願いネ!」
テュチュアニエと月鈴がどうしようと顔を合わせた時に、無名が躍り出る。
「戸惑うくらいなら一緒に拍手! スタンドアップ! 踊って歌って楽しもう!」
迷子の案内に、忘れ物を届けに、右往左往していたセリオもやってきて、お手本のように手を叩く。
「ほら、こうやって、できるでしょ?」
セリオを見習って先にテュチュアニエが手拍子を始め、引きずられるように月鈴も叩く。
「ほらほらそこのかわい子ちゃんたちも! 一緒に叩こう、ね!」
無名が声をかけて周り、手拍子の輪はどんどん広がっていく。
シービックが高らかに楽器を鳴らし、口から離した。
「観客の手拍子に合わせて演奏するの、気持ちいいわ~!」
「そうだね。ところで今日は何のお祭り?」
遥奈の素朴な疑問に、皆が目を合わせて首を傾げた。誰もその問いに答える言葉を持っていない。
(慰霊祭の宣伝のために歌ったり踊ったりしたのも、丁度去年の今頃だったな)
リヒャルトは懐かしい想い出に目を細めた。行列の前方、遠くに慰霊祭で一緒に歌った仲間の背が見えた。
「慰霊祭みたいだな……」
「……そうだね」
リヒャルトの独り言に、リリアは相槌をうつ。
この不思議な世界が夢か幻かわからないが、死者の国にも通じるかもしれない。自分達の演奏が死者の慰めとなるなら。慰霊祭と同じく意義のあるものだ。
リリアは亡き戦友達を偲ぶようにラッパを吹き鳴らす。
真夏の夜の夢の如く儚いパレードは、皆の心のどこかに残り続けるのかもしれない。
【執筆:雪芽泉琉】
●夢でも嬉しい、嬉しくても夢
パレードは音楽と人々の熱狂と共に進む。
「ドンなのだ、お久しぶりなのだ。シグちゃん殿もこんにちはなのだ」
隊列の後方でドン・ゴーフルとシグルランに会ったストレガ・L・リベルガストラが、恭しく一礼する。肩掛けのドラムを指せば二人は納得した顔をし、ストレガはそれを肯定する。
「お察しの通り、一夜の夢みたいなものなのだ。楽しむといいのだ」
列が進む。パフォーマンスを始めたシグルランを横目に、ドン・ゴーフルも大太鼓を抱えて仏頂面で歩き出す。隣のストレガが、ぽつりと言った。
「こちらはなんやかんやうまくやっているのだ。暫く休んで、ゆっくり此方に戻ってくるといいのだ」
そうか、とだけ答えがある。響く音色は、かすかに愁いを帯びていた。
●Happiness on parade!
先頭近くの楽隊は愁いを知らず、祝祭に沸く。
レピド・クロサイトは先導のアルパカに随行している。頭に愛猫、手には横笛。表情こそ死人のように――実際、ホムンクルスは只人より死人に近くはあるが――いかめしく冷ややかだが、歓声やアルパカのもふもふぶりに、心は弾む。
(……いいものだな)
笛の音も弾み、愛猫も音に合わせて尻尾を振っている。
「楽しいか、ショウガ」
曲と曲の合間に問えば、なぁーお、と上機嫌さを感じさせる返事。暖かな一人と一匹が奏でるハーモニーはパレードに相応しく、華やかさを帯び始めた。
その様子を、ユーヴィン・ヤサンは前髪に隠れた目でこっそり追っていた。揺れる猫の尻尾が気にかかる。加えて、先頭を行くアルパカも気にかかる。とてもモフりたい。だが今はパレードの踊り手という大役の最中だ。
(……あとで思いっきりモフらせてもらおう)
決意とともに、アルフライラ伝統の踊りを再開する。港湾都市としての誇りを内に抱く、諸国の様式が融合した身のこなしに、観客たちは釘付けになった。己の仕事ぶりを実感してユーヴィンは安堵し、さらに張り切って声をあげる。
「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! パレードは始まったばかりですわ!」
パカ~! とアルパカが鳴き、後続のマーチングバンドが伴奏を始めた。
笛のメロディーを華やかな行進曲として飾るマーチングバンドの先陣は、メルカトル・妖のバスドラムとピンカッソン・フロイドのボンゴ、そしてミーニャ・ローバーのフルートだ。自由に躍り、しかし足並みを揃えて奏でられる音は、祝祭によく調和していた。
自由に躍るままに、曲の合間を縫って三人は笑いさざめいてる。
「いい音が……します!」
妖がどぉん、とドラムを打ち鳴らす真似をすると、右隣のピンカッソンが満足げにうなずいた。普段は引っ込み思案な面が目立つ妖だが、この突然の晴れ舞台に臆さぬようにと即席で施したメイクによる勇気の賜物だろう、十二分にこの状況を楽しんでいる。
「アヤちゃんも楽しそうでよかった! ニャーちゃんもいるんだもの、盛り上げましょ!」
ピンカッソンの言葉に、左隣のミーニャがうんうんと同意する。
「突然フルートを持って列にいたときはどうしようかと思ったけど、ピンクちゃんとアヤちゃんがいてくれてよかった! 人数揃えてえんやこら、だもの!」
「あら、“三人揃えばなんとやら”じゃない?」
「ふふ、九輔幇の格言ですね――お二人が居てくれて、本当に心強いです」
異境でも変わらぬ絆に、力づけられる。と、笛の音が新しい旋律を奏で始めた。
三人が、すっと前を向く。
「それじゃ、素敵なパレードにしましょう!」
「ええ!」
「はい!」
三つの長身が足並みを揃えれば、後続がそれに続く。妖のバスドラムがリズムを作り、ピンカッソンのボンゴはそこに軽快で繊細な装飾を加えていく。そうしてメインのメロディーを行進に適した調子に整えたところへミーニャのフルートが見事な和音を奏でれば、後続がそれに導かれる。
皆の楽しむ心がもたらす当意即妙のマーチが、鳴り響く。
●祝して踊り、歌いて言祝ぎ、門出はそこにある
音楽と共に進む長大なパレードの中央近くで目立つのは、四頭立ての白亜の馬車。乗っているのはジュスト・ヴェルジーと、ローザリカ・L・ディオールだ。気づけば席に座っていた二人は、顔を見合わせながらもおとなしくしている。
「しかし外も中も派手な馬車だね。まるで砂糖菓子だ」
「あ、ああ。甘ったるいったら!」
何の気なしにジュストが言うのを、ローザリカはどぎまぎしながら肯定する。そう、オープンスタイルの馬車はどんな王族のそれより壮麗で、中の自分たちは如何なる富豪でも息をのむほどの豪奢な布とレースで作られた白と淡青の正装風の衣装。いつ採寸したのか、馴染んでいるそれを着こなすジュストから、ローザリカは目が離せなかった。そこに、自分たちの姿に歓声が上がって我に返る。
「……笑顔で手を振るべき?」
ジュストの問いに、ローザリカは頷く。
「かも、ね」
二人が手を振りながら外を見れば、同じく甘い出で立ちに身を包んだパフォーマーたちがいる。
「――〈空よ大地よ見ているか、我らの旅路の来し方を〉、」
常とは異なりチョコレートの甘い黒を身に纏う深海・月音と、
「〈行く末はまだ見えずとも、ここに謳おう喜びを〉!」
こちらも常とは少し違う、メレンゲの軽やかな白を纏ったノネ=ェメが歌う。
「さあさあお祝い、お祝いだよ!」
「どうか楽しんでいってくださいねー!」
歌に合わせて、ウサギ耳のヘッドドレスが印象的な揃いの衣装を着たLumie=Ver=BeataとLionette=Pommierが即興でタンバリンを叩きながら踊る。Lionetteがステップを踏むLumieに添って打音を鳴らせば、Lumieはくるりと旋回しつつロールを奏でて応える。献身と誠実さが生み出すリズムは、焼き菓子のように軽快だ。
歌が止むと、わああっと波のように声が上がった。
「ぃいね~、みんな楽しんでる~」
興が乗ったノネが、馬車の周囲を走り出す。観衆に手を振って、ハイタッチをして、列にいるアルパカたちとたわむれ、そして元の位置に戻ってゆるりと高く片手を上げた。
「のってるかぁーい」
『Yeahー!』
「うんうん、いぃ返事~。それじゃあ、次ゎ月音てゃにリードボーカルをやってもらぉ~」
「……!」
それが意味するのは、即興での作詞と歌唱。確かに控え室で打ち合わせた急造の曲は歌い終えてしまったとはいえ、歌手であってシンガーソングライターではない月音の目は焦りに泳ぐ。しかし、現場で狼狽を見せてはならないと思考を切り替えた。
「どんなものがお好みかしら」
「んー、楽しくて、しぁわせな感じの」
そうだょねー? とノネが観客に問えば、また歓声の波。
月音は目を伏せた。幸せという単語は、自分には縁遠い。それでもやってみせるのであり、不思議と“できる”気がした。仕事と割り切っていたつもりだったけど、いつの間にか場の空気に染まっていたのかも、と口が笑みを形作った。視線がウサギのヘッドドレスへ動く。
「ウサギさんたち、四拍子をお願いできる?」
水を向けられて、はわっと慌てたLionetteがしゃんしゃんしゃん! とタンバリンを連続で打ち鳴らした。くすっ、と月音がかすかに吹き出し笑いをする。
「一番楽な速度で大丈夫よ。あまり速いと歌には向かないから」
「がんばって! 私もがんばるから!」
「お嬢様が頑張るなら私も頑張りませんと……!」
気合いが空回りしそうになる気配を察知したのか、ノネが「りら~っくす」と三人の中央に立つ。ゆるやかにつま先をとん、とん、と踏み鳴らして手で促せば、アンダンテの速度でタンバリンが鳴る。
するりと、月音の歌声が響き始めた。
「〈忘れたとしても覚えている 世界に祝福があることを〉」
始まった歌の詞に、LumieとLionetteはそっと視線を交わし、微笑んで頷く。
「〈今日という日を覚えていよう 祝福がこの身にあることを〉」
『――今日という日を覚えていよう!』
二人は拍子を取りながら、軽やかにステップを踏んで観客たちへ姿を見せに行く。肌を苛まない柔らかな光があふれる地で、過去と日々の痛みを忘れて踊るその光景は、確かに幸福のかたちをしていた。
その光景を見ていたジュストは、膝に降ろしていた手を手拍子のために持ち上げようとして、暖かな感触があるのに気づいた。視線を落とせば、繊細なレースをまとったローザリカの手が重なっている。
「ロゼ?」
「こ、婚約者殿は僕の婚約者殿なのだから、将来ための練習としてだな」
外を向いたままこちらを視線だけでうかがう婚約者は、耳をほの赤く染めている。
「――そうだね、予行演習にはもってこいだ」
ジュストはそっと微笑み、その手を握り返した。
●叶わぬことが叶う、今なら
そんなふうに内も外も鮮やかなパレードを眺める人々の中に、美しいがどこか彩度の低い、言ってしまえば生気の薄い青年がいる。
「見事なものだね」
奈喜良 待雪は誰に言うでもなくつぶやいた。表情こそ常とそう変わることはないが、その瞳には新鮮な楽しみを湛えて流れを眺めている。と、最後尾が何やら騒がしい。
「ようこそ、すべてが祝福されるパレードへ! 一緒に踊りましょう!」
パレードの隊列に、観客が誘われている。案内された者たちは、小柄なアルパカがひと鳴きすればたちまち鮮やかな出で立ちに変じ、外に手を振ったり思い思いに踊ったりと賑やかだ。その中にあってなお美しいのは、華やかな生花の花冠をつけた、人々に花を贈る明朗な乙女――リュリュ=ソレイユ。待雪の姿を捉えた彼女は、手を伸ばした。
「そこの、春告げの花のような方! お祝いしましょう!」
待雪は驚愕した。己とは違う、歓喜と陽光の現し身。それが己を”春告げの花”と形容したこと。去来する感情は戸惑いに似ているが曰く言いがたく、しかし体は意識より先に動いて手を取り、パレードへと急ぎ歩む。表情と言葉が遅れて紡がれた。
「……うん、こんな機会だもの」
上手く笑えていたかはわからない。
「でしょう? さあ、楽しみましょう!」
だが眼前の乙女はやはり、心からの喜びに満ちた笑みを見せた。
そうした賑わいを少し離れたところで見ながら、上阿井・流はかたわらの少女に視線を移す。
「行ってみます?」
問いに、形代 雛はゆるゆると首を横に振った。
「まだ、何が起こるかわからないから」
ここまでは何事もなかったけれど、注目を集めてしまえばどうなるかわからない。突然の異境で同じダイバーに会えたことは心強いし、ここでは自分が不幸をもたらすことはないのだとわかってもきたが、まだ不安は拭えなかった。見ているだけでも楽しいのだと告げれば、ダイバーであることの連帯感か、詮索はなく微笑みだけが返ってくる。
「では、眺めていましょうか」
流は花冠がひときわ目を惹くリュリュを、正確にはその髪を眺め始めた。明るい赤毛は長くしなやか、ゆるいウェーブも活発で良い。許されるならあれを解いて指通りを確かめ、時間をたっぷりかけてセットしたい。そんなふうに考えながら歩いていたので、知らず知らずのうちに列へ追いつく。
「さあ、どうぞご一緒に!」
アルパカを伴ったリュリュにすかさず声をかけられ、おわっ、と思索に沈んでいた流が驚きつつも首を縦に振った。しかし隣についてきていた雛は、首を横に振る。
「私は、その、台無しにしてしまうから」
「大丈夫! ね、アルパカさん」
「パカ! ここには楽しいことだけがあるパカ~」
喋るアルパカ、という夢でしかなさそうな光景。雛の瞳に、水鏡が太陽を映すような、常にはない輝きが宿った。
「……はい!」
手を伸ばす。それを咎める宿運は、ここにはない。
祝祭は、パレードは、まだまだ続いていく。
夢といえども、夢はこれから。
【執筆:川並もも】
パレードの行われている大通りには、多くの観客が集まっている。その人混みの中を、マイクを手に里家 実果は、カメラに向かって笑顔を浮かべつつ歩いていた。
「すごい盛り上がり! 会場の皆さんにお話を伺ってみましょう」
否、人をかき分けて進んでいた。何しろ右を見ても左を見ても、前も後ろも人、人、人なのだ。
随分と国際色豊かだったり、コスプレや着ぐるみの人が居たり、アルパカ達がふぇ~と歩いていたりで、パレードは大いに盛り上がっていて。
(ADさんは『OKです!』しか言わないけど、大丈夫でしょうか)
時折そんな疑問が胸に過るが、パレードなのだしそういう事もあるだろう。ゆえに実果は観客へ、「ちょっとお話聞かせて貰えますか?」とマイクを向け――向けられたマイクに戸惑うように、バンシーがぱちりと目を瞬かせた。
「あの……?」
「どうですか、今日のパレード。こちらへは見物に?」
「いえ――パレードの衣装の準備や、機材のメンテナンスのお手伝いをさせてもらったんです」
そうして尋ねた実果の言葉に、バンシーはそう首を振る。そうして「あれも」と指さしたのはパレードの中に居るリッリ――ジャッシュ・ジャンディーニが乗る搭乗型ウォーカー。
ロボット、と目を瞬いた実果に、ロボット? と小首を傾げつつも、リッリが問題なく駆動していることに満足を覚えるバンシーだ。一般局員として整備士の職についてから、縁の下の力持ちのような役割を好む気質に磨きがかかった気がする。
ゆえに満足にバンシーが見つめるリッリの上では、カラーガードの旗を持つリディア=マッケンジーが、笑顔を弾けさせていた。
「よく分かんねーけど、こういうのは楽しんだ者勝ちってな! なあ、ジャッシュ?」
「うるせぇ!」
ちら、と背後へ視線を向けて、リッリを操る男へ話を振れば、そんな叫びが返ってくる。ひょい、と肩を竦めて足元のリッリにも同意を求めたが、さすがに返事はない。
ゆえにリディアはニッと笑って、くるんと大きく旗を回す。このパレードの参加者は誰もが決まりも振付も何もかもバラバラで、だからこそひどく楽しげだ。
そんなリディアの雄姿を見つめ、ユーリル=マッケンジーは感動に打ち震える。
「リディー! ああ、なんて素晴らしい光景なんだ!」
「少しは黙ってください、毎度毎度喧しい」
「くそっ携帯撮影機を持っているやつはいるか!?」
それに辛辣なコメントをしつつ、ダンは呆れた息を吐く。どうしてユーリルと居合わせてしまったのだろうと、げんなりするダンの言葉を、だが当のユーリルは華麗にスルー。
「俺の麗しい妹リディの勇姿をしかと納め……ってなんだ? この状況?」
辺りを忙しなく見回したユーリルは、そこでようやく異常に気付いた。やっとか、とダンが呆れ眼で見つめるのに、コホン、とユーリルは1つ咳払いをする。
「ふん、俺はいつだってリディの為に冷静だ」
「そうですか」
「ふむ……恐らくパレードの終わりがこの状況を変える鍵。となればそれまでリディを愛でるのみ!」
「結局は妹馬鹿ですか」
カッと目を見開くユーリルに、ダンは腹の底から大きな、大きなため息を吐いた。せめて自分くらいは真面目にこの空間について調べるべきか――だがそれもバカバカしいと、また息を吐きつつ天を仰ぎ。
ふと、なぜか我が物顔でパレードにふぇ~と混じっている、アルパカを見た。
「アルパカの焼肉でもしますか?」
「ふぇ~!?」
「冗談ですよ――多分ね」
そうして真顔でそう言った、ダンから慌ててアルパカが距離を取る。ふ、と鼻で嗤ってそれを見送るダンや、賑やかな兄を見てリディアが、笑いながら「おーい!」と少し離れた所で踊り歩くナーディルへと旗を振った。
「一緒に盛り上げようぜ、ナーディル! そこの皆も!」
「……!」
「これでも楽しんでいるぞ」
「顔がそう見えないんだろ」
「ほっとけ、表情筋が固いだけだ」
その言葉に、ナーディルが嬉しそうに頷きながらポーンと飛び上がり、一緒に声をかけられたノエル=ウィスタリアが、いかにも心外だと蒸気トラックの操縦席で顔を顰める。その顔に、すぐ隣を歩く狐型ウォーカーの操縦席でシュネー=ヴァイス=フェーがニヤニヤと笑った。
それにさらに顔を顰めつつ、ノエルはハンドルを握る手にぐっと力を込める。日頃はブレーキをあまり踏まないノエルだが、幾らなんでも場所と空気はわきまえられた。
パレードに相応しく電飾やノウム管で飾り付けたトラックは、しっかりと安全に配慮した徐行運転で粛々とパレードを進む。荷台からは時折、仲間の打ち上げる花火や空砲の賑々しい音。
それに混じって聞こえてくるのは、こちらもパレードらしい電飾で飾り付けられたシュネーの運転するウォーカーの背で、パシオン=A=アレグリアが吹き鳴らしているラッパの音色。鳴らす音色はどこか懐かしい、バルテス海軍でも耳にする事のある勇壮な曲で――それでいて耳馴染みの良い音色に、パレードで歩く人々の足取りも自然と軽やかになる。
その音色に合わせてナーディルは、ポーンと大きく飛び跳ねた。なかなかいけますわね、と瞳を光らせたパシオンが吹き鳴らすメロディに変調を加えれば、おお、と嬉しそうにナーディルが笑ってそれに応じ、くるくると幾度もターンを描きながら舞い踊る。
パパッ、とそれに拍子を添える心持ちで、ノエルが蒸気トラックのクラクションを鳴らした。シュネーが狐型ウォーカーをステップを踏む様に小刻みに動かし、向こうの方ではリッリもまるで応えるように拍動する。
プァー! と一際高く鳴らしたラッパの音が、まるで何かの合図のよう。蒸気トラックの荷台から上がる花火が、白い煙を青空にまき散らしながら色を添える。
「シュネー! やりますわよ」
「まかせとけ!」
同期かつ親友がそう頷き合って、ウォーカーを少しばかり派手に動かせば、観覧席から歓声が上がった。その背でラッパを危うげなく吹き続けるパシオンの動きも、さながら曲芸のよう。
おお、とそれにナーディルは目を輝かせる。屋台巡りも楽しいし、見知った者同士で美味しかったものを教え合うのも楽しいし――こうして皆で行進するのも、何だか楽しい。
ゆえにナーディルはアルパカの蝶ネクタイを借りて結びつつ、行進の中で舞い踊る。身に沁みついた呪術が完成しないよう気を付けながら、笑顔を浮かべて楽しげに。
そんなナーディルの楽しげな気配に惹かれたように、アルパカも隣でふぇ~と蹄を鳴らし始めた。その、如何にも楽しげな様子に観客席は勿論、周囲の参加者からも微笑ましい眼差しが向けられ――アルフラミンゴ君が闘志を燃やす。
(アルパカには負けられないアル!)
そうしながら高らかに、軽快に吹き鳴らすのは笛の音。パレード衣装のフラミンゴの頭も左右に振りながらの演奏行進は、一見して華やかで賑やかなパレードに良く似合っている――のだが。
(もう少しフラ……!)
着ぐるみの中ではアルフラミンゴ君が、チャンスを狙っている。アルパカからパレードを奪い取ろうというのだ。
名付けて『ハーメルンの笛吹きミンゴ』作戦。時が来れば列から離れ、パレードと別の方へ笛の音で皆を誘導しようという、恐ろしい(?)計画であった。
ゆえに先頭を歩こうとするアルフラミンゴ君と、ふぇ~と歩き続けるアルパカの攻防(?)を、観客席からナイアラ・リンカネーロがパチパチと瞬きしながら見つめる。一体何が起こっているのかと、グルグルし続けている親友にリリィ・ガーデンは微笑みかけた。
「ほら、ナイアラさんも! これは宣伝のチャンスですよ……!」
「せんでん?」
こくりと首を傾げるナイアラに、ええ、と頷くリリィが纏うのは、リンカネーロ風のパレード衣装。彼女達が長らく取り組んできたリンカネーロ観光区のPRをと話せば、はっ、とナイアラが瞬いた。
そんなナイアラにもお揃いのパレード衣装を着せれば、リンカネーロ観光区御一行様は完成だ。否、まだちょっと寂しいから、
「アルパカさん達にも衣装を着てもらって……ふふ、かわいい! さあナイアラさん、ペナントを振りながらみんなで歩きましょう!」
「うむ!」
リリィが差し出した、リンカネーロ伝統刺繍を施したペナントを手に、意気揚々と歩く親友をにこにこ見守るリリィである。それを遠くから見つけ、おーい、とミリア・クロステル・ヴァリスは大きく手を振って。
その拍子に手に持っていたタンバリンが鳴って、うわっ!? とびっくりする。
「ななななんスか、これは……!? このタンバリンを一体どうしろと……」
「ミリアさん。ご一緒にPRしませんか?」
「リリィさん、ナイアラちゃん! ならアタシも……あぁっ、ミニーちゃん発見ッス!」
リリィの言葉に頷きかけたミリアはだが、少し離れた所にいるミニー クーパーを見つけてまたぶんぶんと大きく手を振った。そんなミリアに気付いてミニーは、良かったぁ、と胸を撫で下ろしながら駆け寄る。
あのもふもふの生き物は可愛いけれども、いきなりパレードの真っただ中だし、手にマラカスは握っているしで、もうわけが解らなかった。そんな中で見つけたミリア達の傍までやって来て、ようやくほっと一息ついて。
リンカネーロ風衣装を着たアルパカに、首を傾げる。
「結局、ここどこ? どうなってるの?」
「どうやらパレードが行われるらしいッスね。アタシたちもこのまま参加しようッス!」
一足先に落ち着いた、ミリアが笑ってそう提案すれば、なんか面白そうかも! とミニーも目を瞬かせる。歓迎するようにふぇ~と近寄って来たアルパカを、もふりと撫でれば気持ち良い。
そうしてミリアのタンバリンと、ミニーのマラカスもパレードに加わった。4人で色々と歌いながら歩いていれば、自然と足取りも弾む。
そんな4人の横にふいに、シャーッ、と走り寄ってきた自転車があった。おや、と視線を向ければ乗っていたのは制服姿のアレックス=ガーデンツィオだ。
アレックスは4人にひらりと手を振りつつ、軽快に走り抜ける。かと思えば観客に手紙型色紙を配り、記念撮影を請われて快く応じたり――これぞ郵便屋さんの鑑。
そんな風に賑やかしに勤めていたアレックスは、不意に公社の制服からパレード衣装に早着替え。次の瞬間、そこに居たのは――ディアンドルを身に纏った可憐なヒューラント連邦乙女・アレキサンドラであった。
観客がどよめく。もちろん、最前列で一緒にパレードを見物していたパルドとウォーゼルも――ついでにショコラとチョコも、ピーンと尻尾を立てて驚き顔。
そんな2人と2匹に気が付いて、アレキサンドラ嬢がパチンとウィンクしつつ投げキッス。その麗しい姿に観客席のあちこちから「オエエー!?」と歓声が上がった。
その様がどうにもおかしくて、パルドとウォーゼルは笑いながらアレキサンドラ嬢にぶんぶんと手を振った。そんな風に幾つかの団体を見送って、様々なパフォーマンスをキラキラとした眼差しで楽しく見物するうちに、眼前にやって来たのはリルク・C・ラトウィッジ達の一団だ。
大きなカラーガードの旗を空へと掲げ、リルクが仲間達へと声をかける。
「さあ、盛り上げていくよー!」
「OK! いっくよー♪」
その言葉に呼応して、ルーシェ・アルジェントも揃いの旗を掲げながら、大きく明るい声を上げた。そうして2人息を合わせて、大きな旗を同じように、かと思えば左右対称に、くるりくるりと回すたびに閃いた旗が、観客席の方までくすぐるように流れてきた。
その後ろから元気に歩いてくるのは、三味線を抱えてベインベインと奏でる、アルバス・ロウルとルルト・アーキスだ。片手に下げた三味線を反対の撥でベインとかき鳴らし、元気な行進を披露するルルト達の足元では、イイズナのシロも三味線のリズムに乗って、軽快なダンスを披露していて。
その三味線が奏でる旋律に絡むように、ジルギス・ランバートの指がマンドリンの弦の上を踊る。そうして1つの楽しげな響きとなった旋律の上を滑るのは、エィレニア・ティス・フェンガーリののびやかな歌声だ。
微笑みを浮かべながら身振り手振りを交え、時に観客席へと手を差し伸べながら歌うエィレニアに、ジルギスが眩しく目を細める。そんなジルギスの眼差しに気が付いて、エィレニアがはにかむような、いたずらな微笑みを浮かべた。
かっこいいなぁ、とそんな6人の見事なパフォーマンスに、パルドとウォーゼルはうずうずしながら食い入るように見つめる。その視線にルーシェが気が付いたのと、先ほどから目の前をちらちらと動く旗に、我慢し切れなくなったショコラがついにじゃれついたのは、同時。
「あっ、こら、ショコラ!」
「ふふーん、キミも一緒に踊りたいのかな?」
驚いたパルドが止めようとするが、ショコラはそのまま旗に釣られて行ってしまう。否、ルーシェの巧みなカラーガードさばきで旗が絶妙にパレードの方へと動き、吸い寄せられていく。
あぁ……、と困った顔のパルドと、そんなパルドを困ったように見るウォーゼルに、そうしてルーシェは「ほら、キミたちも!」と笑顔を向けた。友人であるルルトとアルバスも、パルド達に向かって声をかける。
「おいでよ!」
「一緒に歩こうぜ!」
危うげなく三味線を弾きながら、器用にぴょんぴょん跳ねる友人達の言葉に、パルドとウォーゼルは目を丸くした。それから、おず、と他の3人を見回せば、やはりにっこり笑顔で2人を手招きしてくれている。
それを見て、2人は顔を見合わせてから、うん、と大きく頷いた。そうして2人は手を繋ぎ、えいや、と観客席から熱気溢れるパレードの中へと飛び込む。
ルーシェとリルクがカラーガードの旗を器用に閃かせながら、そんな2人の姿を観客の視線から束の間、隠した。その間に早着替えで2人が身につけたのは、6人と同じ揃いのパレード衣装。
ばさりと旗が翻れば、そこにはもう2人のパフォーマーが居た。ベベン、とルルトが三味線を大きくかき鳴らし、アルバスとアイコンタクトをして奏で出したメロディが、まるで2人を誘うかのよう。
そんな友人達の合図に、気付かないパルドとウォーゼルではない。にっこり笑顔で大きく頷くと、あっという間にメロディに乗って、楽しげに踊り始めた。
最初は確かめるように、次第に激しく飛び跳ねるように。身軽なパフォーマンスを繰り広げる2人の足元では、シロとチョコ、ショコラが楽しげにくるくる走り回っていて。
そんな2人と3匹をにこにこ見守りながら、ルルトとアルバスの三味線がどんどんとテンポを上げていく。そのメロディに重ねてマンドリンの弦を弾いていたジルギスは、ふと気遣うような眼差しをエィレニアへと向けた。
「ニア、大丈夫か?」
「ええ」
テンポが速すぎるのではないかとか、歩き続けて疲れていないかとか、そんな色々の想いを乗せて尋ねた言葉に、エィレニアが返したのは楽しげな笑顔である。他の7人と同じ――そしてこの大規模なパレードに参加する多くの者が浮かべる笑顔と、それは同じ類のもの。
自身を案じてくれる、ジルギスの瞳を見た。ルルトの、アルバスの、リルクの、ルーシェの、パルドの、ウォーゼルの――皆の瞳が虹色の光の様にも見えて、エィレニアは眩しく瞳を細める。
とても嬉しくて、楽しくて、幸せな気持ちだった。ゆえにエィレニアはその想いを声色に乗せて、先よりものびやかに大きな声を出し、楽しげな歌を透き通るように紡ぐ。
そうしながらジルギスをチラリと見れば、心得ていると頷きが返った。そうしてジルギスはマンドリンの曲調を巧みに変えながら、エィレニアの歌声に寄り添うように歌い始める。
彼女の歌声に寄り添うように、だが決して存在感を示し過ぎないように、エィレニアの歌声の美しさが1番引き立つように。歌う2人の声と眼差しが優しく絡み、嬉しそうに微笑み合う。
そんな2人の様子を見つめ、カラーガードのリルクとルーシェも嬉しくなって、にこにこしながらくるりと旗を閃かせた。向こうの方ではいつの間にか、アルパカに乗ったバンシーが嬉しそうにはにかみながら、そっとパレードに加わっている。
賑やかで華やかな、パレードはそんな風に続いて行くのだった。
【執筆:蓮華・水無月】
「『これでパレードに参加してほしい』と持たされた、のだと思います。ええ、夢か幻でなければ」
和無田 美蘭の紡ぐ内容へ、縋る表情たちが幾つも向けられている。
「和無田君が微々でも現状を知っていてくれて助かった、が。何故コレを俺に?」
エース ニーセンの手には、数十秒前に美蘭から「こっち、お願いします!」と手渡されたアコースティックギターがあった。
「だって私一人で二ついっぺんには演奏できませんし……ニーセンさんに似合いそうなのはこちらかなと」
自身はマンドリンを片手にしている美蘭である。
「……だが、俺は演奏など出来んぞ」
「あ、それなら大丈夫だと思いますよ」
「おいアーニャ、何を根拠に」
途方に暮れるエース、追随して困り顔をするシルエイティ・ワンビア、二人に向けてアーネスティン・アーニャ・ハーグローブが微笑む。
「僕もいつの間にか手の中にあったんで、試しに吹いてみたんですけど。初めてじゃないみたいに上手に吹けたんですよコレ!」
「お前、もう試していたのか……」
喜々としてトランペットを掲げるアーニャに、ワンビアは感嘆と呆れの声色で呟く。そんな彼の手の中にも、すでにテナーサックスが握られている。
「先輩も吹いてみたらどうです?」
「え、だから、こんなの吹いたことないよ」
「いけます」
キリッと言われれば何故かすごい説得力。いっそ潔くマウスピースを咥えワンビアは息を送った。
すると勝手に指はキーの上を流れ、メロディが奏でられる。
パッと明るい表情になるワンビア。
隣りでは、エースも滑らかに弦を弾いて赤銅色の瞳を細くしているところであった。
「一緒にパレード、どうでしょうか……?」
控えめに美蘭が尋ねれば、一同から同時に「折角だから参加しようか!」と笑顔が得られた。
アコーディオンの音色が響く。
金糸雀の歌声が旋律に寄り添う。
「それにしても、一体ここはどこですの?」
「ねこさんたちに定期かいじゅーしてたはずなんだけどなー」
ウエンズデイ・リルシュ・キメラプランツとシスネ・ティールが、疑問いっぱいながらも仲良く軽快に道をゆく。困惑などなんのその。すでに世界観への順応はバッチリである。
「すっごくじょうずだねー!」
「まあっありがとうございます! 弾いたこともなくどうしようかと思ったのですけれど。
何故かとっても手に馴染みますの。貴方の歌声も天使みたいですわ!」
「ほんと? えへへーありがとー!」
「これならパレードに参加できますわね!」
「ぱれーど、ぱれーど!」
二人の正面から丁度賑やかな行進がやってくれば、咲く笑顔二つが駆け出して。
「アコーディオンでお邪魔しますわ!」
「わ、素敵な音ですね」
フイゴの空気に鍵盤の音色が乗るのを聞いて、美蘭がマンドリンをそれに合わせた。ウエンズデイの翠の瞳に喜色が輝く。
「可愛らしくも懐かしい音ですわね、このままご一緒しても?」
「勿論です」
「はっ……綺麗な歌声の御方!」
ウエンズデイと美蘭が意気投合する横で、歌いながら混じるシスネにアーニャが思わず声を掛ける。
「やっほー、シスネだよー、ごぞんじー?」
「時々スキッパーで配達しながら歌ってるの、お見掛けしたことがありまして」
「わーい! きいてくれてありがとー! わたしもさんかするよー!」
みんな笑顔になりますように。とりさんも寄っておいでー、ぴよっぴー。
下げた籠から彩り溢れる花びらをまきながら、優しく、高らかに、シスネが歌う。
アーニャのトランペットが華やかに歌と寄り添い、そしてエースのギターが歌と楽器を繋ぎ合わせるように響く。
(……銃を持つより、こちらの方がずっと良いな……)
鎮魂の曲でもなく。誰かの未来を祝福するパレードの中で、緩やかに笑みが作られる。
そんな皆の楽器のメロディをワンビアは一つ一つ把握し、ここぞという時にテナーサックスが威厳に満ちた存在感を発揮する。
「先輩ノリノリですね」
「ははっ、意外と向いてるかもしれないな、オレ」
祈るだけの祭りに比べ、エネルギーに満ち溢れたこの場は確かに前へ進んでいると実感出来て。
温かな歓声に包まれて、息の合った音楽隊が艶やかに笑顔を振りまく。
片や軍服に鮮やかなカラー混じる鼓笛隊衣装。
片や東方系のロングドレスが長身にピタリと映えて。
「ひゅー! パレードに参加できるなんて、人生何が起こるか分かりませんねっ。いつの間にか衣装も準備万端、流石僕!」
「そうだね、こんな楽しい衣装まで戴いて、貴重な体験だ。ところで、」
睦月 アヤオリが述べる事に、ポワレ=エマニュエル=ソティースがにっこりと同意して。
そしてその赤虹彩宿す瞳は、アヤオリの肩の一点に集中する。
「あ、このコですか。僕の相棒、マロさんです!」
にゃー、とメインクイーンのコがお返事した。
「素敵な相棒さんだ。それじゃあ一緒にパレードをもっと賑やかすとしようか」
猫の如く目を細めて、ポワレがウィンク一つ。
徐にシンバルを地面で叩いて、ちゃんと鳴るな、なんて確認すると次には颯爽と跳躍していた。
1回、2回。高々と宙に掲げられた黄金色の楽器を、そのまま地面に打ちつけた。
ガシャリィーンッ。
大音量が木霊する。
「うわー! それカッコイイです!」
声高に叫ぶとアヤオリもポワレの後に続く。
マーチングバンドの先頭付近で、演奏というより賑やかなパフォーマンスショー。
ポワレがシンバルをひっくり返して構えたそこへ、猫がジャンプして着地する。
「可愛い子だ」
「ですよね!」
今度はアヤオリが構えると、またそちらへジャンプ。
長身二人のシンバルの舞に猫が加わり、それは見事なショーとなった。
パレードがまだ通らぬ所、すでに通り過ぎた所にも、音が途切れぬよう誰かの為のお立ち台が設けられる。
今、この場の雰囲気を作り上げているのは、影谷 揺楽と二ノ宮 鉄騎のペアであった。
「時間も、世界の壁も、飛び越えて進みましょう」
観客を引き寄せるのは、歌とダンスのパフォーマンス。
二段ある台の上段で揺楽が魅せる。一つ下の段で彼女に寄り添うように鉄騎が誘う。
「鉄くん、本当に何でも出来るのね」
「確かにいざって時こなせるよう、色々やってっけど……これは俺も吃驚だ」
コソリ。すれ違う際に密談がなされたり。
やっぱりすげぇ。鉄騎は思う。
彼女の歌声を孤独だと言った奴全員に聞かせてやりたい。この温かく力強い旋律を。
歌がクレッシェンドすれば動きを抑え。音が引いたら、己が身体能力を駆使しアクロバティックに。今度は揺楽が、彼を引き立てるよう音量落とす。
宙返りと共に鉄騎が揺楽のステージに上がった。
差し出された広い掌に己が手を添え、彼のリードで揺楽がステップを踏んでいれば、突如手を引かれた。
「ちょっとごめんな……っと!」
「!」
打ち合わせのない抱き上げを鉄騎がしてみせて、揺楽は必死にブレぬよう歌い続ける。
(もう、たまにそういうことするんだから)
けれど、嫌じゃない。
大サビで彼の首に手を回し、顔を寄せ合いユニゾンする。
互いの瞳を、慈しむように見つめ合いながら歌いあげれば、大歓声の拍手が二人を包み込んだ。
目に鮮やかな紙吹雪。
湧く歓声。
パレェド、祝祭――縁起物!
ならば出番。
此処がどこであろうと、嘯いて、粋がるのが人生ってェもんだァ。
廻 三千幸、いずこから出したるフワモコお耳を付けまして。
沿道を通り掛かる人へと商魂を発揮する。郷に入ったなら楽しまなきゃ損々。
「其処ゆくお姐サン、お一つ如何?」
「……おねーさん、ってアタシのことか?」
降って沸いた眩しい世界に面食らい、流されるまま観客の一人となっていたトトコ=ヘンペルが、左右を探した後自身を指さした。
「お姐サンですよォ、ちょいと小柄の立派なお姐サン!」
「いや、普段あんま呼ばれ慣れねーから……」
そういうアンタはでけえな、との言葉は飲み込んで。
「で、何なんだその、すげー色のぬいぐるみ」
「おっと、知らざあ言って聞かせやしょう」
三千幸は「ご覧なすって」と両手を広げる。
曰く、並んでいるのはカラーアルパカ。
黄色が金運、青が仕事運、健康運の緑に、恋愛成就の桃色。
縁起物……こんなモンが?
「で、お姐サンがお求めの運気は何で御座いましょ?」
「……赤にしとく」
「毎度あり!」
パレェドの紙吹雪に倣って白紙が舞う。冷たくない雪のように。
一瞬トトコが目を見開いた。
――もどき、でも、こーいうもんかもな。
苦笑い一つ。
「で、これは何に効くんだ」
「赤ですかァ、それはですね」
お耳を拝借、なんて。
三千幸は目一杯しゃがみ込み、笑顔で囁いた――。
「リーチ君、暑い~」
「なら脱ごうよシマさん」
「いやぁ、いつの間にか着せられていたんだけど。どうしてか使命感がね」
パレードの様々な衣装が居並ぶ行列に、竹内・島は現在すっかりとけ込んでいた。
胸に名札『シマルパカ』を付けたアルパカの姿で。
隣には人間、夜絣・利壱が未だ不思議そうな色を瞳に浮かべながらも、どこか楽し気に周囲を見渡している。
沿道から時々「かわいいー!」などと女性陣から声援が送られる。
島は愛想よく、しっかり手を振り返して……「ペッ!!」――アルパカ特有の唾吐く真似。
利壱、呆気に取られる。試しに自分も島へ手を振ってみた。
ペッ!!
あ……やっぱりペッてされたペッて。
「はっ。ごめんリーチ君! 何だかやらなきゃいけない気がして」
変なところでリアル感を追及してしまうのは、怪談師ゆえなのか。
「シマさんが楽しいならいいよ。それより、どっかに屋台とか無いかな? 何か食べたい」
「よし、このシマルパカさんが持ち前の視力で探してあげ、……大変だリーチ君、これ視野せっまい!」
打てば響く会話。見知らぬ場所でもお互いが居れば楽しい。
アルパカってなんでフェ~って言うのかな? と首を傾げる様を見ながら。
写真撮ったら残るかな。母へのメールに添付してみようか、なんて。
「ところでこれ何のお祝い?」
「何のお祝いだろう、俺も分かんないフェ~」
「リーチ君も着るフェ~?」
日常であって日常でない日も、共有する確かな思い出。
いつもなら街中で浮く衣装も、本日はいっそ粋な感じにマッチして。
修験道の衣に身を包む夜絣・剣治は、しかしあまりにキョロキョロし過ぎた動きが現在目立っていた。
「確かにっ、利壱がいたのだがっ。アルパカに手を振ってアルパカに笑いかける利壱が……っ」
「……ちょっと何を言っているか分からない」
「おお!? ブッキーじゃないか!」
「ブッキーはやめろと」
見つけたくなかった……といった具合に現れた矢吹・真功郎へ、剣治は喜色の笑みを向ける。
「ブッキー、ちょっと利壱探すの手伝ってくれよォー!」
「まて、大声を出すな、うっ頭痛が……」
おかしい。
仕事の修羅場明けに、やたら外が賑やかなのを確かめに来ただけなのに。
気付けばパレードの波に流され、半ば逃避気味に歩いていたらば旧友と鉢合わせ。
今度はその旧友の言動に流されようとしている。
「利壱、タッパがあるから目立つし大丈夫だと思っていたんだが……なんか背高いやつ多くない!? 気のせい!? 利壱が怯えてたらどうしよう!?」
彼もイイ大人だから問題ないだろう、という言葉が出かかったが。
剣治が甥っ子に過保護になってしまう理由を思い、喉の奥に仕舞い込む。
「ああ分かった分かった、俺も利壱くんを探そう」
「さすがブッキー!」
結局、叔父と甥の邂逅は叶わなかったけれど。
代わりに旧友同士、久しぶりに殺伐としていない、ただただ明るく和やかな雰囲気を楽しむのだった。
パレードが最高潮の沸き立ちを迎える。
歌は喜びを生み、舞いは幸せを呼びこみ。
楽器や声援、参加する者たちの紡ぐ言葉の一つ一つが縁となり、未来への道標を照らすのだった。
【執筆:蒼色クレヨン】