追憶のダークエルフ

キャラクターノベル制作 小湊拓也納品 2023年07月13日 15時27分48秒

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 平和になると、落ち着かなくなる。

 クリーパーや魔獣と戦っていたい。アンデッドでも良い。メドゥの指先による悪行も、止めなければ。

 そういった戦いから解放されている時間が、ライナ・フレイヴァルツは耐えられなかった。

 何もせずにいる時間が、耐えられない。
 思い出す。苛まれる。

 それが、ライナにとっての平和であった。

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「そうか……里の皆が、行方不明となってしまったのか」
 男は、それを心の底から憂えてくれている。

 ライナ・フレイヴァルツは、そう感じた。

 他者の苦境を、我が事のように感じ、苦しみを共有してくれる。そんな、心優しい人物なのだとも。

 だから、道端で倒れていたエルフの少女を、こうして拾ってくれた。
 良い宿に泊まらせてくれた。
 そこでは身体を綺麗に洗う事も出来たし、美味しい食事を振る舞ってももらえた。

 1220年、6月某日。
 今日、自分は運命の出会いを果たしたのだ、とライナは思う。

「……大変だったね、ライナ。それで君は、消えてしまった皆の行方を探し求めて一人、こんな所を旅していたと」

「リーンエス王国は……こっちの方向で、合っているよな」
 ライナは、涙ぐんでいた。
 この男の優しさに、涙腺が蕩けてゆく。

「王国なら、何か情報が得られるんじゃないかって……思って……だけど、焦燥感や疲ればっかりが積み重なって」
「倒れてしまったんだね。たまたま私が通りがかって、本当に良かった。君たちエルフの言う、ハイアルヴの導きだろう」

 男が、じっとライナの瞳を見つめてくる。
「里の皆の行方を、私が知っているわけではない……私は君を、ほんの少し、助けてあげられるだけだ」

「ありがとう。貴方には本当に、感謝をしているよ……里の皆は、私が必ず捜し出して助ける。ハイアルヴより賜った、私の試練だから」

「リーンエス王国内では、残念ながらハイアルヴの加護は君に及ばないだろう」
 男の言葉から、眼差しから、ライナは逃げられなくなっていた。

「君は自力で、生き抜いていかなければならない」
「覚悟は、している……」
「自分に一体、何が出来るのかを、君は知らなければいけない」

 男の瞳に、呆然と蕩けかけたエルフ少女の、間抜けな美貌が映っている。

「私が、それを教えてあげよう」

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 自分に一体、何が出来るのか。
 自分が、どの程度のものでしかないのか。
 自分が、どれだけ卑しい存在であるのか。

 その時ライナは、男によって、徹底的に教え込まれた。

 男にとってライナは、人形だった。
 玩具であり、愛玩動物であった。

 リーンエス王国では、誰もが自分を、そのように扱う。
 それを、頭ではなく肉体で納得させられた。

 男にとってライナは、人形であり、玩具であり、愛玩動物であり、最終的には商品となった。
 ライナは売られ、そして買われた。

 リーンエス王国を形成するヒューマンという種族にとっての、自分たちエルフとは一体何か。
 生まれてからずっと森の中で過ごしてきたライナが、それを知る事は今まで無かった。

 ライナを買った貴族は、それを体現するような男であった。

「あの奴隷商人め。高慢なエルフ族の小娘を、なかなかに仕上げておるではないか? うむうむ、ぐふふふ」
 でっぷりと肥え太った、醜悪な男。

 その肉体の、最も醜悪な部分をライナに突き付け、おぞましく荒ぶっている。
「だが、まだ足りぬ。良いかエルフの牝よ、そなたらの肉体は我らヒューマンを悦ばせる為だけにある」

(世迷い言を……っ!)
 奉仕を強いられながらライナは、心の中で歯を食いしばった。

(私が、こんな事をしているのは……このヒューマンばかりの国で、生き抜くためだ。生き抜いて、情報を集め……皆を、捜し出すためだ……それだけでしかない。誰が、お前などに……ッ!)

「わかるぞ。そなた、心の中では私を拒んでいるであろう? 拠り所が、あるのだな。ぐふっ、ぐふふふふ……そんなものは、すぐに蕩けて無くなる。私の、この魔力によってな。心身共に、そなたは私を拒絶出来なくなる。奴隷の悦びに、さあ目覚めるが良い」

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 買われて一月を過ぎた頃。
 主人である肥った貴族だけでなく、その使用人までもが、ライナを玩具として扱うようになった。

「この牝犬がよぉ、ご主人様に散々しつけられてんだろ? イイ声で鳴いてみろやオラァ」

「や、やめろよ……かわいそうだろ」
 使用人が二人いて、片方は消極的ながらライナを助けてくれようとしているのか。
「あ? 何だテメエ、動物愛護でもやってるつもりかぁ? ご立派なこったなオイオイオイ!」
「え、エルフは動物じゃないだろ……」
 消極的な事を言いながら、一方的に殴られ、蹴られ、倒れ伏す。

「俺が今から、この牝犬ちゃん可愛がってやっからよォ。テメエはそれ見て一人でやってろ偽善野郎が」

 ライナは、牝犬として扱われた。
 這いつくばり、犬のように鳴いた。

 夜になれば、あの醜く肥え太った貴族が、自分を同じように扱う。否、もっと過激な事をする。
 ライナは、牝犬のように鳴く。

 里の皆が、行方不明となった。
 それすら、もはや思い出す事はなかった。

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「ひいっ、待って……待ってくれよ、なあ……」
 使用人が、命乞いをしている。
「わかった、悪かったよ。偽善野郎とか言って本当にごめん、謝るから」

「そう……僕は、偽善者でも動物愛護者でもない」
 かつて殴られ蹴られる暴行を受けていた青年が、剣を振るって使用人を斬殺した。
「あの男と敵対する、某貴族の諜報員さ」

 あの男、と呼ばれた人物は先程、官憲に捕縛された。
 ライナの主人である、肥え太った貴族。

 官憲が動くに足る罪状を調べ暴くのが、この青年の任務であったのだろうが、それは今のライナに理解出来る事ではなかった。

「あなたが……あたらしい、ごしゅじんさま……?」
 ライナは、青年に襲いかかった。
 悲鳴が、耳に心地良かった。

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 その悲鳴で、ライナは目を覚ました。

「…………夢……」

 宿屋の一室。いつの間にか、寝入っていたようである。

 平和だからだ。

 寝台の上で、ライナは軽く、頭を押さえた。
 戦いの日々から、稀に解放されると、あの頃の事を夢に見てしまう。

 全て、ほんの三年ほど前、自分ライナ・フレイヴァルツの身に現実に起こった事態である。
 
 あの時、以前の自分と以後の自分は、全くの別人であるとライナは思う。

 あの体験は間違いなく、自分が授恵者として覚醒する、きっかけの一つであった。

 ライナの飼い主であった、あの肥え太った貴族は、法の裁きを受けて牢獄に入り、そこで死んだ。

 今更、憎しみがあるわけではない。
 ただ、飼われていた日々を思い出すだけだ。
 思い出す度に、身体が疼く。

 関係者がこの世から消え失せても、ライナの肉体からは消えてくれないものがある。

 軽く頭を振って、ライナは身支度を整えた。

 何もしていないから、思い出してしまうのだ。
 する事が、無いなら探しに行くしかない。

 大量のクリーパーを皆殺しにするような仕事が良い、とライナは思った。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0