【偶像】戦線:旧址棄鉄路
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)アルセド制作 鍵島納品 2023年05月16日 21時42分49秒
戦域はかつて縦横無尽に都市の足元を走り回っていた地下鉄跡地。
都市機能が失われ、鉄道のインフラが崩壊してからは既に管理する人間もこの世に居ない。
魔窟と称するに相応しいこの場所に、いつからか得体の知れない魔物が巣食うようになったというが……。
画面外から何かが聞こえる。小さな羽ばたきが、徐々に大きくなって鼓膜を打ち震わせる。
「偶像戦線、今宵が最後の五戦目。三企業合同のソロ・マッチで、」
淡々と告げるAIの語尾が騒がしい羽ばたき音によって食われ、暗転した画面に水浸しの地下道が映された。
●旧址棄鉄路/深淵に臨む
放り出された場所は地下鉄道跡地の前。周囲は都市の廃墟となっており、地上から地下へ潜るための階段がそれぞれ三つ用意されている。
CrownL'elは、頭部に装着した△lliumRe:Cordsと右眼に嵌まるリムを以て状況の整理に励んでいた。
まともな説明も無い、"間もなく本番です"のAIの言葉を最後にいきなり此処に……それで。
不意に顔を上げると、此方をじっと覗き込む監視カメラがクロエの瞳に飛び込んだ。
「ロビン・テクノロジーズ所属のCrownL'elです! 今回も一意専心、頑張ります! よろしくお願いします!」
とりあえずファンサしておけと直感と脳みそが告げていた。めいっぱいの笑顔を振りまくあどけない姿は、彼女が参加デュープの中でもルーキーであることを醸している。
まだ馴染んでいない身体よりも大ぶりな上着もあって、初々しくて可愛いらしいとの評価が画面の向こうで為されるのは火を見るよりも明らかだ。
かしゃり。軽薄な機械音を伴って、青い上着を着込む人物へとレンズが向けられる。
片腕に青や紫で彩られた花束を持ち、特徴的な耳を伸ばす姿は、さながら春を届けるイースターのうさぎめいて。
「やぁ! 僕はアルセド所属、Mary(マリィ・スノードロップ)だ! 今日のバトル、楽しみにしてたんだよ!」
中性的な容姿とにこやかな笑みが、老若男女を問わず人気を誇る中堅デュープとしてテロップ上に紹介されていた。
手馴れた自己紹介だ。メアリーは自慢である脚力を誇るように靴先を地で叩き、ひらりはらりと花弁を散らして画面を華やかにさせていた。
もうひとつ。眼前で地下へと伸びる階段を見下ろしていた青年の姿をカメラが捉えた。
モノクロな装いが背景の荒廃した都市に映える、上背のある彼。目深に被る帽子と顔の下部を覆うマスク、唯一露出した鋭い左眼がじろりと画面の向こうを睨め付ける。
……間。
数歩隣から訝し気に視線を寄越すクロエ。恥ずかしがり屋さんなんだね! と謎に頷くメアリー。
「……シュヴァーン所属、……Robin」
愛想の欠片もあったもんじゃないが、無骨な言葉遣いと鋭い眼差しが視聴者に受けているのはここだけの話。
ひらひらと左腕をカメラに向けて振ると、彼は二人を待たず三つある階段のうち一番右の物を真っ先に駆け下りた。
「あー! ずるい、抜け駆けだよ!」
「……抜け駆け?」
暗闇に融ける白い背中に向けて、メアリーの素っ頓狂な声が投げられた。返事は勿論あるわけもなく。
きょとんと瞳を瞬かせるクロエをよそに、子どもっぽく駄々を捏ね地団駄を踏んだところで、メアリーは青い上着と共に肩を竦める。
「さぁ、僕らも始めよう!」
「……偶像戦線、ですか?」
「そうさ!」
にんまりと笑ったうさぎが、花束を担ぎ直して一番左端の階段を跳ぶように地下へと潜り込んでゆく。
はッとして。弾かれたように地を蹴って、クロエもまた真ん中の階段を駆け下りて行った。
●
クロエは今日の戦線に、狙撃型の長銃と暗所を想定した小型の懐中電灯を腕に提げていた。
階段の先には駅のプラットフォームだったと思われる開けた場所があり、足元には錆び付いた線路が敷かれている。
人工的な灯りは無く、まるで薄暗い洞窟にでもいるような気分だ。
小脇に銃を抱え、細く伸びる懐中電灯の僅かな光で周辺を確認。薄汚れた看板に描かれた矢印が、線路の奥を示すよう向いている。地下にあるからだろうか、足元は所々が浸水していて、小さな水たまりが幾つも存在している。
「……いま、何か」
照らす光が眼前を横切る何かを捉えた。動いた方向、大きさ、移動速度、耳を突く羽ばたき……!
動きを予測し、迷わず銃口を宙へと向けるクロエ。視覚以上に聴覚をも研ぎ澄ませ、標的を探さんと息を止めた。一寸の出来事。
「そこ!」
引き金を引いて撃ち抜いた。醜い動物の呻き声が木霊し、何かが地面へ堕ちた。
銃を構えたまま近寄って照らしてみると……どうやら、この廃れた地下道に潜む蝙蝠型の魔物のようだ。顎先に片手を添え、ふむと唸る。これは、つまり。
「シューティング・ゲームなんでしょうか、……!」
果たしてこれが魅せバトルの名にふさわしいものか?
そうして首を傾げたクロエの足元が、急激にぐらりと揺らいだ。驚いた蝙蝠がバサバサと翼を羽ばたかせて、此方に向かってくる。
「あぁ、もう! 先に進めって、ことですね!」
けたたましい銃撃音が彼女の言葉を遮る。
懐中電灯で頭上を照らし、動きの軌道を読んで正確に敵を撃った。既にこの先で、他の二人が魅せているかもしれない! 斯様な考えを巡らせながら、クロエは線路を辿って奥へと歩を進めた。
●
「なにこれ気持ち悪いよ~!」
「うるさい……」
「君、さっきっから酷いな!」
「これは……」
ひと際開けた場所だ。天井は高く、幅も大きい。固唾を呑んだクロエが瞳に見留めたのは、字面通りのお祭り騒ぎだった。
先ほど倒してきた蝙蝠が何十体も飛び回る頭上、鋭い歯を持つ怪魚があちこちから跳んでおり、人の頭部ほどの大きさを持つ甲虫が地を這っている。
何だこれは? 脳が思考を巡らせ、今までのエネミー戦で戦ったモノを総ざらいして答えを出さんとしているのが判る。
眼前では既に対峙している二人の姿が在った。ロビンは右腕に携えた警棒に似た武装で近辺の水たまりから飛び上がる怪魚を排除しており、メアリーは花束の花を飛び道具のようにして地を這う虫を貫き地面に縫い留めている。
「あ! 君、きみ! 君も手伝ってよっ! 蝙蝠には、僕たちの手じゃ届かないんだ!」
てつだう。企業が、別なのに? ぱちぱちと二種の色を瞬かせるクロエに、早くぅ! 急かすメアリーの声が響き渡る。
「つまり各々の武装で周りのアレらを排除しない限り、バトルは終いにならない」
「なので!」
「イイ物持ってるのを、魅せてやれってことだ」
「あぁソレ僕言いたかった!!」
「……喧しいな……」
「まーた君、酷いこと言ったな~!」
ぱちり。未熟さ故に停まりかけたクロエの思考へと、ガツンと投げ込んでくるロビンとメアリー。
今まさにぎゃあぎゃあと言い争って……一方的のようだが。牽制し合いながらも互いの獲物を捌く彼らを見て、クロエは浅く息を吸う。バトルとは何も、蹴落とし合いだけではない、と?
はく、と地下道特有の冷えた空気を噛みしめて、彼女は自らの武装たる長銃を腕に携え直した。
「私は……それだけを狙うとは、限りませんので!」
惚けていた可愛らしい顔が、敵を見据えた真摯な面持ちへと移ろう、さなか。
既に抗戦する他企業のデュープ達を前に如何に出し抜くか、何よりこれはエネミー戦だ。誰よりも、一番リーチがあるのは彼女自身。
勝ちを取りに赴くべく、覚えのない高揚を胸に抱き。クロエは引き金に指を掛けた。
都市機能が失われ、鉄道のインフラが崩壊してからは既に管理する人間もこの世に居ない。
魔窟と称するに相応しいこの場所に、いつからか得体の知れない魔物が巣食うようになったというが……。
画面外から何かが聞こえる。小さな羽ばたきが、徐々に大きくなって鼓膜を打ち震わせる。
「偶像戦線、今宵が最後の五戦目。三企業合同のソロ・マッチで、」
淡々と告げるAIの語尾が騒がしい羽ばたき音によって食われ、暗転した画面に水浸しの地下道が映された。
●旧址棄鉄路/深淵に臨む
放り出された場所は地下鉄道跡地の前。周囲は都市の廃墟となっており、地上から地下へ潜るための階段がそれぞれ三つ用意されている。
CrownL'elは、頭部に装着した△lliumRe:Cordsと右眼に嵌まるリムを以て状況の整理に励んでいた。
まともな説明も無い、"間もなく本番です"のAIの言葉を最後にいきなり此処に……それで。
不意に顔を上げると、此方をじっと覗き込む監視カメラがクロエの瞳に飛び込んだ。
「ロビン・テクノロジーズ所属のCrownL'elです! 今回も一意専心、頑張ります! よろしくお願いします!」
とりあえずファンサしておけと直感と脳みそが告げていた。めいっぱいの笑顔を振りまくあどけない姿は、彼女が参加デュープの中でもルーキーであることを醸している。
まだ馴染んでいない身体よりも大ぶりな上着もあって、初々しくて可愛いらしいとの評価が画面の向こうで為されるのは火を見るよりも明らかだ。
かしゃり。軽薄な機械音を伴って、青い上着を着込む人物へとレンズが向けられる。
片腕に青や紫で彩られた花束を持ち、特徴的な耳を伸ばす姿は、さながら春を届けるイースターのうさぎめいて。
「やぁ! 僕はアルセド所属、Mary(マリィ・スノードロップ)だ! 今日のバトル、楽しみにしてたんだよ!」
中性的な容姿とにこやかな笑みが、老若男女を問わず人気を誇る中堅デュープとしてテロップ上に紹介されていた。
手馴れた自己紹介だ。メアリーは自慢である脚力を誇るように靴先を地で叩き、ひらりはらりと花弁を散らして画面を華やかにさせていた。
もうひとつ。眼前で地下へと伸びる階段を見下ろしていた青年の姿をカメラが捉えた。
モノクロな装いが背景の荒廃した都市に映える、上背のある彼。目深に被る帽子と顔の下部を覆うマスク、唯一露出した鋭い左眼がじろりと画面の向こうを睨め付ける。
……間。
数歩隣から訝し気に視線を寄越すクロエ。恥ずかしがり屋さんなんだね! と謎に頷くメアリー。
「……シュヴァーン所属、……Robin」
愛想の欠片もあったもんじゃないが、無骨な言葉遣いと鋭い眼差しが視聴者に受けているのはここだけの話。
ひらひらと左腕をカメラに向けて振ると、彼は二人を待たず三つある階段のうち一番右の物を真っ先に駆け下りた。
「あー! ずるい、抜け駆けだよ!」
「……抜け駆け?」
暗闇に融ける白い背中に向けて、メアリーの素っ頓狂な声が投げられた。返事は勿論あるわけもなく。
きょとんと瞳を瞬かせるクロエをよそに、子どもっぽく駄々を捏ね地団駄を踏んだところで、メアリーは青い上着と共に肩を竦める。
「さぁ、僕らも始めよう!」
「……偶像戦線、ですか?」
「そうさ!」
にんまりと笑ったうさぎが、花束を担ぎ直して一番左端の階段を跳ぶように地下へと潜り込んでゆく。
はッとして。弾かれたように地を蹴って、クロエもまた真ん中の階段を駆け下りて行った。
●
クロエは今日の戦線に、狙撃型の長銃と暗所を想定した小型の懐中電灯を腕に提げていた。
階段の先には駅のプラットフォームだったと思われる開けた場所があり、足元には錆び付いた線路が敷かれている。
人工的な灯りは無く、まるで薄暗い洞窟にでもいるような気分だ。
小脇に銃を抱え、細く伸びる懐中電灯の僅かな光で周辺を確認。薄汚れた看板に描かれた矢印が、線路の奥を示すよう向いている。地下にあるからだろうか、足元は所々が浸水していて、小さな水たまりが幾つも存在している。
「……いま、何か」
照らす光が眼前を横切る何かを捉えた。動いた方向、大きさ、移動速度、耳を突く羽ばたき……!
動きを予測し、迷わず銃口を宙へと向けるクロエ。視覚以上に聴覚をも研ぎ澄ませ、標的を探さんと息を止めた。一寸の出来事。
「そこ!」
引き金を引いて撃ち抜いた。醜い動物の呻き声が木霊し、何かが地面へ堕ちた。
銃を構えたまま近寄って照らしてみると……どうやら、この廃れた地下道に潜む蝙蝠型の魔物のようだ。顎先に片手を添え、ふむと唸る。これは、つまり。
「シューティング・ゲームなんでしょうか、……!」
果たしてこれが魅せバトルの名にふさわしいものか?
そうして首を傾げたクロエの足元が、急激にぐらりと揺らいだ。驚いた蝙蝠がバサバサと翼を羽ばたかせて、此方に向かってくる。
「あぁ、もう! 先に進めって、ことですね!」
けたたましい銃撃音が彼女の言葉を遮る。
懐中電灯で頭上を照らし、動きの軌道を読んで正確に敵を撃った。既にこの先で、他の二人が魅せているかもしれない! 斯様な考えを巡らせながら、クロエは線路を辿って奥へと歩を進めた。
●
「なにこれ気持ち悪いよ~!」
「うるさい……」
「君、さっきっから酷いな!」
「これは……」
ひと際開けた場所だ。天井は高く、幅も大きい。固唾を呑んだクロエが瞳に見留めたのは、字面通りのお祭り騒ぎだった。
先ほど倒してきた蝙蝠が何十体も飛び回る頭上、鋭い歯を持つ怪魚があちこちから跳んでおり、人の頭部ほどの大きさを持つ甲虫が地を這っている。
何だこれは? 脳が思考を巡らせ、今までのエネミー戦で戦ったモノを総ざらいして答えを出さんとしているのが判る。
眼前では既に対峙している二人の姿が在った。ロビンは右腕に携えた警棒に似た武装で近辺の水たまりから飛び上がる怪魚を排除しており、メアリーは花束の花を飛び道具のようにして地を這う虫を貫き地面に縫い留めている。
「あ! 君、きみ! 君も手伝ってよっ! 蝙蝠には、僕たちの手じゃ届かないんだ!」
てつだう。企業が、別なのに? ぱちぱちと二種の色を瞬かせるクロエに、早くぅ! 急かすメアリーの声が響き渡る。
「つまり各々の武装で周りのアレらを排除しない限り、バトルは終いにならない」
「なので!」
「イイ物持ってるのを、魅せてやれってことだ」
「あぁソレ僕言いたかった!!」
「……喧しいな……」
「まーた君、酷いこと言ったな~!」
ぱちり。未熟さ故に停まりかけたクロエの思考へと、ガツンと投げ込んでくるロビンとメアリー。
今まさにぎゃあぎゃあと言い争って……一方的のようだが。牽制し合いながらも互いの獲物を捌く彼らを見て、クロエは浅く息を吸う。バトルとは何も、蹴落とし合いだけではない、と?
はく、と地下道特有の冷えた空気を噛みしめて、彼女は自らの武装たる長銃を腕に携え直した。
「私は……それだけを狙うとは、限りませんので!」
惚けていた可愛らしい顔が、敵を見据えた真摯な面持ちへと移ろう、さなか。
既に抗戦する他企業のデュープ達を前に如何に出し抜くか、何よりこれはエネミー戦だ。誰よりも、一番リーチがあるのは彼女自身。
勝ちを取りに赴くべく、覚えのない高揚を胸に抱き。クロエは引き金に指を掛けた。