【過罪】折々手より零れ落つ
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 杜ノ門納品 2023年04月28日 13時32分08秒
例えば雲の上を歩けたのなら、こんな感じなのだろうかとGR-033.rdaは思う。足を踏み出しても地を踏む感覚が薄く、自重を支えきれずふらりと傾ぐ。倒れそうになった所で、彼女は自分を支えてくれている影がある事に気付いた。
「……Na8-T:Gall様」
彼――Na8-T:GallはGR-033.rdaとタッグを組む相棒だ。高い背丈に長い銀髪を一つに束ねた金眼の美丈夫。彼はGR-033.rdaの背を支え、覗く瞳を心配そうに細めている。
「……どうした? 顔色が悪いようだが。辛いのならそう言え」
「いえ、少し眩暈がしただけで……大丈夫、です」
違和感を感じた。GR-033.rdaの感覚では元気一杯に答えたつもりだったのだ。実際特に体調が悪い訳でもない。だが口に出した声は妙に小さく途切れがちで、これでは心配させるだけだと慌ててしまう。怪訝そうにこちらを見るNa8-T:Gallに、彼女は続けた。
「バイタルチェックも、問題ありませんでした、ので」
相変わらず覚束ない話し口だが、そうなのだ。GR-033.rdaが問題ないと通すのは、データ上で異常無しと判断された事が大きい。少しふらつく気はするが、きっとバトルには支障がない程度なのだ。だから彼女は笑顔で答える。そうか、と納得のいかなそうなNa8-T:Gallの顔を真正面から見据えて。貴方の足手纏にはなりませんと、胸の奥に密かに誓って。
タッグを組んでのVSエネミー戦の最中、Na8-T:GallはGR-033.rdaの様子を見咎め通信で声を掛けた。いつも通り囮として敵を引きつけてもらっていたが、どうにも動きが鈍いのだ。彼女は試合前と同様に大丈夫ですと返す。だが声にも常の張りはない。かといって下がらせても彼女の意思を無下にしてしまう。Na8-T:Gallはそうかとだけ呟き、彼女の背を離れた場所から見守った。
気の所為だろうか、今日は妙に体への負荷が重いような気がする。元々デュープバトルは仮想空間への適応やダメージの演算で多大な負荷が掛かっており、並の人間には耐えきれぬらしいという話を聞いた事がある。今日は敵も多いから負荷も高いのか、ずしりと体に伸し掛かる圧が重い。
そんな中、彼女はよく敵を引きつけている。一団を狙い撃ち、撃破。くるりと笑顔で振り向いた彼女に軽く目配せするも、刹那Na8-T:Gallはその目を見開いた。唐突に現れた敵数体に彼女が囲まれてしまったのだ。逃げろ、と言う間もなく彼女は敵のビームに撃ち抜かれる。だが数体分のビーム照射なら大したダメージにはならない。HPの減りも僅かだ。急いで離脱を、と彼女に声を掛けようとするも、ふらりと傾いだ小さな背にNa8-T:Gallは息を呑んだ。
胸を貫く感覚が妙に生々しい。呼吸が出来ず、咳き込むと赤い血が宙へ舞った。GR-033.rdaを取り囲み四方から照射された光は、確かな痛みを伴って彼女の体を貫いた。――自分は、死ぬ。直感的にわかってしまった。
(……ごめん、なさい)
反応の鈍い体は明らかに異常であった。体を焼く光は常にない熱と殺意がこもっている。驚愕した様子の彼が遠くに見える。――心残りがあるとするなら、一つだけ。
(きっと――貴方に、背負わせてしまう)
ただ一つの後悔。
(貴方は、悪くないのに)
笑顔に返してくれた、柔らかな視線。彼が心配してくれた事は全て正しかった。そう調整されていたから気付けなかったと、今になって気付くだなんて。だから貴方の所為じゃない。どうか気に病まないでほしい。
(ぜんぶ、わたしの――)
「――ゲルダ……ッッ!!!!」
悲痛な叫びが会場内に木霊する。Na8-T:Gallは駆け出した。勝負の行く末などどうでも良い。彼女が血を噴いて倒れるという異常事態が何よりの問題なのだ。彼女に駆け寄るまでに幾らか攻撃を受けたが痛みはない。本来はそうである筈だ。彼女に纏わりつく敵が鬱陶しい。走りながらリムと連動させた照射で一掃し道を開く。仰向けに倒れる彼女を抱き寄せ、Na8-T:Gallは必死に名を呼んだ。
「ゲルダ! ゲルダ!」
返事がない。呼吸をしている気配がない。大音声で呼ぶのに運営や社の人間は中々現れない。止まった心臓を動かすべく胸骨圧迫を試すのに、ばきぼきと骨の折れる音だけが響く。彼女は確か内臓も機械化していたと思ったが、何故こんなに手応えがないのか。何故、何故――。
救助に連れられていく彼女と今生の別れとなると知っていたのなら。Na8-T:Gallは程なくして彼女の死亡を知らされた。最後に顔を見たいと申し出たが、何故か許可は下りなかった。おかしな事は幾つもある。だが確信には至らない。Na8-T:Gallの胸を覆うのは、社への不信と、後悔だった。もっと彼女の様子をしっかり見ていれば。無理にでも休ませていれば。
彼女の死は、彼女の祈りの甲斐もなく、Na8-T:Gallに余りにも重い枷を負わせる事になる。無意識下においての罪の意識。断罪を求めるように、裁きの日――死地を求めて流離う求道者の如き姿が、正に社の望んだ通りの姿である事など、知る由もなく。
「……Na8-T:Gall様」
彼――Na8-T:GallはGR-033.rdaとタッグを組む相棒だ。高い背丈に長い銀髪を一つに束ねた金眼の美丈夫。彼はGR-033.rdaの背を支え、覗く瞳を心配そうに細めている。
「……どうした? 顔色が悪いようだが。辛いのならそう言え」
「いえ、少し眩暈がしただけで……大丈夫、です」
違和感を感じた。GR-033.rdaの感覚では元気一杯に答えたつもりだったのだ。実際特に体調が悪い訳でもない。だが口に出した声は妙に小さく途切れがちで、これでは心配させるだけだと慌ててしまう。怪訝そうにこちらを見るNa8-T:Gallに、彼女は続けた。
「バイタルチェックも、問題ありませんでした、ので」
相変わらず覚束ない話し口だが、そうなのだ。GR-033.rdaが問題ないと通すのは、データ上で異常無しと判断された事が大きい。少しふらつく気はするが、きっとバトルには支障がない程度なのだ。だから彼女は笑顔で答える。そうか、と納得のいかなそうなNa8-T:Gallの顔を真正面から見据えて。貴方の足手纏にはなりませんと、胸の奥に密かに誓って。
タッグを組んでのVSエネミー戦の最中、Na8-T:GallはGR-033.rdaの様子を見咎め通信で声を掛けた。いつも通り囮として敵を引きつけてもらっていたが、どうにも動きが鈍いのだ。彼女は試合前と同様に大丈夫ですと返す。だが声にも常の張りはない。かといって下がらせても彼女の意思を無下にしてしまう。Na8-T:Gallはそうかとだけ呟き、彼女の背を離れた場所から見守った。
気の所為だろうか、今日は妙に体への負荷が重いような気がする。元々デュープバトルは仮想空間への適応やダメージの演算で多大な負荷が掛かっており、並の人間には耐えきれぬらしいという話を聞いた事がある。今日は敵も多いから負荷も高いのか、ずしりと体に伸し掛かる圧が重い。
そんな中、彼女はよく敵を引きつけている。一団を狙い撃ち、撃破。くるりと笑顔で振り向いた彼女に軽く目配せするも、刹那Na8-T:Gallはその目を見開いた。唐突に現れた敵数体に彼女が囲まれてしまったのだ。逃げろ、と言う間もなく彼女は敵のビームに撃ち抜かれる。だが数体分のビーム照射なら大したダメージにはならない。HPの減りも僅かだ。急いで離脱を、と彼女に声を掛けようとするも、ふらりと傾いだ小さな背にNa8-T:Gallは息を呑んだ。
胸を貫く感覚が妙に生々しい。呼吸が出来ず、咳き込むと赤い血が宙へ舞った。GR-033.rdaを取り囲み四方から照射された光は、確かな痛みを伴って彼女の体を貫いた。――自分は、死ぬ。直感的にわかってしまった。
(……ごめん、なさい)
反応の鈍い体は明らかに異常であった。体を焼く光は常にない熱と殺意がこもっている。驚愕した様子の彼が遠くに見える。――心残りがあるとするなら、一つだけ。
(きっと――貴方に、背負わせてしまう)
ただ一つの後悔。
(貴方は、悪くないのに)
笑顔に返してくれた、柔らかな視線。彼が心配してくれた事は全て正しかった。そう調整されていたから気付けなかったと、今になって気付くだなんて。だから貴方の所為じゃない。どうか気に病まないでほしい。
(ぜんぶ、わたしの――)
「――ゲルダ……ッッ!!!!」
悲痛な叫びが会場内に木霊する。Na8-T:Gallは駆け出した。勝負の行く末などどうでも良い。彼女が血を噴いて倒れるという異常事態が何よりの問題なのだ。彼女に駆け寄るまでに幾らか攻撃を受けたが痛みはない。本来はそうである筈だ。彼女に纏わりつく敵が鬱陶しい。走りながらリムと連動させた照射で一掃し道を開く。仰向けに倒れる彼女を抱き寄せ、Na8-T:Gallは必死に名を呼んだ。
「ゲルダ! ゲルダ!」
返事がない。呼吸をしている気配がない。大音声で呼ぶのに運営や社の人間は中々現れない。止まった心臓を動かすべく胸骨圧迫を試すのに、ばきぼきと骨の折れる音だけが響く。彼女は確か内臓も機械化していたと思ったが、何故こんなに手応えがないのか。何故、何故――。
救助に連れられていく彼女と今生の別れとなると知っていたのなら。Na8-T:Gallは程なくして彼女の死亡を知らされた。最後に顔を見たいと申し出たが、何故か許可は下りなかった。おかしな事は幾つもある。だが確信には至らない。Na8-T:Gallの胸を覆うのは、社への不信と、後悔だった。もっと彼女の様子をしっかり見ていれば。無理にでも休ませていれば。
彼女の死は、彼女の祈りの甲斐もなく、Na8-T:Gallに余りにも重い枷を負わせる事になる。無意識下においての罪の意識。断罪を求めるように、裁きの日――死地を求めて流離う求道者の如き姿が、正に社の望んだ通りの姿である事など、知る由もなく。