【廃綴】Shine for **

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 九弐ニデル納品 2023年05月01日 12時02分24秒

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「Gerda(ゲルダ・クライン)。届け物だ」
 Gerdaの自室を訪れたのはVIC(ヴァイオレット・コンピューティング)の職員だった。他企業職員が何の用か、固い表情で頷く彼女に職員は小さな包みを渡した。
「機密の問題で、一部のみだが」
 厄介な頼みだが、奴からとなれば応えたくてな。職員はGerdaがその意味を理解する前に去った。包みの中は硬く小さな物だ。

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 Na8-T:Gall(ナハティガル=ラー)は控室でディスプレイに向かっていた。左目のリムと接続すれば、体を動かすことなく文章が出力されていく。
“Gerda”
 メッセージの宛先は知り合ったばかりのシュヴァーンの新人だ。彼女は、自分のかつての相棒に何故か良く似ていた。バトル中の事故で命を落とした、GR-033.rda。
 ――容姿だけでない。立ち居振る舞いまで。
 彼女は生まれ変わり、なのか。
 ――俺達は死しても甦……
 激しい頭痛がする。これを考え出すと、いつもこうだ。
 ――俺達の魂は何処に行く?
 自分が死んでも、生まれ変わって魂が甦るのか。彼は独り首を振った。否、否。
 ――俺も、彼女も。
「唯ひとつだ……」
 呟いてディスプレイを見直す。内心より随分calmな文章が並んでいた。“心までは誰にも渡さない”と加えるか迷って、やめる。それは彼女への忠誠であり、彼女への我儘だった。代わりに控えめな提案。
“だが、叶うのなら――”
 次の表示までは時間が掛かった。
“アンタに貰って欲しい”
 彼は仕上がった遺書を保存するとバトルフィールドに向かった。

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 Gerdaの開いた包みには金色の円い金属片が入っていた。
 それが何か、気付いて目を見開くと同時に端末がメッセージ着信を知らせる。差出人は――
「ナハティガル、様……」
 彼と自分の関係を説明する言葉をGerdaは持っていない。なぜか自分を気にかけてくれる他社のベテラン。その優しさに惹かれていなかったと言うのは嘘だ。でもそれを恋だ、と叫ぶことは彼女にはできなかった。彼は彼女の向こうに常に別の誰かを求めていた。だがそれを自覚した上で、きちんと彼女自身を見てくれた。その誠意に報いる方法を……彼女はひとつだけ知っていた。自らの恋心を、その小さな掌のうちに押し込めること。
「ナハティガル様の……目」
 Gerdaがそっと額を押し付けると、長い髪が床にこぼれた。

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 今日のストレートもNa8-T:Gallの優勢に終始していた。
 ――ジャミング。後ろにホログラム。
 最近攪乱系装備を増やした彼の姿は、体全体がエフェクトにけぶるようだった。それに誤魔化されるのは対戦相手のみではない。視聴者もまた、彼の真実を見失う。彼はもはや十全の肉体を有してはおらず、いつ途切れるとも知れぬ命をノイズに隠しバトルを続けていた。彼の煉獄であるフィールドで相手を追いながら、彼の思考は過去へ飛ぶ。かつて相棒と並んで戦った、その最後の日。
 ――俺はいつもと違う、と気付いていた。
 GR-033.rdaの反応が鈍い、息が上がっている、……しかし彼はそれらに疑問を感じなかった。彼女が燃え尽きたように倒れ込んだその瞬間も。抱え起こして額にかかった短い髪に口づけたひと時も。
 デュープである彼らは、自分たちの運命がいともたやすく軽々しく捻じ曲げられていることを関知しない。よってGR-033.rdaのボディメンテナンスにおいて、どのような思惑が何を操作したかは彼のあずかり知らぬところだ。しかし結果として、その後の彼は華々しくソロで活動を行うようになった。
 ――それ以来だ。無意識に裁きを求める自分に気付くようになったのは。
 彼は愚かにも背を向けた相手に冷徹に引き金を引いた。
「Winner、Na8-T:Gall」
 コールが響き、配信画面がきらびやかなカットインとBGMに切り替わる。静かになったフィールドに独り立ったNa8-T:Gallは天を仰いだ。床に突いた銃に重ねた手は、もはや震えもしないらしかった。ホログラムを切る。制服の足元から、隠されていた死が這い出す。
 ――やっと……裁きが下された。
 今日こそやはりその日だったのだと、彼はリムを押さえた。
「これでようやく、俺も……アンタの御許に行けるだろうか?」
 膝を折る。祈るような呟きは誰にも聞こえなかった。
「ゲルダ……」
 無敗の鬼は、そうして静かに目を閉じた。

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 どうやらこのメッセージは、彼の生体信号が途切れると送信されるようになっていたらしい。Gerdaは中身を一度、二度と読み返す。彼が死んでしまったのだ――ということは、一瞬のざわりとした感覚のあとで突然腑に落ちた。後に残ったのは、諦めの気持ち。
 ――きっと最期まで、わたしは貴方の一番にはなれなかったのでしょう。
 それは奇妙な温かさをもって彼女の頬を濡らした。
 ――願わくば。
 ――貴方がわたしと重ねていた誰かの元で、貴方が笑っていてくれていたら。
 Gerdaの手の中で、もはや何も見ることのない彼の目と、彼女の心が溶けあう。見えていなくてかまいません。それはわたしだけの我儘、ひとりきりの秘密。残りの日々を照らす、金色の光。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0