ヲトメの脚癖
キャラクターノベル制作 革酎納品 2023年03月18日 14時00分06秒
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リーンエス王国貴族ディオール伯爵家邸宅の中庭。
そこでローザリカ・L・ディオールは高々と蹴り上げた自身の右脚の踵の先で、庭木の枝から吊るした陶器製の壺が粉々に砕けた様子を見て、内心でほくそ笑んだ。
完成だ。
100%完璧に身に着けた。
この技を駆使すれば、あの男に一矢報いることが出来る――ローザリカの胸中に希望の光が芽生えた。
先日、偶々リベラ商会管理の倉庫を整理している最中に見つけた一本の巻物。その表には宮廷格闘術『淑女神拳ケレス流』の傍流技伝書というタイトルが記されていた。
開けてみると、既に見知った技が幾つも並んでいたのだが、その中にひとつだけ、ローザリカの知らない技があった。
曰く、天岳颯衝。
軸足を中心にその場で半回転し、敢えて敵に背中を見せるというトリッキーな動きの直後、上段への超高速の後ろ蹴りが真下から相手の顎先へと瞬時に襲い掛かる技だ。
後ろ廻し蹴りと挙動が似ているが、一般的な後ろ廻し蹴りは軸足回転で270度の向きにまで達した位置から蹴り足を繰り出す技だ。が、この天岳颯衝は相手から見て180度、つまり完全に背中を見せた位置から真下という死角を衝き、至近距離から高速で一気に蹴り上げる技である。
途中までの動作が後ろ廻し蹴りに似ているのも利点だ。相手は上段中段下段のいずれを警戒するにしても、270度の向きに達するタイミングで漸く、防御意識が働く。
ところが天岳颯衝では、蹴り足が飛んでくるのは180度の向きに達した瞬間。つまり、一瞬攻撃タイミングが速いのだ。当然相手は、防御が間に合わない。フェイントとしての威力も大きいといって良いだろう。
そして天にそびえる山岳の頂きを踵で下から上へと踏みつける様な挙動は、ローザリカ愛用の『薔薇の宝棘』とも極めて相性が良い。
これなら、あの天陽師にも通用するかも知れない。
ローザリカは黒い忍闘衣に長躯を包んだ、老齢の怪人を脳裏に思い描いた。
過日ローザリカはシラー砂漠にて、ある天陽師との格闘戦に於いてほぼ完全に圧倒された。
天陽師は、覇残抵儀なる東方の殺人格闘術を体得していた。宮廷格闘術とは異なり、敵を殺す為だけに編み出された技である。華麗さも道義も一切廃し、徹底して殺人に特化した技だ。ローザリカの知る格闘技とは明らかに一線を画していた。
今のままでは、絶対に勝てない。それがローザリカが自らに下した結論だった。
(力が……欲しい……)
そう願った矢先での、天岳颯衝との出会いである。
これを運命といわずして、何といおう。
傍流技伝書を見つけてからのローザリカは、まるで人が変わった様に特訓へと打ち込んだ。
仲の良い侍女達から、余りこの様な無粋な技ばかりに腐心すると、殿方から敬遠されますよと忠告を受けること十数回。
しかしローザリカには既に心に決めたひとが居る。今更宮廷で他の殿方からどの様に見られたところで、ローザリカにしてみればどこ吹く風だ。
兎に角今は、あの天陽師に勝つことだけを考えた。
そうして数週間、徹底的に天岳颯衝の修得だけに励んだ。時期的にはそろそろ花嫁修業もしなければならない筈なのだが、ローザリカが鍛えるのは脚力ばかりで、女子力は微塵にも向上しなかった。
そんなこんなでおよそ一カ月後、ローザリカは遂に天岳颯衝を完璧に会得した。
今なら目の前にあの天陽師が立ちはだかったところで、その顎先に必殺の一撃を寸分違わず確実に叩き込む自信があった。
天岳颯衝習得の余韻に浸って気分良く自室に戻ったローザリカだったが、ここで思わぬ悲報に触れた。
侍女達から、ローザリカの想い人が他家に取られるかもしれないという噂を聞かされてしまったのである。
どうやら彼のところに、とある侯爵家から養子に取りたいとの話が流れてきているらしい。
(これは……負けられないぞ。でも、相手は手強い)
間違い無く、格上女子とのバトルが待ち受けている。最早、天陽師の老人だけを相手に廻していられる状況ではなくなってきた。
だが時間は待ってくれない。
どうやら近いうちに、侯爵家主催の大舞踏会が予定されているらしい。ここで勝てなければ、ローザリカは格闘家としてばかりではなく、女としての大切な何かを失う気がした。
今の自分には脚力はあるが、女子力が足りない。
ローザリカはぎりりと奥歯を噛み鳴らした。
(だったら僕も、鍛えるしかない……女子力を!)
その為には、ディオール家名物『大女人八連制覇』を開催し、そこで女子力を鍛えるしかないだろう。
だがローザリカ、ひとつ大きな勘違いをしていた。
今必要なのは舞踏会への対処であり、武闘会ではない。
多分、彼女がここで考えている女子力も、何か違う方向での『力』なのだろう。
続報が待たれる。
リーンエス王国貴族ディオール伯爵家邸宅の中庭。
そこでローザリカ・L・ディオールは高々と蹴り上げた自身の右脚の踵の先で、庭木の枝から吊るした陶器製の壺が粉々に砕けた様子を見て、内心でほくそ笑んだ。
完成だ。
100%完璧に身に着けた。
この技を駆使すれば、あの男に一矢報いることが出来る――ローザリカの胸中に希望の光が芽生えた。
先日、偶々リベラ商会管理の倉庫を整理している最中に見つけた一本の巻物。その表には宮廷格闘術『淑女神拳ケレス流』の傍流技伝書というタイトルが記されていた。
開けてみると、既に見知った技が幾つも並んでいたのだが、その中にひとつだけ、ローザリカの知らない技があった。
曰く、天岳颯衝。
軸足を中心にその場で半回転し、敢えて敵に背中を見せるというトリッキーな動きの直後、上段への超高速の後ろ蹴りが真下から相手の顎先へと瞬時に襲い掛かる技だ。
後ろ廻し蹴りと挙動が似ているが、一般的な後ろ廻し蹴りは軸足回転で270度の向きにまで達した位置から蹴り足を繰り出す技だ。が、この天岳颯衝は相手から見て180度、つまり完全に背中を見せた位置から真下という死角を衝き、至近距離から高速で一気に蹴り上げる技である。
途中までの動作が後ろ廻し蹴りに似ているのも利点だ。相手は上段中段下段のいずれを警戒するにしても、270度の向きに達するタイミングで漸く、防御意識が働く。
ところが天岳颯衝では、蹴り足が飛んでくるのは180度の向きに達した瞬間。つまり、一瞬攻撃タイミングが速いのだ。当然相手は、防御が間に合わない。フェイントとしての威力も大きいといって良いだろう。
そして天にそびえる山岳の頂きを踵で下から上へと踏みつける様な挙動は、ローザリカ愛用の『薔薇の宝棘』とも極めて相性が良い。
これなら、あの天陽師にも通用するかも知れない。
ローザリカは黒い忍闘衣に長躯を包んだ、老齢の怪人を脳裏に思い描いた。
過日ローザリカはシラー砂漠にて、ある天陽師との格闘戦に於いてほぼ完全に圧倒された。
天陽師は、覇残抵儀なる東方の殺人格闘術を体得していた。宮廷格闘術とは異なり、敵を殺す為だけに編み出された技である。華麗さも道義も一切廃し、徹底して殺人に特化した技だ。ローザリカの知る格闘技とは明らかに一線を画していた。
今のままでは、絶対に勝てない。それがローザリカが自らに下した結論だった。
(力が……欲しい……)
そう願った矢先での、天岳颯衝との出会いである。
これを運命といわずして、何といおう。
傍流技伝書を見つけてからのローザリカは、まるで人が変わった様に特訓へと打ち込んだ。
仲の良い侍女達から、余りこの様な無粋な技ばかりに腐心すると、殿方から敬遠されますよと忠告を受けること十数回。
しかしローザリカには既に心に決めたひとが居る。今更宮廷で他の殿方からどの様に見られたところで、ローザリカにしてみればどこ吹く風だ。
兎に角今は、あの天陽師に勝つことだけを考えた。
そうして数週間、徹底的に天岳颯衝の修得だけに励んだ。時期的にはそろそろ花嫁修業もしなければならない筈なのだが、ローザリカが鍛えるのは脚力ばかりで、女子力は微塵にも向上しなかった。
そんなこんなでおよそ一カ月後、ローザリカは遂に天岳颯衝を完璧に会得した。
今なら目の前にあの天陽師が立ちはだかったところで、その顎先に必殺の一撃を寸分違わず確実に叩き込む自信があった。
天岳颯衝習得の余韻に浸って気分良く自室に戻ったローザリカだったが、ここで思わぬ悲報に触れた。
侍女達から、ローザリカの想い人が他家に取られるかもしれないという噂を聞かされてしまったのである。
どうやら彼のところに、とある侯爵家から養子に取りたいとの話が流れてきているらしい。
(これは……負けられないぞ。でも、相手は手強い)
間違い無く、格上女子とのバトルが待ち受けている。最早、天陽師の老人だけを相手に廻していられる状況ではなくなってきた。
だが時間は待ってくれない。
どうやら近いうちに、侯爵家主催の大舞踏会が予定されているらしい。ここで勝てなければ、ローザリカは格闘家としてばかりではなく、女としての大切な何かを失う気がした。
今の自分には脚力はあるが、女子力が足りない。
ローザリカはぎりりと奥歯を噛み鳴らした。
(だったら僕も、鍛えるしかない……女子力を!)
その為には、ディオール家名物『大女人八連制覇』を開催し、そこで女子力を鍛えるしかないだろう。
だがローザリカ、ひとつ大きな勘違いをしていた。
今必要なのは舞踏会への対処であり、武闘会ではない。
多分、彼女がここで考えている女子力も、何か違う方向での『力』なのだろう。
続報が待たれる。