進撃の猿人
キャラクターノベル制作 革酎納品 2023年03月04日 22時10分04秒
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リーンエス王国北部の町ホークヤードにも、そろそろ春の兆しが見え始めている。
まだまだ寒い日は続いているが、日中の陽射しは随分暖かく感じる様になってきた。
そんなことを思いながら近場での用事を済ませてローラント探偵事務所へと引き返そうとしていたヴァン・ローラントだったが、気のせいだろうか、妙にホークヤード警備隊員の姿が多い様に感じる。
何かあったのかも知れないが、どうせ自分には無関係だ。
そう決め込んで事務所前の通りに差し掛かった頃、聞き慣れた声が飛んでいた。
「お、ヴァンか、丁度良い! なぁ、猿を見なかったか!」
呼びかけてきたのは毎度お馴染み、ホークヤード警備隊のデリック・エズモンドだった。
嗚呼、また何か厄介事に巻き込まれそうだ――ヴァンは内心で小さな溜息を漏らしつつ、早々に諦めた。もうすっかり、慣れっこだった。
デリックは近くに居た若手の警備隊員達に何やら指示を与えてから、小走りに近づいてきた。
「ヴァン、こういう猿、知らないか?」
いいながらデリックは、一枚の似顔絵を差し出した。似顔絵というより、スケッチだ。それも、物凄く下手な猿の顔の。
この猿の名は、パル君。ここからふたつ隣りの筋で雑貨店を営んでいるピーリィ・アルモンなる人物が飼っているらしい。そのパル君が逃げ出したという通報を受けて、デリックとその部下達が捜索に駆り出されたのだという。
猿にしては随分特徴的な顔立ちだが、ヴァンには見覚えが無かった。
と、その時だった。
「あれあれあれ、こりゃまた奇遇ですなぁ!」
どこかで聞いた覚えのある声が、横合いから飛んできた。
瓶底の様な分厚いレンズの丸眼鏡、ちょび髭、ドーナツ状に黒髪がサイドに残った禿げ頭、頭頂部にちょろりと生える一本の毛髪。
忘れよう筈も無い。彼こそはミスター名前負け、真心質屋でおもてなしがモットーのベイオウルフ・アレンカイザーだった。
どうやらこのベイオウルフはピーリィ氏の友人だそうで、友達の一大事だとばかりにパル君の捜索に協力していたそうな。
そういえば以前、このベイオウルフから妙な物を買ったことがあったな、などと全くどうでも良いことを思い出しながら、ヴァンは一応挨拶を交わした。
「何だ、知り合いだったのか」
それなら紹介する手間が省けたと物凄く微妙な顔のデリック。どうやら彼の中でも、ベイオウルフの余りにあんまりな名前負けスタイルが、気になって気になって仕方が無かった様だ。
●
それから数分後、どういう訳かヴァンもパル君捜索に加わる破目となっていた。
どうせ暇だろうから手伝えというデリックからの申し入れを受け、何となくその場の空気感に流されてしまったヴァン。これもまた、いつものことだと半分諦めていた。
やるからには、しっかりやり遂げるのが探偵というものだ。ヴァンはひとまず、ピーリィ氏に対する聴取から始めようと考えた。
ピーリィ氏は51歳。ヒューマン男性で、奥さんと娘さんには数年前に夜逃げされており、今はパル君だけが唯一の家族なのだという。
それにしても、類は友を呼ぶというのだろうか。このピーリィ氏も結構な惨状の頭髪具合だった。はっきりいってしまえば、スキンヘッドにした方が良いんじゃないかと思うぐらいに、頭髪量が残念なことになっている。ベイオウルフと良い勝負だった。
それは兎も角、路上で顔を合わせたピーリィ氏から、パル君の行動や日頃の飼育状況をつぶさに聞き出したヴァン。少しでも行動パターンを詳しく掴んでおけば、捕獲も容易になるだろうとの考えだった。
「パル君はいっつも、部屋ん中で悠々自適な生活を楽しんでるんですよ」
ピーリィ氏曰く、パル君専用の部屋があり、格子状の明り取り窓のある角部屋で、割りと気ままなペットライフを満喫している筈だとの由。
本当に充実した生活なのかどうかはパル君本猿のみぞ知るといったところだろうが、飼い主がそういい切るのだから、きっとそうなのだろう。
そして今回パル君が逃げ出した経緯だが、実に単純だった。ピーリィ氏が格子窓をうっかり開けっ放しにしてしまった為、パル君がそこから外へ飛び出していったということらしい。何ともお粗末な話であった。
ひと通りパル君の特徴や性格、行動パターンなどを聞き出したヴァンは、いよいよ捜索に着手。
が、内心では別に放っておいても良いんじゃないかとも思っている。ピーリィ氏の話を聞く限りでは、パル君は勝手に戻ってくる可能性が高いと判断したからだ。
しかしデリックやベイオウルフの手前、一応は捜索に尽力するといっておいた。ピーリィ氏を安心させてやるのも、探偵の役目だと自分にいい聞かせて。
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で、実際に捜索に出てみると、結構色んなところでパル君は目撃されている。その為、足取りを追うのは割りと簡単だった。
ところが、実際に捕まえようとすると、これが中々難しい。
つい先程も、デリックの部下の警備隊員達が網籠とバナナを使った罠を仕掛けてパル君を捕獲しようと試みたが、居合わせたベイオウルフが、
「えっくしっっっっ!」
と、盛大なくしゃみを放ってしまい、逃げられてしまった。
また別の場面では、屋根の上を呑気に駆け回るパル君を追いかけて、警備隊員達が虫取り網を構えて右往左往しながら、必死に駆け回っていた。
彼らは口々に、
「畜生! 何てすばしっこいんだ! あ、猿だから畜生なのは当然か。あれ、でも猿って畜生に相当するんだっけ? どうだっけ?」
「ぐぬぬぬ……俺達警備隊を翻弄するとは、何とも恐ろしい猿君だ!」
「あれはもしかして、メドゥの指先の訓練を受けた手練れの猿なんじゃないか!」
などと適当に叫んでいるのだが、ヴァンの目から見れば、
(いや……普通に散歩してるだけだな)
というのが第一印象だった。そもそも論だが、建物という高低差のある街中では、猿の身体能力の方が人間よりも圧倒的に上だ。とてもではないが、無策のままで追いつけるものではない。
にも関わらず、警備隊員達は(デリックも含めて)必死になってパル君を追い回していた。
逆にヴァンは、もうそろそろかと頃合いを見計らい、ピーリィ氏に一旦自宅へ戻りませんかと提案。
「いや、でもまだパル君が……」
「あぁ、それなら大丈夫ですから」
渋るピーリィ氏を何とかなだめ、落ち着かせて、彼と一緒にアルモン雑貨店へと戻ることにした。
途中、ふたりを見かけたデリックが、
「おぉーい、ヴァン、どこ行くんだー?」
などと呼びかけてきたが、どうせ説明しても無駄だろうから、敢えてシカトすることにした。
●
夕刻。
まだまだ弱々しい西陽が射し込む窓から街路を眺めつつ、ヴァンは途中の青果店で購入したフルーツを口元へ運んでいた。
ここは、アルモン雑貨店二階のパル君部屋。ピーリィ氏が豪語する様に、確かに飼い猿用としては広い部屋だった。キャットウォークならぬモンキーウォークとも呼ぶべき家具や設備も充実しており、この部屋だけでも十分な運動量が確保出来るだろう。
室内にはヴァンやピーリィ氏の他に、デリックやベイオウルフの姿もある。デリックの部下の警備隊員達は今も尚、町中を捜索中だった。
「ヴァン、本当に帰ってくるのか?」
疑わしげな表情で問いかけてくるデリックに、ヴァンは大丈夫だと頷き返した。
その時、通りの向かいの建屋の屋根上に、小さな姿がひょっこり現れた。パル君だった。
ヴァンは手にしていたフルーツをこれ見よがしに掲げて左右に振ると、パル君はきぃきぃと甲高い鳴き声を上げてから、洗濯用の物干しロープを伝ってこちら側へとやってくる。
その様子にデリックやベイオウルフのみならず、ピーリィ氏も驚きを隠せない様子だった。尤も、ピーリィ氏は驚きと同時に嬉しそうな顔色も浮かべていたのであるが。
やがて、パル君はアルモン雑貨店二階の窓べりへと辿り着くと、幾分警戒した様子で一旦歩を止めた。
ここでヴァンが手にしたフルーツの皮を剥いてひと口食べてから、残りを室内の中心付近へと放り投げた。
するとパル君、まるで吸い込まれる様にして窓から室内へと飛び込んできた。ヴァンはすかさず屋内へと身を引き、格子窓を閉めた。
「おぉ! パル君! おかえり~!」
ピーリィ氏は感激の余り、半泣きになりながら愛猿を抱きしめた。一方のパル君、飼い主の喜びなど知ってか知らずか、ヴァンが床に放り投げたフルーツを手に取り、美味そうに咀嚼している。
ここでデリックが、何故パル君が自発的に戻ってくるという確信があったのかと訊いてきた。
「生活習慣ってやつですよ」
ヴァンはこともなげに答えた。
ピーリィ氏からパル君の日頃の生活パターンを聞き出した際、毎日決まった時間に食事を与えていることを知ったヴァンは、腹をすかせたパル君が必ず戻ってくるであろうと考えた。
パル君は飼いならされているが故に、自分で食糧を得る方法を知らない。それ故、確実に食事を与えてくれる飼い主のところに間違い無く戻ってくるだろうとの予測を立てた。
結果、ヴァンの予測は的中した。
「珍しく窓が開いていたから、ちょっとした好奇心で外の世界を満喫したかっただけなんでしょう」
パル君には今の生活を捨ててまで自由になりたいと願う理由は無い筈だ――それが、ヴァンが示した結論だった。
「ところで、部下の皆さんには知らせなくて良いんですか?」
「おっと、そうだった」
ヴァンに指摘され、デリックは慌てて階段を駆け下りて行った。
ベイオウルフも、友人の大事なペットが戻ってきて良かったとしたり顔で退出していったが、結局彼は捜索の邪魔ばかりしていただけで、何ひとつ役に立っていなかった。
リーンエス王国北部の町ホークヤードにも、そろそろ春の兆しが見え始めている。
まだまだ寒い日は続いているが、日中の陽射しは随分暖かく感じる様になってきた。
そんなことを思いながら近場での用事を済ませてローラント探偵事務所へと引き返そうとしていたヴァン・ローラントだったが、気のせいだろうか、妙にホークヤード警備隊員の姿が多い様に感じる。
何かあったのかも知れないが、どうせ自分には無関係だ。
そう決め込んで事務所前の通りに差し掛かった頃、聞き慣れた声が飛んでいた。
「お、ヴァンか、丁度良い! なぁ、猿を見なかったか!」
呼びかけてきたのは毎度お馴染み、ホークヤード警備隊のデリック・エズモンドだった。
嗚呼、また何か厄介事に巻き込まれそうだ――ヴァンは内心で小さな溜息を漏らしつつ、早々に諦めた。もうすっかり、慣れっこだった。
デリックは近くに居た若手の警備隊員達に何やら指示を与えてから、小走りに近づいてきた。
「ヴァン、こういう猿、知らないか?」
いいながらデリックは、一枚の似顔絵を差し出した。似顔絵というより、スケッチだ。それも、物凄く下手な猿の顔の。
この猿の名は、パル君。ここからふたつ隣りの筋で雑貨店を営んでいるピーリィ・アルモンなる人物が飼っているらしい。そのパル君が逃げ出したという通報を受けて、デリックとその部下達が捜索に駆り出されたのだという。
猿にしては随分特徴的な顔立ちだが、ヴァンには見覚えが無かった。
と、その時だった。
「あれあれあれ、こりゃまた奇遇ですなぁ!」
どこかで聞いた覚えのある声が、横合いから飛んできた。
瓶底の様な分厚いレンズの丸眼鏡、ちょび髭、ドーナツ状に黒髪がサイドに残った禿げ頭、頭頂部にちょろりと生える一本の毛髪。
忘れよう筈も無い。彼こそはミスター名前負け、真心質屋でおもてなしがモットーのベイオウルフ・アレンカイザーだった。
どうやらこのベイオウルフはピーリィ氏の友人だそうで、友達の一大事だとばかりにパル君の捜索に協力していたそうな。
そういえば以前、このベイオウルフから妙な物を買ったことがあったな、などと全くどうでも良いことを思い出しながら、ヴァンは一応挨拶を交わした。
「何だ、知り合いだったのか」
それなら紹介する手間が省けたと物凄く微妙な顔のデリック。どうやら彼の中でも、ベイオウルフの余りにあんまりな名前負けスタイルが、気になって気になって仕方が無かった様だ。
●
それから数分後、どういう訳かヴァンもパル君捜索に加わる破目となっていた。
どうせ暇だろうから手伝えというデリックからの申し入れを受け、何となくその場の空気感に流されてしまったヴァン。これもまた、いつものことだと半分諦めていた。
やるからには、しっかりやり遂げるのが探偵というものだ。ヴァンはひとまず、ピーリィ氏に対する聴取から始めようと考えた。
ピーリィ氏は51歳。ヒューマン男性で、奥さんと娘さんには数年前に夜逃げされており、今はパル君だけが唯一の家族なのだという。
それにしても、類は友を呼ぶというのだろうか。このピーリィ氏も結構な惨状の頭髪具合だった。はっきりいってしまえば、スキンヘッドにした方が良いんじゃないかと思うぐらいに、頭髪量が残念なことになっている。ベイオウルフと良い勝負だった。
それは兎も角、路上で顔を合わせたピーリィ氏から、パル君の行動や日頃の飼育状況をつぶさに聞き出したヴァン。少しでも行動パターンを詳しく掴んでおけば、捕獲も容易になるだろうとの考えだった。
「パル君はいっつも、部屋ん中で悠々自適な生活を楽しんでるんですよ」
ピーリィ氏曰く、パル君専用の部屋があり、格子状の明り取り窓のある角部屋で、割りと気ままなペットライフを満喫している筈だとの由。
本当に充実した生活なのかどうかはパル君本猿のみぞ知るといったところだろうが、飼い主がそういい切るのだから、きっとそうなのだろう。
そして今回パル君が逃げ出した経緯だが、実に単純だった。ピーリィ氏が格子窓をうっかり開けっ放しにしてしまった為、パル君がそこから外へ飛び出していったということらしい。何ともお粗末な話であった。
ひと通りパル君の特徴や性格、行動パターンなどを聞き出したヴァンは、いよいよ捜索に着手。
が、内心では別に放っておいても良いんじゃないかとも思っている。ピーリィ氏の話を聞く限りでは、パル君は勝手に戻ってくる可能性が高いと判断したからだ。
しかしデリックやベイオウルフの手前、一応は捜索に尽力するといっておいた。ピーリィ氏を安心させてやるのも、探偵の役目だと自分にいい聞かせて。
●
で、実際に捜索に出てみると、結構色んなところでパル君は目撃されている。その為、足取りを追うのは割りと簡単だった。
ところが、実際に捕まえようとすると、これが中々難しい。
つい先程も、デリックの部下の警備隊員達が網籠とバナナを使った罠を仕掛けてパル君を捕獲しようと試みたが、居合わせたベイオウルフが、
「えっくしっっっっ!」
と、盛大なくしゃみを放ってしまい、逃げられてしまった。
また別の場面では、屋根の上を呑気に駆け回るパル君を追いかけて、警備隊員達が虫取り網を構えて右往左往しながら、必死に駆け回っていた。
彼らは口々に、
「畜生! 何てすばしっこいんだ! あ、猿だから畜生なのは当然か。あれ、でも猿って畜生に相当するんだっけ? どうだっけ?」
「ぐぬぬぬ……俺達警備隊を翻弄するとは、何とも恐ろしい猿君だ!」
「あれはもしかして、メドゥの指先の訓練を受けた手練れの猿なんじゃないか!」
などと適当に叫んでいるのだが、ヴァンの目から見れば、
(いや……普通に散歩してるだけだな)
というのが第一印象だった。そもそも論だが、建物という高低差のある街中では、猿の身体能力の方が人間よりも圧倒的に上だ。とてもではないが、無策のままで追いつけるものではない。
にも関わらず、警備隊員達は(デリックも含めて)必死になってパル君を追い回していた。
逆にヴァンは、もうそろそろかと頃合いを見計らい、ピーリィ氏に一旦自宅へ戻りませんかと提案。
「いや、でもまだパル君が……」
「あぁ、それなら大丈夫ですから」
渋るピーリィ氏を何とかなだめ、落ち着かせて、彼と一緒にアルモン雑貨店へと戻ることにした。
途中、ふたりを見かけたデリックが、
「おぉーい、ヴァン、どこ行くんだー?」
などと呼びかけてきたが、どうせ説明しても無駄だろうから、敢えてシカトすることにした。
●
夕刻。
まだまだ弱々しい西陽が射し込む窓から街路を眺めつつ、ヴァンは途中の青果店で購入したフルーツを口元へ運んでいた。
ここは、アルモン雑貨店二階のパル君部屋。ピーリィ氏が豪語する様に、確かに飼い猿用としては広い部屋だった。キャットウォークならぬモンキーウォークとも呼ぶべき家具や設備も充実しており、この部屋だけでも十分な運動量が確保出来るだろう。
室内にはヴァンやピーリィ氏の他に、デリックやベイオウルフの姿もある。デリックの部下の警備隊員達は今も尚、町中を捜索中だった。
「ヴァン、本当に帰ってくるのか?」
疑わしげな表情で問いかけてくるデリックに、ヴァンは大丈夫だと頷き返した。
その時、通りの向かいの建屋の屋根上に、小さな姿がひょっこり現れた。パル君だった。
ヴァンは手にしていたフルーツをこれ見よがしに掲げて左右に振ると、パル君はきぃきぃと甲高い鳴き声を上げてから、洗濯用の物干しロープを伝ってこちら側へとやってくる。
その様子にデリックやベイオウルフのみならず、ピーリィ氏も驚きを隠せない様子だった。尤も、ピーリィ氏は驚きと同時に嬉しそうな顔色も浮かべていたのであるが。
やがて、パル君はアルモン雑貨店二階の窓べりへと辿り着くと、幾分警戒した様子で一旦歩を止めた。
ここでヴァンが手にしたフルーツの皮を剥いてひと口食べてから、残りを室内の中心付近へと放り投げた。
するとパル君、まるで吸い込まれる様にして窓から室内へと飛び込んできた。ヴァンはすかさず屋内へと身を引き、格子窓を閉めた。
「おぉ! パル君! おかえり~!」
ピーリィ氏は感激の余り、半泣きになりながら愛猿を抱きしめた。一方のパル君、飼い主の喜びなど知ってか知らずか、ヴァンが床に放り投げたフルーツを手に取り、美味そうに咀嚼している。
ここでデリックが、何故パル君が自発的に戻ってくるという確信があったのかと訊いてきた。
「生活習慣ってやつですよ」
ヴァンはこともなげに答えた。
ピーリィ氏からパル君の日頃の生活パターンを聞き出した際、毎日決まった時間に食事を与えていることを知ったヴァンは、腹をすかせたパル君が必ず戻ってくるであろうと考えた。
パル君は飼いならされているが故に、自分で食糧を得る方法を知らない。それ故、確実に食事を与えてくれる飼い主のところに間違い無く戻ってくるだろうとの予測を立てた。
結果、ヴァンの予測は的中した。
「珍しく窓が開いていたから、ちょっとした好奇心で外の世界を満喫したかっただけなんでしょう」
パル君には今の生活を捨ててまで自由になりたいと願う理由は無い筈だ――それが、ヴァンが示した結論だった。
「ところで、部下の皆さんには知らせなくて良いんですか?」
「おっと、そうだった」
ヴァンに指摘され、デリックは慌てて階段を駆け下りて行った。
ベイオウルフも、友人の大事なペットが戻ってきて良かったとしたり顔で退出していったが、結局彼は捜索の邪魔ばかりしていただけで、何ひとつ役に立っていなかった。