淑女の嗜み
キャラクターノベル制作 伊治納品 2023年02月19日 12時51分23秒
●
「まさかシルヴィア様が私の心友達と知己を得ていたとは!」
「友人が依頼を通じて知り合っていてね」
シルヴィア・A・カペルが微笑むと、彼女の前に座っていた職人セテスはフィドルを奏でた。
不思議な縁を喜んでいるようだ――シルヴィアもこの職人とは付き合いも長くなってきたので、慣れたものだ。
カペル領にあるダール工房は、フィドルの工房だ。
ここの工房を統括する親方の息子がヴェルクリエのルーガルという工房で学びを重ねていたセテスという若い職人だ。
ヴェルクリエで出会ったヴェルクリエらしい2組の職人夫婦が口にしていた心の友がセテスと似ていたので、視察ついでに話を振ってみれば、当たりだった。
青薔薇が領の悲願である話を聞き、あの夫婦は創作意欲を刺激されて青薔薇の髪飾りとかをちょっと量産したとか何とか。
「縁とは不思議なものだよね」
シルヴィアがしみじみしていると、工房の入り口の方から何か大きな物音が聞こえてきた。
セテスが顔を顰め、何か嫌そうな音色を弾き出す。
心当たりがあるのか――シルヴィアが尋ねるよりも前に若い職人が応接間に飛び込んできた。
「セテス、また来たぞ! ……あ! 失礼しました!」
「また?」
シルヴィアがセテスを見ると、セテスが恋人がいたら絶対に見せてはいけないような、物凄い顔でこの世の終わりのような音色を弾いていた。
セテスが嫌がった理由は何か。
――簡単に言えば、嫁付きの引き抜き話である。
「来月の彼女の誕生日に挙式予定なんですけど」
「あ、それはおめでとう」
「ありがとうございます。だから、すごく困っているというか」
などと会話をしていたら、けたたましく走ってくる音がして――
「セテス様、誰ですかその女性は!」
気位の高そうな少女が応接間に飛び込んできた。
●
シルヴィアは、その少女が今年の春に学園へ入学することは知っていた。
卒業を待つばかりの今、『蒼玉』の後継者でもあるシルヴィアは冒険者稼業の合間を縫って父より領地経営を学び、社交も重ねている。
そう、社交の一環として、昨年卒業したこの少女の兄が子爵家を継ぎ、挨拶の言葉を受けた際にそういう話が出た。
(お察しするよ……)
産後の肥立ちが悪く母を亡くした為、前子爵が大層甘やかしてしまった。貴族にとっては社交界の縮図とも言える学園で上手くやれるか不安――兄の心配が正しいとシルヴィアは少し遠い目をした。
それも、セテスの壮絶に拒否しているであろうメロディで引き戻されたが。
「こちらはどちら様かな?」
聞かれたセテスは空気をしっかり読み、シルヴィアが恐らく少女のことは知っていること、知っているが知らないふりをすること、ついでに自分の身分は伏せることを察したが、口に出さない。
「無礼な! まず、あなたが名乗るべきでしょう!」
「ただのシルヴィアだ」
セテスがそうですよねという顔で紹介の音楽を奏でる。
ちょっと変わった癖があるだけで、セテスは空気を読むのが上手かった。
「私はヴェイン子爵の妹、ガーデニアですわ!」
「子爵令嬢が何故、カペル侯爵領にいるんだい?」
ここはカペル侯爵領。他所様の、しかも高位貴族の領だ。
前子爵が甘やかしていたからとは言え、少々お転婆が過ぎる。
そこへ従者が追い付いてきて、流れるようにシルヴィアとセテスの前でひれ伏した。
「申し訳ございません、申し訳ございません」
慣れ過ぎている謝罪の姿は、哀愁漂いすぎている。
それを見たガーデニアが何故謝るのかと叱り飛ばしているのだから、更に切ない。
シルヴィアは従者が可哀想になって来たので、ひとまず、事情を聞くことにした。
「産業を奨励する為にセテスを子爵領へ招きたい?」
「優秀な若手職人が必要なのですわ!」
ヴェイン子爵領は農業を中心とした領で、王国の中では平均的だ。
カペルとも親交がある寄り親との関係も悪くないが、特別目を掛けられる程ではない。程々の距離感だ。
シルヴィアはそれがヴェイン子爵家の処世術であり、特に当代の子爵は自身の優秀さを隠していることに気づいてからは王国の子爵として可もなく不可もない、言わば平均値を叩き出し続ける能力に注目していた。
だから、これは彼女の独断だと判る。
「賛成できないな」
とは言え、セテスの腕を見込み、隣接していないカペル領にまで来る根性の持ち主だ、言って解ったら苦労しない。
「セテス、カードはあるね?」
シルヴィアの問いにセテスは華やかな音楽で答えた。
●
ROSE&SEED――カペル領で遊ばれているカードゲームだ。
ちょっとした休憩時間でも遊べるようにシンプルなルールではあるが、その分奥が深い。
「さて、私はセテスの婚約者殿の憂いを晴らす為にこちらで決闘を申し込もう」
セテスの婚約者は青薔薇にも所属する彼の幼馴染の舞姫であることはシルヴィアも知っている。
あちらはあちらで中々過激な性格なので、侯爵家としては青薔薇の為にこの2人の破局は困るのだ。
「いいでしょう、身の程を教えて差し上げますわ!」
ガーデニアは鼻息荒くそう言ったが、従者の方が気づいたらしく、慌てて止めようとする。
けれど、シルヴィアが止めた。
悪いようにはしないと言うように首を振り、応接間のソファへ2人は相対するようにして座った。
(カペル領のカードゲームで決闘というなら腕に覚えがあるのでしょう)
ガーデニアはそう考え、カードに目を落とした。
種と姫、苗と農民、葉と商人、蕾と魔術師、薔薇と騎士……種と姫は薔薇と騎士以外には勝てないが、薔薇と騎士は種と姫以外には勝てる。基本、成長過程で強さが決まると考えてよいだろう。
(3回勝負で先に2勝した者が勝つ)
同じカードを出せないことを考えれば、シンプルだからこそ読み合いになれば難しいゲームだ。
決闘をを申し込む位だから手練れと思っていいが、家名がないなら高度な教育は受けていない筈。
(様子を見た方が良さそうですわね)
ガーデニアが出したのは、葉と商人。
シルヴィアが出したのも、葉と商人。
(様子を見てきたね)
シルヴィアが口元を小さく綻ばせる。
さて、次はどのカードを出してくるか。
薔薇と騎士は強いが、姫と種には勝てない。この特性を考えると、実は迂闊に出せないカードである。相手が種と姫を出さないと読まなかったら出せない。
同様に、種と姫も相手が薔薇と騎士を出すと読まなければ出すのが危険なカードだ。
ガーデニアは引き分けだった時点でシルヴィアが自分と同じように様子見をしてきたことに気づく。
(そうすると、次の札はこれだろうな)
シルヴィアは出すカードを決めた。
シルヴィアが出したのは、蕾と魔術師。
ガーデニアが出したのも、蕾と魔術師。
(また引き分けですって!?)
確かに薔薇と騎士は博打性が高い手札だ。
種と姫を出さないことを読む必要があることから、前半に切ってくる可能性が低いと踏んで、次に強い蕾と魔術師を選んだ。
それを、相手も読んでいたというのか!
(次の勝負が最後の勝負。引き分けが続き、どちらも2勝できない状況ですが、延長をしたとしても次で全てが決まってしまう)
ならば、相手は必ず勝てるよう賭けてくる筈だ。
自分が選ぶべき札は――
ガーデニアが出したのは、種と姫。
シルヴィアが出したのは――苗と農民。
「私の勝ちでいいかな」
シルヴィアがにっこり微笑む。
残った手札――シルヴィアが薔薇と騎士、種と姫を残し、ガーデニアが薔薇と騎士、苗と農民を残している。シルヴィアが薔薇と騎士を出しさせすれば引き分け以上が確定している。
「どうして……」
「私が薔薇と騎士で確実な勝利を狙ってくると考えるのではないかと読み、種と姫を出すと読んだ。様子見の葉と商人の引き分けはともかく、確実に取りたかったであろう蕾と魔術師が引き分けになることまでは読み切れていないかなと思ったからね」
ガーデニアはその言葉で、蕾と魔術師の引き分けを狙って出されたことに気づく。
そこで薔薇と騎士を出せば勝てたであろうに、五分の条件に持ち込んだ意味合いが判らない。
「あそこで勝つと選択肢の幅が逆に増える。私自身の逃げ道も潰してこそ確実な勝利の道筋が見えると思ってね」
淑女とは逃げ道を絶ってから動くもの――シルヴィアはそう微笑み、告げた。
「だから、我が家の青薔薇は諦めてほしいな」
ガーデニアが従者を見る。従者は泣きそうな顔でこくりと頷いた。
意味を理解した彼女は即座に床へひれ伏す。
「申し訳ございません、私の独断です。子爵家に咎はどうか、どうか……」
「今あなたと決闘したのはただのシルヴィアだよ。最初に名乗った通りね」
シルヴィアが頭を上げるよう言うと、震えているガーデニアが恐る恐る顔を上げる。
「あの兄上が心配するだけある。あなたの兄上が優秀であることは私も知っている。兄上の手腕を信じて、春からしっかり学んでほしい」
そこで早馬の使者が工房へ到着し、てんやわんやはあったものの、ガーデニアは子爵領へ帰って行った。
●
数々の無礼は公にしなかったものの、シルヴィア宛に子爵から謝罪文が届いた。
妹を助けてくれたお礼状という名目でギルドへ手紙を預けた形を取っており、侯爵家にあの件が正式に報告されていると察していても、ただのシルヴィアへ配慮してくれたことが伺える。
「兄上とはいい勝負ができそうだ」
平均値を意図的に出している者が、平凡な訳がない。
妹の行動が子爵家を想ってのこととはいえ、暴走は暴走だ。侯爵家に今回の件を黙認という借りを作ってしまったと痛手に思っているだろうが、手紙には露程にも出さない。
「全力勝負をお願いしてみようかな」
ゲームであるなら、お互い選択の責任を考える必要はない。
シルヴィアは楽しげに笑いつつ、子爵へどう返事を書いたらゲームのテーブルに着いてくれるだろうと考えるのだった。
勝負は――時の運だから面白い。
「まさかシルヴィア様が私の心友達と知己を得ていたとは!」
「友人が依頼を通じて知り合っていてね」
シルヴィア・A・カペルが微笑むと、彼女の前に座っていた職人セテスはフィドルを奏でた。
不思議な縁を喜んでいるようだ――シルヴィアもこの職人とは付き合いも長くなってきたので、慣れたものだ。
カペル領にあるダール工房は、フィドルの工房だ。
ここの工房を統括する親方の息子がヴェルクリエのルーガルという工房で学びを重ねていたセテスという若い職人だ。
ヴェルクリエで出会ったヴェルクリエらしい2組の職人夫婦が口にしていた心の友がセテスと似ていたので、視察ついでに話を振ってみれば、当たりだった。
青薔薇が領の悲願である話を聞き、あの夫婦は創作意欲を刺激されて青薔薇の髪飾りとかをちょっと量産したとか何とか。
「縁とは不思議なものだよね」
シルヴィアがしみじみしていると、工房の入り口の方から何か大きな物音が聞こえてきた。
セテスが顔を顰め、何か嫌そうな音色を弾き出す。
心当たりがあるのか――シルヴィアが尋ねるよりも前に若い職人が応接間に飛び込んできた。
「セテス、また来たぞ! ……あ! 失礼しました!」
「また?」
シルヴィアがセテスを見ると、セテスが恋人がいたら絶対に見せてはいけないような、物凄い顔でこの世の終わりのような音色を弾いていた。
セテスが嫌がった理由は何か。
――簡単に言えば、嫁付きの引き抜き話である。
「来月の彼女の誕生日に挙式予定なんですけど」
「あ、それはおめでとう」
「ありがとうございます。だから、すごく困っているというか」
などと会話をしていたら、けたたましく走ってくる音がして――
「セテス様、誰ですかその女性は!」
気位の高そうな少女が応接間に飛び込んできた。
●
シルヴィアは、その少女が今年の春に学園へ入学することは知っていた。
卒業を待つばかりの今、『蒼玉』の後継者でもあるシルヴィアは冒険者稼業の合間を縫って父より領地経営を学び、社交も重ねている。
そう、社交の一環として、昨年卒業したこの少女の兄が子爵家を継ぎ、挨拶の言葉を受けた際にそういう話が出た。
(お察しするよ……)
産後の肥立ちが悪く母を亡くした為、前子爵が大層甘やかしてしまった。貴族にとっては社交界の縮図とも言える学園で上手くやれるか不安――兄の心配が正しいとシルヴィアは少し遠い目をした。
それも、セテスの壮絶に拒否しているであろうメロディで引き戻されたが。
「こちらはどちら様かな?」
聞かれたセテスは空気をしっかり読み、シルヴィアが恐らく少女のことは知っていること、知っているが知らないふりをすること、ついでに自分の身分は伏せることを察したが、口に出さない。
「無礼な! まず、あなたが名乗るべきでしょう!」
「ただのシルヴィアだ」
セテスがそうですよねという顔で紹介の音楽を奏でる。
ちょっと変わった癖があるだけで、セテスは空気を読むのが上手かった。
「私はヴェイン子爵の妹、ガーデニアですわ!」
「子爵令嬢が何故、カペル侯爵領にいるんだい?」
ここはカペル侯爵領。他所様の、しかも高位貴族の領だ。
前子爵が甘やかしていたからとは言え、少々お転婆が過ぎる。
そこへ従者が追い付いてきて、流れるようにシルヴィアとセテスの前でひれ伏した。
「申し訳ございません、申し訳ございません」
慣れ過ぎている謝罪の姿は、哀愁漂いすぎている。
それを見たガーデニアが何故謝るのかと叱り飛ばしているのだから、更に切ない。
シルヴィアは従者が可哀想になって来たので、ひとまず、事情を聞くことにした。
「産業を奨励する為にセテスを子爵領へ招きたい?」
「優秀な若手職人が必要なのですわ!」
ヴェイン子爵領は農業を中心とした領で、王国の中では平均的だ。
カペルとも親交がある寄り親との関係も悪くないが、特別目を掛けられる程ではない。程々の距離感だ。
シルヴィアはそれがヴェイン子爵家の処世術であり、特に当代の子爵は自身の優秀さを隠していることに気づいてからは王国の子爵として可もなく不可もない、言わば平均値を叩き出し続ける能力に注目していた。
だから、これは彼女の独断だと判る。
「賛成できないな」
とは言え、セテスの腕を見込み、隣接していないカペル領にまで来る根性の持ち主だ、言って解ったら苦労しない。
「セテス、カードはあるね?」
シルヴィアの問いにセテスは華やかな音楽で答えた。
●
ROSE&SEED――カペル領で遊ばれているカードゲームだ。
ちょっとした休憩時間でも遊べるようにシンプルなルールではあるが、その分奥が深い。
「さて、私はセテスの婚約者殿の憂いを晴らす為にこちらで決闘を申し込もう」
セテスの婚約者は青薔薇にも所属する彼の幼馴染の舞姫であることはシルヴィアも知っている。
あちらはあちらで中々過激な性格なので、侯爵家としては青薔薇の為にこの2人の破局は困るのだ。
「いいでしょう、身の程を教えて差し上げますわ!」
ガーデニアは鼻息荒くそう言ったが、従者の方が気づいたらしく、慌てて止めようとする。
けれど、シルヴィアが止めた。
悪いようにはしないと言うように首を振り、応接間のソファへ2人は相対するようにして座った。
(カペル領のカードゲームで決闘というなら腕に覚えがあるのでしょう)
ガーデニアはそう考え、カードに目を落とした。
種と姫、苗と農民、葉と商人、蕾と魔術師、薔薇と騎士……種と姫は薔薇と騎士以外には勝てないが、薔薇と騎士は種と姫以外には勝てる。基本、成長過程で強さが決まると考えてよいだろう。
(3回勝負で先に2勝した者が勝つ)
同じカードを出せないことを考えれば、シンプルだからこそ読み合いになれば難しいゲームだ。
決闘をを申し込む位だから手練れと思っていいが、家名がないなら高度な教育は受けていない筈。
(様子を見た方が良さそうですわね)
ガーデニアが出したのは、葉と商人。
シルヴィアが出したのも、葉と商人。
(様子を見てきたね)
シルヴィアが口元を小さく綻ばせる。
さて、次はどのカードを出してくるか。
薔薇と騎士は強いが、姫と種には勝てない。この特性を考えると、実は迂闊に出せないカードである。相手が種と姫を出さないと読まなかったら出せない。
同様に、種と姫も相手が薔薇と騎士を出すと読まなければ出すのが危険なカードだ。
ガーデニアは引き分けだった時点でシルヴィアが自分と同じように様子見をしてきたことに気づく。
(そうすると、次の札はこれだろうな)
シルヴィアは出すカードを決めた。
シルヴィアが出したのは、蕾と魔術師。
ガーデニアが出したのも、蕾と魔術師。
(また引き分けですって!?)
確かに薔薇と騎士は博打性が高い手札だ。
種と姫を出さないことを読む必要があることから、前半に切ってくる可能性が低いと踏んで、次に強い蕾と魔術師を選んだ。
それを、相手も読んでいたというのか!
(次の勝負が最後の勝負。引き分けが続き、どちらも2勝できない状況ですが、延長をしたとしても次で全てが決まってしまう)
ならば、相手は必ず勝てるよう賭けてくる筈だ。
自分が選ぶべき札は――
ガーデニアが出したのは、種と姫。
シルヴィアが出したのは――苗と農民。
「私の勝ちでいいかな」
シルヴィアがにっこり微笑む。
残った手札――シルヴィアが薔薇と騎士、種と姫を残し、ガーデニアが薔薇と騎士、苗と農民を残している。シルヴィアが薔薇と騎士を出しさせすれば引き分け以上が確定している。
「どうして……」
「私が薔薇と騎士で確実な勝利を狙ってくると考えるのではないかと読み、種と姫を出すと読んだ。様子見の葉と商人の引き分けはともかく、確実に取りたかったであろう蕾と魔術師が引き分けになることまでは読み切れていないかなと思ったからね」
ガーデニアはその言葉で、蕾と魔術師の引き分けを狙って出されたことに気づく。
そこで薔薇と騎士を出せば勝てたであろうに、五分の条件に持ち込んだ意味合いが判らない。
「あそこで勝つと選択肢の幅が逆に増える。私自身の逃げ道も潰してこそ確実な勝利の道筋が見えると思ってね」
淑女とは逃げ道を絶ってから動くもの――シルヴィアはそう微笑み、告げた。
「だから、我が家の青薔薇は諦めてほしいな」
ガーデニアが従者を見る。従者は泣きそうな顔でこくりと頷いた。
意味を理解した彼女は即座に床へひれ伏す。
「申し訳ございません、私の独断です。子爵家に咎はどうか、どうか……」
「今あなたと決闘したのはただのシルヴィアだよ。最初に名乗った通りね」
シルヴィアが頭を上げるよう言うと、震えているガーデニアが恐る恐る顔を上げる。
「あの兄上が心配するだけある。あなたの兄上が優秀であることは私も知っている。兄上の手腕を信じて、春からしっかり学んでほしい」
そこで早馬の使者が工房へ到着し、てんやわんやはあったものの、ガーデニアは子爵領へ帰って行った。
●
数々の無礼は公にしなかったものの、シルヴィア宛に子爵から謝罪文が届いた。
妹を助けてくれたお礼状という名目でギルドへ手紙を預けた形を取っており、侯爵家にあの件が正式に報告されていると察していても、ただのシルヴィアへ配慮してくれたことが伺える。
「兄上とはいい勝負ができそうだ」
平均値を意図的に出している者が、平凡な訳がない。
妹の行動が子爵家を想ってのこととはいえ、暴走は暴走だ。侯爵家に今回の件を黙認という借りを作ってしまったと痛手に思っているだろうが、手紙には露程にも出さない。
「全力勝負をお願いしてみようかな」
ゲームであるなら、お互い選択の責任を考える必要はない。
シルヴィアは楽しげに笑いつつ、子爵へどう返事を書いたらゲームのテーブルに着いてくれるだろうと考えるのだった。
勝負は――時の運だから面白い。