甘い夜
キャラクターノベル(グループ)制作 KAN納品 2023年02月15日 16時49分45秒
(夢か、現か。これは、とある2人の、とある世界での物語――)
VDの夜。夜景の見えるバーで、ジュスト・ヴェルジーは戸惑っていた。
大企業ヴェルジーグループの次男坊。社交上手で女性の扱いにもたけている彼は、非常にスマートに今夜のメニューを立てていた。
ディナーも終わり、今はホテルのバー。ここでゆっくりした後、彼女を自宅まで送り届ける。『送り届ける』までがミッションだ。大丈夫、今回もうまくやれるさ――頑張ろうぜ、理性。
ジュストは分かっていた。品行方正な婚約者だから、彼女の家から夜のデートもOKが出ているという事を。だが。
最近品行方正が難しくなっている。婚約者が魅力的すぎるのだ。彼女と心を通わせるほど、ジュストは生々しい欲に襲われる。――こんな事を彼女に知られては、幻滅されてしまう。だから今夜も、しっかりと王子様の仮面をつけて優雅に彼女と対峙していたはずなのに。
俺の婚約者は本当に予想の斜め上を行く。俺の予定では、このバーで彼女が欲しがっていたネックレスをプレゼントするつもりだった。実際上品にラッピングされた物を、今俺は彼女の目の前に出しているじゃないか。
なのに。
――なんで同じ包みの物がもう1つ、彼女から俺の目の前に差し出されているんだ?
「えーと……ロゼ、これは?」
カウンターテーブルに載せられた2つの同じ包みを前に、ジュストは辛うじて微笑みながら、自分の隣に優雅に座る婚約者、ローザリカ・L・ディオールに問いかける。ローザリカは華やかな笑みを浮かべ言った。
「僕が欲しかったネックレスだろう? ありがとう、開けていいか?」
「ああぜひ……じゃなくて。いや、俺からの物を開けるのは構わないんだけど。訊きたいのはそうじゃなくて、このもう1つの物で……」
声音に困惑の色が隠せない。そんな彼の様子に、ローザリカはくつくつと笑った。
「ふふ。それは僕から君にプレゼントだ。せっかくだから一緒に開けよう?」
「え?」
結局、2人は同時に包みを開ける。出てきたのは、全く同じデザインのダブルリングネックレスだった。
「うん、僕が欲しかった物だ。ありがとう、ジュスト」
「いや、ちょっと待ってロゼ。同じのが2つ……? 保存用と普段使い用……?」
もう混乱を隠しもせず、眉を顰め2つのネックレスを見比べるジュスト。堪らずローザリカが噴き出した。
「落ち着いてジュスト。1つは君のだ。僕からだって言っただろう?」
ローザリカは白い指で、自分が差し出した方のネックレスを取り上げた。
「これは男物だから、チェーンが僕のより長いんだ。着けてあげよう」
すっとローザリカの細い腕がジュストの首に絡みつく。しかしすぐにローザリカの腕は離れ、引き換えにジュストの首にはネックレスが着けられていた。
「うん、シンプルな物にして良かったな。似合うぞ……まあ何だって君は似合ってしまうが」
満足そうにローザリカはネックレスを着けたジュストを見つめる。ここでようやくジュストは合点がいった。
「ああそうか……おいで、ロゼ。俺も着けてあげる」
おいで、と言ったくせにジュストはロゼを待たずにもう1つのネックレスを片手に彼女を引き寄せる。勢いついて、トンとジュストの肩にロゼは顔を伏せた。
「ちょっ……!」
「動かないでロゼ」
ロゼの耳元で低い甘い声がする。しばらくして少し名残惜しそうにジュストの体が離れた。
「似合うよロゼ」
そこには、彼とお揃いのネックレスと着けたローザリカの姿。彼女は自分に着けられたネックレスを手に取ると、朝露に咲く薔薇のように可憐に笑った。
「……うん、お揃い」
その可愛らしい声はジュストの耳にしっかり届き、彼は思わずローザリカをまじまじと見た。その不躾な視線に、ローザリカは真っ赤になりながらぷいっと横を向いた。
「ほ、本当は僕以外に靡いたりしないよう、首輪でも贈ってやりたいところなんだがな!」
だいたい君は……、とローザリカがジュストの普段スマートすぎる女性対応について愚痴を続けようとする。が、できなかった。
ジュストに抱きすくめられてしまったから。
「ジュ、ジュスト?!」
「……ロゼ、ネックレスのチェーンが外れてるから着けてあげる」
「嘘だ! しっかり留まってるじゃないか!」
暫くの間ぎゅうぎゅうに、ジュストに抱きしめられてしまうローザリカだった。
*
財閥令嬢ローザリカ・L・ディオールは意気込んでいた。
今日の予定……というか野望はだいぶ順調に進んでいた。
世の恋人達がすなる『お揃い』というものをジュストとするという、非常に大きな(?)野望を見事に叶えたのである。
そしてもう1つ、ローザリカには今日叶えたい野望があった。
さっきまで抱きしめてくれた事などすっかり忘れてしまったかのように、ジュストは楽し気に話している。でも僕には分かる。君は時間を気にし始めている。何故なら、もうすぐ僕の門限の時間だから。
いつも紳士的なジュスト。今日もしっかりと僕を家に送り届ける気なんだろう。
でも僕は知りたいんだ。――君の優しく、甘い仮面を外したら、一体何が出てくる?
「ジュスト……実はもう1つ、君にプレゼントがあるんだ」
「何かな? ロゼのくれるものだったら、何だって嬉しいけれど」
硬い声のローザリカを前に、甘い顔でジュストが笑った。
ローザリカは真剣だった。女性誌にあった、ドキドキするようなバレンタイン特集。世の女性はこんな事を相手にどう切り出しているんだろう。さんざか悩んだが答えが出なかったローザリカは……直球勝負でいく事にした。
「プレゼントは……僕だ!」
――時が、止まった。
2人の向かい合わせ硬直状態を解いたのは、ジュストの方だった。
「……ありがとう、ロゼ。いつも君との素敵な時間は宝物だよ」
腕時計を見ながら穏やかに返すジュストに、ローザリカは慌てて身を乗り出した。
「違う! そうじゃなくてジュスト、バレンタインではチョコを渡すだろう? だから、僕がチョコで、その……!」
ローザリカは自身が読んだ特集記事の説明をジュストにしようとしたが、続けられなかった。大きな手に、口を塞がれてしまったから。ジュストの意外とかっしりした掌が、ローザリカの唇の上にあった。
「……?」
ローザリカは口を塞がれながら、ジュストを覗き込む。そして気が付いた。
――ジュストが、苦しそうな顔をしていた。
「……ジュスト、どうした?」
具合が悪いのだろうか。ローザリカが彼の手をどかして問いかけた瞬間、彼女は再びジュストに抱きすくめられてしまった。
「ジュスト?!」
「……また君はそうやって」
溜息交じりに言うとジュストは腕を解き、ローザリカを真正面から見据えた。その瞳を見た瞬間、ローザリカは悟った。
――あれだけ見たいと思っていた仮面の下のジュストが、そこにいた。
ジュストに掴まれた両肩は、痛くはなかった。彼は絶対にローザリカに酷い事はしないから。ただ、熱かった。何もかもが、熱かった。
「チョコ……食べていいかい?」
ジュストがローザリカを抱き寄せながら囁く。彼女は堪らず彼の腕の中で俯いた。
「……あまり見られると、溶けてしまう」
小さな小さな声。それは彼女を食べるという男の耳にはしっかり届いていた。
「……ドロドロに、溶かしてあげる」
熱い声に溶かされる。
仮面の下にいたのは――ローザリカを欲しいと思っている、ただの男。
VDの夜。夜景の見えるバーで、ジュスト・ヴェルジーは戸惑っていた。
大企業ヴェルジーグループの次男坊。社交上手で女性の扱いにもたけている彼は、非常にスマートに今夜のメニューを立てていた。
ディナーも終わり、今はホテルのバー。ここでゆっくりした後、彼女を自宅まで送り届ける。『送り届ける』までがミッションだ。大丈夫、今回もうまくやれるさ――頑張ろうぜ、理性。
ジュストは分かっていた。品行方正な婚約者だから、彼女の家から夜のデートもOKが出ているという事を。だが。
最近品行方正が難しくなっている。婚約者が魅力的すぎるのだ。彼女と心を通わせるほど、ジュストは生々しい欲に襲われる。――こんな事を彼女に知られては、幻滅されてしまう。だから今夜も、しっかりと王子様の仮面をつけて優雅に彼女と対峙していたはずなのに。
俺の婚約者は本当に予想の斜め上を行く。俺の予定では、このバーで彼女が欲しがっていたネックレスをプレゼントするつもりだった。実際上品にラッピングされた物を、今俺は彼女の目の前に出しているじゃないか。
なのに。
――なんで同じ包みの物がもう1つ、彼女から俺の目の前に差し出されているんだ?
「えーと……ロゼ、これは?」
カウンターテーブルに載せられた2つの同じ包みを前に、ジュストは辛うじて微笑みながら、自分の隣に優雅に座る婚約者、ローザリカ・L・ディオールに問いかける。ローザリカは華やかな笑みを浮かべ言った。
「僕が欲しかったネックレスだろう? ありがとう、開けていいか?」
「ああぜひ……じゃなくて。いや、俺からの物を開けるのは構わないんだけど。訊きたいのはそうじゃなくて、このもう1つの物で……」
声音に困惑の色が隠せない。そんな彼の様子に、ローザリカはくつくつと笑った。
「ふふ。それは僕から君にプレゼントだ。せっかくだから一緒に開けよう?」
「え?」
結局、2人は同時に包みを開ける。出てきたのは、全く同じデザインのダブルリングネックレスだった。
「うん、僕が欲しかった物だ。ありがとう、ジュスト」
「いや、ちょっと待ってロゼ。同じのが2つ……? 保存用と普段使い用……?」
もう混乱を隠しもせず、眉を顰め2つのネックレスを見比べるジュスト。堪らずローザリカが噴き出した。
「落ち着いてジュスト。1つは君のだ。僕からだって言っただろう?」
ローザリカは白い指で、自分が差し出した方のネックレスを取り上げた。
「これは男物だから、チェーンが僕のより長いんだ。着けてあげよう」
すっとローザリカの細い腕がジュストの首に絡みつく。しかしすぐにローザリカの腕は離れ、引き換えにジュストの首にはネックレスが着けられていた。
「うん、シンプルな物にして良かったな。似合うぞ……まあ何だって君は似合ってしまうが」
満足そうにローザリカはネックレスを着けたジュストを見つめる。ここでようやくジュストは合点がいった。
「ああそうか……おいで、ロゼ。俺も着けてあげる」
おいで、と言ったくせにジュストはロゼを待たずにもう1つのネックレスを片手に彼女を引き寄せる。勢いついて、トンとジュストの肩にロゼは顔を伏せた。
「ちょっ……!」
「動かないでロゼ」
ロゼの耳元で低い甘い声がする。しばらくして少し名残惜しそうにジュストの体が離れた。
「似合うよロゼ」
そこには、彼とお揃いのネックレスと着けたローザリカの姿。彼女は自分に着けられたネックレスを手に取ると、朝露に咲く薔薇のように可憐に笑った。
「……うん、お揃い」
その可愛らしい声はジュストの耳にしっかり届き、彼は思わずローザリカをまじまじと見た。その不躾な視線に、ローザリカは真っ赤になりながらぷいっと横を向いた。
「ほ、本当は僕以外に靡いたりしないよう、首輪でも贈ってやりたいところなんだがな!」
だいたい君は……、とローザリカがジュストの普段スマートすぎる女性対応について愚痴を続けようとする。が、できなかった。
ジュストに抱きすくめられてしまったから。
「ジュ、ジュスト?!」
「……ロゼ、ネックレスのチェーンが外れてるから着けてあげる」
「嘘だ! しっかり留まってるじゃないか!」
暫くの間ぎゅうぎゅうに、ジュストに抱きしめられてしまうローザリカだった。
*
財閥令嬢ローザリカ・L・ディオールは意気込んでいた。
今日の予定……というか野望はだいぶ順調に進んでいた。
世の恋人達がすなる『お揃い』というものをジュストとするという、非常に大きな(?)野望を見事に叶えたのである。
そしてもう1つ、ローザリカには今日叶えたい野望があった。
さっきまで抱きしめてくれた事などすっかり忘れてしまったかのように、ジュストは楽し気に話している。でも僕には分かる。君は時間を気にし始めている。何故なら、もうすぐ僕の門限の時間だから。
いつも紳士的なジュスト。今日もしっかりと僕を家に送り届ける気なんだろう。
でも僕は知りたいんだ。――君の優しく、甘い仮面を外したら、一体何が出てくる?
「ジュスト……実はもう1つ、君にプレゼントがあるんだ」
「何かな? ロゼのくれるものだったら、何だって嬉しいけれど」
硬い声のローザリカを前に、甘い顔でジュストが笑った。
ローザリカは真剣だった。女性誌にあった、ドキドキするようなバレンタイン特集。世の女性はこんな事を相手にどう切り出しているんだろう。さんざか悩んだが答えが出なかったローザリカは……直球勝負でいく事にした。
「プレゼントは……僕だ!」
――時が、止まった。
2人の向かい合わせ硬直状態を解いたのは、ジュストの方だった。
「……ありがとう、ロゼ。いつも君との素敵な時間は宝物だよ」
腕時計を見ながら穏やかに返すジュストに、ローザリカは慌てて身を乗り出した。
「違う! そうじゃなくてジュスト、バレンタインではチョコを渡すだろう? だから、僕がチョコで、その……!」
ローザリカは自身が読んだ特集記事の説明をジュストにしようとしたが、続けられなかった。大きな手に、口を塞がれてしまったから。ジュストの意外とかっしりした掌が、ローザリカの唇の上にあった。
「……?」
ローザリカは口を塞がれながら、ジュストを覗き込む。そして気が付いた。
――ジュストが、苦しそうな顔をしていた。
「……ジュスト、どうした?」
具合が悪いのだろうか。ローザリカが彼の手をどかして問いかけた瞬間、彼女は再びジュストに抱きすくめられてしまった。
「ジュスト?!」
「……また君はそうやって」
溜息交じりに言うとジュストは腕を解き、ローザリカを真正面から見据えた。その瞳を見た瞬間、ローザリカは悟った。
――あれだけ見たいと思っていた仮面の下のジュストが、そこにいた。
ジュストに掴まれた両肩は、痛くはなかった。彼は絶対にローザリカに酷い事はしないから。ただ、熱かった。何もかもが、熱かった。
「チョコ……食べていいかい?」
ジュストがローザリカを抱き寄せながら囁く。彼女は堪らず彼の腕の中で俯いた。
「……あまり見られると、溶けてしまう」
小さな小さな声。それは彼女を食べるという男の耳にはしっかり届いていた。
「……ドロドロに、溶かしてあげる」
熱い声に溶かされる。
仮面の下にいたのは――ローザリカを欲しいと思っている、ただの男。