Mon Miel Rosé !
キャラクターノベル制作 炙りとろ左門納品 2023年01月27日 13時23分08秒
煙がゆらりと立ち上る。最近は頻度を控えめにしているが、どうしても必要な時はある――エゼル・ランブラーは煙草の煙が風に乗るようにした。焼き菓子のような甘い香り。それでも、煙草特有の苦さは変わらない。
「ストップ。お嬢様の目に触れたらいけないから、そこにいなさい」
冷たく鋭い命令だったが、それは茂みの中から飛び出すことはなかった。エゼルとは付き合いの長い、二代目の彼女の猟犬である。
煙草の煙は『報告』の合図。エゼルは茂みに近づき、猟犬が咥えて持ってきたスカーフの一部を受け取った。
「……お手柄ですね! 証拠はこれで十分でしょう。ちゃんと噛みちぎれて偉いですね〜」
猟犬に追われた娘はさぞ恐ろしい想いをしただろうが、お嬢様を謀ろうとするからこのような目に遭うのだ。そしてそのような狼藉を計画した以上、彼女には消えてもらう。
使用人は、掃除しているところを主人に見られてはならない。エゼルは正確には護衛だが、側仕えという意味ではそれに倣うのが望ましいだろう。
「私がこうして生きているのは、お嬢様のおかげだから」
だから、お嬢様に仇なすものはすべて排除するのだ。
====
エゼルが現在従えている猟犬は、二代目だ。初代はそれの祖父にあたり、エゼルが物心ついた時からそばにいた。彼の家族はエゼルにとっても家族だった。
しかしエゼルと彼らの違いは多くあった。幼いエゼルには彼らのような鋭い牙も、爪も、恐ろしい唸り声を出せる喉も、厚い毛皮も持っていなかった。エゼルはそれを補うために道具を使うことを覚えた。『狩り』の際に足手纏いにならないように。
だが傍からは、エゼルこそが狼たちを従えているように見えていた。少女は畏怖と侮蔑を込めて【小狼】と呼ばれるようになる。
やがて少女は、雇われることを覚えた。働きに応じて得られる金貨の使い道を少女は知らなかったが――それを教えようという人物との出会いがあった。
リーンエス王国の貴族令息であり、若くしていち商会を取り仕切る辣腕の青年――エゼルはその命を狙うように金を積まれた。伯爵領の領都へ向かう馬車を襲撃して令息の命を奪う計画は、しかし、命を狙われた本人によって頓挫させられてしまう。
襲撃前夜。その段階で、エゼルを雇った連中は軒並み縛り上げられていた。何も知らないエゼルだけが、狼たちと共に青年の懐に飛び込んだのだ。
しかしエゼルは暴れるどころか、青年の向かいに座らされていた。青年は予定を変更せずに馬車を走らせ続けた。
薄汚い者たちのもとではなく、自分のもとで働くこと。そうすれば金の使い方もわかること。
ついでに領都にいるある少女の相手をしてほしいこと。
青年はエゼルに選択権を与えなかった。だが、人としての未来を示した。
幼いローザリカの前に差し出されたエゼルは、随分と愛想の悪いうさぎだった。
できれば可愛いものを与えたいという青年の希望で、エゼルは頭に大きなリボンを結ばれた。それが顔の横に垂れる様子がまさしくうさぎのようだったのだが、光を失った瞳のせいで、なんとも言えない威圧感があった。
ローザリカは当然怯えた。うさぎの皮を被った狼か何かに見えたに違いない。
だが、青年はエゼルをローザリカの護衛から外さなかった。
最初こそぎくしゃくしていた二人だったが、共に過ごす時間が増えるにつれ、交わす言葉も増える。エゼルの表情はローザリカの側で過ごすうちに徐々に変化を見せ――そうして今のエゼルが出来上がった。
「お嬢様が、私を生かしてくれた」
別に狼のままでも構わなかったけれど、それではローザリカが怖い思いをするから。
用心棒。猟犬。エゼルをそう呼ぶ人々は多いけれど。
「エゼルちゃんは、お嬢様のうさぎなんですよ」
「ストップ。お嬢様の目に触れたらいけないから、そこにいなさい」
冷たく鋭い命令だったが、それは茂みの中から飛び出すことはなかった。エゼルとは付き合いの長い、二代目の彼女の猟犬である。
煙草の煙は『報告』の合図。エゼルは茂みに近づき、猟犬が咥えて持ってきたスカーフの一部を受け取った。
「……お手柄ですね! 証拠はこれで十分でしょう。ちゃんと噛みちぎれて偉いですね〜」
猟犬に追われた娘はさぞ恐ろしい想いをしただろうが、お嬢様を謀ろうとするからこのような目に遭うのだ。そしてそのような狼藉を計画した以上、彼女には消えてもらう。
使用人は、掃除しているところを主人に見られてはならない。エゼルは正確には護衛だが、側仕えという意味ではそれに倣うのが望ましいだろう。
「私がこうして生きているのは、お嬢様のおかげだから」
だから、お嬢様に仇なすものはすべて排除するのだ。
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エゼルが現在従えている猟犬は、二代目だ。初代はそれの祖父にあたり、エゼルが物心ついた時からそばにいた。彼の家族はエゼルにとっても家族だった。
しかしエゼルと彼らの違いは多くあった。幼いエゼルには彼らのような鋭い牙も、爪も、恐ろしい唸り声を出せる喉も、厚い毛皮も持っていなかった。エゼルはそれを補うために道具を使うことを覚えた。『狩り』の際に足手纏いにならないように。
だが傍からは、エゼルこそが狼たちを従えているように見えていた。少女は畏怖と侮蔑を込めて【小狼】と呼ばれるようになる。
やがて少女は、雇われることを覚えた。働きに応じて得られる金貨の使い道を少女は知らなかったが――それを教えようという人物との出会いがあった。
リーンエス王国の貴族令息であり、若くしていち商会を取り仕切る辣腕の青年――エゼルはその命を狙うように金を積まれた。伯爵領の領都へ向かう馬車を襲撃して令息の命を奪う計画は、しかし、命を狙われた本人によって頓挫させられてしまう。
襲撃前夜。その段階で、エゼルを雇った連中は軒並み縛り上げられていた。何も知らないエゼルだけが、狼たちと共に青年の懐に飛び込んだのだ。
しかしエゼルは暴れるどころか、青年の向かいに座らされていた。青年は予定を変更せずに馬車を走らせ続けた。
薄汚い者たちのもとではなく、自分のもとで働くこと。そうすれば金の使い方もわかること。
ついでに領都にいるある少女の相手をしてほしいこと。
青年はエゼルに選択権を与えなかった。だが、人としての未来を示した。
幼いローザリカの前に差し出されたエゼルは、随分と愛想の悪いうさぎだった。
できれば可愛いものを与えたいという青年の希望で、エゼルは頭に大きなリボンを結ばれた。それが顔の横に垂れる様子がまさしくうさぎのようだったのだが、光を失った瞳のせいで、なんとも言えない威圧感があった。
ローザリカは当然怯えた。うさぎの皮を被った狼か何かに見えたに違いない。
だが、青年はエゼルをローザリカの護衛から外さなかった。
最初こそぎくしゃくしていた二人だったが、共に過ごす時間が増えるにつれ、交わす言葉も増える。エゼルの表情はローザリカの側で過ごすうちに徐々に変化を見せ――そうして今のエゼルが出来上がった。
「お嬢様が、私を生かしてくれた」
別に狼のままでも構わなかったけれど、それではローザリカが怖い思いをするから。
用心棒。猟犬。エゼルをそう呼ぶ人々は多いけれど。
「エゼルちゃんは、お嬢様のうさぎなんですよ」