祝福を、その胸に
キャラクターノベル(グループ)制作 佐嶋ちよみ納品 2023年02月01日 11時42分42秒
●
気温が下がるのと反比例して、人々の心が浮足立つ12月。聖霊節の季節。
ケン・Z・ブラッドリーはユールフェスで賑わう街の広場で、白い息を吐き出すのを抑えて待ち人を探す。
心持ち早く到着してしまったけれど、それを相手に気遣わせたくない。
しかして、相手に気づくのは自分が先が良い。
――程なく、冬の冷たい風が白木蓮の香りをふわりと乗せてやってくる。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」
ケンが片手を挙げると、エデル=マグノリアは人ごみを分けて小走りで彼の元へ到着した。
柔らかに編んだ、ピンクブラウンの髪。質のいい毛糸で編まれたストール。
今日のエデルは少しだけ張り切ったおめかし姿だ。
ケンは、薄っすらと化粧の施された恋人の顔を覗き込む。
「いいや。それより……」
「あ。ええと。診療所のお仕事が少しあって、それで」
やはり待たせてしまっていたのだろうとうろたえるエデルに反し、ケンは恋人に疲れがたまっていないか心配している。
「大丈夫だ。……今日は会えてよかった」
「この前は散々だったものね」
襲撃者によって有耶無耶になってしまった先のデートを思い出し、エデルに笑顔が戻った。
今日は、その仕切り直しだ。
「それじゃあ行こうか」
スイ、と自然な動きでケンがエデルの手を取る。指を絡め、いわゆる恋人繋ぎを。
「今日は冷えるからな」
こうすれば暖かいだろう?
眼差しを受け、エデルは頬を染めてはにかむ。
「ありがとう……」
大きく力強い手を、そっと握り返して。
●
体が温まるスープ、掘り出し物の食器、愛らしい硝子細工。
多種多様な出店を巡り、楽しむ。
「うわぁ……ケン様、見て見て!」
ホットサンドを食べ終えたエデルが、向かい側の出店に目を輝かせる。
「凄いな。これは全て飴なのか」
小鳥をはじめとして、色鮮やかな飴細工が棒の先に鎮座し並んでいる。
「たいした技術だ。エデル、ひとつ貰おうか」
どうやら、ケンの中にある鍛冶職人魂に火が点いたらしい。
エデルは好奇心に輝く彼の瞳に気づいて、最も複雑な翼をもつ鳥を選んだ。
太陽のような、緋色の鳥を。
「あーっ、かっこいい!!」
飴細工を大切に持つエデルの背へ、舌っ足らずな叫び声が飛んできた。
その少年は三歳になったくらいだろうか。覚束ないながらも、両の足はしっかりと大地を踏みしめている。
「これ? すごいでしょう?」
エデルはしゃがみ込み、少年へ視線を合わせる。
「ぼくの方が、もっとかっこいい!」
少年は得意げに、青い狼の飴細工を取り出した。
「それも見事だな」
背をかがめ、ケンも感嘆する。同じ出店で買ったのだろう。
先に見たのがこちらであれば、ケンも迷わず選んだ。それほど、躍動感のある見事な狼であった。
「お父さんに買ってもらったのかな?」
エデルが尋ねると、少年の表情がみるみる変化する。
「おっ……おと、さん……」
(これは)
(はぐれたか)
なんとか涙をこらえている少年を刺激しないよう、エデルとケンが視線で会話する。
「ケン様……」
「探そう。行動はできるだけ早い方がいい」
デートを理由に迷子の子供を見捨てるようなケンではない。エデルは安堵して、少年の小さな両の手を握った。
「大丈夫よ、あなたのご両親はきっとすぐに見つかるわ」
仲間を探す狼の遠吠えのように。空から見下ろす鳥のように。
私たちが、力になるから。
●
少年の名前。両親の名前。容姿の特徴。どこから来たのか。
必要な情報を聞き出しながら、少年を真ん中に手を繋いで歩く。
「そう。ユールフェスのために遠くから来たのね」
「向こうも必死に探しているだろうな」
気に掛けて見渡せば、賑わいも笑顔ばかりではないことがわかる。
誰かとはぐれたらしき若者、出店で客とのトラブル、酔っ払い同士のケンカ……
「……む、すまん」
もっと遠くを見ようとすれば、自然と手を繋ぐ幼子に負担がかかる。かといって背をかがめ続けるのも難儀だ。
考え込んで、ケンは少年を肩車することにした。
「どうだ? 狼も飛べるだろう」
「がおー!!」
お気に召したらしい。
キラキラと光を弾く飴細工は、そのまま人探しのサインになるはず。
「ふふ。仲のいいご家族だねえ」
「いや、俺たちはまだ、そういったことは……」
「ケ、ケン様」
出店の老婆に声をかけられ、照れながら返したケンの言葉にエデルが動揺する。
そういった、とは……、その。
(ゆくゆくは……?)
"いつか"を思い描いてエデルが赤面してしまう。
「仲良く見えたのは本当さ。坊ちゃんに風邪を引かせないようにね」
輝く狼と、故郷の歌。
少年が何の気なしに口ずさんだそれが、両親と引き合わせる鍵となった。
元気でね。
少年の髪を優しくなでて、エデルたちは家族と別れた。
●
ちょっとしたお土産も買ったところで、二人は街を見下ろせる高台へ足を運んだ。
柵に体を預け、先ほどまで自分たちのいた辺りを眺める。
周囲があまりにも静かだから、眼下の賑わいが別世界のようだ。
「冷えると思ったら……」
花弁のひとひらのように、雪が舞い始める。
「エデル」
エデルが両の手をすり合わせていると、優しく名を呼ばれた。
「ちょっとだけ、目を閉じてくれるかい?」
「……? ……はい」
何だろう?
いつになく緊張したケンの声を不思議に思いながら、エデルは目を瞑る。
チャリ、と金属音と共に、ケンの手がエデルの耳元をかすめる。
「メリー・ユールフェス」
目を開けて。
「この間の誕生日プレゼントのお返しと、これからの君との事を想って作ったんだけど。……気に入ってくれるかい?」
エデルの胸元には、ケン手製のネックレスが輝いていた。
赤銅色のリングを手に取ると、ミスラル宝玉が嵌めこまれていることに気づく。
「これは……白木蓮?」
宝玉には花の隠し彫り。光の加減でうっすらと現れる、高度な技術だ。それが彼女の髪色に合わせた、ピンクブラウン色のチェーンに通されている。
世界に一つしかない、ケンにしか造れない、 陽光玉のネックレス。
「ありがとう……嬉しい。大切にするわ」
花がほころぶような笑顔を返され、ケンはたまらずに彼女を抱き締めた。
白木蓮の香りが鼻腔をくすぐる。
「…………今夜は君を返す気はないけど……いいかな?」
力強い腕の中、エデルの細い体が微かに強張る。それは拒絶ではなく、驚きから。
耳元に感じるケンの吐息が熱くて、くらくらする。
彼の言葉の意味は、つまり、ええと、自分たちは恋人同士で、だから、
エデルは一生懸命に思考を整理し、自分の心と向き合って。
「え……っと。あの、いやでは、ない……から」
おずおずと、ケンの背へと両手を回した。
「うん。だいじょうぶ」
●
冬の朝は遅い。
程よい疲労感と左腕の心地よい重みに、ケンはゆるりと瞼を持ち上げた。
体温と香りを分かち合うように、腕の中ではエデルが穏やかな寝息を立てている。
その寝顔の、愛しいことといったら。
ケンは彼女の首元まで毛布を引っ張り、エデルの額へ優しくキスを落とす。
「んん……、ケンさま?」
「おはよう。エデル」
今まで味わったことのないような甘い砂糖菓子のような気持ちを抱いて、ケンは恋人の名を呼ぶ。
未だまどろみのなかにあるエデルが幸福そうに微笑み、彼の首元へ腕を絡めた。
窓辺に立てかけた緋色の飴細工が二人の様子を見守り、その向こうでは真白の雪が祝福のように輝いている。
気温が下がるのと反比例して、人々の心が浮足立つ12月。聖霊節の季節。
ケン・Z・ブラッドリーはユールフェスで賑わう街の広場で、白い息を吐き出すのを抑えて待ち人を探す。
心持ち早く到着してしまったけれど、それを相手に気遣わせたくない。
しかして、相手に気づくのは自分が先が良い。
――程なく、冬の冷たい風が白木蓮の香りをふわりと乗せてやってくる。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら?」
ケンが片手を挙げると、エデル=マグノリアは人ごみを分けて小走りで彼の元へ到着した。
柔らかに編んだ、ピンクブラウンの髪。質のいい毛糸で編まれたストール。
今日のエデルは少しだけ張り切ったおめかし姿だ。
ケンは、薄っすらと化粧の施された恋人の顔を覗き込む。
「いいや。それより……」
「あ。ええと。診療所のお仕事が少しあって、それで」
やはり待たせてしまっていたのだろうとうろたえるエデルに反し、ケンは恋人に疲れがたまっていないか心配している。
「大丈夫だ。……今日は会えてよかった」
「この前は散々だったものね」
襲撃者によって有耶無耶になってしまった先のデートを思い出し、エデルに笑顔が戻った。
今日は、その仕切り直しだ。
「それじゃあ行こうか」
スイ、と自然な動きでケンがエデルの手を取る。指を絡め、いわゆる恋人繋ぎを。
「今日は冷えるからな」
こうすれば暖かいだろう?
眼差しを受け、エデルは頬を染めてはにかむ。
「ありがとう……」
大きく力強い手を、そっと握り返して。
●
体が温まるスープ、掘り出し物の食器、愛らしい硝子細工。
多種多様な出店を巡り、楽しむ。
「うわぁ……ケン様、見て見て!」
ホットサンドを食べ終えたエデルが、向かい側の出店に目を輝かせる。
「凄いな。これは全て飴なのか」
小鳥をはじめとして、色鮮やかな飴細工が棒の先に鎮座し並んでいる。
「たいした技術だ。エデル、ひとつ貰おうか」
どうやら、ケンの中にある鍛冶職人魂に火が点いたらしい。
エデルは好奇心に輝く彼の瞳に気づいて、最も複雑な翼をもつ鳥を選んだ。
太陽のような、緋色の鳥を。
「あーっ、かっこいい!!」
飴細工を大切に持つエデルの背へ、舌っ足らずな叫び声が飛んできた。
その少年は三歳になったくらいだろうか。覚束ないながらも、両の足はしっかりと大地を踏みしめている。
「これ? すごいでしょう?」
エデルはしゃがみ込み、少年へ視線を合わせる。
「ぼくの方が、もっとかっこいい!」
少年は得意げに、青い狼の飴細工を取り出した。
「それも見事だな」
背をかがめ、ケンも感嘆する。同じ出店で買ったのだろう。
先に見たのがこちらであれば、ケンも迷わず選んだ。それほど、躍動感のある見事な狼であった。
「お父さんに買ってもらったのかな?」
エデルが尋ねると、少年の表情がみるみる変化する。
「おっ……おと、さん……」
(これは)
(はぐれたか)
なんとか涙をこらえている少年を刺激しないよう、エデルとケンが視線で会話する。
「ケン様……」
「探そう。行動はできるだけ早い方がいい」
デートを理由に迷子の子供を見捨てるようなケンではない。エデルは安堵して、少年の小さな両の手を握った。
「大丈夫よ、あなたのご両親はきっとすぐに見つかるわ」
仲間を探す狼の遠吠えのように。空から見下ろす鳥のように。
私たちが、力になるから。
●
少年の名前。両親の名前。容姿の特徴。どこから来たのか。
必要な情報を聞き出しながら、少年を真ん中に手を繋いで歩く。
「そう。ユールフェスのために遠くから来たのね」
「向こうも必死に探しているだろうな」
気に掛けて見渡せば、賑わいも笑顔ばかりではないことがわかる。
誰かとはぐれたらしき若者、出店で客とのトラブル、酔っ払い同士のケンカ……
「……む、すまん」
もっと遠くを見ようとすれば、自然と手を繋ぐ幼子に負担がかかる。かといって背をかがめ続けるのも難儀だ。
考え込んで、ケンは少年を肩車することにした。
「どうだ? 狼も飛べるだろう」
「がおー!!」
お気に召したらしい。
キラキラと光を弾く飴細工は、そのまま人探しのサインになるはず。
「ふふ。仲のいいご家族だねえ」
「いや、俺たちはまだ、そういったことは……」
「ケ、ケン様」
出店の老婆に声をかけられ、照れながら返したケンの言葉にエデルが動揺する。
そういった、とは……、その。
(ゆくゆくは……?)
"いつか"を思い描いてエデルが赤面してしまう。
「仲良く見えたのは本当さ。坊ちゃんに風邪を引かせないようにね」
輝く狼と、故郷の歌。
少年が何の気なしに口ずさんだそれが、両親と引き合わせる鍵となった。
元気でね。
少年の髪を優しくなでて、エデルたちは家族と別れた。
●
ちょっとしたお土産も買ったところで、二人は街を見下ろせる高台へ足を運んだ。
柵に体を預け、先ほどまで自分たちのいた辺りを眺める。
周囲があまりにも静かだから、眼下の賑わいが別世界のようだ。
「冷えると思ったら……」
花弁のひとひらのように、雪が舞い始める。
「エデル」
エデルが両の手をすり合わせていると、優しく名を呼ばれた。
「ちょっとだけ、目を閉じてくれるかい?」
「……? ……はい」
何だろう?
いつになく緊張したケンの声を不思議に思いながら、エデルは目を瞑る。
チャリ、と金属音と共に、ケンの手がエデルの耳元をかすめる。
「メリー・ユールフェス」
目を開けて。
「この間の誕生日プレゼントのお返しと、これからの君との事を想って作ったんだけど。……気に入ってくれるかい?」
エデルの胸元には、ケン手製のネックレスが輝いていた。
赤銅色のリングを手に取ると、ミスラル宝玉が嵌めこまれていることに気づく。
「これは……白木蓮?」
宝玉には花の隠し彫り。光の加減でうっすらと現れる、高度な技術だ。それが彼女の髪色に合わせた、ピンクブラウン色のチェーンに通されている。
世界に一つしかない、ケンにしか造れない、 陽光玉のネックレス。
「ありがとう……嬉しい。大切にするわ」
花がほころぶような笑顔を返され、ケンはたまらずに彼女を抱き締めた。
白木蓮の香りが鼻腔をくすぐる。
「…………今夜は君を返す気はないけど……いいかな?」
力強い腕の中、エデルの細い体が微かに強張る。それは拒絶ではなく、驚きから。
耳元に感じるケンの吐息が熱くて、くらくらする。
彼の言葉の意味は、つまり、ええと、自分たちは恋人同士で、だから、
エデルは一生懸命に思考を整理し、自分の心と向き合って。
「え……っと。あの、いやでは、ない……から」
おずおずと、ケンの背へと両手を回した。
「うん。だいじょうぶ」
●
冬の朝は遅い。
程よい疲労感と左腕の心地よい重みに、ケンはゆるりと瞼を持ち上げた。
体温と香りを分かち合うように、腕の中ではエデルが穏やかな寝息を立てている。
その寝顔の、愛しいことといったら。
ケンは彼女の首元まで毛布を引っ張り、エデルの額へ優しくキスを落とす。
「んん……、ケンさま?」
「おはよう。エデル」
今まで味わったことのないような甘い砂糖菓子のような気持ちを抱いて、ケンは恋人の名を呼ぶ。
未だまどろみのなかにあるエデルが幸福そうに微笑み、彼の首元へ腕を絡めた。
窓辺に立てかけた緋色の飴細工が二人の様子を見守り、その向こうでは真白の雪が祝福のように輝いている。