受験勉強をあの人と

キャラクターノベル(グループ)制作 紀藤トキ納品 2023年01月13日 19時35分40秒

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 ホムンクルスへの転化前の記憶がない事もあってか、ミゼリア・L・ステュクスには感情の起伏が少ない。表情の変化も乏しいため、容易に胸の内を悟らせない少女である。が、その朝の彼女は傍から見ても落胆が見て取れた。

「ありませんね、わたしのなまえ……」

 パンクリアース学園の編入試験、合格者名簿にはそれほど多くの名前の掲示はなく、自分の名前が含まれていないのはすぐにわかった。身分や国籍を問わず広く授恵者一般へ門戸を開いたとはいえ、そもそもの授恵者の数に限りがある。月々の受験者数はそう多くは無く、合格者数もそれに比例して少ない。これでも、随分合格率は上がっているのだが。

「やはり、わたしにはむずかしい……、でしょうか」

 ため息というには短い吐息は、どこか色気がある。思いに耽る彼女の脳裏に浮かんでいたのは、学園の受験を決めたきっかけとなった少女だった。保護されて以降、冒険者として活動を積めば先達として名を聞く事がある。ともに並んで戦えば、頑強な安心感は頼もしかった。そのスタイルは、元々護衛の為に作られたミゼリアの目指す戦い方と言っても良い。コルネリウス・アーラというエルフは、彼女から見れば憧れの存在だった。

「……せっかく、コルネリウスさんが新聞部にさそってくださったのに」

 ぽつりぽつりと漏れる言葉。意識してはいないのだろうが、微かに俯いたミゼリアが見せるうなじはあだっぽく、通り過ぎる男子学生達の注目を集めていた。

「あ……、ミゼリアさん。今日は学園に何か御用ですか?」

 だから、掲示板の前に立ち寄ったコルネリウスが彼女に気が付いたのも、当然だ。今まさに思っていた相手の声を聞いて、ミゼリアの目元が綻ぶ。

「はい。合格者のめいぼを、みていました。……今回も不合格でした」
「入学試験ですか。懐かしいですね。今回も、という事は何度か受験しているんですね?」
「はい。コルネリウスさんも、この試験をうけて入学したのですか?」
「はい、そうですよ。一年と少し前ですね。あの時は準備時間も少なくって、一緒に受ける人達で得意な事を教え合って、勉強会をしたのが懐かしいです」

 コルネリウスが編入試験を受けたのは、冒険者へ門戸が開かれたばかりの頃だ。かつてのように、落とすための意地悪が仕込まれている事は少ないにせよ、難しい物だった。父や兄姉といった先達から学びを受ける機会のあったコルネリウスですらそうなのだから、天涯孤独のホムンクルスであるミゼリアにとっては入学試験の敷居はさぞ高かろう。それでも何度も試験に挑んでいるという事は、よほど入学したい訳があるのだろう、と思った。

「あの、私と一緒に試験対策をしますか? 宜しければですが」
「良いの、ですか?」
「ええ。今日は休講だったようなので、時間も空いてしまいましたし」
「ありがとうございます。……不合格で良かったです」

 コルネリウスは知らない事だが、ミゼリアの入学への原動力は憧れの彼女の誘いが多くを占めている。試験に落ちた落胆は今や歓喜に上書きされていた。あまり動かない筈の情動も本日ばかりは重い腰を上げたようだ。が、表情筋の方は相変わらず。見えざる尻尾がぶんぶん振られているのも、コルネリウスに知覚できはしない。それでもどんよりした空気が入れ替わったのは分かったようで、喜んでくれたなら誘って良かったな、などと思っていた。

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 さて、コルネリウスは基本的には属性:善の人間(エルフ)である。しかし、彼女と敵対したばかりに心を折られた哀れな変態の話も聞くに単純な善とは言えない。エルフという種族、楚々とした外見や丁寧な口調に騙されてはいけないのだ。善性とはいえコルネリウスの本質は、優等生の学級委員ではなく頼れる女番長である。つまり、買って出たとはいえ、基礎の出来ていない生徒へ教える事がうまい訳ではない。

「では、今日はここまでにしましょうか」
「今日は……? あの、もしかしたら明日も」
「はい。教え方の要領が良くなくてごめんなさい。まだ過去問の範囲のこれだけしか終わってないですから」

 コルネリウスが示したのは、全体の一割程度。ミゼリアの読み書きの基礎は出来ているので、教えるべきは知識面なのだがこれが難しかった。問われるのは広く王国に関する事、世界に関する事。子供でも知っているような事がミゼリアの知識から抜けている場合もあるので、気を抜く事が出来ない。次の試験日程までの日数を指折り数えれば、余裕はあまり無さそうだった。

「明日は私も準備してきますので、少し厳しくいきますね。集合は朝、ご飯を食べる前で良いですか?」
「……はい、ごほうび、です。ありがとうございます」

 幸いなことに、時間不足を根性で補っていくコルネリウスの教導スタイルとミゼリアの相性は良かった。

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「今日はジド・ルウについてを学びましょうか。彼について、問題に出そうなポイントはここと、ここからここまで。後はこっちの書籍のこの部分です」
「はい。コルネリウスせんせい」

 コクリと素直に頷く頬は、少し色づいている。ミゼリアの本質的に、指示を出される事は不快ではない。まして、敬意を持っている相手からの命令とあれば、喜ばしさすらある。結果として、一人で漫然と学ぶよりも学習効率は良くなった。それに、御褒美もある。

「今日は、学食のあの定食にしようかな。ミゼリアさんはどうしますか?」
「おなじもので、おねがいします」

 幼子が親に懐くがごとく、あるいはそれ以外の要素もあるのかもしれないが、勉強時間以外もミゼリアはコルネリウスについて回る。コルネリウスの方も慕われるのに嫌な気持ちがある筈も無く、二人の仲は随分と良くなった。

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「最後に、模擬問題を作って見ました。挑戦してみますか?」
「……はい。やらせてください」

 自分の為に作ってくれたというだけで大喜びのミゼリアの内心はやはり外には出てこない。だが、これまでの仕事の経験もあり、数日間一緒に過ごした事もあり、コルネリウスも彼女の思う所を察する事が出来るようになってきた。たまにハーフビースト素体ではないのに、尻尾や耳が見えるような気もしないでもない。

「採点結果は……」
「はい」
「80点。合格、だと思います」

 実際の合格基準が分かる訳ではないのだが、コルネリウスは笑顔でそう告げる。それなりに引っ掛け問題も混ぜた模擬問題で8割できていれば上出来だと彼女は考えた。しかし、ミゼリアの側はその結果に満足していなかったらしい。

「……20点。どこを、間違えていましたか」

 教えて貰った事を完璧にこなしたと思っていたミゼリアは、愕然とした心中を顔には出さずそう問い返した。敬愛するコルネリウスの教えてくれた事を取りこぼした筈はない。とするとうかkりミスか、見落としか。

「ええと、ここと……、それからここです。三代前の王ではなく、王子を答えないといけませんでした。それから、こっちは年はあっているのですが季節が違っていましたね」

 コルネリウスはやる気があるのだなと嬉しく思いながら解説する。二度と忘れぬという気迫で頷くミゼリアへ、コルネリウスは微笑を向けて。

「では、もう一つ模擬問題を作ってきているので、こっちもやってみましょうか」

 2人は試験前、最後の追い込みに入った。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0