すれ違い日和
キャラクターノベル制作 革酎納品 2022年10月16日 11時22分11秒
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リーンエス王国北部の町ホークヤードは、今日も平穏無事である。
町を治めるのはホークヤード侯爵家。
現当主ルーファスは王国貴族としての誇り高き精神と、統治者としての優れた手腕を併せ持つ非凡な人物なのだが、市井民の生活を余りよく理解しておらず、時折妙な施策を打ち出すこともある。
そんな父の姿を嫡子セドリックは誇りに思って良いのか、時々分からなくなる。矢張り一度は庶民の生活というものを直に見て貰った方が良いのでは――そんな思いから、セドリックは或る日の夕食の席で、ルーファスに進言してみた。
「成程……時期当主からの具申という訳か。これは真摯に耳を傾けなければならないな」
ルーファスは勿体ぶったいい方をしてみせたが、内心では少し嬉しかった。
これぞ我が嫡男。己の頭でしっかり考え、しっかり行動することが出来れば、いよいよもって安心だ。
「では明日の午後、一緒に町へ繰り出してみるとしよう」
「ありがとうございます。町のひとびとの実情を見れば、きっと今後の施策にも活かせると思います」
そんな訳で、親子はホークヤードの町を見て廻る運びとなった。
しかし余りに貴族然とした格好で町中を歩き回っても、ひとびとは決して普段の素の姿を見せてはくれないだろう。恐れ多く畏まって、上っ面で取り繕うに違いない。
そこでセドリックは、お忍びで町へ向かうことを重ねて提案してみた。
これにはルーファスは幾分渋い表情。侯爵家の当主と嫡男が、庶民の恰好で町中を徘徊するという提案に、多少ならず抵抗感を覚えたらしい。
が、セドリックは折れなかった。本当の市井の生活を目の当たりにしたいならば、ひとびとに警戒させては意味が無いといい切った。
「では警備隊から何人かひとを出させて、遠巻きに身辺警護させる。そうでなければ、その条件は呑めん」
「分かりました。では警備隊の人員手配は進めましょう」
セドリックの応えを受けて、ルーファスは警備隊からファブリス・ハワードという男を主任として同行させることにした。
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午後の買い出しの為にローラント探偵事務所を出たヴァン・ローラントは、薬品商店を営む初老の紳士ギルバート・アッシャーから声をかけられた。
「おやローラントさん。先程、親族の方がお見えになられましたかな?」
アッシャー薬品店の前で妙な問いかけを受けたヴァンは、思わず小首を捻った。ローラント事務所で働き始めて以降、ヴァンには家族や親族など居ない。仕事上のパートナーや顧客は少なくないが、ヴァン自身と血縁の繋がりがある者は皆無だった。
「どなたかと、見間違いされていませんか?」
「はて、気の所為ですかな。先程当店にいらっしゃった親子連れのおふた方……少なくとも年配の方は、ローラントさんによく似ておられましたがねぇ」
何の話だろうと腕を組んで考えたヴァンだったが、矢張り思い当たる節は無い。ギルバートの勘違いではなかろうか。
いや、ひとりだけ脳裏に浮かんだ姿があるにはあったが、あり得ないとすぐさま打ち消した。侯爵家の者が気軽に町中を歩くなど、到底考えられない話だ。
ヴァンはギルバートが見かけたという親子連れを探してみようかとも思ったが、後で面倒な話になるのも厄介なので、すぐに思い直した。
それよりも、今は買い出しの方が大事だ。
ここ最近リーンエス王国北部ではあちこちの農村で不作が続いているらしく、食品価格が少しずつ上昇傾向にある。今はまだ然程の価格にはなっていないが、このまま放っておけばどこまで高騰するか分からない。
だから手元の資金に余裕があるうちに、日持ちするものをなるべく多めに買い込もうと決めていた。
薬品商店前で油を売っている場合などではなかった。
「もしまた見かけたら、よぉく顔を見て覚えておきますよ」
何の気無しに笑うギルバートだが、ヴァンの内心では余計なことはしないでくれと拝みたい気分だった。
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ルーファスとセドリックは、とある古物店に足を運んだ。
そこで、物凄くエキセントリックな店主と出会った。店主の名は、ベイオウルフ・アレンカイザー。
ちょっと前まで質屋を営んでいたらしいが、王都グランスパーダで何か色々と物騒な問題が湧き起こってからは資金の流れが悪くなり、質屋に物を預けようという客がめっきり減ってしまったそうな。
そこでベイオウルフは古物店に業種を変えたとの由。
それは兎も角、ルーファスもセドリックも、店主ベイオウルフの容貌と名前の響きに、多少の困惑を覚えていた。
瓶底の様な分厚いレンズの丸眼鏡、ちょび髭、ドーナツ状に黒髪がサイドに残った禿げ頭、頭頂部にちょろりと生える一本の毛髪。
見るからに名前負けしているが、本人はどこ吹く風だ。これが庶民パワーというやつだろうか。
「やぁやぁお客様方、当店に足を止めて下さるとは何ともお目が高い!」
物凄い勢いで揉み手しまくるベイオウルフ。
「今日は何ともイケメンのお客さんが多くてビックリですなぁ! さっきもご主人みたいなお顔のお兄さんが古着をたくさん、買っていって下さいましたよぉ!」
ルーファスはただのお世辞か社交辞令と受け取り、まともに相手にはしなかった。
が、実をいうとこの少し前、ヴァンがベイオウルフの古物店を訪れ、寒い冬になるのを見越して、大量の古着を購入していったのである。
勿論、ルーファスもセドリックもそんなこととは露知らず、兎に角この名前負け店主の凄まじい営業トークに辟易するばかりであった。
「今年の冬は寒いってのがもっぱらの噂で御座いますよぉ! どうですお客さん、当店の古着はどれも良い品ばかりで御座いますよぉ!」
「あぁ、いえ、その、今日はどんなのがあるのかなぁと思って見に来ただけですので」
すっかり閉口してしまっているルーファスに代わり、セドリックが辛うじて引きつった笑みを浮かべながら応対した。
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乾物店を訪れたヴァンは、応対に現れた鼠の半獣人娘ジェナから、妙なことを訊かれた。
「あれ? さっきヴァンの親戚みたいなひとを見かけたんだけど、他人の空似かな?」
アッシャー薬品店に続き、これで二度目だ。
ヴァンはもしかして、と思わなくも無かったが、矢張りこの場では気にしないことにした。ヴァンは兎に角用事だけを済ませて帰ろうと、仕入れたい品の一覧をメモ書きにしてジェナに手渡す。
売り子として働いているジェナは、ちょっと待っててねと短く断りを入れてから、店の奥の仕入れ棚へと走っていった。
それにしても、一度ならず二度までも――矢張り侯爵家の誰かが、ここホークヤードの町にお忍びで足を運んでいるのだろうか、とも思う。
ところがジェナの話によると、ふたり連れの若い方は半獣人であるジェナに対して特に差別する様な仕草も態度も見せず、普通にひとりの客として振る舞っていたのだという。
ここホークヤードはヒューマン至上主義の空気が充満する町で、ホークヤード侯爵家はその筆頭ともいえる存在だ。
にも関わらず、ジェナに対して普通に接してくれたというのがよく分からない。矢張り単なる偶然で、全く無関係のよく似た赤の他人に過ぎないのだろうか。
しかし、ヴァンは知らない。
ホークヤード家の嫡男セドリックはパンクリアース学園に通い、そこで多くの非ヒューマン生徒、即ちエルフやゴブリンといった種と接している。セドリック自身にヒューマン至上主義の性格があるのかどうかは分からないが、少なくとも非ヒューマン種と普通に接する対人能力があるのは間違い無い。
その事実をヴァンが知っていれば、或いは気付いたのかも知れないが、今は兎に角、真相が分からないうちは下手なことを口走るなという自戒だけが彼の中にあった。
それからややあって、ジェナが店の奥から注文の品を詰め込んだ木箱を抱えて出てきた。
「はーい、お待たせー。箱はまた今度、返してくれたら良いよ」
「ありがとう。じゃあお代を……」
支払いを済ませたヴァンは、木箱を抱えて一旦ローラント探偵事務所に戻ることにした。
●
その日の夕刻。
ルーファスとセドリックは幾分疲れた様子でホークヤード邸へと帰宅した。
町の市井民の様子を間近で見ることが出来たのは大きな収穫だったが、中には色々と癖の強い住民も居た為、少々気力をすり減らされたのも事実であった。
軽めの夕食を済ませたふたりは、その後はそれぞれの自室へと戻ることにした。
セドリックは町中で出会ったひとびとや、そこえ聞いた話を忘れない為に、記憶がまだ鮮明なうちに自身の文字で記録を残しておくことにした。
それにしてもホークヤードの町は想像以上に多くの人種が済むところだった。ホークヤード家を筆頭にして、この町はヒューマン至上主義の空気が溢れていると思っていただけに、セドリックにとっては少々意外な結果だった。
(まさか鼠の半獣人娘の売り子とか、エルフの貸本屋なんかを見ることになるとは……)
如何にパンクリアース学園で多くの人種と接しているとはいえ、よもやここホークヤードで同じ状況を目にすることになろうとは、思ってもみなかった。
しかしこれも、ひとつの時代の流れなのだろうかと考えると、然程に不思議だとも思わなかった。
今やロスガリア大陸には多くの授恵者が誕生している。その正確な人種構成比はセドリックの知るところではないが、多くの人種の多くの授恵者が活躍している現状を鑑みるに、ヒューマン至上主義は最早時代遅れなのかも知れない。
尤も、このリーンエス王国を支配しているのがヒューマンの貴族である以上、その人種構成比が大きく変化することは無いのだろうが。
(今度は、ひとりで出かけてみようか……)
そんなことを思いながら、セドリックは夕闇に沈む西の空を窓越しに眺めた。
リーンエス王国北部の町ホークヤードは、今日も平穏無事である。
町を治めるのはホークヤード侯爵家。
現当主ルーファスは王国貴族としての誇り高き精神と、統治者としての優れた手腕を併せ持つ非凡な人物なのだが、市井民の生活を余りよく理解しておらず、時折妙な施策を打ち出すこともある。
そんな父の姿を嫡子セドリックは誇りに思って良いのか、時々分からなくなる。矢張り一度は庶民の生活というものを直に見て貰った方が良いのでは――そんな思いから、セドリックは或る日の夕食の席で、ルーファスに進言してみた。
「成程……時期当主からの具申という訳か。これは真摯に耳を傾けなければならないな」
ルーファスは勿体ぶったいい方をしてみせたが、内心では少し嬉しかった。
これぞ我が嫡男。己の頭でしっかり考え、しっかり行動することが出来れば、いよいよもって安心だ。
「では明日の午後、一緒に町へ繰り出してみるとしよう」
「ありがとうございます。町のひとびとの実情を見れば、きっと今後の施策にも活かせると思います」
そんな訳で、親子はホークヤードの町を見て廻る運びとなった。
しかし余りに貴族然とした格好で町中を歩き回っても、ひとびとは決して普段の素の姿を見せてはくれないだろう。恐れ多く畏まって、上っ面で取り繕うに違いない。
そこでセドリックは、お忍びで町へ向かうことを重ねて提案してみた。
これにはルーファスは幾分渋い表情。侯爵家の当主と嫡男が、庶民の恰好で町中を徘徊するという提案に、多少ならず抵抗感を覚えたらしい。
が、セドリックは折れなかった。本当の市井の生活を目の当たりにしたいならば、ひとびとに警戒させては意味が無いといい切った。
「では警備隊から何人かひとを出させて、遠巻きに身辺警護させる。そうでなければ、その条件は呑めん」
「分かりました。では警備隊の人員手配は進めましょう」
セドリックの応えを受けて、ルーファスは警備隊からファブリス・ハワードという男を主任として同行させることにした。
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午後の買い出しの為にローラント探偵事務所を出たヴァン・ローラントは、薬品商店を営む初老の紳士ギルバート・アッシャーから声をかけられた。
「おやローラントさん。先程、親族の方がお見えになられましたかな?」
アッシャー薬品店の前で妙な問いかけを受けたヴァンは、思わず小首を捻った。ローラント事務所で働き始めて以降、ヴァンには家族や親族など居ない。仕事上のパートナーや顧客は少なくないが、ヴァン自身と血縁の繋がりがある者は皆無だった。
「どなたかと、見間違いされていませんか?」
「はて、気の所為ですかな。先程当店にいらっしゃった親子連れのおふた方……少なくとも年配の方は、ローラントさんによく似ておられましたがねぇ」
何の話だろうと腕を組んで考えたヴァンだったが、矢張り思い当たる節は無い。ギルバートの勘違いではなかろうか。
いや、ひとりだけ脳裏に浮かんだ姿があるにはあったが、あり得ないとすぐさま打ち消した。侯爵家の者が気軽に町中を歩くなど、到底考えられない話だ。
ヴァンはギルバートが見かけたという親子連れを探してみようかとも思ったが、後で面倒な話になるのも厄介なので、すぐに思い直した。
それよりも、今は買い出しの方が大事だ。
ここ最近リーンエス王国北部ではあちこちの農村で不作が続いているらしく、食品価格が少しずつ上昇傾向にある。今はまだ然程の価格にはなっていないが、このまま放っておけばどこまで高騰するか分からない。
だから手元の資金に余裕があるうちに、日持ちするものをなるべく多めに買い込もうと決めていた。
薬品商店前で油を売っている場合などではなかった。
「もしまた見かけたら、よぉく顔を見て覚えておきますよ」
何の気無しに笑うギルバートだが、ヴァンの内心では余計なことはしないでくれと拝みたい気分だった。
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ルーファスとセドリックは、とある古物店に足を運んだ。
そこで、物凄くエキセントリックな店主と出会った。店主の名は、ベイオウルフ・アレンカイザー。
ちょっと前まで質屋を営んでいたらしいが、王都グランスパーダで何か色々と物騒な問題が湧き起こってからは資金の流れが悪くなり、質屋に物を預けようという客がめっきり減ってしまったそうな。
そこでベイオウルフは古物店に業種を変えたとの由。
それは兎も角、ルーファスもセドリックも、店主ベイオウルフの容貌と名前の響きに、多少の困惑を覚えていた。
瓶底の様な分厚いレンズの丸眼鏡、ちょび髭、ドーナツ状に黒髪がサイドに残った禿げ頭、頭頂部にちょろりと生える一本の毛髪。
見るからに名前負けしているが、本人はどこ吹く風だ。これが庶民パワーというやつだろうか。
「やぁやぁお客様方、当店に足を止めて下さるとは何ともお目が高い!」
物凄い勢いで揉み手しまくるベイオウルフ。
「今日は何ともイケメンのお客さんが多くてビックリですなぁ! さっきもご主人みたいなお顔のお兄さんが古着をたくさん、買っていって下さいましたよぉ!」
ルーファスはただのお世辞か社交辞令と受け取り、まともに相手にはしなかった。
が、実をいうとこの少し前、ヴァンがベイオウルフの古物店を訪れ、寒い冬になるのを見越して、大量の古着を購入していったのである。
勿論、ルーファスもセドリックもそんなこととは露知らず、兎に角この名前負け店主の凄まじい営業トークに辟易するばかりであった。
「今年の冬は寒いってのがもっぱらの噂で御座いますよぉ! どうですお客さん、当店の古着はどれも良い品ばかりで御座いますよぉ!」
「あぁ、いえ、その、今日はどんなのがあるのかなぁと思って見に来ただけですので」
すっかり閉口してしまっているルーファスに代わり、セドリックが辛うじて引きつった笑みを浮かべながら応対した。
●
乾物店を訪れたヴァンは、応対に現れた鼠の半獣人娘ジェナから、妙なことを訊かれた。
「あれ? さっきヴァンの親戚みたいなひとを見かけたんだけど、他人の空似かな?」
アッシャー薬品店に続き、これで二度目だ。
ヴァンはもしかして、と思わなくも無かったが、矢張りこの場では気にしないことにした。ヴァンは兎に角用事だけを済ませて帰ろうと、仕入れたい品の一覧をメモ書きにしてジェナに手渡す。
売り子として働いているジェナは、ちょっと待っててねと短く断りを入れてから、店の奥の仕入れ棚へと走っていった。
それにしても、一度ならず二度までも――矢張り侯爵家の誰かが、ここホークヤードの町にお忍びで足を運んでいるのだろうか、とも思う。
ところがジェナの話によると、ふたり連れの若い方は半獣人であるジェナに対して特に差別する様な仕草も態度も見せず、普通にひとりの客として振る舞っていたのだという。
ここホークヤードはヒューマン至上主義の空気が充満する町で、ホークヤード侯爵家はその筆頭ともいえる存在だ。
にも関わらず、ジェナに対して普通に接してくれたというのがよく分からない。矢張り単なる偶然で、全く無関係のよく似た赤の他人に過ぎないのだろうか。
しかし、ヴァンは知らない。
ホークヤード家の嫡男セドリックはパンクリアース学園に通い、そこで多くの非ヒューマン生徒、即ちエルフやゴブリンといった種と接している。セドリック自身にヒューマン至上主義の性格があるのかどうかは分からないが、少なくとも非ヒューマン種と普通に接する対人能力があるのは間違い無い。
その事実をヴァンが知っていれば、或いは気付いたのかも知れないが、今は兎に角、真相が分からないうちは下手なことを口走るなという自戒だけが彼の中にあった。
それからややあって、ジェナが店の奥から注文の品を詰め込んだ木箱を抱えて出てきた。
「はーい、お待たせー。箱はまた今度、返してくれたら良いよ」
「ありがとう。じゃあお代を……」
支払いを済ませたヴァンは、木箱を抱えて一旦ローラント探偵事務所に戻ることにした。
●
その日の夕刻。
ルーファスとセドリックは幾分疲れた様子でホークヤード邸へと帰宅した。
町の市井民の様子を間近で見ることが出来たのは大きな収穫だったが、中には色々と癖の強い住民も居た為、少々気力をすり減らされたのも事実であった。
軽めの夕食を済ませたふたりは、その後はそれぞれの自室へと戻ることにした。
セドリックは町中で出会ったひとびとや、そこえ聞いた話を忘れない為に、記憶がまだ鮮明なうちに自身の文字で記録を残しておくことにした。
それにしてもホークヤードの町は想像以上に多くの人種が済むところだった。ホークヤード家を筆頭にして、この町はヒューマン至上主義の空気が溢れていると思っていただけに、セドリックにとっては少々意外な結果だった。
(まさか鼠の半獣人娘の売り子とか、エルフの貸本屋なんかを見ることになるとは……)
如何にパンクリアース学園で多くの人種と接しているとはいえ、よもやここホークヤードで同じ状況を目にすることになろうとは、思ってもみなかった。
しかしこれも、ひとつの時代の流れなのだろうかと考えると、然程に不思議だとも思わなかった。
今やロスガリア大陸には多くの授恵者が誕生している。その正確な人種構成比はセドリックの知るところではないが、多くの人種の多くの授恵者が活躍している現状を鑑みるに、ヒューマン至上主義は最早時代遅れなのかも知れない。
尤も、このリーンエス王国を支配しているのがヒューマンの貴族である以上、その人種構成比が大きく変化することは無いのだろうが。
(今度は、ひとりで出かけてみようか……)
そんなことを思いながら、セドリックは夕闇に沈む西の空を窓越しに眺めた。