運命の輪

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年09月14日 12時32分43秒

 青く穏やかな海が見えるオープンカフェに、二人は腰を落ち着かせた。
「今日も沢山お買い物出来ました。ありがとうございます!」
「ララノアさんに似合う秋物が見つかってよかったです」
 興奮気味に語るララノアに、ネーヴェ・グラヌローザは微笑む。
 二人は恒例の買い物デートを終え、ネーヴェのお気に入りのカフェで少し早い夕食をとっていた。
「特にあの劇。とても素敵でした!」
 そして、これが興奮の一番の原因。買い物を終えた二人は、最近街で流行だという劇を鑑賞していた。
「はい、私(わたくし)も感動してしまいました。街で噂になるだけはありますわね」
 運ばれてきた紅茶に口もつけず、観劇の興奮を語るララノアに、ネーヴェは何度も頷く。
「はい! それに……何処か母様に聞かされたおとぎ話に似ていました」
 ララノアは胸の前で手を握り、小さく微笑む。
「あら、どんなお話なんですか?」
「あ……いえ、そんな大したお話じゃなくて」
 慌ててそう言うものの、ネーヴェは期待に満ちた眼でララノアを見ていた。
「あぅ……えっと、歌の得意な人魚と王子様のお話なんです」

 ララノアは語り始める。何度も母にせがんだおとぎ話を――――。

●
「――――本当に素敵なお話。それになんだか他人のような気がしませんわね」
「あ……記憶喪失」
「ふふ、そのように悲しい顔をしなくても大丈夫ですわ。これ(記憶喪失)も私の一部だと、今は思えていますから」
「そう、なんですか?」
「ええ、前へ進んでいるのはあなただけではないんですよ?」
 と、ネーヴェは微笑みかけた。
「それにしても、人魚さんの歌声は素敵だったんでしょうね。どんなお歌だったのか聞いてみたいですわ」
「あっ、ありますよ。歌」
「え?」
 ネーヴェの呟きに、ララノアがあっさりと答える。
「歌もちゃんと伝わって……ななな、なんですかその期待に満ちた眼っ!?」
「うふふ、聞きたいな~」
「う、歌いませんよっ! こんな、ま、街中でっ!?」
 慌てるララノアに対し、ネーヴェは机についた両腕に顎を乗せニコニコ。
「うーん、どうしてもダメですか?」
「ダ、ダメですっ!」
「あんなに素敵なお話ですから、きっと綺麗なお歌なのでしょう?」
「そ、それはそうですけど……」
「ララノアさんの綺麗なお声で聞いてみたいですわ」
「ぴぇっ!?」
 驚き固まったララノアに小さく苦笑して、ネーヴェは立ち上がる。
 そして、貴族かと見紛う所作で、ララノアに手を差し出した。

「『ご一緒していただけますか』」

 それはララノアが語ったおとぎ話の台詞。
「あ……」
 ララノアは差し伸べられた手をじっと見つめる。この手を取れば『泡』になってしまう。
「『魔法をかけました。もう触れても大丈夫ですよ』」
 それはおとぎ話に無かった台詞。
 ネーヴェは手袋をはめると、不安に揺れるララノアに微笑み、その手を取った。
 手袋越しにネーヴェの温かな体温が伝わってくる。
 ララノアは辺りをきょろきょろと見渡した。最近は眼鏡無しでも人前で話したり、歌ったりできるようになった。それでも、いきなり歌うとなると、恥ずかしさが先に立つ。
 ララノアは縋る様にネーヴェを見つめるが、彼女は――――母様と似た笑みを湛えていた。

「――――――夏を生きよう。青く澄んだ空の元」

 たくさん息を吸い込み、吐き出した。
 小さく囁くような声。時折吹く潮風にかき消されてしまいそうな歌声が、ゆっくりと紡がれていく。
「素敵な歌声ですわ」
 ネーヴェは歌うララノアからそっと手を離し、コツコツと靴でリズムを刻み始めた――――。

 周りからのどよめきに、ララノアが顔を上げてみれば――――。
「あ……」
 思わず息を飲み、歌を止めてしまいそうになる。
 目の前で雪の華が舞っていた。
 ネーヴェだ。ネーヴェが自分の歌に合わせて踊っている。
「続けて」
 歌を止めそうになったララノアに、ネーヴェがそっと耳打ちした。
 ララノアはこくりと頷き、歌い続ける。

「――――秋を見上げよう。まんまる大きな月の下」

 ララノアの透明な歌声に合わせ、雪の華(ネーヴェ)の舞がリズムを刻む。
 ネーヴェの姿に見とれながら、でも負けないように、ララノアは懸命に声を上げる。

 歌う事は好き。でも人に聞かせるのは苦手。上手いかどうかもわからない。
 それでも、私の歌に合わせて舞っている人がいる。だから、頑張らなきゃ。
 憧れの人。
 私の歌と一緒に踊る彼女はとても美しくて、素敵で……大切な友人。彼女と合わせたい。一緒に居たい……追いつきたい。

 ララノアは無意識のうちに、ネーヴェに並び立つ。
 ネーヴェは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに破顔し手を差し伸べた。

「――――冬を耐えよう。しんしんと降る雪の中」

 彼女(ララノア)の歌声に心が揺れ動かされた。踊りは体の中から自然と湧いて出てくる。
 習った覚えなど無い。それでも、踊れるのは何故だろう。
 記憶……、失われたそれに関係しているのだろうか。それとも、彼女の歌が私(わたくし)の身体を揺り動かすのか。
 心を震わせる歌声。本当に素敵だ。だから負けないように舞おう。彼女といつまでも並び立てるように。

 ララノアは歌いながらネーヴェの舞を真似る。
 ネーヴェは舞いながらララノアの歌を真似る。
 手を取り合った二人は、あのおとぎ話の歌を口ずさみながら、互いの素敵に追いつこうと、懸命に奏で、舞った。

「楽しい、です」
「はい、とても。それに、見てください」
 そう言われ、ララノアが周りに視線を向ければ、カフェにいた客達が手拍子足拍子でリズムを刻んでいる。
 ララノアは息を飲み、また歌を止めそうになった。
「大丈夫ですわ。ほら、皆さんの顔を見てください」
 ネーヴェの声に再び顔を上げ、ララノアは恐々と辺りを見渡す。

 ある者は机でリズムを取り、楽しそうに歌を口ずさむ。
 またある者は立ち上がり、踊りを真似ている。
 人々の顔が、輝いていた。

「皆さんにも伝えましょう。あなたのお母様が紡いだ、素敵な物語を」
「伝えます。あなたの素敵で美しい舞を皆様に見ていただきたいから」
 二人はそれぞれを想い、歌を紡ぎ、舞を踊る。
 互いを尊重し、敬い、愛する二人の想いは、ゆっくりと、そして、確実に広がっていった。

「―――春を歌おう。

 ――――草木芽吹く緑の絨毯を、咲き誇る花の香りに誘われて。

 ――――いざ往かん、新しい場所へ。

 ――――光り輝く海の果てに待つ、希望の大地へ」

 ララノアが謳い上げると同時に、ネーヴェも舞い終わる。
 ネーヴェは再びララノアの手を取ると――――。

「皆さん、ご一緒していただけて感謝いたしますわ。この日この時の出来事は生涯忘れません。珊瑚の魔法に誓って」

 共に歌い、踊ってくれた観衆たちに向かう。

「皆様、ありがとうございます! とても楽しい一時でした……! 私もずっとずっと忘れません、珊瑚の魔法に誓って」

 二人の言葉に、周りから割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

「それとあの……! どなたかこの歌をご存知の方はいませんか! その……母との想い出なんです!」

 そんな興奮冷めやらぬ観衆に向け、ララノアが突然声を上げた。
 共に歌い、踊ってくれた観衆たちは手を止め、互いの顔を見合わせる。

「ほんの些細な事でもいいんです……! どうか、どうか何か――――」
「私(わたくし)からもお願いいたします。聞き覚えのある方、いらっしゃいませんか」

 二人は同時に頭を下げる。すると、観衆から一人の青年が歩み出た――――。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0