冒険者達の休息
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年08月29日 12時28分15秒
「ぷはっ! 海って最高ですねっ!」
「本当に。何処まででも泳いでいきたくなっちゃいますね」
「あっ! 負けませんよっ!」
「うわ、もうあんなに遠くまで……すげぇな」
青く澄んだサンゴ礁の海を眺めるギャメルは、沖へ向かうアリッグ・レイダーとレイヤ・ダライ=カホールの二人を羨望の眼差しで見つめる。
「折角、貸しきりなんだもの、楽しまないとね」
ギャメルと共に敷布に座り、海を見つめるロゼットも眩しそうに友人達がはしゃぐ姿を見つめていた。
「そういえば貴方は泳がないの? 泳げない訳ではないでしょ。私の事はいいから、楽しんできてもいいのよ?」
「いや、遠慮しとく。あの二人とじゃ勝負にならねぇからな」
「ふふ、別に勝負しなくちゃいけない訳じゃないわよ」
どこまでも真面目な友人を、ロゼットは好ましく思う――。
知る人ぞ知るこのリゾートビーチへ、4人は依頼の為に訪れていた。討伐対象のクリーパーを倒すと、喜んだ依頼主の好意でビーチを一日貸し切りにさせてもらえることになる。最初は戸惑った4人だったが、依頼主が是非にというので、『安全確認』という名目でバカンスを楽しんでいた。
「あれだけがんばったんだもの、これくらいのご褒美はあってもいいわよね」
「うん? 何か言ったか?」
「いえ、なんでもないわ。ほら、二人が戻ってくるわよ。お出迎えに行きましょう」
ロゼットはきょとんと見上げるギャメルに手を差し出すと、その小さな手を引いて波打ち際へ。
沖から戻ってきた二人は、ロゼットとギャメルの姿を確認すると、海の上に上半身をだし、大きく手を振った。
「……うん? なんか呼んでないか?」
と、ギャメルがアリッグの仕草に気付く。
「呼んでいるというより……何か指さしてるわね。海中に何かあるのかしら」
「海の中に何かが……宝か!」
「ふふ、それはどうかしら」
目を輝かせるギャメルに微笑みつつ、ロゼットはアリッグを見る。
しきりに海中に何かあるアピールをしているが、距離があるので声は届かない。代わりに一緒に泳いでいたレイヤが、水中に顔をつけ、それを見るが……。
「あ、あれ……? レイヤが慌てて戻ってくるぞ?」
「一体何を見つけたのかしら、あの子……」
『それ』を見たレイヤは嫌そうな顔で、こちらへ猛然と泳いでくる。
そして、いつの間にか海の中に消えていたアリッグが、再び浮上してくると――――。
「タ、タコ……?」
ロゼットがアリッグの手にあるものを見て目を瞠る。
それは紛れもなくタコ。うねうねと触手を動かしアリッグの腕に絡ませていた。
「タコ! すげぇ!!」
ロゼットが呆れている一方、ギャメルは目を輝かせタコを見る。
「タコってあれだろ! タコアゲに使うやつ!」
「タコアゲ……? なに、それ。油で揚げるの?」
「なんだ、ロゼットは知らないのか? タコアゲっていうのはな、シャルガネの伝統的な行事とか何とかで、生きたタコを魔法かなんかの力で、遠くまで飛ばす祭……だった気がする!」
「シャルガネにそんな文化があるなんて聞いた事もないけど……」
興奮気味に話すギャメルに、半信半疑のロゼット。二人がそんな話をしている間に、海中の二人は浜へと戻ってきた。
「なんてもん拾ってるんですか! 捨ててきなさい! タコは危険な生物ですよ! ヌメヌメしてるし、噛んでくるし、墨は吐くし! ついでに――」
浜へと上がったレイヤが海へ振り向き、悪戯な笑みを浮かべるアリッグに物申すが……。
「ぶぎゃぁ!」
その視界は、真っ黒な墨に塗りつぶされた。
「レ、レイヤーーっ!? なんだ、あの黒いの……! 攻撃か!?」
「あながち間違ってはいないけど……」
アリッグとタコの連携攻撃に、ギャメルは戦慄し、ロゼットは困惑する。
「あはははっ、そんなこと言うからこの子が怒っちゃったじゃないですか」
一方のアリッグは、真っ黒に染まったレイヤを見て大爆笑していた。
「アリッグ、あんまり度が過ぎると、私も――――」
「あー、タコが逃げたー(棒)」
なおもアリッグのターンは続く。
戦慄しているギャメルは問題ないとみて、標的をロゼットに絞ったアリッグは砂浜に足を取られた。
ギャメルが「やっぱりタコは空を飛ぶんだ!」と目を輝かせる中、タコは綺麗な放物線を描いて……。
「わっ!? ちょっ!?」
ロゼットの胸元に着地。うぞうぞと触手を蠢かせた。
「やっ……やめなさいっ、このっ!」
「ロゼット!?」
絡みついてくるタコと格闘するロゼットに、ギャメルが近寄るが、名状しがたい体勢になっていて手が出せない。
「いたたたたっ!!」
ロゼットが引き剥がそうにも、タコの抵抗は激しく、中々離れてくれない。
ギャメルがあわあわと見つめる中、格闘すること数分。ロゼットの指が、偶然タコの急所に突き刺さった。
「ええい、いい加減に離しなさーい!」
一瞬緩んだ力を見逃さず、ロゼットはタコを引き剥がすと、おもいっきり投げ捨てる。
――べちゃっ。
再び放物線を描いたタコは、秘かに爆笑していたアリッグの顔面を捕らえる。
「くぁwせdrftgyふじこっ!?」
突然視界を塞いだ触手。張り付く吸盤。奪われた唇。
アリッグは声にならない悲鳴を上げた――。
●
「いやぁ、バーベキューの具材として、いいかなって思ったんですよね」
顔面にびっちりと吸盤跡を刻んだアリッグが、アツアツの砂浜に正座している。
「確かにタコは美味しい食材ではあるけど、提供の仕方は考えるべきじゃないかしら?」
そんなアリッグを溜息混じりに見下ろしながら、ロゼットは『提供』されたタコを手際よくさばいていく。
「まぁ、美味しく頂けるのなら良しとします。墨は美味しくありませんでしたけど……」
ロゼットの隣では焼き担当のレイヤが、火を起こし焼き場の準備をしていた。
「ほら、あれですよ。折角のバカンスなので少し刺激的にした方が盛り上がるかなと思って」
にひひと笑うアリッグに、二人はうんざりと肩をすくめた。
「おーい、皆! これ依頼主がくれたぞ!」
そんな三人の元へ、ギャメルがでっかい西瓜を掲げて駆けてくる。
「西瓜ですか。いいですね、この時期にピッタリの食べ物です」
「それじゃ、デザートは西瓜という事にしましょうか」
「そうね。そのまま食べてもいいけど何か一工夫してみる?」
「一工夫ですか、となるとやはりケーキ」
「やっぱりそうなるのね」
「ギャメルさん、ギャメルさん」
「うん?」
調理担当の二人が西瓜の調理法を相談している中、砂浜に正座するアリッグがギャメルに手招きする。
「ギャメルさん、浜辺には西瓜の正しい食べ方があるのをご存知ですか?」
「正しい食べ方? 普通に切って食うんじゃないのか?」
「ちっちっちっ、甘いですねギャメルさん。夏の浜辺で西瓜と言えば、西瓜割りと相場が決まっているんです!」
「す、西瓜割り……!」
「そう! かつて邪竜を倒した勇者も毎日訓練に取り入れていたと言われる西瓜割りです!」
「な、なんだってー!!」
「まーた適当なこと言ってますけど、いいんですか?」
「まあ、いいんじゃない? 逸話はともかく、西瓜割りもバカンスにはつきものだしね」
「まあそうなんですけど……」
●
「ギャメルさん、右です右! いや、左だった! そのままそのまま……!」
「えっ!? ど、どっちに行けばいいんだ!?」
目隠しをされた剣士は、勇者の剣を手に、アリッグの誘導に従い砂浜を右往左往。
「三歩前です! そう、そこ!」
「こ、ここか! えいっ!」
「おしいっ!! 敵は寸でのところで逃亡しました!!」
「ええっ!? 西瓜って動くのか!?」
「くふふ……これは訓練だと言ったじゃないですか。相手が止まっていると、いつ錯覚したのですか?」
「ぐっ! 西瓜割り、恐るべし……!」
「ギャメルさん、惑わされちゃダメですよ。右手前に西瓜があります」
と、アリッグに翻弄されるギャメルに、助け船を出したのはレイヤだった。
「なにっ!」
「そうそう、そのまま真っ直ぐですよ」
「ちょっ、レイヤさん?!」
今まで指示役だったアリッグはレイヤの横やりに抗議の声を上げる。
「はいストップ。そこで大きく振りかぶってください」
「ここだなっ!」
レイヤの指示にギャメルが立ち止まり棒切れを大きく振りかぶる。
「ち、違いますよ! ギャメルさん、西瓜は後ろです!」
だが、アリッグも黙ってはいない。
すぐさまレイヤと反対の指示を出し、ギャメルを混乱に陥れる。
「ええっ!? どっちが正しいんだよっ!」
「わたしですっ!」
「僕ですよっ!」
「え、え、えっ!!??」
相反する二人の指示にギャメルの混乱は更に増し、ついには――。
「うがぁぁぁぁ!!」
手あたり次第、棒切れを振り回し始めた。
レイヤは危険を感じ距離を取るも、アリッグはずっと正座していた後遺症の為に上手く逃げることが出来ない。
「あ……ちょ……え」
そして……。
――ごちーんっ!!!
「ぎゃふんっ!!」
――――アリッグに一撃くれてしまったギャメルは意気消沈し、何度も彼に謝っていたが、レイアに悪戯の真相を聞かされ、両成敗という事で片が付いた。
そして、次にレイヤも西瓜割りに挑戦したのだが、「最初の10回転は必須です」と、独自のルールで歩き始めたものだから、あっちへふらふらこっちへふらふら、皆の指示にもまともに応えられず、挙句の果てには――――。
――スポーン!
振り下ろした棒切れをすっ飛ばし、バーベキューの準備をしていたロゼットの頬をかすめる始末。
結局、ロゼットの「西瓜は普通に切りましょう」の声に、西瓜割りチャレンジは終了したのだった。
●
西瓜割りチャレンジ(失敗)を終えた4人は、準備が整ったバーベキューを囲む。
「ただ焼くだけなんですけど、これが一番難しいんですよね。責任重大です」
焼きを担当するレイヤが、仕入れてきた食材を焼いていく。肉に魚、野菜もしっかり。もちろん、あのタコも忘れちゃいけない。食欲をそそる音と匂いを上げながら焼けていく食材たちを、鼻歌混じりに見つめた。
「――さて、野菜がそろそろいい感じですね。お肉の前に食べちゃってください」
レイヤは先に火が通った野菜を腹ペコの友人達に取り分けてやる。
「おいしそうに焼けたわね。特にこのトウモロコシがいい感じ」
「おお、美味そうだな! こっちのキノコもいい感じに焼けてていい匂いだぞ!」
「色々な調味料を持ってきましたので、よかったら使ってください!」
アリッグは持ち込んだ無数の瓶を皆の前へ差し出した。
「これ……きっと何か仕込んでますよね」
と、レイヤが居並ぶ瓶に怪訝な表情を向ける。
「じゃ、シャッフルするのはどうかしら?」
悪戯な表情を見せるアリッグは、ロゼットの提案に「え?」とぽかん。
「いいですね。それなら公平です」
結局、二人の提案にギャメルものって、アリッグに拒否権はなくなった。
焼けた様々な具材にアリッグ提供の調味料を合わせ、4人は食事を進める。
「あ、このお肉おいしい。猪かしら」
「こちらのお魚もいい感じですよ。ソースも悪くないです」
「さっきまで生きてたからめっちゃ新鮮でうまいな!」
3人が焼けた食材に調味料を絡めながら、食事を堪能していると――。
「あぎゃぁぁぁ!!」
口から火を噴かんばかりの勢いで、アリッグの悲鳴が響いたのだった……。
●
自ら仕込んだ激辛ソースで自爆したアリッグは、腫れあがった唇を水で冷やしていた。そんな友人を不憫に思いつつも、3人は自業自得だと呆れ半分に見つめる。
「ロゼットは特にどれが好きだった?」
「そうね。お肉や野菜も美味しかったけど、濃い味ばかりだったし、レイヤのケーキが恋しくなるわね」
「あー、レイヤのケーキか。確かにそれはあるな!」
「今ケーキって言いましたっ!?」
耳聡く二人の呟きを聞いたレイヤは、ずいッと顔を寄せてくる。
「ええ、今回も用意しているのでしょ?」
「ふふ、もちろんです! 食後のケーキを皆で食べるのは最高だと伝わっていますから!」
ロゼットの微笑みに力強く頷いたレイアは、一人離れて唇を冷やしていたアリッグの元へ。
「アリッグさんも一緒にどうですか? 今回のも自信作ですよ」
あれだけ悪戯三昧したのに温かく迎えてくれる友人達にほろりとなりながらも、アリッグは「仕方ありませんね」と、鼻をすすりつつ輪に加わったのだった――――。
「本当に。何処まででも泳いでいきたくなっちゃいますね」
「あっ! 負けませんよっ!」
「うわ、もうあんなに遠くまで……すげぇな」
青く澄んだサンゴ礁の海を眺めるギャメルは、沖へ向かうアリッグ・レイダーとレイヤ・ダライ=カホールの二人を羨望の眼差しで見つめる。
「折角、貸しきりなんだもの、楽しまないとね」
ギャメルと共に敷布に座り、海を見つめるロゼットも眩しそうに友人達がはしゃぐ姿を見つめていた。
「そういえば貴方は泳がないの? 泳げない訳ではないでしょ。私の事はいいから、楽しんできてもいいのよ?」
「いや、遠慮しとく。あの二人とじゃ勝負にならねぇからな」
「ふふ、別に勝負しなくちゃいけない訳じゃないわよ」
どこまでも真面目な友人を、ロゼットは好ましく思う――。
知る人ぞ知るこのリゾートビーチへ、4人は依頼の為に訪れていた。討伐対象のクリーパーを倒すと、喜んだ依頼主の好意でビーチを一日貸し切りにさせてもらえることになる。最初は戸惑った4人だったが、依頼主が是非にというので、『安全確認』という名目でバカンスを楽しんでいた。
「あれだけがんばったんだもの、これくらいのご褒美はあってもいいわよね」
「うん? 何か言ったか?」
「いえ、なんでもないわ。ほら、二人が戻ってくるわよ。お出迎えに行きましょう」
ロゼットはきょとんと見上げるギャメルに手を差し出すと、その小さな手を引いて波打ち際へ。
沖から戻ってきた二人は、ロゼットとギャメルの姿を確認すると、海の上に上半身をだし、大きく手を振った。
「……うん? なんか呼んでないか?」
と、ギャメルがアリッグの仕草に気付く。
「呼んでいるというより……何か指さしてるわね。海中に何かあるのかしら」
「海の中に何かが……宝か!」
「ふふ、それはどうかしら」
目を輝かせるギャメルに微笑みつつ、ロゼットはアリッグを見る。
しきりに海中に何かあるアピールをしているが、距離があるので声は届かない。代わりに一緒に泳いでいたレイヤが、水中に顔をつけ、それを見るが……。
「あ、あれ……? レイヤが慌てて戻ってくるぞ?」
「一体何を見つけたのかしら、あの子……」
『それ』を見たレイヤは嫌そうな顔で、こちらへ猛然と泳いでくる。
そして、いつの間にか海の中に消えていたアリッグが、再び浮上してくると――――。
「タ、タコ……?」
ロゼットがアリッグの手にあるものを見て目を瞠る。
それは紛れもなくタコ。うねうねと触手を動かしアリッグの腕に絡ませていた。
「タコ! すげぇ!!」
ロゼットが呆れている一方、ギャメルは目を輝かせタコを見る。
「タコってあれだろ! タコアゲに使うやつ!」
「タコアゲ……? なに、それ。油で揚げるの?」
「なんだ、ロゼットは知らないのか? タコアゲっていうのはな、シャルガネの伝統的な行事とか何とかで、生きたタコを魔法かなんかの力で、遠くまで飛ばす祭……だった気がする!」
「シャルガネにそんな文化があるなんて聞いた事もないけど……」
興奮気味に話すギャメルに、半信半疑のロゼット。二人がそんな話をしている間に、海中の二人は浜へと戻ってきた。
「なんてもん拾ってるんですか! 捨ててきなさい! タコは危険な生物ですよ! ヌメヌメしてるし、噛んでくるし、墨は吐くし! ついでに――」
浜へと上がったレイヤが海へ振り向き、悪戯な笑みを浮かべるアリッグに物申すが……。
「ぶぎゃぁ!」
その視界は、真っ黒な墨に塗りつぶされた。
「レ、レイヤーーっ!? なんだ、あの黒いの……! 攻撃か!?」
「あながち間違ってはいないけど……」
アリッグとタコの連携攻撃に、ギャメルは戦慄し、ロゼットは困惑する。
「あはははっ、そんなこと言うからこの子が怒っちゃったじゃないですか」
一方のアリッグは、真っ黒に染まったレイヤを見て大爆笑していた。
「アリッグ、あんまり度が過ぎると、私も――――」
「あー、タコが逃げたー(棒)」
なおもアリッグのターンは続く。
戦慄しているギャメルは問題ないとみて、標的をロゼットに絞ったアリッグは砂浜に足を取られた。
ギャメルが「やっぱりタコは空を飛ぶんだ!」と目を輝かせる中、タコは綺麗な放物線を描いて……。
「わっ!? ちょっ!?」
ロゼットの胸元に着地。うぞうぞと触手を蠢かせた。
「やっ……やめなさいっ、このっ!」
「ロゼット!?」
絡みついてくるタコと格闘するロゼットに、ギャメルが近寄るが、名状しがたい体勢になっていて手が出せない。
「いたたたたっ!!」
ロゼットが引き剥がそうにも、タコの抵抗は激しく、中々離れてくれない。
ギャメルがあわあわと見つめる中、格闘すること数分。ロゼットの指が、偶然タコの急所に突き刺さった。
「ええい、いい加減に離しなさーい!」
一瞬緩んだ力を見逃さず、ロゼットはタコを引き剥がすと、おもいっきり投げ捨てる。
――べちゃっ。
再び放物線を描いたタコは、秘かに爆笑していたアリッグの顔面を捕らえる。
「くぁwせdrftgyふじこっ!?」
突然視界を塞いだ触手。張り付く吸盤。奪われた唇。
アリッグは声にならない悲鳴を上げた――。
●
「いやぁ、バーベキューの具材として、いいかなって思ったんですよね」
顔面にびっちりと吸盤跡を刻んだアリッグが、アツアツの砂浜に正座している。
「確かにタコは美味しい食材ではあるけど、提供の仕方は考えるべきじゃないかしら?」
そんなアリッグを溜息混じりに見下ろしながら、ロゼットは『提供』されたタコを手際よくさばいていく。
「まぁ、美味しく頂けるのなら良しとします。墨は美味しくありませんでしたけど……」
ロゼットの隣では焼き担当のレイヤが、火を起こし焼き場の準備をしていた。
「ほら、あれですよ。折角のバカンスなので少し刺激的にした方が盛り上がるかなと思って」
にひひと笑うアリッグに、二人はうんざりと肩をすくめた。
「おーい、皆! これ依頼主がくれたぞ!」
そんな三人の元へ、ギャメルがでっかい西瓜を掲げて駆けてくる。
「西瓜ですか。いいですね、この時期にピッタリの食べ物です」
「それじゃ、デザートは西瓜という事にしましょうか」
「そうね。そのまま食べてもいいけど何か一工夫してみる?」
「一工夫ですか、となるとやはりケーキ」
「やっぱりそうなるのね」
「ギャメルさん、ギャメルさん」
「うん?」
調理担当の二人が西瓜の調理法を相談している中、砂浜に正座するアリッグがギャメルに手招きする。
「ギャメルさん、浜辺には西瓜の正しい食べ方があるのをご存知ですか?」
「正しい食べ方? 普通に切って食うんじゃないのか?」
「ちっちっちっ、甘いですねギャメルさん。夏の浜辺で西瓜と言えば、西瓜割りと相場が決まっているんです!」
「す、西瓜割り……!」
「そう! かつて邪竜を倒した勇者も毎日訓練に取り入れていたと言われる西瓜割りです!」
「な、なんだってー!!」
「まーた適当なこと言ってますけど、いいんですか?」
「まあ、いいんじゃない? 逸話はともかく、西瓜割りもバカンスにはつきものだしね」
「まあそうなんですけど……」
●
「ギャメルさん、右です右! いや、左だった! そのままそのまま……!」
「えっ!? ど、どっちに行けばいいんだ!?」
目隠しをされた剣士は、勇者の剣を手に、アリッグの誘導に従い砂浜を右往左往。
「三歩前です! そう、そこ!」
「こ、ここか! えいっ!」
「おしいっ!! 敵は寸でのところで逃亡しました!!」
「ええっ!? 西瓜って動くのか!?」
「くふふ……これは訓練だと言ったじゃないですか。相手が止まっていると、いつ錯覚したのですか?」
「ぐっ! 西瓜割り、恐るべし……!」
「ギャメルさん、惑わされちゃダメですよ。右手前に西瓜があります」
と、アリッグに翻弄されるギャメルに、助け船を出したのはレイヤだった。
「なにっ!」
「そうそう、そのまま真っ直ぐですよ」
「ちょっ、レイヤさん?!」
今まで指示役だったアリッグはレイヤの横やりに抗議の声を上げる。
「はいストップ。そこで大きく振りかぶってください」
「ここだなっ!」
レイヤの指示にギャメルが立ち止まり棒切れを大きく振りかぶる。
「ち、違いますよ! ギャメルさん、西瓜は後ろです!」
だが、アリッグも黙ってはいない。
すぐさまレイヤと反対の指示を出し、ギャメルを混乱に陥れる。
「ええっ!? どっちが正しいんだよっ!」
「わたしですっ!」
「僕ですよっ!」
「え、え、えっ!!??」
相反する二人の指示にギャメルの混乱は更に増し、ついには――。
「うがぁぁぁぁ!!」
手あたり次第、棒切れを振り回し始めた。
レイヤは危険を感じ距離を取るも、アリッグはずっと正座していた後遺症の為に上手く逃げることが出来ない。
「あ……ちょ……え」
そして……。
――ごちーんっ!!!
「ぎゃふんっ!!」
――――アリッグに一撃くれてしまったギャメルは意気消沈し、何度も彼に謝っていたが、レイアに悪戯の真相を聞かされ、両成敗という事で片が付いた。
そして、次にレイヤも西瓜割りに挑戦したのだが、「最初の10回転は必須です」と、独自のルールで歩き始めたものだから、あっちへふらふらこっちへふらふら、皆の指示にもまともに応えられず、挙句の果てには――――。
――スポーン!
振り下ろした棒切れをすっ飛ばし、バーベキューの準備をしていたロゼットの頬をかすめる始末。
結局、ロゼットの「西瓜は普通に切りましょう」の声に、西瓜割りチャレンジは終了したのだった。
●
西瓜割りチャレンジ(失敗)を終えた4人は、準備が整ったバーベキューを囲む。
「ただ焼くだけなんですけど、これが一番難しいんですよね。責任重大です」
焼きを担当するレイヤが、仕入れてきた食材を焼いていく。肉に魚、野菜もしっかり。もちろん、あのタコも忘れちゃいけない。食欲をそそる音と匂いを上げながら焼けていく食材たちを、鼻歌混じりに見つめた。
「――さて、野菜がそろそろいい感じですね。お肉の前に食べちゃってください」
レイヤは先に火が通った野菜を腹ペコの友人達に取り分けてやる。
「おいしそうに焼けたわね。特にこのトウモロコシがいい感じ」
「おお、美味そうだな! こっちのキノコもいい感じに焼けてていい匂いだぞ!」
「色々な調味料を持ってきましたので、よかったら使ってください!」
アリッグは持ち込んだ無数の瓶を皆の前へ差し出した。
「これ……きっと何か仕込んでますよね」
と、レイヤが居並ぶ瓶に怪訝な表情を向ける。
「じゃ、シャッフルするのはどうかしら?」
悪戯な表情を見せるアリッグは、ロゼットの提案に「え?」とぽかん。
「いいですね。それなら公平です」
結局、二人の提案にギャメルものって、アリッグに拒否権はなくなった。
焼けた様々な具材にアリッグ提供の調味料を合わせ、4人は食事を進める。
「あ、このお肉おいしい。猪かしら」
「こちらのお魚もいい感じですよ。ソースも悪くないです」
「さっきまで生きてたからめっちゃ新鮮でうまいな!」
3人が焼けた食材に調味料を絡めながら、食事を堪能していると――。
「あぎゃぁぁぁ!!」
口から火を噴かんばかりの勢いで、アリッグの悲鳴が響いたのだった……。
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自ら仕込んだ激辛ソースで自爆したアリッグは、腫れあがった唇を水で冷やしていた。そんな友人を不憫に思いつつも、3人は自業自得だと呆れ半分に見つめる。
「ロゼットは特にどれが好きだった?」
「そうね。お肉や野菜も美味しかったけど、濃い味ばかりだったし、レイヤのケーキが恋しくなるわね」
「あー、レイヤのケーキか。確かにそれはあるな!」
「今ケーキって言いましたっ!?」
耳聡く二人の呟きを聞いたレイヤは、ずいッと顔を寄せてくる。
「ええ、今回も用意しているのでしょ?」
「ふふ、もちろんです! 食後のケーキを皆で食べるのは最高だと伝わっていますから!」
ロゼットの微笑みに力強く頷いたレイアは、一人離れて唇を冷やしていたアリッグの元へ。
「アリッグさんも一緒にどうですか? 今回のも自信作ですよ」
あれだけ悪戯三昧したのに温かく迎えてくれる友人達にほろりとなりながらも、アリッグは「仕方ありませんね」と、鼻をすすりつつ輪に加わったのだった――――。