「アンタに俺はどう視える?」
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年10月31日 22時50分33秒
「アンタに俺はどう視える?」
ポロンとリュートを掻き鳴らしギド・フェルミが呟いた。
――街の広場の演奏会。お客はたった一人の幼き少女。うんうん、実に絵になる光景じゃないか。
このところリュートの腕もメキメキと上がってきているし、歌もまぁ、悪くない。ようやく世間が俺の演奏の魅力に気付き――。
「おっさん」
……んんん? 今のは少女の声かな? よく聞こえなかったな。
「お嬢ちゃん、何か言ったかな?」
「おばはん」
さっきと言葉が違うようだが……そうか、これは俺がさっき問うた質問の答えなのか。なるほどなるほど――。
「…………そうか。お嬢ちゃんにはそう視えるんだね」
――おっさんにおばはん。年上の男性か女性か分からなくて戸惑っている、といったところか。わかった、一先ずそう解釈し――うん、鎮まれ俺の頬。ひくひくと痙攣している場合じゃないぞ。この幼き少女に世間の常識を伝えるのもまた大人の役目だ、ギド・フェルミ!
「でもね、お嬢ちゃん。人を見た目で呼ぶのはあまり良いとは――」
「あめ頂戴」
……んんんん? なるほど、演奏を聞き、更には質問にも答えたんだから報酬を寄こせという事か。確かに労力に見合う報酬を要求するのは人として当然のことだ。この少女の言葉は決して間違って……労力? いやいやいや、労力を支払ったのは演奏を提供した俺であって、この少女はただぼーっと聞いていただけだ。質問といってもふと口をついただけで、別段答えを期待しての物じゃない。だから、少女が労力を支払ったというのは、どう考えてもおかしい……よな? え? 俺の演奏って、そこまでなの……? ただ聞くだけで労力を消費するほどなの?
――い、いや違う、断じて違う。危うく乗せられるところだった。これはこの少女が仕掛けてきた巧妙な心理戦だ。俺の人の好さにつけ込み、言葉巧みに報酬を要求するとは……流石の俺もここまでの強敵にはしばらくお目にかかれていない。だから、次だ。次の言葉が決定打になる。決して選択を間違えるなよ、ギド・フェルミ!!
「ふむ……お嬢ちゃん、知らない人から物を貰っちゃダメって、お父さんとお母さんに言われた事は無いかな?」
「…………けっ」
足元に転がっていた石をこちらに向かって蹴り上げ、悪態をついて去っていく少女。
……うん、大丈夫だ。石は頬を掠めただけで、きっと傷は残らない。……でも一応、後でヒールをかけておくとして――敵は逃げ去った。戦いは俺の勝利で終わったんだ……ああ、なんて虚しい戦いだったのだろう。だが、勝利は勝利だ。自らの手でつかみ取ったこの勝利を糧に、明日を生きるんだ、ギド・フェルミ!!!
「…………はぁ、世知辛い(ぐすん」
リブラネスタの空は、今日も青かった。
●踊る小熊亭
「アンタに俺はどう視える?」
ポロンとリュートを掻き鳴らしギド・フェルミが呟いた。
もう口癖のようになってしまった言葉。もちろん誰かへ向けての言葉ではない。
自分が誰なのか。自分はここに存在しているのか。それを確かめる為だけの呪文。
帝国があの様に悲惨な結末を迎え、俺自身が積み重ねてきたもの――といっても、望んで重ねたわけじゃなかったが――が、一夜にして無くなった。
無数に湧きだしたクリーパーに怯え、ただ逃げ出したあの夜、俺は――。
「黄昏に咲く花が美しい様に、暁に枯れる夜星もまた美しい――」
ポロンとリュートを掻き鳴らした。
聞き手の誰もいない音楽は、酒場の喧騒にかき消されていく。
掻き消される音楽が、まるであの時の自分のようだと、ここで弾く時はいつも思い出してしまう。
別にトラウマなわけじゃない。思い出しては散々に悪態を付いてストレス発散ができるいい過去だとさえ思っている。
「潮騒は波に洗われ、空に溶けて消える――」
ポロンとリュートを掻き鳴らす。
今が楽しい。とても楽しい。
誰の上でも誰の下でもない、一人の自分として生きる事の出来る今がとてもとても楽しい。
演奏を聴いて笑っている人を見るのが楽しい。冒険者仲間と連れ合って、バカやってるのが楽しい。依頼を解決して、人が喜ぶのを見るのが楽しい。
「山を、谷を、丘を、平原を、風は分け隔てなく流れていく――」
ポロンとリュートを掻き鳴らした。
こんな自分勝手に生きる馬鹿な奴を受け入れてくれる、この世界が好きだ。
授恵者なんて、大層ご立派な肩書をくれた神に感謝しよう。
だから歌に謳って語り継ぐんだ。この世界を、この時代を。そして、この場所にギド・フェルミという馬鹿で平凡な男が居た事を残すために――。
「天からは太陽が、地には水と土と木が、幾星霜の時代を経ても――」
ポロンとリュートを掻き鳴らす。
酒場『踊る小熊亭』の片隅で、店の喧騒を肴に、今日もギドはリュートを掻き鳴らし続ける。何もない自分が何者であるのかを知るために。少しでもこの世界に自分を知ってもらうために――。