パジャマパーティと秘密の恋話

キャラクターノベル(グループ)制作 紀藤トキ納品 2022年08月05日 10時39分43秒

「お邪魔します。ゲルダちゃん」
「いらっしゃいませ、リサちゃん」

 今日はリサ・ベイカーとゲルダ・クラインの仲良し女子2人のパジャマパーティだ。湯あみでほかほかのまま合流し、小物が可愛い寝間着が可愛いと定番のやり取りをしながら一緒に寝転がる。途中で温かい飲み物とおやつをちょっとだけ摘まみ、眠くなるまでとりとめのない事を語り合った。学園の事や、一緒に行った場所。共通の知り合い。お互いの事。家族の悩みや、勉強の事も少し。

 ――そうしているうちに夜も更けて、明りを小さくして横になった。

「……あの、リサちゃん。起きてますか?」
「ん? 起きてますよ」

 囁き声に、やはり小さな声が返る。良かった、と一言聞こえて、ゲルダがもぞもぞ動く気配がした。

「リサちゃん。その、前に話していた商家の娘さんのお話なんですけど……」

 ん、ん、と咳払いが間に一つ。

「……その、あの時は気が付かなかったんですが……」
「あ、バレちゃいました?」

 ゲルダの言葉を最後まで聞かずに、リサは明るく答える。なるほど、今日はそれを聞きたかったのか、と合点がいった。

「うまく誤魔化したと思ったのだけど……、そう、わたしの体験談です」

 言い難そうだったゲルダの様子からすれば、だいぶ前から尋ねたかったのだろう。顔が見えなくなるまで待ってくれたのだろうか。そう思えば配慮が嬉しくなり、リサは微笑んだ。

「あの時はもちろん悲しかったけれど、今はもう素敵な思い出ですから。大丈夫ですよ」
「本当に?」
「です。何が聞きたいんですか?」

 念押ししてくる年下の友人を可愛いと思う間に、切り出すまでも十分に緊張していたゲルダだが、何とか聞きたい事を言語化した。

「お相手の方は、どんな方だったのか、とか……。ええと、どういう所が素敵に思えた、みたいな」
「うん。大体のお話はあの時にした通りですけどね」

 リサは目を閉じ、ろうそくの小さな明りを追い出す。あの頃の彼は隣の友人位の年で、大人びて見えた自然な振舞いが瞼に浮かんだ。

「……きっかけは、いつでしたっけ。夢を話してくれたんです。彼が一番大事に思っている事を」
「どんな、夢だったんですか?」

 夢を語るその姿が輝いて見えた。恋心は無くなった今でも、その夢は素敵だと思う。

「世界を変えたい。身分の格差や、種族に囚われずに。多くの人が幸せに成れる、そんな社会をつくりたい……、って」
「……学園、生徒会選挙の時のような?」

 王国民のゲルダにとって、それが思い浮かんだのは自然な事で、リサも似ているという事は否定しない。

「きっとそれも根っこは同じなんですよね。だからわたしも柄にもなく、張り切っちゃったのかもしれません」
「そう、ですか。先進的な方だったんですね?」

 言葉の選び方はさておき。夢想家だったのだとは思う。最初に聞いた時には、世の中の当り前をひっくり返されたような気がした。身分や種族が違う人との間に、差別と言う程ではないにせよ感じていた段差を、無くそうというのだ。驚きの次に、彼の語る未来に共感した。

「いま思えば、そんな良い事ばかりある訳ないって分かるんですけどね。でも、とても素敵な未来を、夢見ている人だったんです」
「素敵な……、夢……」
「学園長や他の人もですけど、まず現実を見て、そこから出来そうな事を喋っているでしょう? そこが違ったのかな?」

 別に足元が見えない人ではなかったのだけれど、彼方を望む熱が強すぎたのかもしれない。会えばいつも夢を語っていて、いつしか自分も同じ夢を見るようになった。

「そんな社会が出来たらいいな、って思ったんです。それを彼が創る時には、わたしも一緒に……って。そう思った時に、初めて好きなんだなって自覚しました、ね」
「……そうだったんですね」

 相槌を打ちつつ、ゲルダは想像する。もしも自分がリサだったら? リサが好きになった人の夢を聞いたとしたら、確かにきっと驚いたと思う。素敵な夢だとも思っただろう。王国民でハーフリングのゲルダなら、受けた衝撃はリサよりも大きいかもしれない。けれども、ゆっくり考えてみて、ゲルダはゆっくり首を振った。

「……とても素敵な夢、だと思います。わたしも、リサちゃんが頑張るならお手伝いしたい。けど、これはきっと、リサちゃんが感じた好きとは違う……好き、ですよね」
「それは、そうですよ。みんなが同じところにときめいていたら、世の中奪い合いで大変だと思いますし」
「確かに、そう言えばそうですね……。あの、もう少し色々聞いてもいい、ですか?」
「もちろんです」

 答えながら、リサはもしかしたらと思う所がある。このしっかり者の年下の友人が恋愛に興味を持っているのは、あるいは彼女自身に何かが芽吹いているのかもしれない。だとしたら――、

「応援、しちゃいたいですよね」
「え?」
「いえ。こちらの話、で。聞きたい事とは、何でしょう?」
「あの……。嫌だったら、答えて貰えなくてもいいんですけれど。お別れした時の事も、聞きたいな、って」

 眼を閉じなおして数を数える。ひとつ、ふたつ、みっつ。悲しいというより懐かしくて、ちょっと寂しく、でも暖かい。あの人を好きになって、良かったと思う。

「……あの人とわたしは、最初から難しいってわかってたんです。だから、いつかその時が来るのも、お互いにわかっていました」
「おうちのこと、ですか」
「ライバル商会ですからね。さすがに、どうにもならないなって」
「逃げ出したり、したくはならなかったんですか?」

 とても好きで、大好きで、でも世界を変える夢は、家から離れたら遠くなってしまう。彼に夢を捨てさせるのはもちろん嫌だったし、その時にはもう自分の夢でもあったから。

「夢と恋と……、で。わたしたちは夢を取ったんですよ。思えば、そういうところの考え方も似ていたから、好きになったんでしょうね」

 また、ゲルダが身じろぎする気配がした。

「……好きになるのは似ている人、なんでしょうか」
「そうとは限らないと思いますよ。わたしの場合はそうだった、っていうだけで」
「好きだと思った時の事、もっと聞きたいです」
「そうですねえ……。思い浮かべると、胸がキュッとして」
「きゅっと……」
「熱い気がしたり、ドキドキしたり、ほっとしたり。その人の事を考えるときだけ、色々なことが違ってきましたね」
「……ドキドキ……」

 思い当たることが、ある。ゲルダは頭に浮かんできた人の名前を、心の中で唱えてみた。頬が熱くなって、肩が縮こまって、恥ずかしいのに、温かい。

「人を好きになる事は、世界が広がる事。身分や種族で好きになる相手を決めてしまうなんてもったいない、……なんていうのは受け売りですけれど。それまでに感じた事が無い事が有ったり、今まで見ていた景色が違って見えたりして……」
「あの、リサちゃん」
「何ですか?」
「……わたし、もしかしたら、すきなひとが、います」

 意を決したゲルダの告白を聞いて、リサは微笑して祝福を口にした。

「おめでとう、ゲルダちゃん。初恋、ですかね?」
「あ、はい。ええと、でも、このすきは、恋……なんでしょうか」
「ふふふ」

 可愛い。気が付くまでも、気が付いてからも、きっと初恋はいっぱいややこしい。ゲルダにどんな障害が待っているのか、わからないけれど。恋の先輩として、この可愛い後輩を応援してあげたいと改めてリサは思った。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0