新しい明日へ ~再び生まれる物語~
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年10月30日 19時13分37秒
「くはっ! ざまぁねぇな!」
伝書バトが運んできた手紙を見たナハシュは、まわりの目も気にせず声を上げた。
手紙の差出人は所属する組織の幹部から。
――紛争? 手伝え? 知ったこちゃぁねぇよ。俺のいない間におっぱじめた喧嘩に、なんで俺がかかわらなきゃなんねぇんだ。
人をモノとしか見ていない高圧的な文面に見える確かな焦り。
ナハシュは手紙を千切り、天に向かって放り投げた。
「まさか、かったるいと思ってた帰郷がこんなに楽しみになるとはな」
きっと帰った時には楽しい事になっている。そんな確信に心が弾む。冒険者として登録した時でさえ、こんなに気持ちが高揚する事は無かった。
「さぁ、ゆっくりと帰ろうか。祭りが終わった頃に着けばいい」
だからこそ急ぎはしない。楽しみは後にとっておく主義だ。
ナハシュは逸る気持ちを抑えながら、リブラネスタの門をくぐった。
●
「おぉ、こりゃ見事にぶっ潰れてんな」
ゴールディの奥も奥。まともな人間なんて通りもしない裏道にある石造りの建物。
金貸しと裏商売であくどく儲けていた店は、今や廃墟も同然だった。
「あのぉー、どちらさまかいらっしゃいますかー」
半壊した戸を蹴り抜いてナハシュは店へと踏み込む。
切り裂かれた絵画、割れた調度品、ぶっ壊された椅子に机――。そこは既に『店内』とすら呼べぬ有様だった。
「ははっ、こりゃいい」
ナハシュは荒れ放題の店を進み、組織のアジトだった部屋を覗き込んだ。
「はい、誰もいませんねー」
部屋には死体は一つもなかったが、壁や床に飛び散った血の跡が紛争の壮絶さを物語っている。
散々自分をこき使い暴力で全てを従えていたあのボスもどうやら死んだらしい。
「はぁ、これで俺も一人か。……たまらねぇな」
孤独感などまるで感じなかった。
小さきゴブリンであった頃から肥溜めのようなこの街で育ち、日々食う為だけに生きた。暴力と金だけが世界の全てだった。
囲われたこの組織からはいいように使われ、任務が終わってしぶとく生きて帰ると子供には毒にしかならないだろう度のきつい酒を褒美だと無理やり飲ませられた。
何度も殴られ、蹴られ、怪我や痣の無い日はなかった。
それが授恵者として目覚めてからはどうだ。掌を返したように態度が変わった。
――決まりだから冒険者になれと言われた時には耳を疑ったな。決まりを守るようなタマかよって。まぁ、用心棒にでもしたかったんだろうが。
「折角だ、独り立ちのお祝いでも貰っておくかね」
ナハシュは激しい闘争ですら寸分も動くことのなかったボス自慢の机を蹴り飛ばした。
剥き出しになった木床に指を突っ込みそのまま持ち上げる。現れたのは地下へと繋がる階段だった。
●
「――うん、誰だ?」
地下室の『お祝い』を無事確認し終え、地上に戻ってきた所で表から声がした。
――まさかあっちの組織の人間か?
こちらの組織は壊滅したが、あちらがどうなったかは知らない。
――報復か、それとも事後確認か?
そう思い、ナハシュは慎重に店内を進み表を覗き込んだ。
……違うな。なんだこいつら。
表に居たのは二人のゴブリンだった。
みすぼらしいゴブリンの母娘――いや姉妹か?
「おい、俺の店に何の用だ?」
突然現れたナハシュの声にびくりと肩を竦ませた二人は、恐る恐るぼろい紋具を差し出す。
……買い取れって事か? おいおい、この店の成りを見てよく持ってきたな。
だから、怯えながら手を伸ばし続ける姉妹に言ってやる。
「わりぃな、改装中だ。また来いよ」
それだけを言って、泣きそうになる姉妹を追い返した。
店中に戻り、ナハシュは荒れ果てた店内を見渡す。
――ここが俺の店? 顎で使われ何度となく床を舐めた、ここが?
自分でも不思議だった。咄嗟に出た言葉とはいえ、この糞みたいな店を自分の物だといったのだ。
――ははっ。もういっそ本当に店ごと貰っちまうか? それだな、それがいい。貰っちまおう。
「まぁ、飽きたら畳めばいい」
この瞬間、店はナハシュのものになった。
頭が変わったって誰も気にも留めない。他人に無関心。大切なのは己と金だけ。そんな流儀が支配する薄暗いこの街が俺は一等好きだった。
そんな愛すべき糞街で、俺はようやく一人になれた。俺が俺のままに生きられる場所をようやく手に入れた。俺は……ようやく生まれることができた――。
伝書バトが運んできた手紙を見たナハシュは、まわりの目も気にせず声を上げた。
手紙の差出人は所属する組織の幹部から。
――紛争? 手伝え? 知ったこちゃぁねぇよ。俺のいない間におっぱじめた喧嘩に、なんで俺がかかわらなきゃなんねぇんだ。
人をモノとしか見ていない高圧的な文面に見える確かな焦り。
ナハシュは手紙を千切り、天に向かって放り投げた。
「まさか、かったるいと思ってた帰郷がこんなに楽しみになるとはな」
きっと帰った時には楽しい事になっている。そんな確信に心が弾む。冒険者として登録した時でさえ、こんなに気持ちが高揚する事は無かった。
「さぁ、ゆっくりと帰ろうか。祭りが終わった頃に着けばいい」
だからこそ急ぎはしない。楽しみは後にとっておく主義だ。
ナハシュは逸る気持ちを抑えながら、リブラネスタの門をくぐった。
●
「おぉ、こりゃ見事にぶっ潰れてんな」
ゴールディの奥も奥。まともな人間なんて通りもしない裏道にある石造りの建物。
金貸しと裏商売であくどく儲けていた店は、今や廃墟も同然だった。
「あのぉー、どちらさまかいらっしゃいますかー」
半壊した戸を蹴り抜いてナハシュは店へと踏み込む。
切り裂かれた絵画、割れた調度品、ぶっ壊された椅子に机――。そこは既に『店内』とすら呼べぬ有様だった。
「ははっ、こりゃいい」
ナハシュは荒れ放題の店を進み、組織のアジトだった部屋を覗き込んだ。
「はい、誰もいませんねー」
部屋には死体は一つもなかったが、壁や床に飛び散った血の跡が紛争の壮絶さを物語っている。
散々自分をこき使い暴力で全てを従えていたあのボスもどうやら死んだらしい。
「はぁ、これで俺も一人か。……たまらねぇな」
孤独感などまるで感じなかった。
小さきゴブリンであった頃から肥溜めのようなこの街で育ち、日々食う為だけに生きた。暴力と金だけが世界の全てだった。
囲われたこの組織からはいいように使われ、任務が終わってしぶとく生きて帰ると子供には毒にしかならないだろう度のきつい酒を褒美だと無理やり飲ませられた。
何度も殴られ、蹴られ、怪我や痣の無い日はなかった。
それが授恵者として目覚めてからはどうだ。掌を返したように態度が変わった。
――決まりだから冒険者になれと言われた時には耳を疑ったな。決まりを守るようなタマかよって。まぁ、用心棒にでもしたかったんだろうが。
「折角だ、独り立ちのお祝いでも貰っておくかね」
ナハシュは激しい闘争ですら寸分も動くことのなかったボス自慢の机を蹴り飛ばした。
剥き出しになった木床に指を突っ込みそのまま持ち上げる。現れたのは地下へと繋がる階段だった。
●
「――うん、誰だ?」
地下室の『お祝い』を無事確認し終え、地上に戻ってきた所で表から声がした。
――まさかあっちの組織の人間か?
こちらの組織は壊滅したが、あちらがどうなったかは知らない。
――報復か、それとも事後確認か?
そう思い、ナハシュは慎重に店内を進み表を覗き込んだ。
……違うな。なんだこいつら。
表に居たのは二人のゴブリンだった。
みすぼらしいゴブリンの母娘――いや姉妹か?
「おい、俺の店に何の用だ?」
突然現れたナハシュの声にびくりと肩を竦ませた二人は、恐る恐るぼろい紋具を差し出す。
……買い取れって事か? おいおい、この店の成りを見てよく持ってきたな。
だから、怯えながら手を伸ばし続ける姉妹に言ってやる。
「わりぃな、改装中だ。また来いよ」
それだけを言って、泣きそうになる姉妹を追い返した。
店中に戻り、ナハシュは荒れ果てた店内を見渡す。
――ここが俺の店? 顎で使われ何度となく床を舐めた、ここが?
自分でも不思議だった。咄嗟に出た言葉とはいえ、この糞みたいな店を自分の物だといったのだ。
――ははっ。もういっそ本当に店ごと貰っちまうか? それだな、それがいい。貰っちまおう。
「まぁ、飽きたら畳めばいい」
この瞬間、店はナハシュのものになった。
頭が変わったって誰も気にも留めない。他人に無関心。大切なのは己と金だけ。そんな流儀が支配する薄暗いこの街が俺は一等好きだった。
そんな愛すべき糞街で、俺はようやく一人になれた。俺が俺のままに生きられる場所をようやく手に入れた。俺は……ようやく生まれることができた――。