極・露天風呂付きの離れで何も起こらないはずがない!

キャラクターノベル(グループ)制作 広大野人納品 2022年07月18日 12時07分43秒

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 観光も食事も済ませ、二人っきりで過ごす離れの一夜。
 ジュスト・ヴェルジーを先に風呂へと入れさせる作戦に成功したローザリカ・L・ディオールは髪を結いあげ、タオルで躰を包む。
(僕が先だと絶対に入って来ないだろうからな)
 いつも思わせぶりな言動で惑わしてくる彼に仕返しする絶好の機会……だと自身に言い聞かせ、緊張して鼓動が強くなる心臓に発破を掛けた。
 露天風呂に続く扉を、あくまでも自然な振りを装いながら開く。
 その音と気配に、ジュストは冷静を保ちつつも胸の奥を弩突かれる感覚を受けた。健全な男子なら、そんなシチュエーションは想像(妄想)はするだろうけど、まさか本当に入って来るとは……襲われたい性癖でもあるのではないのかと思ってしまう。
(人の気も知らずに……)
 鋼の精神を持つ自分だからこそ、一線を保っていられるという事実について、彼女は自覚がないのだ――許せんから、せめて彼女の美しい躰のラインを記憶に刻み込んでおこうと思う。
「……っ、見るな!」
 そうそう、その反応と内心笑いながらジュストは余裕の表情をつくる。こちらの理性も限界だが、むこうの虚勢も限界なはず。
「見ている訳じゃない。ロゼを愛でているだけさ」
「うるさい! 共に入ろうと思っただけで、僕は見世物じゃない!」
「それなら、互いに身体を流し合わないと。先に洗ってあげようか?」
 直後、ジュストの顔に向かって湯の塊が飛んで来た。
「馬鹿!!」
 ローザリカから、容赦なく放たれる湯。照れ隠しも際立っている。
 彼の慌てふためく(滅多にお目にかからない)顔を見たい為に恥ずかしい思いをしやっているというのに。この男は万死に値する――とりあえず、濡れた髪と顔も見惚れる程に色っぽくて目に焼き付けておこうか。
「き、君は濡れると、なかなか、可愛い顔になるな」
 強がりを言いながら自身の躰にも湯を掛けてた後、露天風呂へとロゼは入る。
 少し熱いのは、湯のせいだと思う事にした。
「……というか、少し狭くないか?」
 手を伸ばせば抱き合う事も可能な程の近さ。
「義賊が煮られた釜みたいな形状を真似た浴槽というのが宿の説明だ。こうやって至近距離で向かい合うのが恥ずかしいのかい?」
 地中に埋めた五右衛門風呂のような所に、二人が入るのは少し窮屈なのは確かだ。
 もっとも、恋人同士で泊まりに来る客にとっては些細な事かもしれないが。
「近いからといって無遠慮に僕を見続けると、また湯を掛けるからな」
「幾らでも。それに、ロゼも既に濡れているのだろう」
 含みのある微笑みに対して、ローザリカは湯を叩いて弾くよう、ジュストに放った。煽られてすぐに反応してしまう己が悔しい。
 だからこそ、余計に八つ当たりしたくなるのだ。
「君は、いつも、いつも! そうや……て……ぇ?」
 急に視界が歪む。
 風呂に浸かったのはついさっきというのに、何故……その答えに辿り着く事なく、ローザリカは己の意識が、自身から離れて行ってしまう感覚に襲われた。

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 急に目の焦点が合わなくなって揺らめく彼女の姿に、ジュストは慌てた感情を隠す余裕なく、ローザリカの躰を支える。
「ロゼ! ロゼ!」
 急激な血圧の変化による、所謂、のぼせだ。
 それは油断できるものではない。浴場での意識障害は溺死などの可能性もあるからだ。
「……ジュ……ス……ト……わ……たし……」
「くっ……」
 火照った頬に潤い滲んだ瞳。躰の全てを委ねて来るローザリカの様子に、ジュストの欲望という名の危険水位が急上昇し、理性(ダム)は決壊寸前に追い込まれた。
(あ……)
 その堪える表情(顔)が見たかったのだと、朦朧とする意識の中で、ローザリカは満足する。ふわふわとした上機嫌に包まれ、彼のする事が何でも許せる気がしてきた。
「一先ず、風呂から出るぞ」
 ローザリカを抱いて風呂から出ると石床に寝かす。
 忙しくタオルや氷を用意して駆け回る、腰に手拭を巻いただけの彼の姿をローザリカはぼんやりと目で追っていた。よく分からないけど自分の為に頑張っている姿が、いつもの5倍位、勇ましく見えた。
「ジュスト……」
「布団で着替えるからな」
 粗方、躰を拭き終わると、再び彼女を抱えて布団へと運ぶ。
 元々用意されていた浴衣を着せ――下着は見なかった事にするジュスト。介抱するのが先決でこれ以上は精神に良くない。
「……いいよ」
 ドキっとする彼女の一言にジュストは耳を疑った。
 もっとも、意識が飛び飛びのローザリカは特に深い意味があった訳ではなくて、布団で着替える事に対しての遅い返事だった訳なのだが。
「休めよ」
 ジュストが短く告げると薄掛けを被せる。
 これでヘタレという奴が居たとしたら、そいつは堪え性が無いだけだと思う事に決めた。
 追加の水を取って来ようと立ち上がる……前に、ローザリカが弱々しく腕を伸ばす。その手は空しく床を探り畳が乾いた音を立てた。
「行かない、で……まだ、寝たくない、のに……」
 二人だけで過ごす大事な時間なのだから。
 珍しい懇願と今にも壊れてしまいそうな儚い彼女に、ジュストはローザリカの手を握る。
「ロゼ、寝た方が良い。またいつでも来れるから」
「……何か話して、ジュスト……」
 途切れ途切れの意識の中で、せめて、声は聴きたい。
 愛はいつも語っているじゃないか……という台詞をジュストは飲み込んだ。分かっている――ローザリカは今、そんな話を聞きたい訳じゃないと。
 近くに転がっていたうちわを空いている手で取ると、ゆっくりと扇ぐ。
「……集落の言い伝え……昔話で、いいか?。誰よりも武士(もののふ)であろうとした少女と青年の物語……」
 ジュストが紡ぐ声に満たされながら、ローザリカの意識は夢の中へと沈めていくのであった。

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 穏やかな寝息を立てるローザリカに扇いでいたうちわを止めて、ジュストは彼女の頬に軽く口付けをする。
 そして――大きくため息をついた。
 今すぐにでも彼女を強く抱きしめたい衝動を押し殺し、ふらりと立ち上がる。
(生殺しだ……)
 今度は自身がのぼせてしまうのではないかと思うほど、熱くなっている。行き場の無い欲望(熱)を放出しないと、頭の中がどうにかなりそうだった。
(…………)
 開きっぱなしだった扉の奥には露天風呂が見えている。
 さっきまで一緒に入っていた風呂。もう一度、湯を揺らしても良いだろうと自分に言い聞かせた……後で自己嫌悪に陥ったとしても。
 そうでもしないと、きっと今晩は寝られないだろうから。

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 小鳥達の楽しそうな声にローザリカは目を覚ました。
 寝ぼけながらに上体を起こす。昨晩の記憶が夢と合わさって曖昧だった。
(僕は……あれ?)
 なぜか浴衣一枚しか羽織っていない。
 お風呂に入った所までは何となく覚えているのだが……なんだかんだあったのかなかったのか。
(思い出した……確か、僕は……)
 折角の露天風呂付きの離れ。二人っきりのこの場所で、仕返ししてやろうと決めていた事を。昨晩は日頃の疲れもあって寝てしまったが、今からでも遅くはない。
 周囲を見渡すと彼の姿はなく……という事は隣の部屋で寝ているはず。耳を澄ましてみるが隣から物音は聞こえてこない。彼はぐっすりと寝入っているのだろう。
 やや乱れたままの浴衣姿でローザリカは音を立てないように襖を開けた。
「夜這い、ではないから」
 まるで言い訳するよう己に言い聞かせる。この後も、またいつもの調子で彼に翻弄される事になるとは、ローザリカはまだ知らないのであった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0