贈り物の重さ

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年06月16日 08時49分33秒

 その日、ローザリカ・L・ディオールは悩んでいた。
 久しぶりに訪れたリブラネスタの賑わいも目に入らぬほどに、深く悩んでいた。
 おいしそうな屋台の匂いにも、華やかな大道芸人の芸にも、声をかけてくるナンパ男にも、気付かぬほど深く深く悩んでいた。

 悩みのタネは『贈り物』のこと。

 相手の顔を思い、その笑顔を夢想して、その時々において最高のものを贈る。
 それがディオールの義務であり矜持。

 ……そう思っていた時期が私にもありました。

「うぅぅ……一体何なんだ、重たくないプレゼントというのは。そんなものが一体どこにある……なんだ、花一輪でいいのか? いや、それでも重いと言われる。たかが花一輪だぞ? ……確かに、贈るものは厳選する。季節を考え、花言葉を調べ、摘んだ時間すらも計算して、最高の状態のものを相手に贈る。しかし、それは当然の事だろう? 同じ花であれば、老いて枯れる寸前のものより、若く生命に満ち満ちているもの方のいいに決まっている。贈る相手が大切な人物であればなおさらだ……」
 艶やかなドレスを纏った麗人が天下の往来の真ん中で悶々としている姿は、公衆にとってはいい娯楽なのか、ブツブツと独り言を呟きながら街を歩くローザリカに通行人達は奇異の目を向ける。
「ならばどうすればいい。そこいらの露店で買った串肉でも贈ればいいのか? いやいや、待て、落ち着けローザリカ。それは果たして贈り物か? そんなもの贈られて誰が喜ぶ……彼(従弟殿)なら、そんな物でも喜んでくれる…………って違う! ダメだ、それはダメだ! いくらなんでも串肉なんて贈れるか! そもそも贈り物ですらないだろう!」
 串肉屋の親父に冷たい視線を向けられている事など露知らず、悶々と独り言を繰り返すローザリカはリブラネスタの大通りを歩く――――。

「おいおい、公衆の面前でなんて声あげてんだ」

 そんなローザリカの苦悩(奇行)を見かねて、声をかける者がいた。
「む……君は」
 何処かで聞いた声にローザリカが視線を上げる。
 目の前には、呆れたようにこちらを見つめる大男が立っていた。
「スー・ルー君か。こんな所で会うとは偶然だな」
「ああ、そうだな。って、そんな事より、そんな声を上げてどうした。何悩んでるか知らねぇが、お貴族様が独り言呟きながら天下の往来を歩くのはどうかと思うぞ?」
「そ、そんなことをしていたのか、僕は……」
「気付いてなかったのかよ……」
 真実を告げられ愕然とするローザリカに、スーは肩をすくめ首を振った。
「なんか悩んでるのか? 依頼で何度か一緒した好だ、俺でよけりゃ聞くぞ?」
「いや、これは他人に相談するような…………相談」
 うん? と覗き込んでくるスーを、ローザリカがゆっくりと見返した。
「スー君、その……今時間があればなんだが……」
 どこか歯切れが悪く話すローザリカの視線が揺れる。
「時間? 別になくはないが……」
「そ、そうか……ならば、その……アドバイスを貰えないだろうか。もちろん、それ相応の礼はするし、嫌であれば断ってくれてもいいんだ」
「お、おう……? なんだかよくわからねぇが…………話を聞いてからでいいか?」
 そういうとスーは視線で近くのカフェテリアを示す。
 ローザリカもその視線を追い、こくりと頷いた。

●
「……いや、それ人選を間違ってないか?」
「そ、そんな事は……! そう、なのか……?」
 自信なさげに問い返してくるローザリカに、スーは溜息をつく。
「誰に贈るかは知らねぇけど、あんたがそこまで悩むんならそれなりの人物なんだろ?  俺は貴族でもねぇし、ましてやヒューマンでもねぇ。流石にその誰かと趣味が合うとは思えねぇんだがな」
「し、しかし、同じ男性だろう。君の意見でいいんだ、君は異性からどんなものを貰ったら嬉しい?」
 困ったように頭を描くスーに、ローザリカはグッと身を乗り出した。
「そうだなぁ……やっぱ、肉じゃねぇか?」
「なっ……! や、やはり、肉なのか」
 パクパクと口を開閉し、「肉……」と何度も連呼するローザリカ。
「いや、悪かった冗談だ」
「冗談なのかっ!」
「お、おう……」
 スーはこんなに余裕のないローザリカを初めて見た。
 依頼で一緒になった時のような、常に凛として自信に満ちた姿からはまるで想像がつかない。
「とはいえ、貰ったら嬉しい物か……うーん、今すぐにぱっと思いつかねぇが……」
 ちらりとローザリカを見れば期待に満ちた目がこちらを見ている。
「とりあえず、街に出て見てみるか。言っとくけど、何を選んでも文句言うんじゃねぇぞ?」
「ああ、わかった。期待しないと誓おう! 我がディオールの名にかけて!」
「……いや、それ重いって」
 グッと拳を握るローザリカに、スーは乾いた笑みを浮かべた。

●
「そうだな。とりあえず、ビビッと来るものがないか探しに出るか」
「ビビッと……なるほど、直感を頼るという訳か」
 カフェテリアを出た二人は、リブラネスタの大通りへと舞い戻った。
 賑やかな大通りには沢山の人出がある。そして、それに比例する様に沢山の露店が軒を連ねる。
 食料品を扱う露店はもちろん、各国の特産を扱う店や、リブラネスタ土産を扱う店。通りを変えれば、生活雑貨や食品など、リブラネスタの生活に密着した店々も多く並ぶ。
「おっ、あれなんてどうだ。リブラネスタに旅行に来る奴等が良く買ってるみたいだぞ」
「あれ……いや、木刀は流石にないだろう。あれを贈って誰が喜ぶんだ」
「俺は嬉しいが?」
「な、なに……嬉しいのか。そうか、木刀……」
「おっ、こっちのもいいな。ってか、これなんだ」
「うん? ああ、これは万華鏡(カレイドスコープ)だな。底の小さな穴から中を覗くといい」
「覗く? うぉ! なんだこれ、すげぇーな!」
「そうか、気に入ったか。ちなみにそれは一度として同じ模様が出来ないんだ。一期一会の奇跡。よく目に焼き付けておくといい」
「ほーほーほー!」
「はは、スー君はまるで童のようだな」
「いやぁ、面白れぇもん見た」
「気に入ったのなら贈ろうか?」
「いや、いらねぇ。確かに面白かったが、俺がこんな綺麗な物をくるくるしてても似合わねぇしな」
「そんな事はないと思うぞ? 美しい物は人の心を豊かにする。成りがどう、性格がどうと忌避するのは惜しいというものだ」
「ふーん、そういうもんか」
「そういうものだ。それで、どうする?」
「いや、いらねぇ」
「そうか。それは残念だ」
 肩をすくめながら棚に万華鏡(カレイドスコープ)を戻すスーに、ローザリカは微笑みかける。
「いやぁ、普段武器屋くらいしか行かねぇから、こういうのもいいもんだな」
「そうか、喜んでもらえて僕も嬉しい」
 露店の軒先で、笑顔を向け合う二人。片やワイルドなハーフビーストの大男、片や美しき貴族令嬢。
 このアンバランスな二人の買い物(デート)風景に、街往く人々に視線が集まるのは必然だった。二人の姿を見た人々が、あの二人はどういう関係なのかと噂し、憶測が広がっていく。
 一見すれば仲睦まじく、少し見方を変えれば主従の様でもある。
 二人を囲む視線は増え続けていた。
「……なんか視線を感じるな」
 スーの大きな耳がピクリと揺れる。
「……そのようだ」
 二人が振り向き辺りを見渡すと、注がれていた視線の波が一斉に引いていく。
「スー君、場所を変えよう。どうにも落ち着かない」
「そうだな」
 ローザリカはスーの手を取ると、露店を後にし、人目を避け路地へと入っていった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0