その変化、ありや無しや
キャラクターノベル制作 革酎納品 2022年05月24日 10時10分01秒
●
リーンエス王国北部の町ホークヤードにも、そろそろ初夏の陽射しが訪れようとしている。
久々に快晴の朝を迎えたヴァン・ローラントは、自身の仕事場であり、同時に住居でもあるローラント探偵事務所の通り側の窓を大きく開いた。次いで、反対側の路地に面している裏窓も開け放つ。
ここ数日は雨が続き、空気の入れ替えが出来ていなかった。普段から掃除はしているものの、空気の循環だけは天候に左右されてしまう。家具の隙間の湿気を飛ばす為にも、よく晴れ渡った日の清々しい風の流れはどうしても引き込んでおきたかった。
それにしても、とヴァンは思う。
(矢張り……変わり映えしないか)
つい先日も、同じことをいわれたばかりである。
ローラント探偵事務所内の光景は、長年同じままだ。間取りを変えることは出来ないにしても、調度品や家具の類は見事な程に、以前から全く変化が無い。
別にこれはこれで良いのだが、置物のひとつくらい増やしたところで、罰が当たることもないか、などと思ってみたり。
しかし態々家具店や小物品を扱う雑貨店に出かけてまで、事務所の見栄えを新調しようなどとは思わない。そこまでして雰囲気を変えたい、と考える程の欲求が無かったし、その必要性に駆られている訳でもなかった。
そんなことを考えながら、ヴァンは借りた本を返す為に行きつけの貸本屋へと向かった。
ローラント探偵事務所からは目と鼻の先にある為、窓は閉めず、玄関だけを施錠すれば良い。
「やぁおはようヴァン。今日はよく晴れてるね」
受付卓の脇でヴァンを出迎えたエルフの店主ニコは、いつもの様に穏やかな笑顔を向けてきたが、その表情にはどこか探る様な色が見え隠れする。
借りた本の返却手続きを終えると、ニコは、少し時間はあるかね、と訊いてきた。
「実は通りの西の公園でノミ市が開かれているんだ。一緒に覗いてみないかね」
曰く、珍しい本が出品されていないかを見に行きたい、ということらしい。
ヴァンはふと、変わり映えしない探偵事務所内の光景を思い浮かべた。この際だから、何かひとつ変化をもたらしてみても良いかも知れない。
ニコが行く気満々だったのもあり、ヴァンはふたつ返事でOKした。
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ノミ市は、思った以上に盛況だった。
前日まで鬱陶しい雨模様だったこともあり、多くのひとびとが青天下のノミ市を楽しんでいる様に見えた。
「あら、ヴァンじゃない」
ニコと並んで何人かの売主を冷やかしていたところで、聞き覚えのある声が飛んできた。見ると鼠の半獣人娘ジェナが、敷物を広げて何点かの売り物を並べていた。
「やぁ初めまして。ヴァンのお友達かな?」
「あ、はい。ジェナっていいます。以前、ヴァンに助けて貰ったことがあって」
ヴァンがふたりを紹介するよりも先に、ニコとジェナは勝手にお互いを自己紹介し合っていた。ふたり共こういう場面で先手を取るのが上手いというのに加えて、ヴァン自身がしっかり出遅れてしまった。
しかも、意気投合するのが早い。お互いヒューマンではないということもあって、何か通じるところがあるのだろうか。
否、そういう意味ではドワーフであるヴァンも条件は同じ筈なのだが、一体何が違うのだろう。
「へぇ……お手製の刺繍なんだね。ハンカチやコースター……とても綺麗だ」
「えへへ、ありがとうございます。ニコさんはやっぱり、本がお目当てなんですね」
などとすっかり打ち解けているふたりに、ヴァンは内心で、ただただ感心するばかりであったが、まるで第三者の様な立ち位置で眺めているヴァンに、ふたりも漸く気付いた。
「いや、済まないヴァン。何も君を放っておいた訳じゃないんだが……」
「あ……ねぇねぇ、三人でちょっと廻ってみない? あたしも他のひとが、どんな具合で売ってるのか参考にしたくって」
ヴァンは思わず頭を掻いた。ふたりに、気を遣わせてしまったか。
しかしながら、折角の気遣いを態々拒否する理由も無い。ヴァンは三人揃って、他の売主達の様子を見て廻ろうというジェナの提案に乗ることにした。
●
「それにしても、やっぱり本は出てないかなぁ」
半分程を見て廻ったところで、ニコは腕を組んだ。
印刷技術がほとんど発達していないロスガリア大陸に於いては、書物は貴重品の部類に入るといっても良いかも知れない。ノミ市で掘り出し物の一冊が見つかるかも、というニコの淡い期待は、早々に打ち砕かれた。
一方のジェナは、他の売主達の売り捌き状況に興味津々だった。口八丁で上手く売り捌く者も居れば、全然売れなくて頭を抱えている者も居る。ノミ市というのはある意味、色々なひとびとの人生模様の一面を凝縮した形で表現している場なのかも知れない。
そしてヴァンは、雑貨や置物を中心に視線を走らせていた。
今のローラント探偵事務所内は良くいえば堅実、悪くいえば地味一辺倒の構成となっている。であれば、何かひとつ趣の異なるものを購入するだけで、雰囲気はがらりと変わる可能性が高い。
そういう意味では、ヴァンはちょっと変わったものを探すだけで良く、随分と気楽だった。そんなヴァンの心の内を見透かしたのか、不意に横合いから威勢の良い声がヴァンの意識を絡め取った。
「そこのお兄さん! いやぁ、うちの品に気が付くなんて、流石お目が高い!」
ヴァンは正直いって、戸惑った。
別にその売主の品物に目を留めた訳でも無く、ほんの一瞬視界に入れただけに過ぎない。ところがその売主は物凄く一方的に、ヴァンをお客と認めていた。その強引さに、ジェナは隣りで変に感心していた。
売主は、どうやら質屋らしい。今日はこのノミ市で質流れした品を売り捌いているとの由。
「あ、申し遅れました。あたくし、こういう者でござんしてね」
いいながら売主はヴァン、ジェナ、ニコにそれぞれ一枚ずつ、名刺を手渡した。そこには
『真心質屋でおもてなし! ベイオウルフ・アレンカイザー』
と記されていた。
三人は思わず、顔を見合わせた。この時、三人共に全く同じ感想を抱いていた。
(な……名前負けしている!)
瓶底の様な分厚いレンズの丸眼鏡、ちょび髭、ドーナツ状に黒髪がサイドに残った禿げ頭、頭頂部にちょろりと生える一本の毛髪。下手したら『ベオちゃんペッ!』とかいい出しそうなコメディアンの空気感たっぷりの喜劇フェイス。
三人はもう一度、質屋の店主を見た。
ベイオウルフ・アレンカイザー。
どうやらこの日のノミ市は、何やら波乱含みの展開になりそうだ。
●
しかし、こうして出会えたのも何かの縁。
ヴァンはお勧めの品は何か、と訊いてみた。
「よくぞ訊いて下さいました! まず最初の御品はこちら! アレンカイザー式シャルガネ風マーヴェラス女子ドール!」
ベイオウルフが指差したのは、シャルガネの土産物屋辺りでよく見かけそうな、黒髪と丸くて白い顔が特徴的な東方人形だった。
何故そんな長ったらしい名前なのか、普通に東方人形で良いんじゃないか――などと無粋な疑問を抱いてはならない。これぞベイオウルフ一流のシャレオツな命名規則なのだ。
多分。
「どんなところが、チャームポイントなの?」
やめとけ、下手に訊くんじゃないとヴァンが釘を刺す前に、ジェナがふらっと興味を駆られて訊いた。ベイオウルフは待ってましたとばかりにふんぞり返る。
「よくぞ訊いて下さいました! 実はですねこのドール、夜な夜な髪が伸びまして」
「次、どうぞ」
内心で、そんな怖いモン誰が買うんだよと突っ込みつつ、ヴァンは努めて冷静に他の品へと促した。
ベイオウルフが次に提示したのは、花畑が描かれた綺麗な風景画。じっと見ていると、吸い込まれてしまいそうな雰囲気だ。
「これはですね、アレンカイザー式デッドリーお花畑!」
デッドリーとはまた随分物騒なネーミングである。綺麗な絵であることに変わりはないのだが、何故そんなに怖い名前なのか。
「これは何と! とある死霊術師が作成した極上の逸品でして、夜になると命が吸い込まれるという……」
「はい、次」
何となく吸い込まれそうな気分になったのは錯覚ではなかったらしい。ていうか、そんなヤバいモン普通に売るなよとヴァンは二度目の突っ込みを危うく声に出しかけた。
いや、既にニコが同じ様な突っ込みを穏やかな調子で浴びせかけていたが、ベイオウルフはどこ吹く風。
そしていよいよ真打登場、とベイオウルフは鼻息を荒くした。
取り出してきたのは金色の懐中時計。既に壊れていて動かないらしいが、インテリア用としては申し分ないとか。
「これぞアレンカイザー式ゴールデンパリピウォッチ! 何を隠そう、この時計は太古のいにしえより頭痛が痛い……」
「はい、もう結構」
これ以上付き合っていられるか。
ヴァンは速攻で打ち切らせた。
●
「で、ヴァン。どれ買うの?」
「んー、私ならこのデッドリーお花畑が精神鍛錬も兼ねて良いんじゃないかと……」
ジェナとニコが、購入前提で話を振ってきた。
いやいやいやちょっと待てとヴァンは慌てて拒絶しようとしたが、ベイオウルフは既に値引き額を算出し始めていた。
これは一体、どういうことであろう。
そして、その日の夜。
ローラント探偵事務所の物置棚の一角に、少女姿の東方人形がちんまりと佇んでいた。
何でこんなものを買ったのか、ヴァンにもよく分からない。気が付けば何か暗示にでもかかったかの様に、この東方人形、否、正確にはアレンカイザー式シャルガネ風マーヴェラス女子ドールを購入していたのである。
如何に授恵者といえども、口八丁手八丁で物を売り捌く熟練の技の前では、冒険者の経験など児戯に等しいという訳か。
「ベイオウルフ……恐ろしい男だ」
ヴァンは喉の奥で唸った。と同時に、戦慄を覚えた。
恐らく、今更『ベオちゃんペッ!』とかいわれても、笑うに笑えないだろう。
リーンエス王国北部の町ホークヤードにも、そろそろ初夏の陽射しが訪れようとしている。
久々に快晴の朝を迎えたヴァン・ローラントは、自身の仕事場であり、同時に住居でもあるローラント探偵事務所の通り側の窓を大きく開いた。次いで、反対側の路地に面している裏窓も開け放つ。
ここ数日は雨が続き、空気の入れ替えが出来ていなかった。普段から掃除はしているものの、空気の循環だけは天候に左右されてしまう。家具の隙間の湿気を飛ばす為にも、よく晴れ渡った日の清々しい風の流れはどうしても引き込んでおきたかった。
それにしても、とヴァンは思う。
(矢張り……変わり映えしないか)
つい先日も、同じことをいわれたばかりである。
ローラント探偵事務所内の光景は、長年同じままだ。間取りを変えることは出来ないにしても、調度品や家具の類は見事な程に、以前から全く変化が無い。
別にこれはこれで良いのだが、置物のひとつくらい増やしたところで、罰が当たることもないか、などと思ってみたり。
しかし態々家具店や小物品を扱う雑貨店に出かけてまで、事務所の見栄えを新調しようなどとは思わない。そこまでして雰囲気を変えたい、と考える程の欲求が無かったし、その必要性に駆られている訳でもなかった。
そんなことを考えながら、ヴァンは借りた本を返す為に行きつけの貸本屋へと向かった。
ローラント探偵事務所からは目と鼻の先にある為、窓は閉めず、玄関だけを施錠すれば良い。
「やぁおはようヴァン。今日はよく晴れてるね」
受付卓の脇でヴァンを出迎えたエルフの店主ニコは、いつもの様に穏やかな笑顔を向けてきたが、その表情にはどこか探る様な色が見え隠れする。
借りた本の返却手続きを終えると、ニコは、少し時間はあるかね、と訊いてきた。
「実は通りの西の公園でノミ市が開かれているんだ。一緒に覗いてみないかね」
曰く、珍しい本が出品されていないかを見に行きたい、ということらしい。
ヴァンはふと、変わり映えしない探偵事務所内の光景を思い浮かべた。この際だから、何かひとつ変化をもたらしてみても良いかも知れない。
ニコが行く気満々だったのもあり、ヴァンはふたつ返事でOKした。
●
ノミ市は、思った以上に盛況だった。
前日まで鬱陶しい雨模様だったこともあり、多くのひとびとが青天下のノミ市を楽しんでいる様に見えた。
「あら、ヴァンじゃない」
ニコと並んで何人かの売主を冷やかしていたところで、聞き覚えのある声が飛んできた。見ると鼠の半獣人娘ジェナが、敷物を広げて何点かの売り物を並べていた。
「やぁ初めまして。ヴァンのお友達かな?」
「あ、はい。ジェナっていいます。以前、ヴァンに助けて貰ったことがあって」
ヴァンがふたりを紹介するよりも先に、ニコとジェナは勝手にお互いを自己紹介し合っていた。ふたり共こういう場面で先手を取るのが上手いというのに加えて、ヴァン自身がしっかり出遅れてしまった。
しかも、意気投合するのが早い。お互いヒューマンではないということもあって、何か通じるところがあるのだろうか。
否、そういう意味ではドワーフであるヴァンも条件は同じ筈なのだが、一体何が違うのだろう。
「へぇ……お手製の刺繍なんだね。ハンカチやコースター……とても綺麗だ」
「えへへ、ありがとうございます。ニコさんはやっぱり、本がお目当てなんですね」
などとすっかり打ち解けているふたりに、ヴァンは内心で、ただただ感心するばかりであったが、まるで第三者の様な立ち位置で眺めているヴァンに、ふたりも漸く気付いた。
「いや、済まないヴァン。何も君を放っておいた訳じゃないんだが……」
「あ……ねぇねぇ、三人でちょっと廻ってみない? あたしも他のひとが、どんな具合で売ってるのか参考にしたくって」
ヴァンは思わず頭を掻いた。ふたりに、気を遣わせてしまったか。
しかしながら、折角の気遣いを態々拒否する理由も無い。ヴァンは三人揃って、他の売主達の様子を見て廻ろうというジェナの提案に乗ることにした。
●
「それにしても、やっぱり本は出てないかなぁ」
半分程を見て廻ったところで、ニコは腕を組んだ。
印刷技術がほとんど発達していないロスガリア大陸に於いては、書物は貴重品の部類に入るといっても良いかも知れない。ノミ市で掘り出し物の一冊が見つかるかも、というニコの淡い期待は、早々に打ち砕かれた。
一方のジェナは、他の売主達の売り捌き状況に興味津々だった。口八丁で上手く売り捌く者も居れば、全然売れなくて頭を抱えている者も居る。ノミ市というのはある意味、色々なひとびとの人生模様の一面を凝縮した形で表現している場なのかも知れない。
そしてヴァンは、雑貨や置物を中心に視線を走らせていた。
今のローラント探偵事務所内は良くいえば堅実、悪くいえば地味一辺倒の構成となっている。であれば、何かひとつ趣の異なるものを購入するだけで、雰囲気はがらりと変わる可能性が高い。
そういう意味では、ヴァンはちょっと変わったものを探すだけで良く、随分と気楽だった。そんなヴァンの心の内を見透かしたのか、不意に横合いから威勢の良い声がヴァンの意識を絡め取った。
「そこのお兄さん! いやぁ、うちの品に気が付くなんて、流石お目が高い!」
ヴァンは正直いって、戸惑った。
別にその売主の品物に目を留めた訳でも無く、ほんの一瞬視界に入れただけに過ぎない。ところがその売主は物凄く一方的に、ヴァンをお客と認めていた。その強引さに、ジェナは隣りで変に感心していた。
売主は、どうやら質屋らしい。今日はこのノミ市で質流れした品を売り捌いているとの由。
「あ、申し遅れました。あたくし、こういう者でござんしてね」
いいながら売主はヴァン、ジェナ、ニコにそれぞれ一枚ずつ、名刺を手渡した。そこには
『真心質屋でおもてなし! ベイオウルフ・アレンカイザー』
と記されていた。
三人は思わず、顔を見合わせた。この時、三人共に全く同じ感想を抱いていた。
(な……名前負けしている!)
瓶底の様な分厚いレンズの丸眼鏡、ちょび髭、ドーナツ状に黒髪がサイドに残った禿げ頭、頭頂部にちょろりと生える一本の毛髪。下手したら『ベオちゃんペッ!』とかいい出しそうなコメディアンの空気感たっぷりの喜劇フェイス。
三人はもう一度、質屋の店主を見た。
ベイオウルフ・アレンカイザー。
どうやらこの日のノミ市は、何やら波乱含みの展開になりそうだ。
●
しかし、こうして出会えたのも何かの縁。
ヴァンはお勧めの品は何か、と訊いてみた。
「よくぞ訊いて下さいました! まず最初の御品はこちら! アレンカイザー式シャルガネ風マーヴェラス女子ドール!」
ベイオウルフが指差したのは、シャルガネの土産物屋辺りでよく見かけそうな、黒髪と丸くて白い顔が特徴的な東方人形だった。
何故そんな長ったらしい名前なのか、普通に東方人形で良いんじゃないか――などと無粋な疑問を抱いてはならない。これぞベイオウルフ一流のシャレオツな命名規則なのだ。
多分。
「どんなところが、チャームポイントなの?」
やめとけ、下手に訊くんじゃないとヴァンが釘を刺す前に、ジェナがふらっと興味を駆られて訊いた。ベイオウルフは待ってましたとばかりにふんぞり返る。
「よくぞ訊いて下さいました! 実はですねこのドール、夜な夜な髪が伸びまして」
「次、どうぞ」
内心で、そんな怖いモン誰が買うんだよと突っ込みつつ、ヴァンは努めて冷静に他の品へと促した。
ベイオウルフが次に提示したのは、花畑が描かれた綺麗な風景画。じっと見ていると、吸い込まれてしまいそうな雰囲気だ。
「これはですね、アレンカイザー式デッドリーお花畑!」
デッドリーとはまた随分物騒なネーミングである。綺麗な絵であることに変わりはないのだが、何故そんなに怖い名前なのか。
「これは何と! とある死霊術師が作成した極上の逸品でして、夜になると命が吸い込まれるという……」
「はい、次」
何となく吸い込まれそうな気分になったのは錯覚ではなかったらしい。ていうか、そんなヤバいモン普通に売るなよとヴァンは二度目の突っ込みを危うく声に出しかけた。
いや、既にニコが同じ様な突っ込みを穏やかな調子で浴びせかけていたが、ベイオウルフはどこ吹く風。
そしていよいよ真打登場、とベイオウルフは鼻息を荒くした。
取り出してきたのは金色の懐中時計。既に壊れていて動かないらしいが、インテリア用としては申し分ないとか。
「これぞアレンカイザー式ゴールデンパリピウォッチ! 何を隠そう、この時計は太古のいにしえより頭痛が痛い……」
「はい、もう結構」
これ以上付き合っていられるか。
ヴァンは速攻で打ち切らせた。
●
「で、ヴァン。どれ買うの?」
「んー、私ならこのデッドリーお花畑が精神鍛錬も兼ねて良いんじゃないかと……」
ジェナとニコが、購入前提で話を振ってきた。
いやいやいやちょっと待てとヴァンは慌てて拒絶しようとしたが、ベイオウルフは既に値引き額を算出し始めていた。
これは一体、どういうことであろう。
そして、その日の夜。
ローラント探偵事務所の物置棚の一角に、少女姿の東方人形がちんまりと佇んでいた。
何でこんなものを買ったのか、ヴァンにもよく分からない。気が付けば何か暗示にでもかかったかの様に、この東方人形、否、正確にはアレンカイザー式シャルガネ風マーヴェラス女子ドールを購入していたのである。
如何に授恵者といえども、口八丁手八丁で物を売り捌く熟練の技の前では、冒険者の経験など児戯に等しいという訳か。
「ベイオウルフ……恐ろしい男だ」
ヴァンは喉の奥で唸った。と同時に、戦慄を覚えた。
恐らく、今更『ベオちゃんペッ!』とかいわれても、笑うに笑えないだろう。