ロスガリアどうでしょう ~やくそうのいたずら~
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年05月31日 10時26分35秒
場末の街。安宿の一室。
獣脂ランプの炎に揺られ、壁に掛けた巨大な頭蓋骨が不敵に笑っていた。
自分以外、誰もいない世界で、羊皮紙に筆を走らせるリザードマンは、机の上で寝息を立てる相棒の頭を優しく撫でてやる。
「さて、いよいよ本編だ」
愛用の羽ペンをインクに浸し、記すのは仲間達との大冒険譚。
序章は書き終えた。次からはいよいよ、幻想の箱庭を巡る壮大な叙事詩が始まる。
ルチル・プルメリア・グレイハーツは口元を綻ばせ、しばし旅の想い出に浸る。
「……はは、書くことがあり過ぎて逆に困ったね」
あの夏を思い出しながら、ルチルは紙にインクを落とした――。
●
「行こうじゃないか。天の采配が下す、このロスガリアの全てを巡る壮大な旅にね!」
ルチルはそう言って、巨大なサイコロを天高く放り投げた。
コロコロコロ……と大森林の湿潤な大地を転がるサイコロの様子を4人は固唾を飲んで見守る。
「お願いお願いお願い! せめてディズルとかシグモルにしてっ!」
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが祈る様に何度も手をこすり合わせた。
「この着ぐるみ暑いので、涼しい所が嬉しいでございますきゅ~」
正体不明の着ぐるみ『(nve)ちゃんが、キュイキュイ言いながら見つめる。
「あぁっ! ネーヴェ……いや、(nve)ちゃん殿、そのような事を言っては、真逆の結果が……!」
察したハリス・アル・ターミルの予言は果たして――。
サイコロがようやく止まる。
そして、その天辺に現れた文字は……。
「へぇ、あそこか」
「「「どこっ!?!?」」」
3人の声がハモる。
サイコロが示した出目はルチルによってすぐに回収されてしまった。3人は恨めし気にルチルを見るが、彼女は気にした様子もなく広場の脇で羽を休めているビッグオウムの元へ歩いていく。
「ほら、何をしているんだ、行くよ」
続いて、3人に向き直り、その骨面の下で不敵に微笑んで見せた。
「うっわっ、悪い顔してる! ルッチーは監督役みたいなもんだからいいだろうけど、実際冒険するのはあたし達なんだよ!」
「何を言っているんだ、ここからはアタイも一緒に行動するんだよ?」
「え……一緒に行くの?」
「ああ、ここからはより詳細な記録を、とのオーダーだからね。近くでしっかりと記録させてもらうよ。ほら、早く乗りな。徒歩で行きたいのかい?」
ぽかんと呆けるサフィラからルチルが他の二人に視線をやると、ハリスと(nve)ちゃんが慌ててビッグオウムへと駆けてくる。
「サフィラも行くよ」
「行くのはいいけど、どこに行くかくらいは教えてよっ!」
口をへの字に曲げつつサフィラもビッグオウムへと乗り込んだ。
「それはついてからのお楽しみだ」
ルチルは笑みを浮かべつつ操者に、行き先を耳打ちする。
こうして冒険者4人を乗せたビッグオウムは、大森林の空へと飛びあがった――。
●
「……ゴールディ、ですね」
じんわりと湧き出てくる汗を拭いつつ、ハリスが辺りを見渡した。
ビッグオウムが降り立ったのは、首都シルバード郊外の発着場。
3人は咽返るような緑の気配と湿気を前に、呆然と立ち尽くす。
「ほら、何をしているんだ。とっとと行くよ」
「何処へ行くのでございますかキュ。ここが目的地ではないのですかきゅ~?」
「ゴールディが目的地ではあるけど、ここは違う。詳しくはシルバードで話すよ」
可愛らしく首をかしげる(nve)ちゃんに答え、ルチルは「ついてきな」と早速シルバードの街へと足を向ける。
「待ってよ、ルッチー! ここは流石に暑すぎるよ! (nve)ちゃんが倒れちゃったらどうするの!」
そんなルチルに、サフィラが追い付き声をかけた。
フィルエス大森林でさえかなりの湿気だったのに、このゴールディは気温まで高い。(nve)ちゃん着ぐるみにとってはまさに地獄だ。
(nve)ちゃんも縋る様にルチルを見る。
「残念だが、これが天の采配だ。出てしまったものを撤回する事はできないね。これも試練と思って頑張ってくれ」
「冷たくない!?」と詰め寄ってくるサフィラの頭をぽんぽんしながら、ルチルはさっさと街へと向かう。
「ほら行くよ。まずは街で依頼人と会わないとね」
「ちょ、ルッチー! 話はまだ終わってないっ!!」
ルチルを追って駆けていくサフィラ。
「仕方ありません……我々も行きましょう。辛くなったらすぐに言ってくださいね」
「うぅ……ありがとうございますきゅ~」
先行する二人を追って、ハリスと(nve)ちゃんも街へと向かう――。
●
ロスガリア大陸の中でも、ここ程『雑多』という言葉が似合う街もそうはない。
無秩序に建て増しされた家々が寄りかかりながら密集し、道路はまるで迷路のようだ。
そこら中に怪しげな店が扉を開け、イカレた目をした住民達がこちらを品定めする様に見てくる。
一先ず、(nve)ちゃんが涼を取れる場所を見つけようと、辺りを探し一軒の店に目をつけた。
中は薄暗く、お世辞にも清潔とは言い難いものの、日陰になっているおかげで随分と涼しい。ハリスは一人店内に入り辺りを見渡すが、店員らしき人影は見えず、代わりにどう見てもごろつきなゴブリンたちが店の一角を占領していた。
「連れが暑さにやられてしまいまして、何か冷たい飲み物などいただけませんか?」
ハリスはそんなごろつきたちにつかつかと近寄る。
ごろつきたちは一瞬驚いたように互いの顔を合わせたが、そのうちの一人が卑しい笑みを浮かべながらハリスに言った。
「いいぜ、適当にその辺座ってな」
「ありがとうございます。ではテーブルをお借りいたします」
ハリスはクソ真面目にごろつき風のゴブリンに頭を下げると、外に居た仲間達を招き入れた。
「ちょっとハリー……このお店大丈夫なの?」
テーブルについたサフィラは、戻ってきたハリスに耳打ちする。
「大丈夫、とは?」
「いや、あの人たち見るからに怪しいし、店の人かもわからないじゃん」
「ふむ、確かに素行はあまりよろしくないように見受けましたが……サフィラ殿、人を見た目で判断するものではありませんよ?」
「いや、真面目かっ!? ……確かにそうだけどさ。なんか変なものでも出てきたらどうするの」
「ははっ、サフィラ殿は心配性ですね。もし仮にそのような物が出てきても平気ですよ」
「なんで……?」
「我々は授恵者です。多少変な物を混ぜられたとしても、この強靭な体が全てを跳ねのけるでしょう」
「いやいやいや、授恵者だから毒盛られていいわけじゃないし!?」
「仮に異物が混入していようとも、我々には(nve)ちゃんがおります。すぐにでも癒していただけるでしょう!」
と、ハリスは椅子の上できゅ~とへたれている(nve)ちゃんを見やる。
「お任せくださいきゅ~! 熱さも多少ましになりましたので、いつでも行けますキュ」
(nve)ちゃんは身を起こすと短い腕にポッコリと力こぶ(?)を作って見せる。
「なんでみんなそんな楽観的なの……ねぇ、ルッチーも何か言ってよ――――って、ルッチーはどこ行った?」
二人の反応に肩を落としたサフィラは、同意を求めようともう一人の仲間を探すが……。
「この店に入った時にはもういらっしゃいませんでしたきゅ~。どこへ行かれたのでしょうかきゅ~?」
こくりと首をかしげる(nve)ちゃん。
「彼女の事です、何か重要なミッションを行っているのかもしれませんね」
「ふむふむ……という事は、どこかその辺でラトちゃんを使って覗き見してるかな」
と、サフィラが店内をきょろきょろと見渡していると、奥からゴブリンがジョッキを抱えてやって来た。
ハリスが礼を言い代金とチップを渡すと、ゴブリンは下卑た笑みを浮かべひったくる様に受け取り、仲間達の元へ戻っていく。
「とりあえず、渇いた喉を潤しましょう。さぁ、乾杯です!」
「かんぱいきゅ~」
「え、やっぱり呑むの……?」
ジョッキを掲げつつ躊躇しているサフィラを置いて、二人はぐびぐびと中身を煽る。
「んっんっ……ぷはぁっ! こ、これは冷たくて最高の喉越しだ!」
「え、そんなに……?」
「お味もとってもまろやかで癖になってしまいそうですきゅ~」
「えっ、えっ」
二人のあまりに気持ちいい飲みっぷりに、サフィラもジョッキの中身が気になってきた。
見ればエールのように泡立っており、その下には緑色の液体が満たされている。
どう見ても毒っぽさ満点なのだが、二人を見ればおかわりでもしそうなほどうまそうに呑んでいる。
「んーーーー!! どうにでもなれっ!」
サフィラは両目を閉じ覚悟を決めると、一気に煽った――。
●
「はぁ……美味しかった」
ぷくりと膨れたお腹をぽんぽんと叩きながらサフィラはゴールディの街を往く。
「ははっ、ですから言ったではありませんか、警戒しすぎですと」
「うっ、まぁ確かにそうかもしれないけど……(nve)ちゃんはもう大丈夫?」
「はい、すっかり良くなりましたきゅ~」
話を振られ、(nve)ちゃんは短い手をパタパタと振った。
「あー、居た居た。何処に行っていたんだ」
と、三人が通りを歩いていると、先の方からルチルが歩いてきた。
「あー、ルッチー! それはこっちの台詞……って、あれラトちゃんで見てたんじゃないの?」
「ラトで? いや、ラトならここにいるが」
そう言って外套を広げたルチルの肩口から、ラトがひょこっと顔を出す。
「あ、あれ……?」
「すみません、ルチル殿。(nve)ちゃんの体調が芳しくなかったもので、そこの酒場で涼をとっておりました」
「そうか。すまなかったね、ハリス。(nve)ちゃんはもう大丈夫なのかい?」
「はい、お陰様でゆっくりできましたきゅ~。(nve)ちゃん元気に復活ですきゅ~!」
「それはよかった。それじゃ、準備に取り掛かろうか」
「うん、それはいいんだけど……一体どこへ行くの? 依頼人と会ってたのなら目的地もわかったんでしょ?」
「ああ、そうだね――」
サフィラに言われ、ルチルは一枚の羊皮紙を取り出した。
「例の『地図』ですね。今回も目的地に『X』印が付いてございますキュ」
(nve)ちゃんが言うように、それは大森林で見たあの『宝の地図』ととても良く似ている。
「えー……やっぱり今回もとんでもない所に……ってあれ? んんん? ここがシルバードで……むむむ? この場所って……」
「シルバードから南にですか……なるほど……む? おやおや? これは……」
「「はっ! こ、この場所は!」」
シルバードの目印から『X』を指で追っていたサフィラとハリスが何かに気付いた。
「サフィラ様ハリス様、なにかご存知なのですかきゅ~?」
「ご存知も何も(nve)ちゃんはお忘れですか! この場所はかつて我等が苦心の末に撃退せしめた、あの『瘴気纏う腐緑獣』が出現した場所ではありませんか!」
ハリスの言葉に(nve)ちゃんが思わず「あっ!」と声を上げた。
彼の言うように、そこはかつて冒険者達とドン・ゴーフルが共闘し、撃退に成功した超大型クリーパー『瘴気纏う腐緑獣』が暴れまわった土地だった。
「ここが目的地ですか……まさか再びあの場所へ訪れる事になろうとは!」
特にあの戦いで大殊勲を上げたハリスにとっては思い出の深い場所。ハリスは瞳を閉じ当時の記憶を思い出し震えている。
「そういう事だ。アタイも最初に見た時は驚いたけどね。まぁ、あのデカいクリーパーは大樹海の奥地へと逃げ帰ったし、危険はないとは思うが用心に越した事はないだろう」
「ほ、ほんとに大丈夫なの? あの戦いで結構環境破壊してたよ……?」
「でも、今どうなっているのか興味がございますねきゅ~」
不安そうにルチルを見つめるサフィラと対照的に、(nve)ちゃんは何故かわくわくと声を弾ませていた。
「私もあの場所が今どうなっているのかとても気になっていたました。さぁ、どの道をたどりましょう! この場所へのルートは色々ありますが、このシルバードからですとこちらの西側を通るルートか、少し危険を冒してでも、最短距離のこちらを取るか」
「そうですねキュ。出来るだけ体力は温存しておきたいので、ここはやはり最短距離のルートを推したく存じますきゅ~」
「なるほど確かに。(nve)ちゃんの体調の事もありますし、ここはこちらのルートで……お二人はどうですか?」
獣脂ランプの炎に揺られ、壁に掛けた巨大な頭蓋骨が不敵に笑っていた。
自分以外、誰もいない世界で、羊皮紙に筆を走らせるリザードマンは、机の上で寝息を立てる相棒の頭を優しく撫でてやる。
「さて、いよいよ本編だ」
愛用の羽ペンをインクに浸し、記すのは仲間達との大冒険譚。
序章は書き終えた。次からはいよいよ、幻想の箱庭を巡る壮大な叙事詩が始まる。
ルチル・プルメリア・グレイハーツは口元を綻ばせ、しばし旅の想い出に浸る。
「……はは、書くことがあり過ぎて逆に困ったね」
あの夏を思い出しながら、ルチルは紙にインクを落とした――。
●
「行こうじゃないか。天の采配が下す、このロスガリアの全てを巡る壮大な旅にね!」
ルチルはそう言って、巨大なサイコロを天高く放り投げた。
コロコロコロ……と大森林の湿潤な大地を転がるサイコロの様子を4人は固唾を飲んで見守る。
「お願いお願いお願い! せめてディズルとかシグモルにしてっ!」
サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが祈る様に何度も手をこすり合わせた。
「この着ぐるみ暑いので、涼しい所が嬉しいでございますきゅ~」
正体不明の着ぐるみ『(nve)ちゃんが、キュイキュイ言いながら見つめる。
「あぁっ! ネーヴェ……いや、(nve)ちゃん殿、そのような事を言っては、真逆の結果が……!」
察したハリス・アル・ターミルの予言は果たして――。
サイコロがようやく止まる。
そして、その天辺に現れた文字は……。
「へぇ、あそこか」
「「「どこっ!?!?」」」
3人の声がハモる。
サイコロが示した出目はルチルによってすぐに回収されてしまった。3人は恨めし気にルチルを見るが、彼女は気にした様子もなく広場の脇で羽を休めているビッグオウムの元へ歩いていく。
「ほら、何をしているんだ、行くよ」
続いて、3人に向き直り、その骨面の下で不敵に微笑んで見せた。
「うっわっ、悪い顔してる! ルッチーは監督役みたいなもんだからいいだろうけど、実際冒険するのはあたし達なんだよ!」
「何を言っているんだ、ここからはアタイも一緒に行動するんだよ?」
「え……一緒に行くの?」
「ああ、ここからはより詳細な記録を、とのオーダーだからね。近くでしっかりと記録させてもらうよ。ほら、早く乗りな。徒歩で行きたいのかい?」
ぽかんと呆けるサフィラからルチルが他の二人に視線をやると、ハリスと(nve)ちゃんが慌ててビッグオウムへと駆けてくる。
「サフィラも行くよ」
「行くのはいいけど、どこに行くかくらいは教えてよっ!」
口をへの字に曲げつつサフィラもビッグオウムへと乗り込んだ。
「それはついてからのお楽しみだ」
ルチルは笑みを浮かべつつ操者に、行き先を耳打ちする。
こうして冒険者4人を乗せたビッグオウムは、大森林の空へと飛びあがった――。
●
「……ゴールディ、ですね」
じんわりと湧き出てくる汗を拭いつつ、ハリスが辺りを見渡した。
ビッグオウムが降り立ったのは、首都シルバード郊外の発着場。
3人は咽返るような緑の気配と湿気を前に、呆然と立ち尽くす。
「ほら、何をしているんだ。とっとと行くよ」
「何処へ行くのでございますかキュ。ここが目的地ではないのですかきゅ~?」
「ゴールディが目的地ではあるけど、ここは違う。詳しくはシルバードで話すよ」
可愛らしく首をかしげる(nve)ちゃんに答え、ルチルは「ついてきな」と早速シルバードの街へと足を向ける。
「待ってよ、ルッチー! ここは流石に暑すぎるよ! (nve)ちゃんが倒れちゃったらどうするの!」
そんなルチルに、サフィラが追い付き声をかけた。
フィルエス大森林でさえかなりの湿気だったのに、このゴールディは気温まで高い。(nve)ちゃん着ぐるみにとってはまさに地獄だ。
(nve)ちゃんも縋る様にルチルを見る。
「残念だが、これが天の采配だ。出てしまったものを撤回する事はできないね。これも試練と思って頑張ってくれ」
「冷たくない!?」と詰め寄ってくるサフィラの頭をぽんぽんしながら、ルチルはさっさと街へと向かう。
「ほら行くよ。まずは街で依頼人と会わないとね」
「ちょ、ルッチー! 話はまだ終わってないっ!!」
ルチルを追って駆けていくサフィラ。
「仕方ありません……我々も行きましょう。辛くなったらすぐに言ってくださいね」
「うぅ……ありがとうございますきゅ~」
先行する二人を追って、ハリスと(nve)ちゃんも街へと向かう――。
●
ロスガリア大陸の中でも、ここ程『雑多』という言葉が似合う街もそうはない。
無秩序に建て増しされた家々が寄りかかりながら密集し、道路はまるで迷路のようだ。
そこら中に怪しげな店が扉を開け、イカレた目をした住民達がこちらを品定めする様に見てくる。
一先ず、(nve)ちゃんが涼を取れる場所を見つけようと、辺りを探し一軒の店に目をつけた。
中は薄暗く、お世辞にも清潔とは言い難いものの、日陰になっているおかげで随分と涼しい。ハリスは一人店内に入り辺りを見渡すが、店員らしき人影は見えず、代わりにどう見てもごろつきなゴブリンたちが店の一角を占領していた。
「連れが暑さにやられてしまいまして、何か冷たい飲み物などいただけませんか?」
ハリスはそんなごろつきたちにつかつかと近寄る。
ごろつきたちは一瞬驚いたように互いの顔を合わせたが、そのうちの一人が卑しい笑みを浮かべながらハリスに言った。
「いいぜ、適当にその辺座ってな」
「ありがとうございます。ではテーブルをお借りいたします」
ハリスはクソ真面目にごろつき風のゴブリンに頭を下げると、外に居た仲間達を招き入れた。
「ちょっとハリー……このお店大丈夫なの?」
テーブルについたサフィラは、戻ってきたハリスに耳打ちする。
「大丈夫、とは?」
「いや、あの人たち見るからに怪しいし、店の人かもわからないじゃん」
「ふむ、確かに素行はあまりよろしくないように見受けましたが……サフィラ殿、人を見た目で判断するものではありませんよ?」
「いや、真面目かっ!? ……確かにそうだけどさ。なんか変なものでも出てきたらどうするの」
「ははっ、サフィラ殿は心配性ですね。もし仮にそのような物が出てきても平気ですよ」
「なんで……?」
「我々は授恵者です。多少変な物を混ぜられたとしても、この強靭な体が全てを跳ねのけるでしょう」
「いやいやいや、授恵者だから毒盛られていいわけじゃないし!?」
「仮に異物が混入していようとも、我々には(nve)ちゃんがおります。すぐにでも癒していただけるでしょう!」
と、ハリスは椅子の上できゅ~とへたれている(nve)ちゃんを見やる。
「お任せくださいきゅ~! 熱さも多少ましになりましたので、いつでも行けますキュ」
(nve)ちゃんは身を起こすと短い腕にポッコリと力こぶ(?)を作って見せる。
「なんでみんなそんな楽観的なの……ねぇ、ルッチーも何か言ってよ――――って、ルッチーはどこ行った?」
二人の反応に肩を落としたサフィラは、同意を求めようともう一人の仲間を探すが……。
「この店に入った時にはもういらっしゃいませんでしたきゅ~。どこへ行かれたのでしょうかきゅ~?」
こくりと首をかしげる(nve)ちゃん。
「彼女の事です、何か重要なミッションを行っているのかもしれませんね」
「ふむふむ……という事は、どこかその辺でラトちゃんを使って覗き見してるかな」
と、サフィラが店内をきょろきょろと見渡していると、奥からゴブリンがジョッキを抱えてやって来た。
ハリスが礼を言い代金とチップを渡すと、ゴブリンは下卑た笑みを浮かべひったくる様に受け取り、仲間達の元へ戻っていく。
「とりあえず、渇いた喉を潤しましょう。さぁ、乾杯です!」
「かんぱいきゅ~」
「え、やっぱり呑むの……?」
ジョッキを掲げつつ躊躇しているサフィラを置いて、二人はぐびぐびと中身を煽る。
「んっんっ……ぷはぁっ! こ、これは冷たくて最高の喉越しだ!」
「え、そんなに……?」
「お味もとってもまろやかで癖になってしまいそうですきゅ~」
「えっ、えっ」
二人のあまりに気持ちいい飲みっぷりに、サフィラもジョッキの中身が気になってきた。
見ればエールのように泡立っており、その下には緑色の液体が満たされている。
どう見ても毒っぽさ満点なのだが、二人を見ればおかわりでもしそうなほどうまそうに呑んでいる。
「んーーーー!! どうにでもなれっ!」
サフィラは両目を閉じ覚悟を決めると、一気に煽った――。
●
「はぁ……美味しかった」
ぷくりと膨れたお腹をぽんぽんと叩きながらサフィラはゴールディの街を往く。
「ははっ、ですから言ったではありませんか、警戒しすぎですと」
「うっ、まぁ確かにそうかもしれないけど……(nve)ちゃんはもう大丈夫?」
「はい、すっかり良くなりましたきゅ~」
話を振られ、(nve)ちゃんは短い手をパタパタと振った。
「あー、居た居た。何処に行っていたんだ」
と、三人が通りを歩いていると、先の方からルチルが歩いてきた。
「あー、ルッチー! それはこっちの台詞……って、あれラトちゃんで見てたんじゃないの?」
「ラトで? いや、ラトならここにいるが」
そう言って外套を広げたルチルの肩口から、ラトがひょこっと顔を出す。
「あ、あれ……?」
「すみません、ルチル殿。(nve)ちゃんの体調が芳しくなかったもので、そこの酒場で涼をとっておりました」
「そうか。すまなかったね、ハリス。(nve)ちゃんはもう大丈夫なのかい?」
「はい、お陰様でゆっくりできましたきゅ~。(nve)ちゃん元気に復活ですきゅ~!」
「それはよかった。それじゃ、準備に取り掛かろうか」
「うん、それはいいんだけど……一体どこへ行くの? 依頼人と会ってたのなら目的地もわかったんでしょ?」
「ああ、そうだね――」
サフィラに言われ、ルチルは一枚の羊皮紙を取り出した。
「例の『地図』ですね。今回も目的地に『X』印が付いてございますキュ」
(nve)ちゃんが言うように、それは大森林で見たあの『宝の地図』ととても良く似ている。
「えー……やっぱり今回もとんでもない所に……ってあれ? んんん? ここがシルバードで……むむむ? この場所って……」
「シルバードから南にですか……なるほど……む? おやおや? これは……」
「「はっ! こ、この場所は!」」
シルバードの目印から『X』を指で追っていたサフィラとハリスが何かに気付いた。
「サフィラ様ハリス様、なにかご存知なのですかきゅ~?」
「ご存知も何も(nve)ちゃんはお忘れですか! この場所はかつて我等が苦心の末に撃退せしめた、あの『瘴気纏う腐緑獣』が出現した場所ではありませんか!」
ハリスの言葉に(nve)ちゃんが思わず「あっ!」と声を上げた。
彼の言うように、そこはかつて冒険者達とドン・ゴーフルが共闘し、撃退に成功した超大型クリーパー『瘴気纏う腐緑獣』が暴れまわった土地だった。
「ここが目的地ですか……まさか再びあの場所へ訪れる事になろうとは!」
特にあの戦いで大殊勲を上げたハリスにとっては思い出の深い場所。ハリスは瞳を閉じ当時の記憶を思い出し震えている。
「そういう事だ。アタイも最初に見た時は驚いたけどね。まぁ、あのデカいクリーパーは大樹海の奥地へと逃げ帰ったし、危険はないとは思うが用心に越した事はないだろう」
「ほ、ほんとに大丈夫なの? あの戦いで結構環境破壊してたよ……?」
「でも、今どうなっているのか興味がございますねきゅ~」
不安そうにルチルを見つめるサフィラと対照的に、(nve)ちゃんは何故かわくわくと声を弾ませていた。
「私もあの場所が今どうなっているのかとても気になっていたました。さぁ、どの道をたどりましょう! この場所へのルートは色々ありますが、このシルバードからですとこちらの西側を通るルートか、少し危険を冒してでも、最短距離のこちらを取るか」
「そうですねキュ。出来るだけ体力は温存しておきたいので、ここはやはり最短距離のルートを推したく存じますきゅ~」
「なるほど確かに。(nve)ちゃんの体調の事もありますし、ここはこちらのルートで……お二人はどうですか?」