若さの可能性
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年05月22日 10時57分37秒
まだ少しだけ冷たい夜風が、火照った肌を冷やしてくれる。
なのに、体のほてりは収まるどころか――。
「……すまなかった」
「ち、違う! そういう意味で言ったんじゃない!」
伸ばされた手から逃げる。
まるで怯える子猫のように。
「嫌なら――」
そう、嫌なら口に出せばいい。
ちゃんとその言葉で否定すればいい。
そうしたら、『私』は――――。
●
「ジュスト、誕生日おめでとう! さぁ食べてくれ!」
温泉旅館自慢の滋養強壮豪華フルコース料理を前に、ローザリカ・L・ディオールは両手を広げた。
「ああ、ありがとうロゼ。遠慮なく頂くよ」
誇らしげに言う従姉殿の勧めに、ジュスト・ヴェルジーは料理に箸を伸ばす。
シャルガネ独特の東方大陸由来の料理の数々。
素材はロスガリア大陸のものを使っているのに、その見た目や匂い、味も王国のものとはまるで違う。
最初に食前酒だと出された赤い飲み物も、口に含むと少しくせがあったが、ジュースで割っているおかげか意外とすんなりと飲めた。
食前酒の後は山海の美味が待っていた。どれもこれも王国の料理に引けを取らない見た目と味。正直、とてもうまい。
「すごく美味しい……んだけど、よく知っていたな、こんな場所」
ジュストは目の前で幸せそうに料理をもぐもぐしているローザリカに話しかける。
この温泉旅館、シャルガネに住む人々の間でも秘湯とされている温泉にある旅館で、国外の人間が来る事なんてほとんどないらしい。
聞けば随分と歴史のある旅館らしく、その造りはすごく立派だ。それに旅館の人達もとても親切で、あれやこれやと世話を焼いてくれる。この料理も、女将自らが厳選したものらしい。
「ああ、兄の紹介でな。以前、シャルガネの取引先が接待してくれた場所だそうだ」
「へぇ、それで知っていたのか。流石はリベラ商会の次期当主だ。……うん? という事はここに来る事は兄君に知られているのか」
「いや、言ってはいない。というか、言う必要があるか?」
ジトっとした視線を向けてくるロゼに、ふるふると首を振る。
なんだろう、何か気に障る事を言っただろうか……。
「そんな事よりも、食べようじゃないか。折角の料理も冷めてしまっては、その魅力が半減してしまうというものだ」
「あ、ああ、そうだな。いただこう」
二人は旅館自慢の豪華フルコースに再び箸をつける――。
●
旅館に併設されたかけ流しの温泉は実に野性味あふれる露天風呂だった。
木々に囲まれた湯には、時折野生動物も顔を見せるらしい。
残念ながら、今日は来客がないようだが、おかげでゆっくりと湯につかれる。
少しだけとろみのある湯はとても心地よく、多忙な生活で疲れた体をじんわりと温めてくれた。
「ジュスト、そちらの湯加減はどうだ」
「ああ、最高だ。とても温まるよ」
板壁越しにロゼの声が聞こえる。
食事を終え、夜空を見上げつつ胃を休めた。しばらく他愛のない話をしていたら、女将が湯の準備が出来たと呼んでくれた。特別にこの絶景の露天風呂も貸しきりだという。
女将の粋な計らいに感謝しつつ温泉に体を沈めると、湯の熱がゆっくりと体に染み入ってくる。
「……はぁ、少し熱いな」
ジュストはこのままではのぼせてしまうと、湯から上がり風呂の淵に腰かけ――――。
「……んぶっ?!」
思わず変な声を上げてしまった。
「ど、どうしたジュスト! 何か出たのか!?」
「だ、大丈夫だロゼ、なんでもない!」
「そ、そうか。それならいいんだが……ちょっと熱いな」
「あ、ああ……熱いな」
いや、熱いなんてものじゃない。ちょっと待て、なんだこれは。
確かに最近、あれやこれやと多忙で疲れてはいた。そして、人は疲れていると本能的に子孫を残そうとするらしい。人の本能は偉大だ。種の滅亡を避けるため、遺伝子にその対処方法が組み込まれているのだから……って! 子孫ってなんだよ!?
「すまない、ジュスト。先にあがってもいいか。どうやらのぼせたようだ」
「そ、そうか。それはいけない、先にあがっていてくれ。俺はもう少し落ち着いたらあがる事にするよ」
「落ち着いたら……? よくわからないが、先にあがらせてもらおう」
板壁の向こうからロゼの声が聞こえる。湯から上がる音が聞こえた。
その音が妙に艶やかで、余計に反応してしまう。
落ち着け……落ち着くんだ。そうだ、何か別の事を考えよう。
依頼の事は……くっ! 学園の事はどうだ……ぐっ! なんで、ロゼの顔ばかり浮かぶ! そうだ、領地の事なら……!
夜風に雑木林の木々を揺らし、火照った体を冷やしてくれた。
……爺様ありがとう、おかげで収まった。
収まった体にほっと胸をなでおろし、ジュストは急いで湯から上がる。
先に上がったロゼが待っている。あまり待たせすぎると、機嫌を損ねるかもしれない。
ジュストは脱衣所へと急ぐ。
●
「遅かったな。大丈夫か?」
「あ、ああ」
浴衣に袖を通したロゼが、心配そうにのぞき込んでくる。
結局、随分と待たせてしまった。
機嫌は損ねていないようだが……やばい、まともに見れない。
「のぼせて倒れているのではないかと心配してしまったぞ。人を呼びに行こうかと思案していた所だ」
目を合わせられないまま、ロゼと並んで渡り廊下を歩く。
ロゼは本当に心配してくれたようで、歩きながらも俺の身体をとても気に掛けてくれる。
「俺は大丈夫だ……というか、ロゼは平気なのか?」
「なにがだ」
「君もさっきのぼせたと言っていたから」
「あ、ああ。確かにのぼせたようだったが、それは君を待っている間に……その、収まった」
「収まった……? 妙な言い回し――」
そんな不思議な言い回しが気になりロゼを見る。
「っ……!」
思わず息が止まった。
濡れた薔薇色の髪をアップに纏め、ちらりと覗くうなじには汗が滴る。
ほてりを冷ましていたからなのだろう、浴衣の襟元が随分と、その……大胆だ。
風に乗り、風呂上り特有の何とも言えない香りが鼻をくすぐる。
「どうした、顔が赤いぞ……やはりまだのぼせているんじゃないのか」
見上げてくる視線に思わず体を引いた。
「だ、大丈夫だ。問題ない。俺の事は放っておいてくれ」
眩しさに視線を背けた。
涼やかな風に吹かれているのに、とめどなく汗が噴き出てくる。
同時に、鼓動まで早く――――。
「汗までかいているじゃないか、ジュスト。ちょっと待っていろ」
ロゼが手拭いを差し出してくると、襟元から覗く胸が寄せられて強調された。
少しだけ潤んだ瞳がこちらを見上げ、ぷくりと柔らかそうな唇が自分の名前を呼んでいる。
これはまずい。非常にまずい……!
今まで幼馴染で従姉だという事もあって、ロゼの身体を性的に見る事なんてなかった。
だが、なんだこの目の前の光景は。従姉の少女――――いや、女性はなんでこんなに……!
「ちょ、ちょっと待っ! ロゼ、近っ!」
ダメだ、これ以上はまずい。折角収まったのに、また爆発してしまう。
ジュストは思わずローザリカの手を払ってしまった。
「あ……」
手拭いが落ちる。
「はっ! ち、違う。そう言うつもりで、君を見ていたわけじゃない!!」
何を言っているんだジュスト! 今言うべきはそんな事ではないだろう! 言っている事が滅茶苦茶だ!
慌てて手拭いを拾おうとして固まった。
ロゼの瞳に……輝くものを見てしまったから――――。
なのに、体のほてりは収まるどころか――。
「……すまなかった」
「ち、違う! そういう意味で言ったんじゃない!」
伸ばされた手から逃げる。
まるで怯える子猫のように。
「嫌なら――」
そう、嫌なら口に出せばいい。
ちゃんとその言葉で否定すればいい。
そうしたら、『私』は――――。
●
「ジュスト、誕生日おめでとう! さぁ食べてくれ!」
温泉旅館自慢の滋養強壮豪華フルコース料理を前に、ローザリカ・L・ディオールは両手を広げた。
「ああ、ありがとうロゼ。遠慮なく頂くよ」
誇らしげに言う従姉殿の勧めに、ジュスト・ヴェルジーは料理に箸を伸ばす。
シャルガネ独特の東方大陸由来の料理の数々。
素材はロスガリア大陸のものを使っているのに、その見た目や匂い、味も王国のものとはまるで違う。
最初に食前酒だと出された赤い飲み物も、口に含むと少しくせがあったが、ジュースで割っているおかげか意外とすんなりと飲めた。
食前酒の後は山海の美味が待っていた。どれもこれも王国の料理に引けを取らない見た目と味。正直、とてもうまい。
「すごく美味しい……んだけど、よく知っていたな、こんな場所」
ジュストは目の前で幸せそうに料理をもぐもぐしているローザリカに話しかける。
この温泉旅館、シャルガネに住む人々の間でも秘湯とされている温泉にある旅館で、国外の人間が来る事なんてほとんどないらしい。
聞けば随分と歴史のある旅館らしく、その造りはすごく立派だ。それに旅館の人達もとても親切で、あれやこれやと世話を焼いてくれる。この料理も、女将自らが厳選したものらしい。
「ああ、兄の紹介でな。以前、シャルガネの取引先が接待してくれた場所だそうだ」
「へぇ、それで知っていたのか。流石はリベラ商会の次期当主だ。……うん? という事はここに来る事は兄君に知られているのか」
「いや、言ってはいない。というか、言う必要があるか?」
ジトっとした視線を向けてくるロゼに、ふるふると首を振る。
なんだろう、何か気に障る事を言っただろうか……。
「そんな事よりも、食べようじゃないか。折角の料理も冷めてしまっては、その魅力が半減してしまうというものだ」
「あ、ああ、そうだな。いただこう」
二人は旅館自慢の豪華フルコースに再び箸をつける――。
●
旅館に併設されたかけ流しの温泉は実に野性味あふれる露天風呂だった。
木々に囲まれた湯には、時折野生動物も顔を見せるらしい。
残念ながら、今日は来客がないようだが、おかげでゆっくりと湯につかれる。
少しだけとろみのある湯はとても心地よく、多忙な生活で疲れた体をじんわりと温めてくれた。
「ジュスト、そちらの湯加減はどうだ」
「ああ、最高だ。とても温まるよ」
板壁越しにロゼの声が聞こえる。
食事を終え、夜空を見上げつつ胃を休めた。しばらく他愛のない話をしていたら、女将が湯の準備が出来たと呼んでくれた。特別にこの絶景の露天風呂も貸しきりだという。
女将の粋な計らいに感謝しつつ温泉に体を沈めると、湯の熱がゆっくりと体に染み入ってくる。
「……はぁ、少し熱いな」
ジュストはこのままではのぼせてしまうと、湯から上がり風呂の淵に腰かけ――――。
「……んぶっ?!」
思わず変な声を上げてしまった。
「ど、どうしたジュスト! 何か出たのか!?」
「だ、大丈夫だロゼ、なんでもない!」
「そ、そうか。それならいいんだが……ちょっと熱いな」
「あ、ああ……熱いな」
いや、熱いなんてものじゃない。ちょっと待て、なんだこれは。
確かに最近、あれやこれやと多忙で疲れてはいた。そして、人は疲れていると本能的に子孫を残そうとするらしい。人の本能は偉大だ。種の滅亡を避けるため、遺伝子にその対処方法が組み込まれているのだから……って! 子孫ってなんだよ!?
「すまない、ジュスト。先にあがってもいいか。どうやらのぼせたようだ」
「そ、そうか。それはいけない、先にあがっていてくれ。俺はもう少し落ち着いたらあがる事にするよ」
「落ち着いたら……? よくわからないが、先にあがらせてもらおう」
板壁の向こうからロゼの声が聞こえる。湯から上がる音が聞こえた。
その音が妙に艶やかで、余計に反応してしまう。
落ち着け……落ち着くんだ。そうだ、何か別の事を考えよう。
依頼の事は……くっ! 学園の事はどうだ……ぐっ! なんで、ロゼの顔ばかり浮かぶ! そうだ、領地の事なら……!
夜風に雑木林の木々を揺らし、火照った体を冷やしてくれた。
……爺様ありがとう、おかげで収まった。
収まった体にほっと胸をなでおろし、ジュストは急いで湯から上がる。
先に上がったロゼが待っている。あまり待たせすぎると、機嫌を損ねるかもしれない。
ジュストは脱衣所へと急ぐ。
●
「遅かったな。大丈夫か?」
「あ、ああ」
浴衣に袖を通したロゼが、心配そうにのぞき込んでくる。
結局、随分と待たせてしまった。
機嫌は損ねていないようだが……やばい、まともに見れない。
「のぼせて倒れているのではないかと心配してしまったぞ。人を呼びに行こうかと思案していた所だ」
目を合わせられないまま、ロゼと並んで渡り廊下を歩く。
ロゼは本当に心配してくれたようで、歩きながらも俺の身体をとても気に掛けてくれる。
「俺は大丈夫だ……というか、ロゼは平気なのか?」
「なにがだ」
「君もさっきのぼせたと言っていたから」
「あ、ああ。確かにのぼせたようだったが、それは君を待っている間に……その、収まった」
「収まった……? 妙な言い回し――」
そんな不思議な言い回しが気になりロゼを見る。
「っ……!」
思わず息が止まった。
濡れた薔薇色の髪をアップに纏め、ちらりと覗くうなじには汗が滴る。
ほてりを冷ましていたからなのだろう、浴衣の襟元が随分と、その……大胆だ。
風に乗り、風呂上り特有の何とも言えない香りが鼻をくすぐる。
「どうした、顔が赤いぞ……やはりまだのぼせているんじゃないのか」
見上げてくる視線に思わず体を引いた。
「だ、大丈夫だ。問題ない。俺の事は放っておいてくれ」
眩しさに視線を背けた。
涼やかな風に吹かれているのに、とめどなく汗が噴き出てくる。
同時に、鼓動まで早く――――。
「汗までかいているじゃないか、ジュスト。ちょっと待っていろ」
ロゼが手拭いを差し出してくると、襟元から覗く胸が寄せられて強調された。
少しだけ潤んだ瞳がこちらを見上げ、ぷくりと柔らかそうな唇が自分の名前を呼んでいる。
これはまずい。非常にまずい……!
今まで幼馴染で従姉だという事もあって、ロゼの身体を性的に見る事なんてなかった。
だが、なんだこの目の前の光景は。従姉の少女――――いや、女性はなんでこんなに……!
「ちょ、ちょっと待っ! ロゼ、近っ!」
ダメだ、これ以上はまずい。折角収まったのに、また爆発してしまう。
ジュストは思わずローザリカの手を払ってしまった。
「あ……」
手拭いが落ちる。
「はっ! ち、違う。そう言うつもりで、君を見ていたわけじゃない!!」
何を言っているんだジュスト! 今言うべきはそんな事ではないだろう! 言っている事が滅茶苦茶だ!
慌てて手拭いを拾おうとして固まった。
ロゼの瞳に……輝くものを見てしまったから――――。