【封石】おやすみ、ネムリカ
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 むぎあき納品 2022年05月29日 09時10分53秒
『悪夢を売りさばく妖女と知られた高位の悪魔が戦没した』
この屋敷にとある悪魔が入り込んだのは主である彼女の遺品を物色する為だった。
どうせ放っておかれるのであれば、使ってやる方がずっといい。
だというのに、厄介なものを拾い上げてしまった。
「……お願い、私に……」
てっきり灰と還るのを待つだけの躯かと思えば、突然声がしたものだから驚いた。
薄闇の中に今にも溶けてしまいそうな程の弱々しい天使。名を聞けば、掠れた声でネムリカ、と口にした死にぞこない。
「既に手遅れだろう、諦めて――」
「なにか役目、を」
発せられたのは助命を求める言葉ではなく、意外なものだった。
普通の悪魔であればせせら笑い飛ばし、懇願させるだけさせておいて捨て置いただろうが、この侵入者はそうではなかった。
「対価次第、と言いたいところだが」
美しかったであろう桃色の髪も、翼も、天界の装束もすっかりみすぼらしく成り果てている。
「お前の望み通りに行く保証はない」
それでも構わないか、と尋ねる前に天使はなけなしの力を振り絞り、蹲るように頷いた。
幸か不幸か、そこには十分な設備があった。
魔力を蓄えられた結晶を砕き形成する。どうやらそれは天使に由来するものらしい。扱いには少々難儀したが、天使が崩れ去るよりも前に完成に漕ぎ付けることができた。
強欲の悪魔はネムリカの願いを彼なりに解釈する。
役目とやらが何なのかは知った事ではないが、それはネムリカが果たすことに意味があるのだろう。
檻から彼女を取り出し、持ち上げる。その弾みに崩れてしまうことも視野に入れてはいたが、幸いにも四肢も首も繋がったまま『棺』に横たえることはできた。
「ありが、とう。あくまさん」
彼女がもし壮健なままであれば、それはそれは、美しい笑顔を浮かべたのだろう。
月光色の結晶が棺の穴を塞がっていく。
「残るのはお前自身ではない。ただの影だ」
「……それでも十分、です」
灰へと還ることはないが、ネムリカの存在が永劫に残るわけではない。
しかし彼女という天使が存在していた証であれば、悪足掻き程度には残せるだろう。
「……手を」
水晶に閉ざされきる直前、彼女は最後の望みを呟いた。
「私の手を、組ませてください」
「……」
何のために、とは聞かなかった。冷たく強張った掌を合わせ、指同士を絡めさせる。
安堵と共に閉じた彼女の眼もとには、一筋、涙の痕が残っていた。
この屋敷にとある悪魔が入り込んだのは主である彼女の遺品を物色する為だった。
どうせ放っておかれるのであれば、使ってやる方がずっといい。
だというのに、厄介なものを拾い上げてしまった。
「……お願い、私に……」
てっきり灰と還るのを待つだけの躯かと思えば、突然声がしたものだから驚いた。
薄闇の中に今にも溶けてしまいそうな程の弱々しい天使。名を聞けば、掠れた声でネムリカ、と口にした死にぞこない。
「既に手遅れだろう、諦めて――」
「なにか役目、を」
発せられたのは助命を求める言葉ではなく、意外なものだった。
普通の悪魔であればせせら笑い飛ばし、懇願させるだけさせておいて捨て置いただろうが、この侵入者はそうではなかった。
「対価次第、と言いたいところだが」
美しかったであろう桃色の髪も、翼も、天界の装束もすっかりみすぼらしく成り果てている。
「お前の望み通りに行く保証はない」
それでも構わないか、と尋ねる前に天使はなけなしの力を振り絞り、蹲るように頷いた。
幸か不幸か、そこには十分な設備があった。
魔力を蓄えられた結晶を砕き形成する。どうやらそれは天使に由来するものらしい。扱いには少々難儀したが、天使が崩れ去るよりも前に完成に漕ぎ付けることができた。
強欲の悪魔はネムリカの願いを彼なりに解釈する。
役目とやらが何なのかは知った事ではないが、それはネムリカが果たすことに意味があるのだろう。
檻から彼女を取り出し、持ち上げる。その弾みに崩れてしまうことも視野に入れてはいたが、幸いにも四肢も首も繋がったまま『棺』に横たえることはできた。
「ありが、とう。あくまさん」
彼女がもし壮健なままであれば、それはそれは、美しい笑顔を浮かべたのだろう。
月光色の結晶が棺の穴を塞がっていく。
「残るのはお前自身ではない。ただの影だ」
「……それでも十分、です」
灰へと還ることはないが、ネムリカの存在が永劫に残るわけではない。
しかし彼女という天使が存在していた証であれば、悪足掻き程度には残せるだろう。
「……手を」
水晶に閉ざされきる直前、彼女は最後の望みを呟いた。
「私の手を、組ませてください」
「……」
何のために、とは聞かなかった。冷たく強張った掌を合わせ、指同士を絡めさせる。
安堵と共に閉じた彼女の眼もとには、一筋、涙の痕が残っていた。