【翼牢】目を開けばオシマイ

天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 むぎあき納品 2022年05月29日 09時10分48秒

 天魔とは、人間から見れば凡そ全能の存在である。
 しかし彼らにも未知の領域は存在する。それを奇しくも、天魔たちも“夢”と呼んでいた。
 瞼の裏(気まぐれに開く扉)の先に広がる変容を繰り返す世界の中で、唯一自由に宙を舞うことのできる翼の持ち主こそ天使ネムリカ(エリカ・プレトリウス)。今日も人の子の夢に踏み込み、その深部へと今まさに触れようとしていた。
「……かわいそうに、こんなに深く傷付いて」
 リボンの欠けられた可愛らしいぬいぐるみは、きっとこの夢の主の大切なものなのだろう。奥の奥へとしまわれていたのに埃一つなく、何度も修繕されているところを見るに、余程大事にされているに違いない。
 ――壊れないように作り直すという人間の考え方は、ネムリカにはよくわからない。それでも好ましいとは薄っすら感じているのだ。

「でもこの子……」
 何処かがおかしい、と違和感を抱かずにはいられなかった。
 悪夢の根源(現実でのトラウマ)を見出し、その傷を癒し、楽しい夢へと書き換えるのがネムリカに与えられた役割である。故に、潜り込んだ少女の夢(牢獄のような暗い部屋)の鍵である熊を模ったぬいぐるみに触れた。袈裟斬りに裂かれた胸に視線が釘付けになる。その裂け目には何故か、酷く悪意のようなものを感じてしまう。
 違和感が確信へと変わったのは、綿が詰まっている筈のその中から黒い手が伸び押し寄せた時。つまり、手遅れだった。
 ネムリカの細い首へと噛み付いたそれは、彼女が悲鳴を上げるよりも早く裂け目の中へと引きずり込んだ。

■

「目障りな羽虫め、ようやく罠に掛かったか」
 頭上からの声に、無理やり夢の外へと引きずり出されたネムリカの意識は緩やかに覚醒する。
 視界が横に傾いている。否、倒れ伏しているのは彼女の方だった。頬に触れる冷たい感触に手をついて身を起こす。
「ここは……あなたは?」
「人の撒いた種を食い荒らすような虫に名乗ってやる名などない」
 黒衣と黒い翼の悪魔の長身の女がネムリカを見下ろしている。とすると、ここは地獄だろうかと考え込むネムリカに悪魔は告げた。
「本当なら引き摺り出したところで潰してやるつもりだったが、どうやら……」
「痛っ、あうっ!?」
 突然両手首を上へ引かれ膝立ちの姿勢を強いられた囚われの天使は、怯えと戸惑いの混じった眼差しを浮かべている。

「お前には利用価値がありそうだ」
 その声を合図に銀色の”無貌”の仮面が被せられる。ネムリカの声が、視界が、聴覚が。全て外界と遮断された。
 

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0