【降天】夢想の姫君『ネムリカ』
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 夜団子納品 2022年05月20日 10時40分47秒
君、幼いころに悪夢を見たことは? ……まあ、ないわけはないか。では己が怪物に堕ちる悪夢を見たことは?
私は幼少期に一度、そういった夢を見た。だが大事なのは幼き日の僕が怪物と成り果てたことではない。
あの日の夢に舞い降りた、天使様の話がしたいんだ。
母に寝台まで導かれ、あたたかな毛布にくるまったことまでは覚えている。だというのに目を開いてみれば、そこは僕の部屋ではなかった。
クレヨンで塗りつぶしたような空。割れてバラバラになっていく地面。隙間から覗くなにか恐ろしいものの眼光。
目を覚ましたら突然そんな光景が飛び込んできた。膝が震えて思わずあとずされば、背後にあった木にぶつかった。その大樹はいくつも枯れ葉を枝先につけ、カサカサと奇妙な音を立ててこちらを見下ろした。その亀裂が口のように大きく裂け、つい情けない声が喉から搾り出る。
逃れようと動いた体はついていかず、足がもつれてその場にもんどりうって倒れた。まだあの木が追ってくるのではなかろうかと必死に起き上がった僕は、そのまま言葉を失った。
足が、自分の足ではなかった。毛むくじゃらで、爪が伸びて、ごつごつしていて。両腕もまた、同じように醜い姿だった。大樹の恐怖を忘れて――いや、それ以上の恐怖に塗りつぶされて、僕は己の体を見た。
濁った池に映りこんだのは見慣れた自分の顔ではなく。牙の生えたおぞましい怪物の姿だった。
ギャアギャアと、空で大カラスが鳴いている。それもまた恐ろしくて、でもまた違う怪物にであったらと震えて、怪物は己であるという事実に打ちひしがれて。僕の脚は立ち上がることができないままだった。
こんな地獄のような場所でずっと生きていかなくちゃいけないのか?
「い、いやだ! いやだっ!」
その時、池の中から大きな蛇が飛び出した。悲鳴を上げて飛び退いた僕に、大蛇は容赦なく襲い掛かってきて。その大きな口でひとのみにされる……そう思ったとき。
ぽん、と可愛らしい音がして、目の前の大蛇は弾け、しゃぼん玉になった。
「あら、これはまた……」
しゃぼん玉になった大蛇はその形のまま鎌首を持ち上げた。甘い石鹸の香りに思わずつられて顔を上げる。大蛇の体――その上にちょこんと座った彼女を始めて見たのは、このときで。
「ふふ、私はネムリカ。しがない夢渡りの天使です」
よろしくね、と。彼女は愛らしく微笑んでいた。
私は幼少期に一度、そういった夢を見た。だが大事なのは幼き日の僕が怪物と成り果てたことではない。
あの日の夢に舞い降りた、天使様の話がしたいんだ。
母に寝台まで導かれ、あたたかな毛布にくるまったことまでは覚えている。だというのに目を開いてみれば、そこは僕の部屋ではなかった。
クレヨンで塗りつぶしたような空。割れてバラバラになっていく地面。隙間から覗くなにか恐ろしいものの眼光。
目を覚ましたら突然そんな光景が飛び込んできた。膝が震えて思わずあとずされば、背後にあった木にぶつかった。その大樹はいくつも枯れ葉を枝先につけ、カサカサと奇妙な音を立ててこちらを見下ろした。その亀裂が口のように大きく裂け、つい情けない声が喉から搾り出る。
逃れようと動いた体はついていかず、足がもつれてその場にもんどりうって倒れた。まだあの木が追ってくるのではなかろうかと必死に起き上がった僕は、そのまま言葉を失った。
足が、自分の足ではなかった。毛むくじゃらで、爪が伸びて、ごつごつしていて。両腕もまた、同じように醜い姿だった。大樹の恐怖を忘れて――いや、それ以上の恐怖に塗りつぶされて、僕は己の体を見た。
濁った池に映りこんだのは見慣れた自分の顔ではなく。牙の生えたおぞましい怪物の姿だった。
ギャアギャアと、空で大カラスが鳴いている。それもまた恐ろしくて、でもまた違う怪物にであったらと震えて、怪物は己であるという事実に打ちひしがれて。僕の脚は立ち上がることができないままだった。
こんな地獄のような場所でずっと生きていかなくちゃいけないのか?
「い、いやだ! いやだっ!」
その時、池の中から大きな蛇が飛び出した。悲鳴を上げて飛び退いた僕に、大蛇は容赦なく襲い掛かってきて。その大きな口でひとのみにされる……そう思ったとき。
ぽん、と可愛らしい音がして、目の前の大蛇は弾け、しゃぼん玉になった。
「あら、これはまた……」
しゃぼん玉になった大蛇はその形のまま鎌首を持ち上げた。甘い石鹸の香りに思わずつられて顔を上げる。大蛇の体――その上にちょこんと座った彼女を始めて見たのは、このときで。
「ふふ、私はネムリカ。しがない夢渡りの天使です」
よろしくね、と。彼女は愛らしく微笑んでいた。