【降天】病祓いし神速『ロドリィ』
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 夜団子納品 2022年05月20日 10時50分44秒
その日、もう命を絶とうと思って寝台を出た。動くたび体の節々が痛んで、呼吸するたび唾液に血が混じったのに。そうしようと思ったら随分と体は軽かった。
ふらり、と台所に向かえばそこはもう記憶の中にある場所とは違った。かつて母が立ち、家族の食事を作っていた場所。掃除が行き届いて、時折おいしそうな香りが漂った大好きだった場所。
病が家を襲ってからまともに掃除もできず、調理もできず。腐った食糧と押し込められた調理器具だけがそこにあった。調理しようとした跡があるのは病に侵されても母が料理を作ろうとしてくれたからだろうか。そう思うと涙が溢れて止まらなかった。
もう母も、父も長くない。苦しそうに何度も血を吐いて、その体はがりがりにやせ細って。最近は「もう死なせてくれ」と譫言を呟くばかり。
この地獄を耐えるには、少女は幼過ぎた。希望を見つけ出そうとするには、心が未熟過ぎた。熱で朦朧とする彼女の頭はもはや「両親の最期の望み」を叶え、己も楽になることしかなかったのだ。
散らばった調理器具の中に、手を伸ばす。震える指先が触れたのは、錆かかった肉切り包丁。
重いそれを、どうにか持ち上げて、両手で握りこんだ。これからすることを考えると、冗談みたいに足が震えて。少女は現実から逃れるように窓の外を見た。
どこまでも続く、曇天であった。光の一筋も差し込まないような灰色の空。もう夜なのか昼なのかもわからない。それほどまでに暗く、昏く。
――それは、一瞬の出来事であった。少女が瞬く間の、一秒にも満たない刹那。
広がる暗雲。心に重くのしかかるそれを切り裂いて、一筋の光が墜ちた。雷にも似て、しかしそれにしては音もなく。放たれた弾丸が地面に突き刺さるがごとく、それは地上へ降りた。
少女はその光をただ、眺めていた。地上へ墜ちた光はまるで夢のように、窓のすぐそばに立っていた。
目を凝らす。よく見ればそこにいるのはただの少年のように思えた。白髪で、不思議な格好をした男の子。彼は背にある筒状の何かをこちらに向け、涼やかな空色の瞳でこちらをにらんだ。
殺されるんだわ。少女はそう直感した。
そしてそれを受け入れていた。――きっと、自分でやるよりは辛くないから。
両腕を広げ、その時を待った。包丁が床に落ち響く音。彼は強盗なのか、はたまた他の何かなのか。少女にはもうわからないことだった。
ロドリィは躊躇いなく、引き金を引いた。
ふらり、と台所に向かえばそこはもう記憶の中にある場所とは違った。かつて母が立ち、家族の食事を作っていた場所。掃除が行き届いて、時折おいしそうな香りが漂った大好きだった場所。
病が家を襲ってからまともに掃除もできず、調理もできず。腐った食糧と押し込められた調理器具だけがそこにあった。調理しようとした跡があるのは病に侵されても母が料理を作ろうとしてくれたからだろうか。そう思うと涙が溢れて止まらなかった。
もう母も、父も長くない。苦しそうに何度も血を吐いて、その体はがりがりにやせ細って。最近は「もう死なせてくれ」と譫言を呟くばかり。
この地獄を耐えるには、少女は幼過ぎた。希望を見つけ出そうとするには、心が未熟過ぎた。熱で朦朧とする彼女の頭はもはや「両親の最期の望み」を叶え、己も楽になることしかなかったのだ。
散らばった調理器具の中に、手を伸ばす。震える指先が触れたのは、錆かかった肉切り包丁。
重いそれを、どうにか持ち上げて、両手で握りこんだ。これからすることを考えると、冗談みたいに足が震えて。少女は現実から逃れるように窓の外を見た。
どこまでも続く、曇天であった。光の一筋も差し込まないような灰色の空。もう夜なのか昼なのかもわからない。それほどまでに暗く、昏く。
――それは、一瞬の出来事であった。少女が瞬く間の、一秒にも満たない刹那。
広がる暗雲。心に重くのしかかるそれを切り裂いて、一筋の光が墜ちた。雷にも似て、しかしそれにしては音もなく。放たれた弾丸が地面に突き刺さるがごとく、それは地上へ降りた。
少女はその光をただ、眺めていた。地上へ墜ちた光はまるで夢のように、窓のすぐそばに立っていた。
目を凝らす。よく見ればそこにいるのはただの少年のように思えた。白髪で、不思議な格好をした男の子。彼は背にある筒状の何かをこちらに向け、涼やかな空色の瞳でこちらをにらんだ。
殺されるんだわ。少女はそう直感した。
そしてそれを受け入れていた。――きっと、自分でやるよりは辛くないから。
両腕を広げ、その時を待った。包丁が床に落ち響く音。彼は強盗なのか、はたまた他の何かなのか。少女にはもうわからないことだった。
ロドリィは躊躇いなく、引き金を引いた。