青薔薇と宵桜は舞い、堅牢は側にあり、絆は深く
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 雪芽泉琉納品 2022年05月18日 12時37分06秒
太陽は空高く、青空を群雲が覆う。不穏が漂い始める空に、白と黒の羽根が、はらはらと舞い散った。
翼をもがれ落ちていく同胞達を横目に、傲慢の悪魔アカネは一対の鉄扇を手に、舞うように戦場を駆け巡る。
鉄扇の鋭い切っ先が敵の体を切り裂くたびに、アカネの身は桜吹雪のような焔を纏う。
黒い翼を羽ばたかせ、空へ駆け上り、天使を討ち落とす。
黒地に桜花の花が咲き乱れる袖は夜桜のようで、袖から零れる黒いフリルが風に揺れた。腰を絞める紅の帯は背中側でリボンを作り、帯の下は膝丈の着物地スカートが広がる。和風ゴシック風の衣装はアカネによく似合っていた。
イキイキと戦うアカネの元に、仲間のエイシュンがやってくる。
「めぼしい獲物は狩った。そろそろ撤退するぞ」
「はーい! もう終わりか……んー、まだ足りないな」
アカネのワガママにエイシュンは小さくため息をつく。
戦場を自由に飛び回るアカネをエイシュンが追いかけ、密かに邪魔になりそうな敵から守り続けているのだが、目の前の敵に夢中なアカネは気づかなかったようだ。
厳かな神官の如き黒衣は、凛とした佇まいとシルエットが美しい。レザーベルトの装飾が施され、美麗でありながら動きやすい。華美な服装を好む天使と悪魔の中で、実用性を追い求めるのはエイシュンの真面目さ故かもしれない。
「空をよく見ろ。雨が降ってくるぞ」
戦い初めの頃は青かった空が、すっかり雲に覆われ、小さく遠雷が鳴る。
黒く覆われた世界に、ぽつんと白い点が遠くに見えた。アカネの笑顔がふいに消える。
「ごめんなさい、エイシュン。やっぱりもう少しだけ」
白い点はみるみる近づく。見慣れた天使の姿に、エイシュンは全てを察した。
白銀の髪を一つに束ね、白を基調とした衣に、青の布が映える。青薔薇の刺繍や装飾が施され美麗な天使
。『青薔薇の熾天使』の異名を持つシルヴィオだ。
アカネがまだシルヴィアと呼ばれていた天使だった頃、双子の兄だった。今でも兄妹を辞めたつもりはなく、家族の情はある。
「久しぶりだね、アカネ、英俊」
「シルヴィオ!」
アカネは無邪気な笑顔で近づこうとして、シルヴィオがすっと身を引く。
「ただ、昔話をしにきたって、わけじゃ……なさそうだね」
シルヴィオの周囲を青い花弁が舞う。レイピアの切っ先をアカネに向けて微笑んだ。
「悪魔と対峙して、何もしないってわけには行かないからね」
アカネが鉄扇を構えると、シルヴィオも手をかざす。
エイシュンは二人から少し離れた。
兄妹の戦いに手出しするのは無粋だ。それよりも二人の戦いに邪魔が入らぬよう、周囲を警戒して近づく者は排除する。
「始まったな……ああ、楽しそうにして」
アカネの瞳は爛々と輝き、シルヴィオも微笑みを浮かべ優雅に戦う。
ポツリ。雨が降ってきた。それはまるで二人を引き裂く運命に嘆く涙のように、悲しげだ。
細い雨が二人を濡らす中、アカネとシルヴィオが互いに駆け寄り、交差する。
鉄扇とレイピアがぶつかり合って、火花が散った。
アカネの動きは速く、鋭い。容赦なくシルヴィオを追い詰める。だが、シルヴィオはその動きを読んで避けきった。
不可能を可能にする予言。奇跡と呼ばれる魔術こそ、シルヴィオの本領だ。
二人は容赦なくぶつかり合いながら語り合う。
「私は人間を愛しているんだと思う――シルヴィオや、創世の神よりも。だって人の『努力』は輝いてるから」
アカネは喜怒哀楽を表に出し邁進する人間を愛した。けれどシルヴィオは人間に対して冷淡な所がある。
努力したくとも出来ない人間、境遇から来る弱さ、そういった人間を忘れてしまう。
シルヴィオに窘められるたびに、反発する想いは強くなっていった。
「解って欲しいとは言わないけど、赦して欲しいんだ」
「赦してるよ。だから君を『アカネ』と呼ぶんだ。戻って来て欲しいけどね」
シルヴィオはアカネを堕天させてしまったことを悔いていた。今でも取り戻したいと願っている。
両者の想いはすれ違い、ずぶ濡れになりながら、ぶつかり合った。
「ここから先は、天使と悪魔関係なく、誰も通すわけには行かない」
エイシュンは杖を構えて悪魔の前に立ちはだかった。
「俺達が助力すれば、あの天使殺れるだろう!」
「どちらも殺らせるわけにはいかない」
「裏切り者かよ!」
悪魔が苛立ち殴りかかると、エイシュンは涼しい顔で受け流し、返す刀で突く。
「なんと言われようと、俺はあいつらを守る」
エイシュンの覇気に押されて悪魔は逃げていく。その後やってきた天使も悪魔も全て退けた。
エイシュンの戦技はまさに「堅牢」。守り切れなかったものはない。
アカネの心、己の矜持、全てを求めて共に堕天した。失うわけにはいかない。シルヴィオも嫌いではないし、アカネに嫌われたくないから殺す気もない。
邪魔者を追い払ってチラリと二人を見る。
戦いに一区切りついたらしい。雷鳴は消え、雨が止み、雲間から光が見え始めた。
「相変わらず激しいね。流石、『桜花の熾天使』だ」
「それは天使の頃の話だよ。今は『宵桜の魔姫』って呼ばれてるんだ」
「そうか……アカネは悪魔を楽しんでるんだね」
「もちろん!」
イキイキと笑うアカネの姿が眩しくて、シルヴィオの表情も自然と綻ぶ。エイシュンをチラリと見る。自分達の戦いを邪魔させないよう、守ってくれたことには気づいていた。
けれど……。
「まだ嫁にはやらない」
「な! ……嫁って!」
エイシュンは目に見えて動揺する。付き合ってもないのにと焦りつつ、同時にシルヴィオの目が笑ってないことに気づき背筋が凍った。アカネへの想いを見透かされてるのだろう。将来の義理の兄? には頭が上がらない。
そんな二人からアカネは目を逸らす。仄かに想う気持ちはあれど、エイシュンが応えてくれるか解らないから。シルヴィオの杞憂だ。
「貴方のほうこそ、嫁はいないのですか?」
「……嫁? いないよ」
シルヴィオは脳裏に浮かんだ存在に蓋をして、とぼけようとした。だが、その時、遠くから声が聞こえた。
「シルヴィオ様!」
視界の隅に見えた着物に袴姿の天使を見て、シルヴィオは明らかに動揺する。
「来るな!」
思わず叫んではっと気づく。アカネがニヤニヤ笑っていた。
「お幸せに、かな?」
「な……ちがう……」
いつもの余裕が崩れるほどに珍しく動揺する。
エイシュンも思わず柔らかく微笑んでしまう。シルヴィオが想う相手に会ってみたいと思った。
「次は紹介してくださいね」
「……君に紹介する気はないよ」
近づかずに律儀に待つ天使を見て、シルヴィオは二人に告げた。
「また会おう。次は英俊と手合わせがしたいな」
「二人の戦いが見たい!」
「いいですけど……手加減する気はないですよ」
「望む所だね」
シルヴィオが飛び立つ空に夕陽が差し込む。白い翼は雨上がりの雫を含んで、煌めき輝く。
名残惜しげにシルヴィオを見送るアカネの横顔を見て、エイシュンは問いかける。
「戻りたいのか?」
「ううん。違うんだ。ただ寂しいだけ」
今も残る家族の情が、別れの刻を惜しむ。けれど悪魔になったことを悔いる気はない。
「じゃあ、帰るか。俺達の地獄へ」
「はい、先輩!」
エイシュンが飛び立つと、アカネも後を追った。
黄昏刻は別れの刻。それはしばしの別れ。また再会すると解っている。
三人の絆は未だ残っているのだから。
翼をもがれ落ちていく同胞達を横目に、傲慢の悪魔アカネは一対の鉄扇を手に、舞うように戦場を駆け巡る。
鉄扇の鋭い切っ先が敵の体を切り裂くたびに、アカネの身は桜吹雪のような焔を纏う。
黒い翼を羽ばたかせ、空へ駆け上り、天使を討ち落とす。
黒地に桜花の花が咲き乱れる袖は夜桜のようで、袖から零れる黒いフリルが風に揺れた。腰を絞める紅の帯は背中側でリボンを作り、帯の下は膝丈の着物地スカートが広がる。和風ゴシック風の衣装はアカネによく似合っていた。
イキイキと戦うアカネの元に、仲間のエイシュンがやってくる。
「めぼしい獲物は狩った。そろそろ撤退するぞ」
「はーい! もう終わりか……んー、まだ足りないな」
アカネのワガママにエイシュンは小さくため息をつく。
戦場を自由に飛び回るアカネをエイシュンが追いかけ、密かに邪魔になりそうな敵から守り続けているのだが、目の前の敵に夢中なアカネは気づかなかったようだ。
厳かな神官の如き黒衣は、凛とした佇まいとシルエットが美しい。レザーベルトの装飾が施され、美麗でありながら動きやすい。華美な服装を好む天使と悪魔の中で、実用性を追い求めるのはエイシュンの真面目さ故かもしれない。
「空をよく見ろ。雨が降ってくるぞ」
戦い初めの頃は青かった空が、すっかり雲に覆われ、小さく遠雷が鳴る。
黒く覆われた世界に、ぽつんと白い点が遠くに見えた。アカネの笑顔がふいに消える。
「ごめんなさい、エイシュン。やっぱりもう少しだけ」
白い点はみるみる近づく。見慣れた天使の姿に、エイシュンは全てを察した。
白銀の髪を一つに束ね、白を基調とした衣に、青の布が映える。青薔薇の刺繍や装飾が施され美麗な天使
。『青薔薇の熾天使』の異名を持つシルヴィオだ。
アカネがまだシルヴィアと呼ばれていた天使だった頃、双子の兄だった。今でも兄妹を辞めたつもりはなく、家族の情はある。
「久しぶりだね、アカネ、英俊」
「シルヴィオ!」
アカネは無邪気な笑顔で近づこうとして、シルヴィオがすっと身を引く。
「ただ、昔話をしにきたって、わけじゃ……なさそうだね」
シルヴィオの周囲を青い花弁が舞う。レイピアの切っ先をアカネに向けて微笑んだ。
「悪魔と対峙して、何もしないってわけには行かないからね」
アカネが鉄扇を構えると、シルヴィオも手をかざす。
エイシュンは二人から少し離れた。
兄妹の戦いに手出しするのは無粋だ。それよりも二人の戦いに邪魔が入らぬよう、周囲を警戒して近づく者は排除する。
「始まったな……ああ、楽しそうにして」
アカネの瞳は爛々と輝き、シルヴィオも微笑みを浮かべ優雅に戦う。
ポツリ。雨が降ってきた。それはまるで二人を引き裂く運命に嘆く涙のように、悲しげだ。
細い雨が二人を濡らす中、アカネとシルヴィオが互いに駆け寄り、交差する。
鉄扇とレイピアがぶつかり合って、火花が散った。
アカネの動きは速く、鋭い。容赦なくシルヴィオを追い詰める。だが、シルヴィオはその動きを読んで避けきった。
不可能を可能にする予言。奇跡と呼ばれる魔術こそ、シルヴィオの本領だ。
二人は容赦なくぶつかり合いながら語り合う。
「私は人間を愛しているんだと思う――シルヴィオや、創世の神よりも。だって人の『努力』は輝いてるから」
アカネは喜怒哀楽を表に出し邁進する人間を愛した。けれどシルヴィオは人間に対して冷淡な所がある。
努力したくとも出来ない人間、境遇から来る弱さ、そういった人間を忘れてしまう。
シルヴィオに窘められるたびに、反発する想いは強くなっていった。
「解って欲しいとは言わないけど、赦して欲しいんだ」
「赦してるよ。だから君を『アカネ』と呼ぶんだ。戻って来て欲しいけどね」
シルヴィオはアカネを堕天させてしまったことを悔いていた。今でも取り戻したいと願っている。
両者の想いはすれ違い、ずぶ濡れになりながら、ぶつかり合った。
「ここから先は、天使と悪魔関係なく、誰も通すわけには行かない」
エイシュンは杖を構えて悪魔の前に立ちはだかった。
「俺達が助力すれば、あの天使殺れるだろう!」
「どちらも殺らせるわけにはいかない」
「裏切り者かよ!」
悪魔が苛立ち殴りかかると、エイシュンは涼しい顔で受け流し、返す刀で突く。
「なんと言われようと、俺はあいつらを守る」
エイシュンの覇気に押されて悪魔は逃げていく。その後やってきた天使も悪魔も全て退けた。
エイシュンの戦技はまさに「堅牢」。守り切れなかったものはない。
アカネの心、己の矜持、全てを求めて共に堕天した。失うわけにはいかない。シルヴィオも嫌いではないし、アカネに嫌われたくないから殺す気もない。
邪魔者を追い払ってチラリと二人を見る。
戦いに一区切りついたらしい。雷鳴は消え、雨が止み、雲間から光が見え始めた。
「相変わらず激しいね。流石、『桜花の熾天使』だ」
「それは天使の頃の話だよ。今は『宵桜の魔姫』って呼ばれてるんだ」
「そうか……アカネは悪魔を楽しんでるんだね」
「もちろん!」
イキイキと笑うアカネの姿が眩しくて、シルヴィオの表情も自然と綻ぶ。エイシュンをチラリと見る。自分達の戦いを邪魔させないよう、守ってくれたことには気づいていた。
けれど……。
「まだ嫁にはやらない」
「な! ……嫁って!」
エイシュンは目に見えて動揺する。付き合ってもないのにと焦りつつ、同時にシルヴィオの目が笑ってないことに気づき背筋が凍った。アカネへの想いを見透かされてるのだろう。将来の義理の兄? には頭が上がらない。
そんな二人からアカネは目を逸らす。仄かに想う気持ちはあれど、エイシュンが応えてくれるか解らないから。シルヴィオの杞憂だ。
「貴方のほうこそ、嫁はいないのですか?」
「……嫁? いないよ」
シルヴィオは脳裏に浮かんだ存在に蓋をして、とぼけようとした。だが、その時、遠くから声が聞こえた。
「シルヴィオ様!」
視界の隅に見えた着物に袴姿の天使を見て、シルヴィオは明らかに動揺する。
「来るな!」
思わず叫んではっと気づく。アカネがニヤニヤ笑っていた。
「お幸せに、かな?」
「な……ちがう……」
いつもの余裕が崩れるほどに珍しく動揺する。
エイシュンも思わず柔らかく微笑んでしまう。シルヴィオが想う相手に会ってみたいと思った。
「次は紹介してくださいね」
「……君に紹介する気はないよ」
近づかずに律儀に待つ天使を見て、シルヴィオは二人に告げた。
「また会おう。次は英俊と手合わせがしたいな」
「二人の戦いが見たい!」
「いいですけど……手加減する気はないですよ」
「望む所だね」
シルヴィオが飛び立つ空に夕陽が差し込む。白い翼は雨上がりの雫を含んで、煌めき輝く。
名残惜しげにシルヴィオを見送るアカネの横顔を見て、エイシュンは問いかける。
「戻りたいのか?」
「ううん。違うんだ。ただ寂しいだけ」
今も残る家族の情が、別れの刻を惜しむ。けれど悪魔になったことを悔いる気はない。
「じゃあ、帰るか。俺達の地獄へ」
「はい、先輩!」
エイシュンが飛び立つと、アカネも後を追った。
黄昏刻は別れの刻。それはしばしの別れ。また再会すると解っている。
三人の絆は未だ残っているのだから。