【熾白庭】心和らぐ時 1

天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 柊コウタ納品 2022年05月12日 10時12分14秒

 天界中層の、とある庭に惹かれてやってきたハウェト(長谷崎 恭也)。
 そこは、様々な種類の白薔薇が咲き誇る、出入り自由な小さな庭園だった。ハウェトが近々守護を任ぜられる天文台にも白薔薇の庭園があると聞いている。縁を感じながら足を踏み入れた。
 自分の背丈ほどもある薔薇の木や、門(アーチ)に伝う蔓薔薇、花壇に咲く小輪の薔薇。形も大きさも違うが、いずれも白い。ここの庭の主はよほど白薔薇が好きなのだろう。どの花にもよく日が当たる美しい場所。
 庭の持ち主に是非会ってみたいものだなと思いながら歩を進めると、黒衣に片翼、白い髪の天使の後ろ姿が見えてハウェトは思わず足を止めた。
(あれは……コノエル(近衛・巧)様か?)
 ハウェトは以前、かの熾天使の指揮下で出陣したことがある。天界の庭園で白薔薇を咲かせる将官がいるという噂話も思い出し、この庭の主人に気づいた。
(まさか、あの方の庭だったとは……失礼が無いようにしなければ)

●
 時は少し遡る。
 ネムリカ(エリカ・プレトリウス)は、上官が所有する白薔薇の庭園に来ていた。
 気配に敏(さと)い熾天使が振り返り、微笑む。
「ああ、ようこそネムリカさん」
「こんにちは、コノエル様。また少しの間だけ、お邪魔してもよろしいでしょうか」
 ネムリカにとってここは、夢の中のように優しい場所。そして敬慕する熾天使に会える場所。但しいつでも会えるわけではなく、上官の使用人(水の使い魔)が庭の手入れを代行していることも多い。だが、今日は上官本人がいた。
 ネムリカの胸には、深い尊敬と強い憧憬、そして争いから離れ庇護を求めるような想いがある。けれど相手は大隊や軍の指揮をも執る戦場の天使だ、迷惑をかけるようなことはできない。ただ庭の花々を楽しみに来ているとだけ伝え、いつも歓談の時を過ごしていた。

「あ、新しく植えたものが咲いてますね」
「まぁ、可愛らしい。これも薔薇なのですか?」
「ええ。原種に近いもので……おや」
 コノエルが不意に背後を振り返り、花壇の向こうを見遣る。
「いかがなさいましたか?」
「お客様がもう一人いらっしゃったようです。呼んでも構いませんか」
「勿論です」
 呼びに行った熾天使を見送る。
 段々と声が聞こえてきた。
「……が綺麗で、思わず」
「それは嬉しいですね」
「暫く立ち寄らせていただいてもよろしいでしょうか」
「是非とも」
 どんな方がいらっしゃったのでしょう、とネムリカは好奇心で胸が躍る。コノエルに用があって来たのでなければ、わざわざここへ立ち寄るような天使だ、きっと花が好きなのだろう。
 良かったら皆で雑談でもしながら、と誘いつつコノエルが連れてきたのは、四枚の翼を持つ白い正装の青年だった。青年は、先客のネムリカに気づいて折り目正しく礼を取る。
 地の主天使ハウェト、と名乗った彼の腰に提がる剣を見てネムリカは少し緊張したが、その穏やかな物腰や丁寧な所作で心はすぐに凪ぐ。にこやかに返した声は明るい。
「初めましてハウェト様。水の主天使ネムリカと申します」
「ネムリカ殿、どうぞよろしく」
「殿だなんて。もっと気楽にお呼びください」
「これは、失礼……ええと、ではネムリカさんと呼んでも?」
「はい、それくらいが嬉しく思いますわ」
 ネムリカはこくりと頷いて、自分と同じ階級の天使を歓迎した。あ、と思いついたことがあり、この庭の主人に向き直る。
「今日はとっても良いお天気ですし、コノエル様さえお許しくださるなら、皆様、お茶会なんてどうでしょうか。お茶の支度は私がいたしますので」
 綺麗なお水ならいつ何処からでも出せますし、と請け負うネムリカに、コノエルが快く了承してハウェトにも椅子を勧めた。
「え、僕もですか……? お邪魔ではないかな」
 遠慮気味に言うハウェトにはネムリカが首を横に振った。
「お嫌でなければ是非ご一緒してください」
「嫌などということは全く。ではお言葉に甘えて」

●
 それにしても、と茶器(ティーカップ)を手にハウェトは庭を見渡し、畏まりつつも穏やかな声で感想を述べる。
「どれも見事な咲きぶりですね。薔薇達への心遣いを感じると言いましょうか……優しくて美しい庭です」
「ありがとうございます」
 ふふ、と嬉しそうに笑んだ熾天使。
 ネムリカがハウェトに言う。
「全部、種類が違うのですって」
「これ全部?」
「はい、私も詳しくはないのですが……」
 そうなのですよね、と目を向けた先で、焼き菓子を手にしたコノエルが楽しそうに頷く。
「ええ。新しい種を作ってみたり、出先で拾った枝を育てたりして」
 へええ、と目を丸くするハウェトに、ネムリカはにこにこ笑って花壇を見た。
「ここへ来ると、いつでも綺麗なお花が出迎えてくれて。優しい眺めに安堵するのです」
「それはよくわかるな……ここへは、よく?」
 ハウェトの問いに、ネムリカは微かな苦笑を口元にのせた。
「はい。入り浸りにはならぬよう、気をつけてはいるのですけれども」

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0