薔薇の茶会を一緒に・二の刻
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 雪芽泉琉納品 2022年04月20日 15時12分50秒
シルヴィオと出会ってから、ノイアンネは共に行動することが多くなった。
とはいえ、力の差は歴然で、できることなどたかが知れている。
声をかけられなければ反応もできず、直答を許されなければ頷くくらいしかできない。
ただお側に侍り、命令を待つ日々。ずっとそういう関係が続く。そう思っていた。
ある日、シルヴィオからお茶会をするから来て欲しいと呼び出された。
お茶会というものに縁が無いノイアンネは戸惑った。
(どうして私はこの方にお茶会に誘われたんだろう? ……いや、給仕しろということだろうか?)
シルヴィオは上位の天使であり、命の恩人でもある。望まれれば何でもしたい。
(茶会の給仕などしたことはないが……まあ……どうにか……)
そう思いながら、指定された場所に赴いた。
午後の昼下がり、澄み渡った青空の下、天界の花園。四季を問わない花が咲き乱れる中心に、白いレースのクロスがかかったテーブルがあった。テーブルの上にはすでにお茶も料理も並んでいた。
椅子は二脚。片方はシルヴィオが座っており、片方は空いていた。
客人がこれから来るのだろうか? そう思いつつ、シルヴィオの前で跪いた。
「何なりとお申し付けください。先方の目に触れぬよう、その頃には下がります故」
膝を折って恭順の意を示したはずなのに、予想外の返答が返ってきた。
「給仕して貰うために、呼んだわけじゃないよ」
「……え? 違う?」
「それにもう客人は来てる」
シルヴィオに手を引かれ、そのまま椅子に座らされる。華やかな香りのする紅茶を目の前に置かれて、ノイアンネは途方に暮れた。
「さあ、お茶を飲んで」
頭の中は疑問で一杯だし、茶会の礼儀など知らないから、持ち方も解らない。片手で持つか、両手で持つか、しばらく迷ってそっと両手でカップを持ち口をつけた。
「……美味しい?」
「はい」
正直味もわからないくらい緊張していた。でも向かいに座ったシルヴィオが楽しげに笑っているから、少しだけ緊張が緩む。
「これは薔薇の砂糖漬け。美味しいよ。それともケーキの方が好きかな?」
(薔薇の砂糖漬け。ケーキ……?? 何故? どうして?)
にこにこと勧められ、もしやと思いつく。
「……あの。私は……見た目ほど子供では……」
幼く見えるから勘違いされやすいが、人間でいうなら27歳ほど。立派な成人である。
「うん。解ってるよ。子供扱いするつもりはない」
ノイアンネともっと話がしたくてお茶会に誘ったのに、ノイアンネの顔は強ばったままだ。
(本当は笑顔が見たいけれど、中々難しいね)
シルヴィオは三段重ねのティースタンドからスコーンを手に取り、ナイフで横に切った。二つに割ると湯気が立ち上るほどほかほかだ。
スコーンにクロテッドクリームとローズジャムをのせながら、シルヴィオは楽しげに語る。
「人間界にはアフタヌーンティーという文化がある。こんな風にたっぷりと菓子や食事を用意して茶を楽しむ。どうしてだと思う?」
「腹を満たすため……でしょうか?」
「そう。昔の人間は朝と晩の一日二食だったらしい」
日の出と共に起きて、日暮れと共に家に帰り食事をして寝る。夜は恐ろしい時間であり、灯りも希少だったから。
けれど人の文明が発展し、ガス灯が夜を照らす頃になると、人々は夜も遊び歩くようになった。
「観劇に舞踏会。夜遊びの後に夕食を食べるから二食じゃお腹がすいてしまう。合間の時間にお茶と一緒にたっぷり食べるようになったのさ」
「熾天使様は、博識でいらっしゃるのですね」
相づちの言葉に自然と畏敬の念が滲む。少し緊張も解け、香しい紅茶の香りも楽しめるようになった。
「人間が朝と晩の間に、茶会の時間を設けたように。天使も変わって良いんじゃないかな。上位と下位、その間に対等でいられる時間があっても楽しいと思うよ」
言葉の意味を理解して、ノイアンネは驚きで目を丸くする。
「……まさか、私が、熾天使様と、対等に、ですか?」
「そう。君と俺。命令じゃなく、お願いだけどね。どうかな?」
問われて深く考えた。命令なら否という権利もない。だがお願いなのだ。かといって馴れ馴れしく振る舞うことは難しく。たっぷり悩んだ末に出てきた言葉は。
「……善処します」
そう答えるのが精一杯で。
たった一言を絞り出すために、ずいぶん悩んだ。その誠実さにシルヴィオの頬は緩む。
「じゃあ、最初に呼び方を変えよう。熾天使様じゃなくて、名前で呼んでごらん」
「……!」
再び緊張でカラカラになった喉に、紅茶を流し込む。
(あなたが願うことなら、できるだけ叶えたい)
水分を補給して深呼吸。ようやく言葉を絞り出す。
「……シルヴィオ様」
「うん、その呼び方の方がいいね。またお茶会をしよう。何度でも」
お茶会の間だけは、階級の垣根を越えて対等でいたい。昼と夜の合間の黄昏のように。
二人だけの時間を過ごすうちに、笑顔を見せてくれる日が来ると信じて。
とはいえ、力の差は歴然で、できることなどたかが知れている。
声をかけられなければ反応もできず、直答を許されなければ頷くくらいしかできない。
ただお側に侍り、命令を待つ日々。ずっとそういう関係が続く。そう思っていた。
ある日、シルヴィオからお茶会をするから来て欲しいと呼び出された。
お茶会というものに縁が無いノイアンネは戸惑った。
(どうして私はこの方にお茶会に誘われたんだろう? ……いや、給仕しろということだろうか?)
シルヴィオは上位の天使であり、命の恩人でもある。望まれれば何でもしたい。
(茶会の給仕などしたことはないが……まあ……どうにか……)
そう思いながら、指定された場所に赴いた。
午後の昼下がり、澄み渡った青空の下、天界の花園。四季を問わない花が咲き乱れる中心に、白いレースのクロスがかかったテーブルがあった。テーブルの上にはすでにお茶も料理も並んでいた。
椅子は二脚。片方はシルヴィオが座っており、片方は空いていた。
客人がこれから来るのだろうか? そう思いつつ、シルヴィオの前で跪いた。
「何なりとお申し付けください。先方の目に触れぬよう、その頃には下がります故」
膝を折って恭順の意を示したはずなのに、予想外の返答が返ってきた。
「給仕して貰うために、呼んだわけじゃないよ」
「……え? 違う?」
「それにもう客人は来てる」
シルヴィオに手を引かれ、そのまま椅子に座らされる。華やかな香りのする紅茶を目の前に置かれて、ノイアンネは途方に暮れた。
「さあ、お茶を飲んで」
頭の中は疑問で一杯だし、茶会の礼儀など知らないから、持ち方も解らない。片手で持つか、両手で持つか、しばらく迷ってそっと両手でカップを持ち口をつけた。
「……美味しい?」
「はい」
正直味もわからないくらい緊張していた。でも向かいに座ったシルヴィオが楽しげに笑っているから、少しだけ緊張が緩む。
「これは薔薇の砂糖漬け。美味しいよ。それともケーキの方が好きかな?」
(薔薇の砂糖漬け。ケーキ……?? 何故? どうして?)
にこにこと勧められ、もしやと思いつく。
「……あの。私は……見た目ほど子供では……」
幼く見えるから勘違いされやすいが、人間でいうなら27歳ほど。立派な成人である。
「うん。解ってるよ。子供扱いするつもりはない」
ノイアンネともっと話がしたくてお茶会に誘ったのに、ノイアンネの顔は強ばったままだ。
(本当は笑顔が見たいけれど、中々難しいね)
シルヴィオは三段重ねのティースタンドからスコーンを手に取り、ナイフで横に切った。二つに割ると湯気が立ち上るほどほかほかだ。
スコーンにクロテッドクリームとローズジャムをのせながら、シルヴィオは楽しげに語る。
「人間界にはアフタヌーンティーという文化がある。こんな風にたっぷりと菓子や食事を用意して茶を楽しむ。どうしてだと思う?」
「腹を満たすため……でしょうか?」
「そう。昔の人間は朝と晩の一日二食だったらしい」
日の出と共に起きて、日暮れと共に家に帰り食事をして寝る。夜は恐ろしい時間であり、灯りも希少だったから。
けれど人の文明が発展し、ガス灯が夜を照らす頃になると、人々は夜も遊び歩くようになった。
「観劇に舞踏会。夜遊びの後に夕食を食べるから二食じゃお腹がすいてしまう。合間の時間にお茶と一緒にたっぷり食べるようになったのさ」
「熾天使様は、博識でいらっしゃるのですね」
相づちの言葉に自然と畏敬の念が滲む。少し緊張も解け、香しい紅茶の香りも楽しめるようになった。
「人間が朝と晩の間に、茶会の時間を設けたように。天使も変わって良いんじゃないかな。上位と下位、その間に対等でいられる時間があっても楽しいと思うよ」
言葉の意味を理解して、ノイアンネは驚きで目を丸くする。
「……まさか、私が、熾天使様と、対等に、ですか?」
「そう。君と俺。命令じゃなく、お願いだけどね。どうかな?」
問われて深く考えた。命令なら否という権利もない。だがお願いなのだ。かといって馴れ馴れしく振る舞うことは難しく。たっぷり悩んだ末に出てきた言葉は。
「……善処します」
そう答えるのが精一杯で。
たった一言を絞り出すために、ずいぶん悩んだ。その誠実さにシルヴィオの頬は緩む。
「じゃあ、最初に呼び方を変えよう。熾天使様じゃなくて、名前で呼んでごらん」
「……!」
再び緊張でカラカラになった喉に、紅茶を流し込む。
(あなたが願うことなら、できるだけ叶えたい)
水分を補給して深呼吸。ようやく言葉を絞り出す。
「……シルヴィオ様」
「うん、その呼び方の方がいいね。またお茶会をしよう。何度でも」
お茶会の間だけは、階級の垣根を越えて対等でいたい。昼と夜の合間の黄昏のように。
二人だけの時間を過ごすうちに、笑顔を見せてくれる日が来ると信じて。