【食巡】約束を飲み交わす
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 七瀬納品 2022年04月26日 11時43分48秒
春の夜は、まだ少し冷える。
すっかり日の暮れた人間界で、抱いた感想はそれだった。髪を揺らす風に顔を上げると、小さな花弁がはらはらと舞っている。夜空に映える白色が実はうっすらと桃色を帯びていることを知ったのは、恋しい相手の肩についたそれを摘まみ上げたときだった。
「ふふ。随分と可愛らしいものがついてるよ、ナハシュ」
隣を歩く男――ナハシュへそう声をかけたヨルムンレークことヨルは、花弁をひらひらと揺らして見せる。
「あ? かわいいか、それ?」
対するナハシュは、わかんねー、と興味なさげだ。
「それよりどこ行くんだよ、早くうまいもん食おうぜ」
花より団子とは人間もよく言ったものだと、ヨルは一人肩を揺らした。
――ヨルとナハシュ。本来相容れぬ立場の二人が何故こうして共にいるのかと言えば、暇つぶしにと訪れていた人間界でばったりと会い、いつものごとく行われたヨルのデートの誘いに、ナハシュが気まぐれにオーケーを出したからである。
度重なる逢瀬の誘いの末の幸運に内心だいぶ浮かれるヨルと、欠伸混じりに歩くナハシュ。
今は小腹が空いたと零したナハシュのため、店へと向かっている最中だ。
それからしばらく歩いて二人がたどり着いたのは、とあるダイニングバー。ヨルが以前から目をつけていたというそこは、隠れ家的な雰囲気が人間界でも評判らしい。
「へぇー! こんな店もあるのか、いいな!」
普段行くジャンクな店とはまた違った雰囲気に、興味津々のナハシュ。メニューを眺めながら、普段見るものとは違う良い酒と料理の羅列に目を輝かせる。
今回のデートはヨルの奢り。ナハシュもそれを承知しているので、値段など端から見るつもりもない。
「……? これなんだ? 呪文みてぇな名前してる」
カクテルを指差し首をかしげる彼に、ヨルは言う。
「頼んでみると良い。きっと気に入るよ」
そんなやりとりをしながらお互いに気になるものを注文して、二人はしばらくの間ゆったりとした音楽を聞きながら言葉を交わしていた。
熟成肉のステーキ、海老のアヒージョ、マルゲリータ……その他食欲をそそる料理達が次々にテーブルに並ぶ。
「うっまいなこれ! すげぇ!」
「うん、美味しいね。お酒とも合う」
香ばしい香りに誘われてステーキを頬張れば、口の中いっぱいに広がる肉の旨味と甘み。加えてピリッとした黒胡椒がアクセントとなって味を引き締めている。
アヒージョは海老の美味しさもさることながら、熱々の油にパンを浸すと、オリーブオイルに溶け込んだ海老の風味と唐辛子の辛さも相まって、つい手が進んでしまう。
「はー! これはこれで楽しい! 悪くねぇ」
夢中になって食べ進めていたナハシュは、この店自慢の料理や酒を堪能してご機嫌だ。そんな彼を見て頬を緩めたヨルは、感慨深そうに口を開いた。
「夢みたいだなー。まさか本当にデートできるとは思わなかったし」
ほどよく酒が進んだためか、それともこの非日常に酔っているのか、どこか夢心地な様子でヨルは続ける。
「いつ誘っても、君はつれない。次会えるかは分からないのに」
「あ? なんだかんだ会ってるだろ」
その言葉に、それはそうだけどね、と返してヨルは目を伏せる。
――会うのはいつも戦場だ。初めて会ったときもそうだった。
軍のためにと戦場に行くのはヨルにとってはいつものことで、きっとナハシュにとっても、いつもと変わらない殺し合いのためだった。
けれどナハシュが滅ぼした戦地はとても静かで、そこに一人立つ姿がとても綺麗だったから。まるで輝く星のように、ヨルには眩しく思えたのだ。
「君が好きだよ。君みたいに綺麗な子は天使にだってそうそういない」
「お前も変わってるよなー。いいのかよ天使が悪魔にそんなこと言って」
「惚れちゃったから仕方ないよね。内緒だよ」
ふうん、と相づちをうってソーセージを口に運ぶナハシュ。正直ラブだのライクだのという区別はついていなかったが、ナハシュもヨルを気に入っているのは事実だった。何せヨルは、なかなか死なないので。
いまいちピンときていないようなナハシュの様子に苦笑して、ヨルは小さく呟いた。
「何度だって会いたいよ。こうして君といることが、たとえ誰からも許されなくてもね」
だからまたデートしてよ、と熱を帯びた眼差しを向けながら告げるヨルに、ナハシュは無垢に笑う。
「しょうがねーなー内緒なナイショ。また生きてたらいい店行こうぜ。お前の奢りな」
「……ほんと?! じゃあ次は映画も行こう。奢る奢る。ははっ、生き残る理由ができちゃったな」
そんなささやかな約束を結んで、二人はグラスの中身を飲み干す。
きっと来るそのいつかが、そう遠くないと良いと思いを馳せながら。
すっかり日の暮れた人間界で、抱いた感想はそれだった。髪を揺らす風に顔を上げると、小さな花弁がはらはらと舞っている。夜空に映える白色が実はうっすらと桃色を帯びていることを知ったのは、恋しい相手の肩についたそれを摘まみ上げたときだった。
「ふふ。随分と可愛らしいものがついてるよ、ナハシュ」
隣を歩く男――ナハシュへそう声をかけたヨルムンレークことヨルは、花弁をひらひらと揺らして見せる。
「あ? かわいいか、それ?」
対するナハシュは、わかんねー、と興味なさげだ。
「それよりどこ行くんだよ、早くうまいもん食おうぜ」
花より団子とは人間もよく言ったものだと、ヨルは一人肩を揺らした。
――ヨルとナハシュ。本来相容れぬ立場の二人が何故こうして共にいるのかと言えば、暇つぶしにと訪れていた人間界でばったりと会い、いつものごとく行われたヨルのデートの誘いに、ナハシュが気まぐれにオーケーを出したからである。
度重なる逢瀬の誘いの末の幸運に内心だいぶ浮かれるヨルと、欠伸混じりに歩くナハシュ。
今は小腹が空いたと零したナハシュのため、店へと向かっている最中だ。
それからしばらく歩いて二人がたどり着いたのは、とあるダイニングバー。ヨルが以前から目をつけていたというそこは、隠れ家的な雰囲気が人間界でも評判らしい。
「へぇー! こんな店もあるのか、いいな!」
普段行くジャンクな店とはまた違った雰囲気に、興味津々のナハシュ。メニューを眺めながら、普段見るものとは違う良い酒と料理の羅列に目を輝かせる。
今回のデートはヨルの奢り。ナハシュもそれを承知しているので、値段など端から見るつもりもない。
「……? これなんだ? 呪文みてぇな名前してる」
カクテルを指差し首をかしげる彼に、ヨルは言う。
「頼んでみると良い。きっと気に入るよ」
そんなやりとりをしながらお互いに気になるものを注文して、二人はしばらくの間ゆったりとした音楽を聞きながら言葉を交わしていた。
熟成肉のステーキ、海老のアヒージョ、マルゲリータ……その他食欲をそそる料理達が次々にテーブルに並ぶ。
「うっまいなこれ! すげぇ!」
「うん、美味しいね。お酒とも合う」
香ばしい香りに誘われてステーキを頬張れば、口の中いっぱいに広がる肉の旨味と甘み。加えてピリッとした黒胡椒がアクセントとなって味を引き締めている。
アヒージョは海老の美味しさもさることながら、熱々の油にパンを浸すと、オリーブオイルに溶け込んだ海老の風味と唐辛子の辛さも相まって、つい手が進んでしまう。
「はー! これはこれで楽しい! 悪くねぇ」
夢中になって食べ進めていたナハシュは、この店自慢の料理や酒を堪能してご機嫌だ。そんな彼を見て頬を緩めたヨルは、感慨深そうに口を開いた。
「夢みたいだなー。まさか本当にデートできるとは思わなかったし」
ほどよく酒が進んだためか、それともこの非日常に酔っているのか、どこか夢心地な様子でヨルは続ける。
「いつ誘っても、君はつれない。次会えるかは分からないのに」
「あ? なんだかんだ会ってるだろ」
その言葉に、それはそうだけどね、と返してヨルは目を伏せる。
――会うのはいつも戦場だ。初めて会ったときもそうだった。
軍のためにと戦場に行くのはヨルにとってはいつものことで、きっとナハシュにとっても、いつもと変わらない殺し合いのためだった。
けれどナハシュが滅ぼした戦地はとても静かで、そこに一人立つ姿がとても綺麗だったから。まるで輝く星のように、ヨルには眩しく思えたのだ。
「君が好きだよ。君みたいに綺麗な子は天使にだってそうそういない」
「お前も変わってるよなー。いいのかよ天使が悪魔にそんなこと言って」
「惚れちゃったから仕方ないよね。内緒だよ」
ふうん、と相づちをうってソーセージを口に運ぶナハシュ。正直ラブだのライクだのという区別はついていなかったが、ナハシュもヨルを気に入っているのは事実だった。何せヨルは、なかなか死なないので。
いまいちピンときていないようなナハシュの様子に苦笑して、ヨルは小さく呟いた。
「何度だって会いたいよ。こうして君といることが、たとえ誰からも許されなくてもね」
だからまたデートしてよ、と熱を帯びた眼差しを向けながら告げるヨルに、ナハシュは無垢に笑う。
「しょうがねーなー内緒なナイショ。また生きてたらいい店行こうぜ。お前の奢りな」
「……ほんと?! じゃあ次は映画も行こう。奢る奢る。ははっ、生き残る理由ができちゃったな」
そんなささやかな約束を結んで、二人はグラスの中身を飲み干す。
きっと来るそのいつかが、そう遠くないと良いと思いを馳せながら。