Coup de foudre
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 炙りとろ左門納品 2022年04月22日 10時03分56秒
神雷に撃たれた、と思った。
ヨルムンレークは、反射的に身体の無事を確かめた。指も、足も動く。五感も損耗ない。ただ、胸が、心臓が止まったかと思ったのだ。
冷静になって、どうやら攻撃を受けたわけではないことが分かると、ヨルムンレークは呼吸を整えた。
ここは戦場だ。動揺は部下に伝わる。力天使であるヨルムンレークに与えられている命令は現場指揮であり、将官らの命令は絶対である。
ヨルムンレークは、壊滅した実働部隊を立て直すために送り込まれた。ヨルムンレークの風にはそれだけの価値と証明があった。ゆえに、ヨルムンレークは割と雑に戦場へ放り込まれる。
積み上げられた天使の残骸を見ても、正直何も思わなかった。いちいち凄惨な光景に何かを感じていては、心が保たないからだ。尤も、自分がそのような繊細さを持ち合わせていたかという点については疑問の余地がある。他者を癒すという能力を悪辣に行使するということも、ヨルムンレークはやってみせたことがある。
――ともあれ。それはヨルムンレークにとって、久々に鮮明な、衝撃をもたらすほどの「刺激」だったのだ。
「ん? ……なんだ、生き残りがいたのか。それとも新手か?」
天使の翼を引きちぎった姿勢のままヨルムンレークを振り返ったその悪魔は、しごくつまらなそうな表情をしていたが――すぐに、動いている獲物を見つけたという期待に瞳を輝かせた。
嫣然たる笑み。それにどこまでも無邪気な言動が同居する。対照的な概念が、壊れることなく均衡を保つ――ヨルムンレークがその悪魔から受けた印象は「綺麗な子」だった。
呆けている間に、ヨルムンレークは2度目の衝撃を受けた。今度は胸ではなく腹である。力任せに殴り抜かれたのだと理解できた。他の天使たちと同様にはらわたを抉り出されなかったのは、最初の一撃は様子見、ということだろう。
「お! お前、頑丈だな!」
それでさえも、強力な一撃だった。下から突き上げるように殴り抜かれたため、折れた肋骨が背中の方へと飛び出てしまっている。咄嗟に防御しようと出した腕はどっかにすっ飛んでいってしまっていた。
その状態ですら、ヨルムンレークは悲鳴ひとつ上げず、顔色も変えなかった。口の中に溜まった血を吐き出すことすら慣れたものと、ぐちゃぐちゃになった上半身を傾げて瞬時に再生させる。ゆえに、悪魔は歓喜した。
「いいねいいね、長く遊べるじゃねぇか! 粉微塵になっても死なねえのか、試してみようぜ!」
今度は、ヨルムンレークの顎を狙う。吹き飛ばされたはずの頭は、次の瞬間には元に戻っていた。
(厄災……)
悪魔におもちゃのように弄ばれつつ、ヨルムンレークは冷静に目の前の悪魔を観察していた。
『邂逅即撤退』と同義語となっているその存在と、いつか鉢合わせる日が来るだろうと思っていた。己の嗜虐的な喜悦のみを追い求める強欲の悪魔。気まぐれや遊び感覚で、敵も味方もボロ雑巾になるまで虐げ、殺してしまう。ゆえに同族からも忌み嫌われている彼の姿は――。
「……あ?」
繰り出した拳を手首から握り込まれ、悪魔は首を傾げた。ただ一方的にやられている、頑丈なだけの天使が、自分の拳を見切ることができるとは思っていなかったのだ。
「――とか」
「ン?」
再生したばかりの喉では声が掠れてしまう。ナハシュがぐっと、ヨルムンレークの言葉を聞き取ろうと顔を寄せた。それに、ヨルムンレークは愛おしげに目を細める。
「少しお話とか……デートとか、どうかな。君のことを、もっと知りたい」
「はァ?」
思いもよらぬ台詞に、ナハシュは目を眇めた。
「一目惚れって本当にあるんだな。好きだよ。君――」
甘く蕩けた表情で睦言を囁くヨルムンレークを、ナハシュはつまらなそうに近くの岩崖に叩きつけ、
「おっと」
ようやく応戦の意欲を見せたヨルムンレークが、見事に空中で旋回し、その勢いを殺す。
が、ヨルムンレークが剣を抜くよりもナハシュの追撃の方がよほど疾かった。ナハシュによって嬲られたヨルムンレークはもはやすぐには再生せず、文字通りの肉塊となった。
「……んー」
ナハシュは頭を掻く。確かに比較的長くは遊べたが、妙なやつだった。
再生の兆しが見えず、ヨルムンレークへの興味を失ったナハシュはその場から飛び立った。
しばらくして、ヨルムンレークはもぞもぞと肉塊から復帰する。様子を見ていた天使もいるだろうし、上司に「健闘した」程度の印象は与えられるだろう。
「ああ、痛かった」
痛かったが、それ以上に、あの悪魔への憧憬が募る。
「綺麗だったな、本当に。また会えるといいなぁ」
上司には、頭でも打ったのかと言われそうな言動だ、と、自分でも思う。
そう聞かれたらこう答えてやろう。
頭なら吹き飛ばされました、と。
ヨルムンレークは、反射的に身体の無事を確かめた。指も、足も動く。五感も損耗ない。ただ、胸が、心臓が止まったかと思ったのだ。
冷静になって、どうやら攻撃を受けたわけではないことが分かると、ヨルムンレークは呼吸を整えた。
ここは戦場だ。動揺は部下に伝わる。力天使であるヨルムンレークに与えられている命令は現場指揮であり、将官らの命令は絶対である。
ヨルムンレークは、壊滅した実働部隊を立て直すために送り込まれた。ヨルムンレークの風にはそれだけの価値と証明があった。ゆえに、ヨルムンレークは割と雑に戦場へ放り込まれる。
積み上げられた天使の残骸を見ても、正直何も思わなかった。いちいち凄惨な光景に何かを感じていては、心が保たないからだ。尤も、自分がそのような繊細さを持ち合わせていたかという点については疑問の余地がある。他者を癒すという能力を悪辣に行使するということも、ヨルムンレークはやってみせたことがある。
――ともあれ。それはヨルムンレークにとって、久々に鮮明な、衝撃をもたらすほどの「刺激」だったのだ。
「ん? ……なんだ、生き残りがいたのか。それとも新手か?」
天使の翼を引きちぎった姿勢のままヨルムンレークを振り返ったその悪魔は、しごくつまらなそうな表情をしていたが――すぐに、動いている獲物を見つけたという期待に瞳を輝かせた。
嫣然たる笑み。それにどこまでも無邪気な言動が同居する。対照的な概念が、壊れることなく均衡を保つ――ヨルムンレークがその悪魔から受けた印象は「綺麗な子」だった。
呆けている間に、ヨルムンレークは2度目の衝撃を受けた。今度は胸ではなく腹である。力任せに殴り抜かれたのだと理解できた。他の天使たちと同様にはらわたを抉り出されなかったのは、最初の一撃は様子見、ということだろう。
「お! お前、頑丈だな!」
それでさえも、強力な一撃だった。下から突き上げるように殴り抜かれたため、折れた肋骨が背中の方へと飛び出てしまっている。咄嗟に防御しようと出した腕はどっかにすっ飛んでいってしまっていた。
その状態ですら、ヨルムンレークは悲鳴ひとつ上げず、顔色も変えなかった。口の中に溜まった血を吐き出すことすら慣れたものと、ぐちゃぐちゃになった上半身を傾げて瞬時に再生させる。ゆえに、悪魔は歓喜した。
「いいねいいね、長く遊べるじゃねぇか! 粉微塵になっても死なねえのか、試してみようぜ!」
今度は、ヨルムンレークの顎を狙う。吹き飛ばされたはずの頭は、次の瞬間には元に戻っていた。
(厄災……)
悪魔におもちゃのように弄ばれつつ、ヨルムンレークは冷静に目の前の悪魔を観察していた。
『邂逅即撤退』と同義語となっているその存在と、いつか鉢合わせる日が来るだろうと思っていた。己の嗜虐的な喜悦のみを追い求める強欲の悪魔。気まぐれや遊び感覚で、敵も味方もボロ雑巾になるまで虐げ、殺してしまう。ゆえに同族からも忌み嫌われている彼の姿は――。
「……あ?」
繰り出した拳を手首から握り込まれ、悪魔は首を傾げた。ただ一方的にやられている、頑丈なだけの天使が、自分の拳を見切ることができるとは思っていなかったのだ。
「――とか」
「ン?」
再生したばかりの喉では声が掠れてしまう。ナハシュがぐっと、ヨルムンレークの言葉を聞き取ろうと顔を寄せた。それに、ヨルムンレークは愛おしげに目を細める。
「少しお話とか……デートとか、どうかな。君のことを、もっと知りたい」
「はァ?」
思いもよらぬ台詞に、ナハシュは目を眇めた。
「一目惚れって本当にあるんだな。好きだよ。君――」
甘く蕩けた表情で睦言を囁くヨルムンレークを、ナハシュはつまらなそうに近くの岩崖に叩きつけ、
「おっと」
ようやく応戦の意欲を見せたヨルムンレークが、見事に空中で旋回し、その勢いを殺す。
が、ヨルムンレークが剣を抜くよりもナハシュの追撃の方がよほど疾かった。ナハシュによって嬲られたヨルムンレークはもはやすぐには再生せず、文字通りの肉塊となった。
「……んー」
ナハシュは頭を掻く。確かに比較的長くは遊べたが、妙なやつだった。
再生の兆しが見えず、ヨルムンレークへの興味を失ったナハシュはその場から飛び立った。
しばらくして、ヨルムンレークはもぞもぞと肉塊から復帰する。様子を見ていた天使もいるだろうし、上司に「健闘した」程度の印象は与えられるだろう。
「ああ、痛かった」
痛かったが、それ以上に、あの悪魔への憧憬が募る。
「綺麗だったな、本当に。また会えるといいなぁ」
上司には、頭でも打ったのかと言われそうな言動だ、と、自分でも思う。
そう聞かれたらこう答えてやろう。
頭なら吹き飛ばされました、と。