Dance on their altar
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 炙りとろ左門納品 2022年04月19日 10時25分32秒
「どうしたんだい、俺の黄昏」
その名の由縁となった翡翠のような瞳を細めて、彼――強欲の悪魔ははそう甘ったるく囁いた。そのまま溶けて落ちてしまいそうな熱を孕んだ視線を、傍らの悪魔に向けて。
が。翡翠のそのような熱い視線を、黄昏――傲慢の悪魔はにっこりと受け流す。
「そう甘やかせば、僕が絆されるとでも思ったのかい? 君、司るのが【強欲】だけでは飽き足りないのかね」
満面の笑みから放たれる絶対零度の言葉に、翡翠の甘い笑顔がそのまま固まった。いいように丸め込もうなどとは、思っていなかったのだが。
「そう思われても仕方がないことをしたんだぞ」
「戯れだよ」
天上の優雅なお茶会。天使たちが能天気にしているそれを茶化そうと、皆で集まっただけだ。そこに黄昏を連れていかなかったのは、ただその茶会に連なる面々と彼女を会わせたくなかったから。
そもそも翡翠は最初、断ろうと思っていたのだ。そんなことより黄昏といる時間の方がよっぽど有意義である。
ただ、己の黄昏の周りを、最近ちょろちょろとうるさい奴を、ちょっと懲らしめてやろうと思ったのだ。
ただ彼女は、翡翠がその茶会に参席した他の悪魔にうつつを抜かしていると思ったらしい。
「その席をめちゃくちゃにしてやっても良かったんだ」
悋気と言えば、彼女は否定するだろうか。苛立つ黄昏の瞳を翡翠は覗き込む。
「君は信じるかどうかわからないけど、もしその場に君が来るようなことがあれば、俺が先にめちゃくちゃにしてたよ」
黄昏に懸想している悪魔がいた、それだけでこの胸は焼け爛れそうだったというのに。
きょとんとする黄昏に、翡翠はわざとらしくため息をついて見せた。
恋でもない。愛でもない。そもそんな言葉は人間の尺度でしかないのだから、黄昏に対するこの気持ちは――。
「君をどこかに閉じ込めておけたらいいのに」
翡翠は黄昏の腰を抱いて引き寄せると、その翼の風切り羽根に爪を立てた。
「欲しいのかい?」
翡翠の胸に手を置いて、黄昏はそう尋ねつつ、躊躇うことなく目の前の存在に体重を預ける。
「傍にいるなら、片方なくたって構わないだろ」
天使も悪魔も翼があるが、無論それによって空を飛んでいるわけではない――低く掠れた声に乗るのは、昏い欲望だ。
「そしたら君と俺は、ずっと互いのものだ」
そうして、翡翠と黄昏は翼を落とし、互いに捧げて「一対」となった。それが一体どのような意味を持つのかは明白であり、ふたりのことは瞬く間に広まった、のだが。
「どうして君に粉をかける悪魔が後を絶たないんだ!」
今度は黄昏が、相方の周りをちょろちょろうろつく悪魔たちに頭を悩ませていた。
「翡翠、翡翠とまったく姦しい! そうは思わないか翡翠の!?」
その喉を焼こうか貫いてやろうかと今にも飛び出していきそうな黄昏を、翡翠は宥めすかせる。
悪魔に倫理観や常識などを求める方が不毛である。特に【色欲】や【強欲】を司る悪魔たちに、「相手が誰のものか」なんてことは問題ではないのだ。【強欲】である翡翠が一番よくわかっている。
とはいえ、黄昏以外に名を呼ばれるのは――控えめに言っても不愉快だ。
「俺にいい考えがあるよ、黄昏の」
「なに?」
むくれた表情のまま振り返る黄昏の頬に手を滑らせて、翡翠は嫣然と微笑む。
「瞳をくれないか?」
ずっとずっと、焦がれていた色がある。
翡翠は天の日に焦がれない。翡翠の太陽はいつでもここにあったからだ。
「翼だけでは足りない、と?」
「ああ、俺は強欲だから……全部欲しいんだ。黄昏のすべてが」
それに、と翡翠は続ける。
「君も、そう考えているんじゃないかと思ったんだけど」
黄昏は半眼で翡翠を睨め上げていたが、やがてふっと微笑んだ。
「いいだろう。どうせ、別のものを映すことなどないんだから。……しかしまったく、君は強欲だな」
言葉の上では翡翠をそう責めるのに、黄昏の表情は陶然としている。
「これで僕らは正真正銘、ふたりでひとり」
空の眼窩に互いの瞳を埋め込んで、眼帯で隠す。これで2人の双眸は揃いの色となった。
君さえいれば、なにもいらない。
僕と君だけ、いればいい――。
その名の由縁となった翡翠のような瞳を細めて、彼――強欲の悪魔ははそう甘ったるく囁いた。そのまま溶けて落ちてしまいそうな熱を孕んだ視線を、傍らの悪魔に向けて。
が。翡翠のそのような熱い視線を、黄昏――傲慢の悪魔はにっこりと受け流す。
「そう甘やかせば、僕が絆されるとでも思ったのかい? 君、司るのが【強欲】だけでは飽き足りないのかね」
満面の笑みから放たれる絶対零度の言葉に、翡翠の甘い笑顔がそのまま固まった。いいように丸め込もうなどとは、思っていなかったのだが。
「そう思われても仕方がないことをしたんだぞ」
「戯れだよ」
天上の優雅なお茶会。天使たちが能天気にしているそれを茶化そうと、皆で集まっただけだ。そこに黄昏を連れていかなかったのは、ただその茶会に連なる面々と彼女を会わせたくなかったから。
そもそも翡翠は最初、断ろうと思っていたのだ。そんなことより黄昏といる時間の方がよっぽど有意義である。
ただ、己の黄昏の周りを、最近ちょろちょろとうるさい奴を、ちょっと懲らしめてやろうと思ったのだ。
ただ彼女は、翡翠がその茶会に参席した他の悪魔にうつつを抜かしていると思ったらしい。
「その席をめちゃくちゃにしてやっても良かったんだ」
悋気と言えば、彼女は否定するだろうか。苛立つ黄昏の瞳を翡翠は覗き込む。
「君は信じるかどうかわからないけど、もしその場に君が来るようなことがあれば、俺が先にめちゃくちゃにしてたよ」
黄昏に懸想している悪魔がいた、それだけでこの胸は焼け爛れそうだったというのに。
きょとんとする黄昏に、翡翠はわざとらしくため息をついて見せた。
恋でもない。愛でもない。そもそんな言葉は人間の尺度でしかないのだから、黄昏に対するこの気持ちは――。
「君をどこかに閉じ込めておけたらいいのに」
翡翠は黄昏の腰を抱いて引き寄せると、その翼の風切り羽根に爪を立てた。
「欲しいのかい?」
翡翠の胸に手を置いて、黄昏はそう尋ねつつ、躊躇うことなく目の前の存在に体重を預ける。
「傍にいるなら、片方なくたって構わないだろ」
天使も悪魔も翼があるが、無論それによって空を飛んでいるわけではない――低く掠れた声に乗るのは、昏い欲望だ。
「そしたら君と俺は、ずっと互いのものだ」
そうして、翡翠と黄昏は翼を落とし、互いに捧げて「一対」となった。それが一体どのような意味を持つのかは明白であり、ふたりのことは瞬く間に広まった、のだが。
「どうして君に粉をかける悪魔が後を絶たないんだ!」
今度は黄昏が、相方の周りをちょろちょろうろつく悪魔たちに頭を悩ませていた。
「翡翠、翡翠とまったく姦しい! そうは思わないか翡翠の!?」
その喉を焼こうか貫いてやろうかと今にも飛び出していきそうな黄昏を、翡翠は宥めすかせる。
悪魔に倫理観や常識などを求める方が不毛である。特に【色欲】や【強欲】を司る悪魔たちに、「相手が誰のものか」なんてことは問題ではないのだ。【強欲】である翡翠が一番よくわかっている。
とはいえ、黄昏以外に名を呼ばれるのは――控えめに言っても不愉快だ。
「俺にいい考えがあるよ、黄昏の」
「なに?」
むくれた表情のまま振り返る黄昏の頬に手を滑らせて、翡翠は嫣然と微笑む。
「瞳をくれないか?」
ずっとずっと、焦がれていた色がある。
翡翠は天の日に焦がれない。翡翠の太陽はいつでもここにあったからだ。
「翼だけでは足りない、と?」
「ああ、俺は強欲だから……全部欲しいんだ。黄昏のすべてが」
それに、と翡翠は続ける。
「君も、そう考えているんじゃないかと思ったんだけど」
黄昏は半眼で翡翠を睨め上げていたが、やがてふっと微笑んだ。
「いいだろう。どうせ、別のものを映すことなどないんだから。……しかしまったく、君は強欲だな」
言葉の上では翡翠をそう責めるのに、黄昏の表情は陶然としている。
「これで僕らは正真正銘、ふたりでひとり」
空の眼窩に互いの瞳を埋め込んで、眼帯で隠す。これで2人の双眸は揃いの色となった。
君さえいれば、なにもいらない。
僕と君だけ、いればいい――。