二人だけの時間
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年01月08日 12時54分43秒
日のあるうちに集落の調査は粗方終えた。『餌』がいなくなった事が幸いしたのか、クリーパーの襲撃を受けたにしては、集落の荒廃は思っていたほどではなかった。
二人は集落の状態に安堵しながら、ティトの住んでいた家へと足を踏み入れる。中は避難の慌ただしさそのままに、散らかってはいたが、荒らされてはいなかった。
二人は手早く居間を片付けると、冷えた体を温める為に囲炉裏に火を入れる。
「ティト、食事が出来ましたよ」
「……うん、ありがと」
囲炉裏に吊るされた鍋をかき混ぜながら、セロンガード・シュタインドルフは二階から降りて来たティトに声をかけた。
「二階も無事でしたか?」
「うん、大丈夫……あの日の、まま」
「そうですか、良かったですね」
当然のごとく隣へと腰かけたティトに、セロンガードはスープの入った椀を渡す。
ティトは椀を受け取り、温かな湯気に鼻を近づけた。
「……おいしそう」
「残された食材は流石に使えそうにありませんでしたが、調味料は使えそうでしたので少し拝借しました。お口に合えばいいのですが」
そう言いつつ、セロンガードは部屋の隅にあった食糧棚に視線を移す。
「そっか……これ、うちの、なんだ」
ティトは小さく呟くと湯気の立ち上る椀に口を付けた。
味付けはいつものセロンガードの味。だけど、その奥の方にどこか懐かしい故郷の味を感じる。
「おいしい……」
「そうですか、それはよかった。腐っていたらどうしようかと――――もちろん味見しましたよ、ええ。ティトに腐ったものなんて食べさせるわけないじゃないですか、ははは。だからそのナイフはしまいましょうね」
せっかくの郷愁を台無しにされて思わず手が出そうになったティトに、セロンガードはどこか満足げに白旗を上げる。
「……ぷっ」
そんないつもとなにも変わらないやり取りに、ティトは思わず噴き出した。
「……ありがと、セロン」
「どういたしまして」
二人はそれっきり口を開かず、無言で食事を進める。
セロンガードはあえて何も聞かず、ティトもわざわざ話しかけたりはしない。
互いの気持ちは触れ合った肩から感じる熱が伝えてくれる。
黙々と匙を動かし、ちぎったパンを口へ放り込んだ。
食事後にセロンガードが淹れてくれた珈琲をちびりちびりと飲みながら、ほっと一息ついた。
「……ねぇ、セロン。みんな、帰ってこれるようになる、かな」
「そうですね。集落の状況が思ったよりも良好でしたので、戻る分には問題ないでしょう。ただし、集落の外のクリーパーをどうにかする必要がありますが」
この集落へと向かう道中、何度かクリーパーと戦闘になった。幸い二人でも十分に対処できる相手ではあったが、帝国の北部はいまだに無法地帯なのだという事を痛感させられた。
「……ティトは戻ってくるつもりなのですか?」
「え……?」
一瞬その質問の意味がわからず、ティトはセロンガードを見上げる。
そして、それが『別れ』を示唆すると理解した。
「……わから、ない」
「そう、ですか。まぁ今すぐに戻るのは難しいでしょうから、ゆっくりと考えるといいと思います」
セロンガードはそれ以上追及せず、ティトを自らの毛布の中に招くと視線を囲炉裏に向けた。
二人は肩を寄せ合い炎の揺らめきにまどろむ。
時折弾ける薪の音と、隣で温もりをくれる相方の息遣いだけが聞こえる静かな世界。
今日は12月31日。今年ももう数時間で終わりを迎える。
残り数時間の『今年』を惜しむように、数刻の後に訪れる『来年』を待ちわびながら、二人は互いの温もりに身を委ねた――――。
●
「――セロン」
「……ん」
膝の上で寝息を立てるセロンガードの髪の毛を、ティトは優しく梳く。
普段ならこんな無防備な寝顔など絶対に見せないのだが、今日ばかりは仕方ないのかもしれない。
これも自分が半ば無理やり故郷の調査をお願いしたせい。
セロンガードは文句の一つも言わず、故郷まで足を運び調査に付き合ってくれた。
おかげで、まともに休んでいないのだろう。目の下にはうっすらとクマが見て取れる。
「……セロン」
寝息を立てる相方の耳元で、もう一度名前を呼んでみた。
セロンガードは声に反応する事無く、眠りこけている。
「……ぼくね、決めた事がある、んだ」
だから、あえて声に出す。セロンガードの頭を撫でながら、ティトはずっと考えていたことを呟き始めた。
「この前の話……ぼくは一人ででも、あの子達を助けに行こうと思って、るんだ……」
それは少し前に見つけた奴隷たちの事。
「……ごめんね、セロン。でも、話したら、きっと止められる、から……」
あの子達を見つけた場所でも、帰った後の宿でも、セロンガードはティトの意見に反対した。
「ぼくの事、想ってくれているからこその言葉だって、わかってるんだけど……それでも、ぼくはやらなくちゃいけないって、思ってる」
だからこそ、ティトは一人で悩んだ。ずっとずっとあの光景が脳裏から離れない。あの子達はどうなったのか、ちゃんと助けてもらえたのか。それとも……。
「一人は……心細いけど、がんばる、よ。……ごめんね、セロン」
ティトは寝息を立てるセロンガードの額に、謝罪のキスをした。
●
「――はっ! しまった、寝てしまっていましたか……」
がばっと上体を起こしたセロンガードが、自分の失態に渋面を作った。
「……おはよ、セロン」
「ああ、ティト。すみません、寝てしまっていました」
「だいじょう、ぶ。気にしないで……セロンは、とっても疲れているんだから、ゆっくりしてくれて、いいんだよ?」
「いえ、そうもいきません。ティト、私はどのくらい寝ていましたか。今何時ですか」
何処か焦った風に問いかけてくるセロンガードに、ティトは驚く。
「えっと……もうすぐ、12時、かな」
ティトは驚きつつも、壁にかかっている鳩時計に視線を向けた。分針は後5分で頂点を指す。
「そう、ですか……よかった」
「よかった……?」
「いえ、こちらの話です」
ほっと胸を撫で下ろしたセロンガードは、きょとんと首をかしげるティトに背を向けると、何やらもぞもぞとやり始めた。
「セロン……? なに、してるの?」
ティトは何やら怪しげな動きを見せるセロンガードの背中にぴたりと張り付き、肩に顎を乗せその手元を覗き見る。
「え……?」
そこには大きくて真っ白なケーキがある。
「これって……」
「さぁ、ティト。こちらへ」
驚いて体を離したティトに、振り返ったセロンガードは手を伸ばすと、自らの膝に乗せた。
「セ、セロン……?」
「まだですよ。ほら――」
そう言って、セロンガードは壁時計を指さす。
秒針はゆっくりと時を刻み続けていた。
「――――10」
「……9」
「8」
「なな……」
二人の秒読みと共に、秒針が頂点に近づいていく。
「「3」」
「「2」」
「「1」」
――カチッ。
「お誕生日おめでとうございます、ティト」
「あ、ありが、とう……」
背後からぎゅっと抱きしめられ、ティトは震える声を絞り出した。
「うぅ……」
「ビックリしましたか? サプライズ成功ですかね」
ティトは膝の上で身体を反転させ、してやったりな顔を睨み付けると……。
「セロン……」
「はい?」
「……今夜は、寝かさない、から。覚悟、して」
「はは、お手柔らかにお願いしますね」
赤く染まった顔を隠すように、セロンガードの胸に飛び込んだのだった。
二人は集落の状態に安堵しながら、ティトの住んでいた家へと足を踏み入れる。中は避難の慌ただしさそのままに、散らかってはいたが、荒らされてはいなかった。
二人は手早く居間を片付けると、冷えた体を温める為に囲炉裏に火を入れる。
「ティト、食事が出来ましたよ」
「……うん、ありがと」
囲炉裏に吊るされた鍋をかき混ぜながら、セロンガード・シュタインドルフは二階から降りて来たティトに声をかけた。
「二階も無事でしたか?」
「うん、大丈夫……あの日の、まま」
「そうですか、良かったですね」
当然のごとく隣へと腰かけたティトに、セロンガードはスープの入った椀を渡す。
ティトは椀を受け取り、温かな湯気に鼻を近づけた。
「……おいしそう」
「残された食材は流石に使えそうにありませんでしたが、調味料は使えそうでしたので少し拝借しました。お口に合えばいいのですが」
そう言いつつ、セロンガードは部屋の隅にあった食糧棚に視線を移す。
「そっか……これ、うちの、なんだ」
ティトは小さく呟くと湯気の立ち上る椀に口を付けた。
味付けはいつものセロンガードの味。だけど、その奥の方にどこか懐かしい故郷の味を感じる。
「おいしい……」
「そうですか、それはよかった。腐っていたらどうしようかと――――もちろん味見しましたよ、ええ。ティトに腐ったものなんて食べさせるわけないじゃないですか、ははは。だからそのナイフはしまいましょうね」
せっかくの郷愁を台無しにされて思わず手が出そうになったティトに、セロンガードはどこか満足げに白旗を上げる。
「……ぷっ」
そんないつもとなにも変わらないやり取りに、ティトは思わず噴き出した。
「……ありがと、セロン」
「どういたしまして」
二人はそれっきり口を開かず、無言で食事を進める。
セロンガードはあえて何も聞かず、ティトもわざわざ話しかけたりはしない。
互いの気持ちは触れ合った肩から感じる熱が伝えてくれる。
黙々と匙を動かし、ちぎったパンを口へ放り込んだ。
食事後にセロンガードが淹れてくれた珈琲をちびりちびりと飲みながら、ほっと一息ついた。
「……ねぇ、セロン。みんな、帰ってこれるようになる、かな」
「そうですね。集落の状況が思ったよりも良好でしたので、戻る分には問題ないでしょう。ただし、集落の外のクリーパーをどうにかする必要がありますが」
この集落へと向かう道中、何度かクリーパーと戦闘になった。幸い二人でも十分に対処できる相手ではあったが、帝国の北部はいまだに無法地帯なのだという事を痛感させられた。
「……ティトは戻ってくるつもりなのですか?」
「え……?」
一瞬その質問の意味がわからず、ティトはセロンガードを見上げる。
そして、それが『別れ』を示唆すると理解した。
「……わから、ない」
「そう、ですか。まぁ今すぐに戻るのは難しいでしょうから、ゆっくりと考えるといいと思います」
セロンガードはそれ以上追及せず、ティトを自らの毛布の中に招くと視線を囲炉裏に向けた。
二人は肩を寄せ合い炎の揺らめきにまどろむ。
時折弾ける薪の音と、隣で温もりをくれる相方の息遣いだけが聞こえる静かな世界。
今日は12月31日。今年ももう数時間で終わりを迎える。
残り数時間の『今年』を惜しむように、数刻の後に訪れる『来年』を待ちわびながら、二人は互いの温もりに身を委ねた――――。
●
「――セロン」
「……ん」
膝の上で寝息を立てるセロンガードの髪の毛を、ティトは優しく梳く。
普段ならこんな無防備な寝顔など絶対に見せないのだが、今日ばかりは仕方ないのかもしれない。
これも自分が半ば無理やり故郷の調査をお願いしたせい。
セロンガードは文句の一つも言わず、故郷まで足を運び調査に付き合ってくれた。
おかげで、まともに休んでいないのだろう。目の下にはうっすらとクマが見て取れる。
「……セロン」
寝息を立てる相方の耳元で、もう一度名前を呼んでみた。
セロンガードは声に反応する事無く、眠りこけている。
「……ぼくね、決めた事がある、んだ」
だから、あえて声に出す。セロンガードの頭を撫でながら、ティトはずっと考えていたことを呟き始めた。
「この前の話……ぼくは一人ででも、あの子達を助けに行こうと思って、るんだ……」
それは少し前に見つけた奴隷たちの事。
「……ごめんね、セロン。でも、話したら、きっと止められる、から……」
あの子達を見つけた場所でも、帰った後の宿でも、セロンガードはティトの意見に反対した。
「ぼくの事、想ってくれているからこその言葉だって、わかってるんだけど……それでも、ぼくはやらなくちゃいけないって、思ってる」
だからこそ、ティトは一人で悩んだ。ずっとずっとあの光景が脳裏から離れない。あの子達はどうなったのか、ちゃんと助けてもらえたのか。それとも……。
「一人は……心細いけど、がんばる、よ。……ごめんね、セロン」
ティトは寝息を立てるセロンガードの額に、謝罪のキスをした。
●
「――はっ! しまった、寝てしまっていましたか……」
がばっと上体を起こしたセロンガードが、自分の失態に渋面を作った。
「……おはよ、セロン」
「ああ、ティト。すみません、寝てしまっていました」
「だいじょう、ぶ。気にしないで……セロンは、とっても疲れているんだから、ゆっくりしてくれて、いいんだよ?」
「いえ、そうもいきません。ティト、私はどのくらい寝ていましたか。今何時ですか」
何処か焦った風に問いかけてくるセロンガードに、ティトは驚く。
「えっと……もうすぐ、12時、かな」
ティトは驚きつつも、壁にかかっている鳩時計に視線を向けた。分針は後5分で頂点を指す。
「そう、ですか……よかった」
「よかった……?」
「いえ、こちらの話です」
ほっと胸を撫で下ろしたセロンガードは、きょとんと首をかしげるティトに背を向けると、何やらもぞもぞとやり始めた。
「セロン……? なに、してるの?」
ティトは何やら怪しげな動きを見せるセロンガードの背中にぴたりと張り付き、肩に顎を乗せその手元を覗き見る。
「え……?」
そこには大きくて真っ白なケーキがある。
「これって……」
「さぁ、ティト。こちらへ」
驚いて体を離したティトに、振り返ったセロンガードは手を伸ばすと、自らの膝に乗せた。
「セ、セロン……?」
「まだですよ。ほら――」
そう言って、セロンガードは壁時計を指さす。
秒針はゆっくりと時を刻み続けていた。
「――――10」
「……9」
「8」
「なな……」
二人の秒読みと共に、秒針が頂点に近づいていく。
「「3」」
「「2」」
「「1」」
――カチッ。
「お誕生日おめでとうございます、ティト」
「あ、ありが、とう……」
背後からぎゅっと抱きしめられ、ティトは震える声を絞り出した。
「うぅ……」
「ビックリしましたか? サプライズ成功ですかね」
ティトは膝の上で身体を反転させ、してやったりな顔を睨み付けると……。
「セロン……」
「はい?」
「……今夜は、寝かさない、から。覚悟、して」
「はは、お手柔らかにお願いしますね」
赤く染まった顔を隠すように、セロンガードの胸に飛び込んだのだった。