時を越えた再会

キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2021年12月26日 10時28分09秒

●1195年
 灰色の曇天の下で、ちらちらと細やかな雪が舞う季節。
 ひとりのエルフ青年とひとりのヒューマン青年が連れ立って、フィルエス大森林奥地のとある氏族集落を訪れた。
 エルフの名はディヴァンス・ファルヴェント。絹の如き滑らかな金髪と、鋭く射貫く様な紫の瞳が特徴的な弓士である。
 そしてヒューマンの名はアルヴィン・カペル。白い髪に青い瞳がよく映える、端正な顔立ちの戦士だ。
 ディヴァンスとアルヴィンはリーンエス王国諜報組織『青薔薇』の一員として、この地を訪れた。ふたりは、メドゥの指先と思しき凶悪なテロリストを追っていたのである。
 ふたりが事情を説明すると、集落長は腕の良い弓士と魔術師を道案内に付けようと申し出てくれた。
 弓士はロイ・アウレア、そして魔術師はテス・クラルスと名乗った。

 テロリストのアジトと思しき洞窟へ向かう道中、ロイはディヴァンスとアルヴィンが人種を越えて互いに信頼し合っている様子に幾分の興味を抱いた。
「おふたりはコンビを組んで、長いのですか?」
 ロイからの問いかけに、ディヴァンスもアルヴィンもさぁどうだろうと、小首を捻る。長いといえば長いだろうし、短いといえば短いかも知れない。実際この両名は、時間の概念を余り深く考えていない様子だった。
 だがこのふたりのちょっとしたやり取りの中から、ロイは強い信頼関係を感じた。ディヴァンスが左に注意を払えばアルヴィンは自然と右側を警戒し、アルヴィンが足元に目線を落とせば、ディヴァンスは上空に敵性有無を確認する為に眼光を光らせる。
 阿吽の呼吸ともいうべき自然なコンビネーションに、ロイは素直に感嘆した。
 だが、テスは違った。ロイの袖を引き、余り深く関わらない方が良いと小声で諭した。
「ん? テスがそんなことをいうなんて珍しいな……このひと達は、信頼出来ると思うよ」
「いや、そうじゃなくて……」
 テスは上手く表現出来なかったが、要はディヴァンスとアルヴィンが余りに優秀過ぎる為に、ロイでは対処出来ない危険な状況の中へ、ごく自然に足を踏み入れ様としている風に見えたのだ。テスとしては、そのふたりが繰り広げる何気無い危険な領域にロイが巻き込まれるのを、酷く恐れていたに過ぎない。
(まぁ、仕方ないか……私がロイを護れば、それで良い訳だし……)
 中々言葉では伝わらない為、テスは諦めた。矢張りロイは、色々な意味で若い。テスの感じた機微を察しろという方が無理な話であった。

 しかし、当初テスが抱いていた警戒心は早い段階で薄れた。代わりにテスの心を支配する様になったのは、ふたりの来訪者に対する信頼感であった。
 ディヴァンスもアルヴィンもロイを危険な状況には、努めて巻き込もうとはしなかった。ディヴァンスに至っては、テスでは決して教えることが出来ない弓士としての極意を、さりげない会話やちょっとしたやり取りの中でそれとなく教えてくれることもあった。
「変わった手信号だね」
 テスは青薔薇特有の簡潔で素早い手の動きだけによる合図に、興味を抱いた。ディヴァンスとアルヴィンの優れた技量に関心を示したのは、この時からだったといって良い。テスは幾つかの手信号を教えて貰い、早速実戦の中で活用してみた。
 テロリストを追い詰める為に要した期間は三日間。この三日の中で、ディヴァンスとアルヴィン、そしてテスを加えた三人は面白い程に連携が取れる様になっており、寧ろ最初に親近感を覚えたロイが置いてけぼりを喰う格好となっていた。
 実際、断崖下の洞窟内でテロリストと対峙した時も接近戦のアルヴィン、支援射撃のディヴァンス、主火力のテスという具合に、言葉で語らずとも自然に役割分担が完成していた。
 無事に敵を斃した際、テスの笑顔からは完全に警戒の念が消えていた。
「お見事だったね、アル、ディヴィ。久々に自分でも感動する様な連携が取れたと思うよ」
 テスの称賛に、アルヴィンもディヴァンスも穏やかな笑みを返した。
 ただひとり、ロイだけは、
「何か……テスだけ、ずるい」
 と唇を尖らせていた。

●1211年
 フィルエス大森林を飛び出し、ふたりで旅を始めたロイとテス。
 ロスガリア大陸を渡り歩き、大きく開かれた世界で見聞を広めようと各地を訪ねていたふたりは、或る時、リーンエス王国カペル侯爵領都へと辿り着いた。
 春先のまだ少し肌寒い時期ではあったが、丁度この日、領都では毎年恒例の花祭が開催されていた。
 折角だから見物していこうという話になり、ロイとテスは出店や舞台で賑わう町中を連れ立って散策した。声がかかったのは、その時だった。
「テス・クラルス氏とロイ・アウレア氏でございますか?」
 頑健な体躯のヒューマン男性が話しかけてきた。彼はカペル侯爵領騎士団の長ジェレムス・ローギリアンと名乗った。
 曰く、カペル侯爵領の事実上の当主たるイザベラ・カペルが、ふたりを見込んで頼みたいことがあるとの由。一体何事だろうと、ロイとテスは顔を見合わせた。だが少なくなってきた路銀を稼ぐには、絶好のチャンスでもある。
 ふたりは余り詳しく事情を聞くことも無く、カペル侯爵邸の白い門柱をくぐった。
 そこで、思わぬ人物と再会した。ふたりを出迎えたのはイザベラ・カペルと、あのディヴァンスだった。

 再会を喜んだ三人だが、しかしその場にアルヴィンの姿が無いことにロイもテスも、すぐに気づいた。
 アルヴィンは、既にこの世を去っていた。
「そうだったんだね……アルは……残念だよ。ひとは本当に、儚いね……」
 神妙な面持ちで瞼を伏せるテス。
 ロイも、気の利いたお悔やみの言葉というものが出てこなかったが、それでも精一杯、哀悼の意を表した。イザベラとディヴァンスは、心の底から感謝の笑みをふたりに返した。
 ところで、ふたりをカペル侯爵邸にまでわざわざ呼んだのは旧交を温める為だけではないらしい。イザベラは花祭で、公務としてフィドルを演奏する孫娘の護衛を依頼したいという。
 孫娘の名は、シルヴィア・A・カペルだった。
 ディヴァンス曰く、演奏中もシルヴィアの傍らに寄り添って欲しい為、何かと忙しいディヴァンスでは中々務まらなくて困っていたらしい。かといってジェレムスのいかつい外観では、折角の華やかな舞台の雰囲気が台無しになってしまう。
 そこで見目麗しいふたりのエルフに、シルヴィアの護衛を頼みたいということになったのだという。
「それは勿論受けさせて頂くよ。薔薇の愛し子だね……ロイも構わないよね?」
「勿論だとも。アルの為にも、ここは是非受けさせて貰うよ」
 話は纏まった。
 ジェレムスが早速、件の少女を連れてきた。その時、ロイとテスは思わず息を呑んだ。その雰囲気、外観、いずれをとってもアルヴィンが幼い娘として転生してきたのではないかと思える程に、何から何までそっくりだったのである。
 宜しくお願いしますと頭を下げたシルヴィアに、ロイもテスも半ば戸惑い気味に応じるしかなかった。

 いよいよ演奏直前という段になって、舞台袖で出番を待っていたシルヴィアは美しく着飾った金のお兄様と銀のお兄様(と、シルヴィアはその様に呼んでいた)にそっと振り向いた。
「ねぇ、ちょっと良いかしら」
 不意なる問いかけに、顔を見合わせるロイとテス。しかしそんなふたりの反応などお構いなしに、シルヴィアは続けた。
「お祖父様は私が生まれる前に亡くなって……どんなひとだったのか、教えて欲しいの」
 懇願の色を湛えた碧い瞳に、ロイとテスは抗えない。演奏開始までの僅かな時間の中で、ふたりはそれぞれが記憶しているアルヴィンの人柄について、静かに、それでいて熱を帯びた口調で穏やかに語った。
 シルヴィアは瞼を投じて、ふたりの言葉に聞き入っていた。

 事件は演奏中に起きた。
 といっても衆目に分かる形では生じていない。観客席中から何者かが毒を含んだ細い針を、吹き矢か何かの要領で放ってきたのである。
 ロイとテスはシルヴィアの左右で羽根飾りのバックダンスを披露する形で、それらの毒針をことごとく風圧で叩き落とした。決してシルヴィアの晴れ舞台を台無しにはさせず、最後まで気持ち良く演奏して貰いたいというのが、ふたりの願いでもあった。その為にふたりは通常の人間の目では決して分からぬ形で、暗殺者との激しい攻防を繰り広げた。
 ロイとテスの動きは常人には分からないが、しかしジェレムスとディヴァンスは即座に異常を察知した。ものの数分で敵を発見すると、左右の観客に気付かれること無くその場で当身を喰らわせ、場外へと引っ張り出していった。
 やがて演奏が終わり、会場は喝采に包まれた。
 舞台袖へと引き返したシルヴィアは、ロイとテスに感謝の笑みを浮かべた。シルヴィアはふたりが必死に守ってくれていたことを理解していた。
「本当に、ありがとう……私、誠実なひとが好きよ。種族や派閥は気にしないわ」
 ロイとテスはシルヴィアの親友となった。
 ふたりが彼女をシルヴィと呼ぶ様になったのは、この時からだった。

●1221年
 ロモズ旧村内の、とある村道にて。
「もしかして……銀のお兄様?」
 ロモズ歩兵団での最初の任務を受けた遊兵9番隊長シルヴィアは、そこでまさかの再会を果たした。
 遊兵4番隊長に就任したロイの祝いの為に駆けつけたテスであった。
「え……まさか、シルヴィ?」
 テスは驚きを隠せない。それはシルヴィアも同じであった。
「見違えたよ……愛らしい花に成長するかと思ったら、こんなにも凛々しく……流石、アルとディヴィの系譜だね。本当に、嬉しいよ」
 感動すら覚えるテス。
 と、そこへ村道の向こうから近づいて来るロイの姿が見えた。
「ロイは、もう知ってるの?」
「それがまだ……」
 苦笑を返すシルヴィア。
 ならば、どっきりを仕掛けよう――ふたりは悪戯っぽく笑った。

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