恋語らう友と
キャラクターノベル(グループ)制作 小緑 一滴納品 2022年01月13日 12時36分51秒
上等な既製服を扱う洒落た服飾品店は、華やかな空気で満ちていた。
人の体に寄り添い、より美しく彩るためにと作り出された衣装達の密やかな息吹。
布地を手に取り、姿見の前であてがってみせる客達の語らい。
店内で取り分け目を引くのが白く長い髪が印象的な二人組の女性客だ。和やかに買い物を楽しんでいるだけなのだが、まとう雰囲気や存在感が際立っている。
シルヴィア・A・カペルの手には大切な友のために選んだ服が二着。
侯爵令嬢が店に出向いて買い物というのは珍しいが、冒険者でもあるシルヴィアは柔軟だ。友達との楽しい一時には、商人を呼びつけるより店を回る方が良い。
「ネーヴェは淑やかな人だ。可愛い服も上品な服も似合うと思う」
「ふふ。そんな……照れてしまいますわ」
白い髪からエルフの長い耳をのぞかせるネーヴェ・グラヌローザが、はにかみながら微笑む。
シルヴィアがネーヴェに見せたのは冬らしいコート。リボンを取り入れたデザインのフレアワンピース型のコートは、大人っぽくも可愛らしい。もう一着はドレスのように丈が長く、細身でエレガントな印象だ。
「両方とも着た時のシルエットにこだわって選んでみたんだ」
「どちらも素敵ですわ。迷ってしまいますわね」
どの色にするのかも楽しい悩みの種だった。手持ちの服は青や白系統が多い。実際、ネーヴェによく似合っている色だ。ただそれ以外の色味の服をワードローブに加えれば、お洒落の幅が広がる気もしている。
「自分らしさは大切にしたいよね」
シルヴィアは朗らかに頷いた。
「好きな色や、よく着る服に似合う色を選ぶのはどうかな? 別の色を取り入れながらネーヴェらしさを表せると思うよ」
「灰色のコートなら私の服とも馴染むでしょうね。淡い茶色も柔らかな雰囲気にまとめてくれそうですわ」
ネーヴェの視線がチラリと別の色のコートに向く。
「……黒に包まれるのも、温かで幸せな気持ちになれそうですわ」
「シルヴィアさんは凛とした佇まいが美しくていらっしゃいますよね」
リーンエス王国の彩。蒼玉の麗人。貴族の間でシルヴィアはそう称される。単に容姿が整っているというだけではなく、その所作や精神面での美しさ。そういったものが「凛とした佇まい」として表れていた。
「お体のラインを魅力的に演出するお洋服が、きっとお似合いですわ」
肌は出さず上品にシルヴィアのスタイルの良さを表現できる服はないか、ネーヴェは探した。
滑らかな生地のギャザー入りブラウス。ピシッとした袖口が、ふわりとしたブラウスに程良い緊張感を与えている。
合わせるのはタイトスカート。
「足さばきの良いスリットが入ったものと、マーメイドスカートでしたら、どちらがシルヴィアさんのお好みですかしら?」
「上質で動きやすい服に惹かれるね。でもマーメイドも印象的だよね。気になるな」
シルヴィアもネーヴェも服飾への美意識が高い。そんな二人の会話はキャッキャと弾んだ。
「そうですわ。男装などもいかがでしょう」
「実に良いね! ネーヴェが見立ててくれた服を着てみたいな」
黒のショートテールコートに白いズボン、帽子や手袋といった小物も選んでいく。
服自体は一見シンプル。だが生地や縫製の技術はハイレベルだ。シルヴィアが放つ華やかさも相まって、見る人が見ればハッと息をのむ出で立ちになっている。
「優雅な乗馬服のイメージで揃えてみましたわ」
「うん。嬉しいよ。ありがとう、ネーヴェ」
試着室から出てきたシルヴィアの麗しの男装姿に、店内の女性客からも黄色い歓声が上がる。若い娘達の無邪気な好意にシルヴィアも王子様風に手を振って応えた。
●
試着と買い物を楽しんだ後は、茶葉と焼き菓子の香りに引き寄せられて小さなカフェに。落ち着いた雰囲気で、まるでこのカフェだけは永遠に午後のお茶の時間が流れているような。そんな空想が自然に思い浮かんでしまう空間だった。
シルヴィアの前には香り高いバラの紅茶とアップルパイが並べられ、ネーヴェはミルクティーと一口サイズの焼き菓子の盛り合わせに目を輝かせる。
想い人へ甘く切ない気持ちを抱くシルヴィアと、付き合って半年の恋人がいるネーヴェの話題は、次第に恋の話へと移っていく。
「うふふ。それで、どこがお好きなんですの?」
微笑んで問いかける舞姫の友。青薔薇の姫は可愛げに照れた後、彼を思いながらゆっくりと答えた。
「あの眼差しで見つめられると私は弱くてね。心が波立つように震えるんだ。瞳には人それぞれの本性や魂みたいなものが表れやすいけど、ノイアンの青の双眸は私を特別な気持ちにさせるんだよ」
穏やかな幸せとほんの少しの切なさが、シルヴィアの笑みににじんでいた。
「君の話も聞きたいな」
「……内緒、ですよ?」
相手の瞳が特に好き、という意見にはネーヴェも大いに賛同できる。小さな声で思いを語る。
「声も好きですが一番を挙げるなら目元のささやかな表情ですわ。ふとした瞬間にキーゼさんの目元が緩むことがあって、それを見るとなんだかたまらなく満足な気持ちになりますの」
「そうなんだね。そういう姿が見られるのは二人で出かけた時とかかな? これまで色々出かける機会はあったと思うけど、ネーヴェはどんなデートが理想なのかな?」
「海辺の魚獲りというのも私は楽しいのですけれど……。やはり愛しい人と部屋でまったりと過ごす時間はかけがえのないものですわ。本を読んだり戯れあったりして……」
「気取らない日常の一時を共有するデートも素敵だよね。私はノイアンに料理を教えてもらいたいな。彼は料理上手だからね」
実はシルヴィア、料理が不慣れである。
「それはお家で?」
「ん……。さて、どうかな?」
ティーカップを手に取り飄々と受け流したものの、シルヴィアの頬はほのかに染まっていた。
「ねえ。思わずときめいてしまったエピソードはある?」
悪戯っぽい微笑みで、ネーヴェはこっそりとっておきの話を披露した。
「お風呂で背中を流した時に……。私とは違う広く逞しい殿方の背中を意識して、恋人とはいえ動揺してしまいましたわ」
「恋人だからドキッとしたんじゃないかな?」
恥じらいつつ打ち明けたネーヴェの顔は、なんだかんだで嬉しそうで。シルヴィアは優しき友人とその恋人の末永い幸せを願った。
「動揺と言えば、私もネーヴェに相談したいことがあってね」
「お聞きしますわ」
大切なものを扱う手つきで、シルヴィアは一枚のハンカチを懐から取り出した。刺繍が施されている。
「彼から贈られたものなのだけれど」
「これは……白詰草の四葉と花ですわね」
四葉のクローバー。花言葉は「幸運」「約束」。
そして――。
「私のものになって」
深い想いを込めてシルヴィアがつぶやく。
「まあっ、それなら!」
祝福の声を上げたネーヴェに対し、シルヴィアは慎重な態度だ。
「ただ……。向こうが特別な意味を込めていなかった、という可能性もあるし」
ネガティブな考えを膨らませるシルヴィアの手をそっとネーヴェがとった。
「贈り物の白詰草の刺繍を見た時、シルヴィアさんはどんな気持ちでしたの? それがきっと答えなのですわ」
「あの時、私は……」
自分が抱いた想いを振り返る。
「……うん。ありがとう、ネーヴェ」
それが答えだと背を押してくれた友に、晴れやかな笑みを向ける。シルヴィアの双眸は澄み渡る青天の彩だった。
人の体に寄り添い、より美しく彩るためにと作り出された衣装達の密やかな息吹。
布地を手に取り、姿見の前であてがってみせる客達の語らい。
店内で取り分け目を引くのが白く長い髪が印象的な二人組の女性客だ。和やかに買い物を楽しんでいるだけなのだが、まとう雰囲気や存在感が際立っている。
シルヴィア・A・カペルの手には大切な友のために選んだ服が二着。
侯爵令嬢が店に出向いて買い物というのは珍しいが、冒険者でもあるシルヴィアは柔軟だ。友達との楽しい一時には、商人を呼びつけるより店を回る方が良い。
「ネーヴェは淑やかな人だ。可愛い服も上品な服も似合うと思う」
「ふふ。そんな……照れてしまいますわ」
白い髪からエルフの長い耳をのぞかせるネーヴェ・グラヌローザが、はにかみながら微笑む。
シルヴィアがネーヴェに見せたのは冬らしいコート。リボンを取り入れたデザインのフレアワンピース型のコートは、大人っぽくも可愛らしい。もう一着はドレスのように丈が長く、細身でエレガントな印象だ。
「両方とも着た時のシルエットにこだわって選んでみたんだ」
「どちらも素敵ですわ。迷ってしまいますわね」
どの色にするのかも楽しい悩みの種だった。手持ちの服は青や白系統が多い。実際、ネーヴェによく似合っている色だ。ただそれ以外の色味の服をワードローブに加えれば、お洒落の幅が広がる気もしている。
「自分らしさは大切にしたいよね」
シルヴィアは朗らかに頷いた。
「好きな色や、よく着る服に似合う色を選ぶのはどうかな? 別の色を取り入れながらネーヴェらしさを表せると思うよ」
「灰色のコートなら私の服とも馴染むでしょうね。淡い茶色も柔らかな雰囲気にまとめてくれそうですわ」
ネーヴェの視線がチラリと別の色のコートに向く。
「……黒に包まれるのも、温かで幸せな気持ちになれそうですわ」
「シルヴィアさんは凛とした佇まいが美しくていらっしゃいますよね」
リーンエス王国の彩。蒼玉の麗人。貴族の間でシルヴィアはそう称される。単に容姿が整っているというだけではなく、その所作や精神面での美しさ。そういったものが「凛とした佇まい」として表れていた。
「お体のラインを魅力的に演出するお洋服が、きっとお似合いですわ」
肌は出さず上品にシルヴィアのスタイルの良さを表現できる服はないか、ネーヴェは探した。
滑らかな生地のギャザー入りブラウス。ピシッとした袖口が、ふわりとしたブラウスに程良い緊張感を与えている。
合わせるのはタイトスカート。
「足さばきの良いスリットが入ったものと、マーメイドスカートでしたら、どちらがシルヴィアさんのお好みですかしら?」
「上質で動きやすい服に惹かれるね。でもマーメイドも印象的だよね。気になるな」
シルヴィアもネーヴェも服飾への美意識が高い。そんな二人の会話はキャッキャと弾んだ。
「そうですわ。男装などもいかがでしょう」
「実に良いね! ネーヴェが見立ててくれた服を着てみたいな」
黒のショートテールコートに白いズボン、帽子や手袋といった小物も選んでいく。
服自体は一見シンプル。だが生地や縫製の技術はハイレベルだ。シルヴィアが放つ華やかさも相まって、見る人が見ればハッと息をのむ出で立ちになっている。
「優雅な乗馬服のイメージで揃えてみましたわ」
「うん。嬉しいよ。ありがとう、ネーヴェ」
試着室から出てきたシルヴィアの麗しの男装姿に、店内の女性客からも黄色い歓声が上がる。若い娘達の無邪気な好意にシルヴィアも王子様風に手を振って応えた。
●
試着と買い物を楽しんだ後は、茶葉と焼き菓子の香りに引き寄せられて小さなカフェに。落ち着いた雰囲気で、まるでこのカフェだけは永遠に午後のお茶の時間が流れているような。そんな空想が自然に思い浮かんでしまう空間だった。
シルヴィアの前には香り高いバラの紅茶とアップルパイが並べられ、ネーヴェはミルクティーと一口サイズの焼き菓子の盛り合わせに目を輝かせる。
想い人へ甘く切ない気持ちを抱くシルヴィアと、付き合って半年の恋人がいるネーヴェの話題は、次第に恋の話へと移っていく。
「うふふ。それで、どこがお好きなんですの?」
微笑んで問いかける舞姫の友。青薔薇の姫は可愛げに照れた後、彼を思いながらゆっくりと答えた。
「あの眼差しで見つめられると私は弱くてね。心が波立つように震えるんだ。瞳には人それぞれの本性や魂みたいなものが表れやすいけど、ノイアンの青の双眸は私を特別な気持ちにさせるんだよ」
穏やかな幸せとほんの少しの切なさが、シルヴィアの笑みににじんでいた。
「君の話も聞きたいな」
「……内緒、ですよ?」
相手の瞳が特に好き、という意見にはネーヴェも大いに賛同できる。小さな声で思いを語る。
「声も好きですが一番を挙げるなら目元のささやかな表情ですわ。ふとした瞬間にキーゼさんの目元が緩むことがあって、それを見るとなんだかたまらなく満足な気持ちになりますの」
「そうなんだね。そういう姿が見られるのは二人で出かけた時とかかな? これまで色々出かける機会はあったと思うけど、ネーヴェはどんなデートが理想なのかな?」
「海辺の魚獲りというのも私は楽しいのですけれど……。やはり愛しい人と部屋でまったりと過ごす時間はかけがえのないものですわ。本を読んだり戯れあったりして……」
「気取らない日常の一時を共有するデートも素敵だよね。私はノイアンに料理を教えてもらいたいな。彼は料理上手だからね」
実はシルヴィア、料理が不慣れである。
「それはお家で?」
「ん……。さて、どうかな?」
ティーカップを手に取り飄々と受け流したものの、シルヴィアの頬はほのかに染まっていた。
「ねえ。思わずときめいてしまったエピソードはある?」
悪戯っぽい微笑みで、ネーヴェはこっそりとっておきの話を披露した。
「お風呂で背中を流した時に……。私とは違う広く逞しい殿方の背中を意識して、恋人とはいえ動揺してしまいましたわ」
「恋人だからドキッとしたんじゃないかな?」
恥じらいつつ打ち明けたネーヴェの顔は、なんだかんだで嬉しそうで。シルヴィアは優しき友人とその恋人の末永い幸せを願った。
「動揺と言えば、私もネーヴェに相談したいことがあってね」
「お聞きしますわ」
大切なものを扱う手つきで、シルヴィアは一枚のハンカチを懐から取り出した。刺繍が施されている。
「彼から贈られたものなのだけれど」
「これは……白詰草の四葉と花ですわね」
四葉のクローバー。花言葉は「幸運」「約束」。
そして――。
「私のものになって」
深い想いを込めてシルヴィアがつぶやく。
「まあっ、それなら!」
祝福の声を上げたネーヴェに対し、シルヴィアは慎重な態度だ。
「ただ……。向こうが特別な意味を込めていなかった、という可能性もあるし」
ネガティブな考えを膨らませるシルヴィアの手をそっとネーヴェがとった。
「贈り物の白詰草の刺繍を見た時、シルヴィアさんはどんな気持ちでしたの? それがきっと答えなのですわ」
「あの時、私は……」
自分が抱いた想いを振り返る。
「……うん。ありがとう、ネーヴェ」
それが答えだと背を押してくれた友に、晴れやかな笑みを向ける。シルヴィアの双眸は澄み渡る青天の彩だった。