リーベラの天秤 傾きは”右”に
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年12月09日 14時32分26秒
僕の名はローザリカ・L・ディオール。リーンエス王国伯爵ジェズアルド・L・ディオールが娘にして、此度の進行役を任された者だ。
今日、集まってくれた諸兄には感謝の意を表すと共に、我が領地ディオール領の素晴らしさを忖度なく伝えようと思う。
なに、長くなりはしないさ。長話など猫も食わないからね。そんな1Gの価値もない時間を多忙な諸兄らに強いるつもりはない。我らディオールの人間がそのような狭窄な者達だと思われても迷惑――――いや失礼。
では始めようか。我がディオールの話を――。
まずは諸兄らともっとも縁深くなるであろう『リベラ商会』の話からしていこう。
『リベラ商会』は我が領地で最も大きく最も権威ある商会であると同時に、ディオール家直属の商会であり、扱う物は多岐に及ぶ。
さて、諸兄らは我が商会に何を望むのだろうか。麦? 鉄? それとも『ヒト』か? 何にせよ、我が『リベラ商会』は諸兄らの欲望、渇望、願望、羨望――その全ての望みを満たして見せよう。もちろん、『品』に見合った『対価』を提供してくれるという前提で、だけどね。
……ははは、いやすまない。別に試すつもりはないんだ。
もちろん、ここまで豪語するには理由がある。
我らはこの要衝の地を押さえ、莫大な富を得てきた一族だ。この地にはなんでも集まる。モノだろうが、ヒトだろうが、全てだ。そして、それに価値を付ける『リベラ商会』こそが、この地の支配者だ。
――――うん、実に素晴らしい反応だ。それでこそ商人。歴戦の猛者たちだ。やはり、手を取る相手はこうでなくては。
さて、警戒感を抱く諸兄らも噂で聞いたことが――いや、聞いたからこそこの地に集ったのだと確信している。そう、『リベラ商会』の二つ名のことだ。
なに、身構える事はない。その汚名とも侮蔑ともとられる二つ名すらも許容して、我等は成り上がったんだ。そう『イカれた天秤』という二つ名をね。
一見無価値なものに莫大な金を出し買い占める。目に見えぬ「技術」「芸術」「知識」果ては「愛」にまで、誰も見向きもしない金など払う価値もない、そういうものにこそ我等は金を落とす。
金をドブに捨てていると何度揶揄された事か。『モノ』しか扱った事の無い商人からすればそうだろう。しかし、我々ディオールの人間からすれば、そう言う奴等こそが『商機』をドブに捨てている。まぁ、結局揶揄し侮蔑した商人達は、我らが全て喰らってやったのだけどね。
おっと、話が逸れたね。すまない。
それでは早速商談を――――と言いたい所だが、初めてこの地を踏んだ諸兄らにはまだまだ紹介しておきたいものがあるんだ。金と同等の価値のある諸兄らの貴重な時間を浪費させてすまないが、これだけは外せないのでね。
では、この地『ディオール領』について聞いてくれ――。
先程、要衝の話が出たと思うが、この『リベラ商会』が何故ここまで大きく強くなったのか。その理由は一重にディオール領の立地にある。
王国が東方、同盟領に近しい場所に領地を構えるディオール領は必然的に王国=同盟間の交通の要衝となった。
道が通れば人が集まる。人が集まればモノが集まる。そしてそれらは金を生む。
特別目立った産業や産出物が無かった我等には『道』があった。そして、その『道』を活用するだけの知恵があった。それこそがディオール領の強みであり、礎なのだ。
もちろんそれを統括するディオール伯爵家に代々有能な当主が生まれたという事も大きい。代毎に多少の優劣はあるが、皆この地の利を知り、知恵を絞り、見事に活用して見せた。そのおかげで現在の繁栄があるという訳だな。
ああ、そうそう。後で紹介するが、次期当主である我が兄ヴィルジール・L・ディオールは、当家の歴史を見ても二人といない傑物だ。相手取るのであれば、全霊をもって挑まれることを推奨しておこう。
さて、最後になったが、我が領の名物も紹介しておかねばな。
我が領都『グラン・ディオ』には一年を通し多くの人々が行き交う。そして、人が交わればそこに店が立つ。『グラン・ディオ』を東西に貫く一番通り『朱金の並木道』には、数多くの店や露店が並んでいる事は諸兄らもご存知だろう。
『朱金』の葉に彩られた街並みに咲く商売の華。
各国から商人達が訪れ鎬を削るそこは、『グラン・ディオ』の胃袋にして、商売人達の戦場。
それがこの街の大動脈であり、繁栄の象徴。我が都最大の市『選ばれし紅薔薇』だ。
そして、この市で年に二回、夏と冬の終わりに行われる商大祭『天秤の抱擁』には、更に多数の人が詰め寄せる。
祭りの時期には『グラン・ディオ』にある10の大通り全てに露店が並び、それはもう圧巻の一言だ。
そして、この市で商人達はここぞとばかりに在庫を一斉処分する。観光客達もお目当ての品が格安で買えるとあって、財布の紐が役割を成さない程に緩むんだ。一年の稼ぎの殆どをこの市で賄っている商人もいる、と言えばその有用性を理解してもらえるのではないだろうか。
いずれは大陸一の商都と呼ばれる――――と豪語したい所だが、正直な所あの街の後塵を拝しているのが現状だ。やはり港の存在は大きいな。正直羨ましくあるよ。
さて――。
「性が出るね、ローザリカ」
と、商人達を前に熱弁を振るっていたローザリカの元へ、一人の青年が近づいてきた。
朱髪金瞳。ローザリカと同じ血を引いていると一目でわかるその青年の正体を、商人達はすぐに理解した。
そう、目の前に現れた笑顔が優し気な好青年こそ、次期当主ヴィルジール・L・ディオールその人であると。
商人達はローザリカの前から去ると、すぐに青年を囲う。
「兄様……今日はお父様のお仕事の手伝いがあると伺っていましたが」
「ああ、それはもう終わったよ」
「もう? まだ、昼も前ですが……」
商人達に囲まれる兄をじっと見つめ、ローザリカは問いかけた。
「急いで終わらせてきたんだ。歴戦の商人達を前に熱弁を振るうローザリカの姿を見たくてね」
ヴィルジールは自分を囲む商人達を掻き分け、最愛の妹の元へ歩み寄る。
「お恥ずかしい限りです。まだまだ、兄様の足元にも及びません」
「何を言うんだい。雄弁詭弁織り交ぜ語るユーモア。大の大人たちを相手に気後れするどころか飲み込む勢いを見せる不遜な態度。まさにディオールの名に相応しい立ち居振る舞いだったと、私は感動しているんだよ」
「……そんな、勿体ないお言葉です」
ヴィルジールは頭を下げるローザリカの肩に手をかけ、身を寄せた。
「ほら、商人達が見ているよ。背筋を伸ばすんだ。ディオールの人間が、例え身内であれ頭を下げてはいけない」
耳元で囁かれる言葉に、ローザリカはハッと顔を上げる。
「そう、それでいい」
そのままローザリカの背後に回ったヴィルジールは、妹の両肩に手を置き改めて商人達に向き合う。
「皆様、我が妹の語るディオール領はいかがでしたか? 少しでも興味を持っていただけたのであれば、私も鼻が高い。これの話は聞くに値する千金の語りであり、この様な才媛に恵まれた我がディオールはこの先百年安泰でありましょう。どうか、色よいお返事を期待しております」
仲睦まじげに微笑む兄妹を見て、表情を緩める商人達。
しかし、彼等はまだ本当のディオールを知らない。その笑顔の奥に潜む魔物の存在を――。
今日、集まってくれた諸兄には感謝の意を表すと共に、我が領地ディオール領の素晴らしさを忖度なく伝えようと思う。
なに、長くなりはしないさ。長話など猫も食わないからね。そんな1Gの価値もない時間を多忙な諸兄らに強いるつもりはない。我らディオールの人間がそのような狭窄な者達だと思われても迷惑――――いや失礼。
では始めようか。我がディオールの話を――。
まずは諸兄らともっとも縁深くなるであろう『リベラ商会』の話からしていこう。
『リベラ商会』は我が領地で最も大きく最も権威ある商会であると同時に、ディオール家直属の商会であり、扱う物は多岐に及ぶ。
さて、諸兄らは我が商会に何を望むのだろうか。麦? 鉄? それとも『ヒト』か? 何にせよ、我が『リベラ商会』は諸兄らの欲望、渇望、願望、羨望――その全ての望みを満たして見せよう。もちろん、『品』に見合った『対価』を提供してくれるという前提で、だけどね。
……ははは、いやすまない。別に試すつもりはないんだ。
もちろん、ここまで豪語するには理由がある。
我らはこの要衝の地を押さえ、莫大な富を得てきた一族だ。この地にはなんでも集まる。モノだろうが、ヒトだろうが、全てだ。そして、それに価値を付ける『リベラ商会』こそが、この地の支配者だ。
――――うん、実に素晴らしい反応だ。それでこそ商人。歴戦の猛者たちだ。やはり、手を取る相手はこうでなくては。
さて、警戒感を抱く諸兄らも噂で聞いたことが――いや、聞いたからこそこの地に集ったのだと確信している。そう、『リベラ商会』の二つ名のことだ。
なに、身構える事はない。その汚名とも侮蔑ともとられる二つ名すらも許容して、我等は成り上がったんだ。そう『イカれた天秤』という二つ名をね。
一見無価値なものに莫大な金を出し買い占める。目に見えぬ「技術」「芸術」「知識」果ては「愛」にまで、誰も見向きもしない金など払う価値もない、そういうものにこそ我等は金を落とす。
金をドブに捨てていると何度揶揄された事か。『モノ』しか扱った事の無い商人からすればそうだろう。しかし、我々ディオールの人間からすれば、そう言う奴等こそが『商機』をドブに捨てている。まぁ、結局揶揄し侮蔑した商人達は、我らが全て喰らってやったのだけどね。
おっと、話が逸れたね。すまない。
それでは早速商談を――――と言いたい所だが、初めてこの地を踏んだ諸兄らにはまだまだ紹介しておきたいものがあるんだ。金と同等の価値のある諸兄らの貴重な時間を浪費させてすまないが、これだけは外せないのでね。
では、この地『ディオール領』について聞いてくれ――。
先程、要衝の話が出たと思うが、この『リベラ商会』が何故ここまで大きく強くなったのか。その理由は一重にディオール領の立地にある。
王国が東方、同盟領に近しい場所に領地を構えるディオール領は必然的に王国=同盟間の交通の要衝となった。
道が通れば人が集まる。人が集まればモノが集まる。そしてそれらは金を生む。
特別目立った産業や産出物が無かった我等には『道』があった。そして、その『道』を活用するだけの知恵があった。それこそがディオール領の強みであり、礎なのだ。
もちろんそれを統括するディオール伯爵家に代々有能な当主が生まれたという事も大きい。代毎に多少の優劣はあるが、皆この地の利を知り、知恵を絞り、見事に活用して見せた。そのおかげで現在の繁栄があるという訳だな。
ああ、そうそう。後で紹介するが、次期当主である我が兄ヴィルジール・L・ディオールは、当家の歴史を見ても二人といない傑物だ。相手取るのであれば、全霊をもって挑まれることを推奨しておこう。
さて、最後になったが、我が領の名物も紹介しておかねばな。
我が領都『グラン・ディオ』には一年を通し多くの人々が行き交う。そして、人が交わればそこに店が立つ。『グラン・ディオ』を東西に貫く一番通り『朱金の並木道』には、数多くの店や露店が並んでいる事は諸兄らもご存知だろう。
『朱金』の葉に彩られた街並みに咲く商売の華。
各国から商人達が訪れ鎬を削るそこは、『グラン・ディオ』の胃袋にして、商売人達の戦場。
それがこの街の大動脈であり、繁栄の象徴。我が都最大の市『選ばれし紅薔薇』だ。
そして、この市で年に二回、夏と冬の終わりに行われる商大祭『天秤の抱擁』には、更に多数の人が詰め寄せる。
祭りの時期には『グラン・ディオ』にある10の大通り全てに露店が並び、それはもう圧巻の一言だ。
そして、この市で商人達はここぞとばかりに在庫を一斉処分する。観光客達もお目当ての品が格安で買えるとあって、財布の紐が役割を成さない程に緩むんだ。一年の稼ぎの殆どをこの市で賄っている商人もいる、と言えばその有用性を理解してもらえるのではないだろうか。
いずれは大陸一の商都と呼ばれる――――と豪語したい所だが、正直な所あの街の後塵を拝しているのが現状だ。やはり港の存在は大きいな。正直羨ましくあるよ。
さて――。
「性が出るね、ローザリカ」
と、商人達を前に熱弁を振るっていたローザリカの元へ、一人の青年が近づいてきた。
朱髪金瞳。ローザリカと同じ血を引いていると一目でわかるその青年の正体を、商人達はすぐに理解した。
そう、目の前に現れた笑顔が優し気な好青年こそ、次期当主ヴィルジール・L・ディオールその人であると。
商人達はローザリカの前から去ると、すぐに青年を囲う。
「兄様……今日はお父様のお仕事の手伝いがあると伺っていましたが」
「ああ、それはもう終わったよ」
「もう? まだ、昼も前ですが……」
商人達に囲まれる兄をじっと見つめ、ローザリカは問いかけた。
「急いで終わらせてきたんだ。歴戦の商人達を前に熱弁を振るうローザリカの姿を見たくてね」
ヴィルジールは自分を囲む商人達を掻き分け、最愛の妹の元へ歩み寄る。
「お恥ずかしい限りです。まだまだ、兄様の足元にも及びません」
「何を言うんだい。雄弁詭弁織り交ぜ語るユーモア。大の大人たちを相手に気後れするどころか飲み込む勢いを見せる不遜な態度。まさにディオールの名に相応しい立ち居振る舞いだったと、私は感動しているんだよ」
「……そんな、勿体ないお言葉です」
ヴィルジールは頭を下げるローザリカの肩に手をかけ、身を寄せた。
「ほら、商人達が見ているよ。背筋を伸ばすんだ。ディオールの人間が、例え身内であれ頭を下げてはいけない」
耳元で囁かれる言葉に、ローザリカはハッと顔を上げる。
「そう、それでいい」
そのままローザリカの背後に回ったヴィルジールは、妹の両肩に手を置き改めて商人達に向き合う。
「皆様、我が妹の語るディオール領はいかがでしたか? 少しでも興味を持っていただけたのであれば、私も鼻が高い。これの話は聞くに値する千金の語りであり、この様な才媛に恵まれた我がディオールはこの先百年安泰でありましょう。どうか、色よいお返事を期待しております」
仲睦まじげに微笑む兄妹を見て、表情を緩める商人達。
しかし、彼等はまだ本当のディオールを知らない。その笑顔の奥に潜む魔物の存在を――。