消えたひと、夢の先
キャラクターノベル制作 狐野径納品 2021年12月04日 13時31分07秒
●夢
――……ちゃん――。
――お姉ちゃん――。
ライナ・フレイヴァルツの耳に届くのは、妹であるアイナ・フレイヴァルツの声。
――こっちだよ! 早く、来て!
ライナは声の方に歩む。自然と、微笑む。
妹は誰とでも打ち解けられる優しく明るい性格。なお、ハイアイヴとの交信する能力が強く、次代の巫女だろうとされていた。
ライナはしっかり者の姉、と自他ともに認める。
姉妹の仲は良かった。
ライナはアイナの背中を見つけた。
足を止めたアイナは振り返る。
――ねぇ、お姉ちゃん、こっちに来て?
アイナはライナに手を伸ばす。
ライナは後ずさった。
アイナの形はしているけれども、すべて闇だった。
闇はうねうねと動き、ライナに絡みつく。
「アイナっ! うわぁああ!」
ライナは自分の絶叫で目を覚ました。
嫌な汗が流れる。
ベッドの横に立てかけてあるイノセントロッドを見る。
――……ちゃん。
――お姉ちゃん……。
声が聞こえる。
杖から、妹の。
ライナは深呼吸をした。夢と現実を分けるように。
それでも、杖から声は聞こえる。
「アイナ……何を伝えたいんだ?」
杖からの声は何を意味するのか?
幻聴か?
「私の後悔か? 何かあるのか?」
妹の声はだんだんとはっきりしてきている。
以前と変わらない妹の声が、あの日いなかったライナを責める、そう聞こえる。
フレイヴァルツ氏族が消えた日。ライナだけ残し。
一年以上経つが、手がかりはない。
時間が経つと手がかりも消えそうで、焦る。
あきらめたくはないし、できることはしていきたい。
先日、フレイヴァルツ氏族の里に冒険者ギルドの依頼で行った。
事件の真相はわからなかったが、仲間が「何かいた可能性」を挙げた。
しかし、それがどこから生じてどうしたかなどは不明。
その中でも変わらず輝く霊木は謎の一つにもなる。
依頼の際に、ライナは霊木や精霊と接触した。
意識が暗転したため明確なことはわからないが、何かがあったのだろうという感触はあった。
そして、今回、夢を見た。
ただの夢か、それとも、違うのか。
相変わらず杖から声は聞こえる。
ライナはフィルエス大森林にある故郷に足を向けた。
●思い出
大森林の中を歩く。
何度か通った道。
危険はよほどではないけれども、用心は怠れない。
それでも、思考を巡らせる余裕はある。
思い出すのは、里で平穏に暮らしていた自分のこと。
今思えば、ライナ自身、おっとりした性格だった。
里は霊木があるだけでなく、族長も大人もいる。
守られているという実感があるからこそ。
そのようなか、ライナの持つ責任感も正義感も、はぐくまれていくはずだった。
あの事件は、ライナを何も庇護のない場に突き落とした。
それでも、真っ直ぐ生きてこられたのは、里の人、特に族長や妹に対する心があったからかもしれない。
過去と今の自分、里の人を思いつぶやく。
「族長……アイナ……そういえば、あれから色々見たり聞いたりしたな……」
あの頃の自分は全く想像しなかった世界を見てきたことになると感じた。
エルフが閉鎖的とはいえ、ライナの住んでいた里に外の人がこないわけでもなかった。
森との付き合いがあるリザードマンや行商人などふらりと立ち寄ることがある。
そういう人と話すことで世界の広さを知ることになる。
アイナはそういう人たちとも打ち解けていた。
「アイナに会えるなら、話をしたいな」
むしろ、一緒に旅をしてもいい。
そんななか、ある出来事を思い出した。
「お姉ちゃん! 聞いた?」
アイナは、魔法の勉強をしていたライナのもとに走りこんできた。
ライナは「何を?」と問う。
「近くの里の木が、いろいろな色で点滅するんだって!」
「え?」
詳細を聞くと、行商人が言うには、冬の時期になると、様々な色で点滅する木が生じるというのだ。
「……それは見てみたいな」
「うん。でも、どの里か教えてくれなかったんだよ」
ライナは一瞬、騙されたのかもと思ったが、
「魔術なのか?」
と、いう考えが浮かんだ。
アイナは「わからないね。でも、見てみたいな」と笑う。
「きっと、きれいだよね」
「そうだな。今度、他の人にも聞いてみればいい」
「そうだね」
世界は広いのだから、そういうこともあるかもしれない。
色々なことを思い出しながら、歩いているうちに里に到着した。
日が落ちて暗い中、霊木の光は目を引いた。
光に引きよせられるように、ライナは歩んだ。
●風の声
霊木を見ていると心が安らぐ。
一方で、悲しみや後悔なども生じる。
霊木や精霊は何を見たのだろうか。
接触を試みたときは恐怖を覚える苛烈さがあった。
あれが意味するのは、守る行為か、それとも変質したのか?
「……アイナ……私は……」
イノセントロッドから声は聞こえる。
儀式とかかわる何かは族長だけは口伝で何か知っていたかもしれない。
手がかりは霊木と儀式。
「儀式は巫女がいないからできない。しかし、儀式に必要なものはそろえることができる」
霊木や精霊に接するにしても、儀式にかかわる物は意味があるものだ。
だから、手順を踏み、やってみる。
何もしないで後悔はしたくはない。
儀式に必要なものは魔法で集める。そこから、加工を施す。
教わったフレイヴァルツ秘伝の木工の技法は身についている。
氏族とのつながりの一つでもある。
加工しながら思い出すのは、魔法の師匠たる族長が話す言葉だった。
「いいか、風は我々に伝え、我々は風で伝える。風はすべてにつながっていく」
風の術を中心に、族長は根幹となる部分を教えていく。
言葉で教わっても、そのあとは、本人次第だという。
必要なのは、風なら風に対する思い。
集中し身をゆだね、ためた力を開放する。
言い方を変えると、集中することで、扱う風の声を聴く。
解放することで、意識を解き放ち、風を招く。
そして、風はめぐる。
「まぁ、精霊はいるのだけれども、声があるかはわからぬ。私にはそれが声だと思っても、別の人には聞こえぬからな。手順も必要だし、それで気持ちが入る」
族長は魔法について語る。
さらに、儀式のことも言っていた。
「儀式も似ているな。行うことで伝わるものがあり、伝えるものがある。手順を踏むことで、気持ちも高まる」
「伝わるもの?」
漠然としていたため、ライナは質問した。
族長は「いうつもりはなかったが」と苦笑する。
「いずれ、私の跡を継ぐかもしれないライナには教えてもいいのかもしれないな」
「え? 私が」
「責任感と正義感……それを、うまく磨いてほしいと思う。強すぎてもダメだし、弱すぎても難しい」
「……難しいこと言いますね」
「ふふっ、そうだな。少しずつ学べばよいよ」
その時のライナは、誇らしいと同時にくすぐったさを覚えた。
族長になれるかどうかは別として、族長からは学んでいきたいと考えた。
しかし、それはできない。
「……夜に儀式をするのは源流とする『リシルド』が関連するとか言っていたな……」
細かいことは教わった記憶がない。
大森林に暮らすエルフの源流の五つの氏族の一つが夜天だとはわかっても、調べようがなかった。
そして、道具は完成した。
●何かの
霊木の前に、道具を順番通り並べる。
儀式を取り仕切るための衣装をまとう。
ライナは空を見上げ、霊木に向き合う。
深呼吸の後、イノセントロッドを捧げる。
妹につながるならば、ここだ。
あの日、何かあって、逃げるようとしたのだろうか?
それが何かわからない。
「アイナ……アイナ……お姉ちゃんは、ここだよ」
霊木を通じ、妹に声を届けようとする。
――……ちゃん。
――お姉ちゃん……。
声がはっきりする。
そこに、今、妹がいるような気がした。
顔を上げたくなるけれども、祈りに集中する。
ザァアアアアアア。
ザァアアアアアアアアアアアアアアア。
風が強くなる。
霊木が揺れる。
集落全体の木ざわめく。
ライナはじっと祈る。
声を聴き、同調するように。
風は強くなる。
吹き飛ばされるのではないかというほど強くなる。
人のような声が混じる。
絶叫、怒り、笑い、怨嗟、恨み……恐怖――。
感情と様子は伝わるが、言葉はわからない。
風はライナと霊木を取り巻くように集まる。
つむじ風となり、包み込む。
その範囲は縮まり、呼吸が苦しくなる。
ライナは目を開いた。
つむじ風の中は真っ暗な闇。
霊木の光などない。
それにも関わらず、人の気配がある。
――……ちゃん。
――……ナ。
声がする。
妹の声。
族長の声。
氏族の人々の声。
ライナは足に、腕に、腰に、首にまとわりつく闇に気づいた。
「私を連れていくのか?」
ライナは涙がこぼれる。
安堵していた。
「私も、連れて行ってくれるのか?」
いなかった自分を責めず、許してくれるのだろうか?
これで後悔も終わる――。
――いいの? 本当に? それで?
アイナが問う、心配するように。
杖から聞こえていた無邪気に明るい声ではなかった。
ライナは冷水を浴びせかけられたようだった。
次々に自問がわく。
何かわからないものに身をゆだねていいのか?
何もわからないまま終わってもいいのか?
アイナや族長に胸を張って会えるか?
「行きたい! でも、生きたい! 救えたかもしれない後悔もある、でもっ!」
――何もわからないまま死ぬことはできない。
心の底から叫んだ。
光が差し込み、霊木の根に闇が引きずり込まれるように消える。
『お姉ちゃん、ありがとう』
アイナが立っていた、光が戻った霊木の前に。
姿がはっきりと見える。
「アイナ」
ライナは手を伸ばしたが、アイナは両手で「バイバイ」と振り、霊木の光に消えた。
朝日が差し込む。
霊木の前にライナはいた。
「あれは……? 夢、現実?」
イノセントロッドは、ぬくもりを伝えるのみだった。
――……ちゃん――。
――お姉ちゃん――。
ライナ・フレイヴァルツの耳に届くのは、妹であるアイナ・フレイヴァルツの声。
――こっちだよ! 早く、来て!
ライナは声の方に歩む。自然と、微笑む。
妹は誰とでも打ち解けられる優しく明るい性格。なお、ハイアイヴとの交信する能力が強く、次代の巫女だろうとされていた。
ライナはしっかり者の姉、と自他ともに認める。
姉妹の仲は良かった。
ライナはアイナの背中を見つけた。
足を止めたアイナは振り返る。
――ねぇ、お姉ちゃん、こっちに来て?
アイナはライナに手を伸ばす。
ライナは後ずさった。
アイナの形はしているけれども、すべて闇だった。
闇はうねうねと動き、ライナに絡みつく。
「アイナっ! うわぁああ!」
ライナは自分の絶叫で目を覚ました。
嫌な汗が流れる。
ベッドの横に立てかけてあるイノセントロッドを見る。
――……ちゃん。
――お姉ちゃん……。
声が聞こえる。
杖から、妹の。
ライナは深呼吸をした。夢と現実を分けるように。
それでも、杖から声は聞こえる。
「アイナ……何を伝えたいんだ?」
杖からの声は何を意味するのか?
幻聴か?
「私の後悔か? 何かあるのか?」
妹の声はだんだんとはっきりしてきている。
以前と変わらない妹の声が、あの日いなかったライナを責める、そう聞こえる。
フレイヴァルツ氏族が消えた日。ライナだけ残し。
一年以上経つが、手がかりはない。
時間が経つと手がかりも消えそうで、焦る。
あきらめたくはないし、できることはしていきたい。
先日、フレイヴァルツ氏族の里に冒険者ギルドの依頼で行った。
事件の真相はわからなかったが、仲間が「何かいた可能性」を挙げた。
しかし、それがどこから生じてどうしたかなどは不明。
その中でも変わらず輝く霊木は謎の一つにもなる。
依頼の際に、ライナは霊木や精霊と接触した。
意識が暗転したため明確なことはわからないが、何かがあったのだろうという感触はあった。
そして、今回、夢を見た。
ただの夢か、それとも、違うのか。
相変わらず杖から声は聞こえる。
ライナはフィルエス大森林にある故郷に足を向けた。
●思い出
大森林の中を歩く。
何度か通った道。
危険はよほどではないけれども、用心は怠れない。
それでも、思考を巡らせる余裕はある。
思い出すのは、里で平穏に暮らしていた自分のこと。
今思えば、ライナ自身、おっとりした性格だった。
里は霊木があるだけでなく、族長も大人もいる。
守られているという実感があるからこそ。
そのようなか、ライナの持つ責任感も正義感も、はぐくまれていくはずだった。
あの事件は、ライナを何も庇護のない場に突き落とした。
それでも、真っ直ぐ生きてこられたのは、里の人、特に族長や妹に対する心があったからかもしれない。
過去と今の自分、里の人を思いつぶやく。
「族長……アイナ……そういえば、あれから色々見たり聞いたりしたな……」
あの頃の自分は全く想像しなかった世界を見てきたことになると感じた。
エルフが閉鎖的とはいえ、ライナの住んでいた里に外の人がこないわけでもなかった。
森との付き合いがあるリザードマンや行商人などふらりと立ち寄ることがある。
そういう人と話すことで世界の広さを知ることになる。
アイナはそういう人たちとも打ち解けていた。
「アイナに会えるなら、話をしたいな」
むしろ、一緒に旅をしてもいい。
そんななか、ある出来事を思い出した。
「お姉ちゃん! 聞いた?」
アイナは、魔法の勉強をしていたライナのもとに走りこんできた。
ライナは「何を?」と問う。
「近くの里の木が、いろいろな色で点滅するんだって!」
「え?」
詳細を聞くと、行商人が言うには、冬の時期になると、様々な色で点滅する木が生じるというのだ。
「……それは見てみたいな」
「うん。でも、どの里か教えてくれなかったんだよ」
ライナは一瞬、騙されたのかもと思ったが、
「魔術なのか?」
と、いう考えが浮かんだ。
アイナは「わからないね。でも、見てみたいな」と笑う。
「きっと、きれいだよね」
「そうだな。今度、他の人にも聞いてみればいい」
「そうだね」
世界は広いのだから、そういうこともあるかもしれない。
色々なことを思い出しながら、歩いているうちに里に到着した。
日が落ちて暗い中、霊木の光は目を引いた。
光に引きよせられるように、ライナは歩んだ。
●風の声
霊木を見ていると心が安らぐ。
一方で、悲しみや後悔なども生じる。
霊木や精霊は何を見たのだろうか。
接触を試みたときは恐怖を覚える苛烈さがあった。
あれが意味するのは、守る行為か、それとも変質したのか?
「……アイナ……私は……」
イノセントロッドから声は聞こえる。
儀式とかかわる何かは族長だけは口伝で何か知っていたかもしれない。
手がかりは霊木と儀式。
「儀式は巫女がいないからできない。しかし、儀式に必要なものはそろえることができる」
霊木や精霊に接するにしても、儀式にかかわる物は意味があるものだ。
だから、手順を踏み、やってみる。
何もしないで後悔はしたくはない。
儀式に必要なものは魔法で集める。そこから、加工を施す。
教わったフレイヴァルツ秘伝の木工の技法は身についている。
氏族とのつながりの一つでもある。
加工しながら思い出すのは、魔法の師匠たる族長が話す言葉だった。
「いいか、風は我々に伝え、我々は風で伝える。風はすべてにつながっていく」
風の術を中心に、族長は根幹となる部分を教えていく。
言葉で教わっても、そのあとは、本人次第だという。
必要なのは、風なら風に対する思い。
集中し身をゆだね、ためた力を開放する。
言い方を変えると、集中することで、扱う風の声を聴く。
解放することで、意識を解き放ち、風を招く。
そして、風はめぐる。
「まぁ、精霊はいるのだけれども、声があるかはわからぬ。私にはそれが声だと思っても、別の人には聞こえぬからな。手順も必要だし、それで気持ちが入る」
族長は魔法について語る。
さらに、儀式のことも言っていた。
「儀式も似ているな。行うことで伝わるものがあり、伝えるものがある。手順を踏むことで、気持ちも高まる」
「伝わるもの?」
漠然としていたため、ライナは質問した。
族長は「いうつもりはなかったが」と苦笑する。
「いずれ、私の跡を継ぐかもしれないライナには教えてもいいのかもしれないな」
「え? 私が」
「責任感と正義感……それを、うまく磨いてほしいと思う。強すぎてもダメだし、弱すぎても難しい」
「……難しいこと言いますね」
「ふふっ、そうだな。少しずつ学べばよいよ」
その時のライナは、誇らしいと同時にくすぐったさを覚えた。
族長になれるかどうかは別として、族長からは学んでいきたいと考えた。
しかし、それはできない。
「……夜に儀式をするのは源流とする『リシルド』が関連するとか言っていたな……」
細かいことは教わった記憶がない。
大森林に暮らすエルフの源流の五つの氏族の一つが夜天だとはわかっても、調べようがなかった。
そして、道具は完成した。
●何かの
霊木の前に、道具を順番通り並べる。
儀式を取り仕切るための衣装をまとう。
ライナは空を見上げ、霊木に向き合う。
深呼吸の後、イノセントロッドを捧げる。
妹につながるならば、ここだ。
あの日、何かあって、逃げるようとしたのだろうか?
それが何かわからない。
「アイナ……アイナ……お姉ちゃんは、ここだよ」
霊木を通じ、妹に声を届けようとする。
――……ちゃん。
――お姉ちゃん……。
声がはっきりする。
そこに、今、妹がいるような気がした。
顔を上げたくなるけれども、祈りに集中する。
ザァアアアアアア。
ザァアアアアアアアアアアアアアアア。
風が強くなる。
霊木が揺れる。
集落全体の木ざわめく。
ライナはじっと祈る。
声を聴き、同調するように。
風は強くなる。
吹き飛ばされるのではないかというほど強くなる。
人のような声が混じる。
絶叫、怒り、笑い、怨嗟、恨み……恐怖――。
感情と様子は伝わるが、言葉はわからない。
風はライナと霊木を取り巻くように集まる。
つむじ風となり、包み込む。
その範囲は縮まり、呼吸が苦しくなる。
ライナは目を開いた。
つむじ風の中は真っ暗な闇。
霊木の光などない。
それにも関わらず、人の気配がある。
――……ちゃん。
――……ナ。
声がする。
妹の声。
族長の声。
氏族の人々の声。
ライナは足に、腕に、腰に、首にまとわりつく闇に気づいた。
「私を連れていくのか?」
ライナは涙がこぼれる。
安堵していた。
「私も、連れて行ってくれるのか?」
いなかった自分を責めず、許してくれるのだろうか?
これで後悔も終わる――。
――いいの? 本当に? それで?
アイナが問う、心配するように。
杖から聞こえていた無邪気に明るい声ではなかった。
ライナは冷水を浴びせかけられたようだった。
次々に自問がわく。
何かわからないものに身をゆだねていいのか?
何もわからないまま終わってもいいのか?
アイナや族長に胸を張って会えるか?
「行きたい! でも、生きたい! 救えたかもしれない後悔もある、でもっ!」
――何もわからないまま死ぬことはできない。
心の底から叫んだ。
光が差し込み、霊木の根に闇が引きずり込まれるように消える。
『お姉ちゃん、ありがとう』
アイナが立っていた、光が戻った霊木の前に。
姿がはっきりと見える。
「アイナ」
ライナは手を伸ばしたが、アイナは両手で「バイバイ」と振り、霊木の光に消えた。
朝日が差し込む。
霊木の前にライナはいた。
「あれは……? 夢、現実?」
イノセントロッドは、ぬくもりを伝えるのみだった。