奇跡の手がかり
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年12月02日 19時12分29秒
大陸が夏から秋へと移り変わろうかという9月も末。
サウゼル大樹海の懐に抱かれたゴールディに、とある農夫と医者が訪れていた。
「発芽したのか」
「ええ、思っていた以上の成長です。やはりこの地を選定したのは正解でしたね」
畝から力強く伸びる芽を見て、フェイサル・セイフは驚き、ハリス・アル・ターミルは目を細める。
「あの砂岩地帯の植物がここで発芽するとは……気候も植生も違う異国だというのに、流石はハリスだな」
「はは、私の力ではありませんよ。全てこの地の土の力のおかげです。これを見てください」
と、土に塗れていたハリスが指ほども太いミミズを摘まみ上げて笑顔を作った。
「丸々と太ったミミズだな。これは確かに栄養が豊富な証拠だ」
王国の子女が見たら一発で卒倒しそうなそれを見ても、フェイサルは動じない。
そもそも、ミミズは立派な『薬』だ。フェイサルは慣れ親しんだ『素材』に目を細めた。
「それで、育つのにはどれくらいかかりそうだ」
「そうですね。フェイサル殿から伺った栽培方法で行けば三カ月~四カ月といったところでしょうか」
彼等がわざわざゴールディに持ち込んで栽培しているのは、とある香草の一種。
現地では香辛料として料理に使われたり、ハーブティにされたりする植物だった。
冒険者稼業の傍ら各地で見つけた珍しい植物の栽培を試みていた二人。今回はフェイサルがシグモル火山帯で見つけた種子を試していた。
現地ではありふれたものなのだが、この香草は摘んだ先から急速に劣化を始めるので、消費は現地のみに限られるらしい。
「ふむ……異国であるここでは、もう少し時間がかかるか」
「いえ、逆です。土に力がありますからね。早ければ二カ月で収穫できるかもしれません」
「そんなに早くか。流石はハリスだな」
「はは、私の力ではありませんよ。全てはこの大地の恵みです」
感心するフェイサルに、ハリスは照れたように笑う。
「そう言うが、原生地と違う環境下では発芽させることも難しいだろう。それをあっさりとやってのけるのは流石ターミル族。いや、ハリスの腕のなせる技だと私は思うぞ」
「これはこれは……貴殿にそこまで言われるのは、何かこそばゆいですね」
そう言ってハリスは立ち上がり土埃を払った。
「そういえばフェイサル殿。この子らの研究はどうですか?」
「うむ、それも進めているがやはり素材が足りないな。湯に煎じて飲むとリラックス効果があると現地では言われていたが、それも個人差があるようだし、明確な効能というには些か曖昧だ」
「なるほど、リラックス効果ですか。もし確かな効能が認められるのであれば、またフェイサル殿の診療所に患者が殺到しそうですね」
「患者など、来ないに越した事はないのだがな」
「はは、それは確かに」
二人はお互いを讃え、そして笑い合う。
ハリスは香草を食料や調味料として、そしてフェイサルは生薬として利用する。
目的は違えど、利害は一致。何より、気の許せる友人とこうして土と戯れるのは、冒険者稼業ですり減った精神を回復させるのにもってこいだ。
二人は時間も忘れ土いじりに精を出した――。
●
そして、月日は進み大陸に冬の訪れが訪れる12月初旬。二人は再びこの地へ足を運んだ。
「ほう、これは立派なものだ」
「ええ、この子達も頑張ってくれました」
畑一面に繁茂する緑。一年を通じて温暖で湿潤なこの地であるからこそ、早々と育った香草たちを見つめ、二人は満足げに呟いた。
ハリスは早速と膝を折る。そして、茂った葉の一枚をちぎると鼻先へと運んだ。
しばらく香りを感じていたハリスが、ふと顔を上げる。
「……いいのではないでしょうか」
「おぉ、それでは」
「はい、収穫と行きましょう」
二人は協力して茂った葉を丁寧に摘んでいく。
それほど広くない畑ではあるが、二人でやるとなると結構な重労働だ。
しかし、農作業に慣れたハリスの手際は流石の一言。瞬く間に葉を摘んでいく。一方、フェイサルは腰を庇いつつマイペースに作業を進めていた。
「――流石に腰に来るな」
「はは、どうか無理をせずに。医者の不養生などと言われては名折れでしょう?」
「ふむ、そうか。では、遠慮なく先達の言葉に従わおう」
そう言うとフェイサルは立ち上がり腰を伸ばす。それと共に中腰で作業を続けるハリスの手元を見下ろした。
吸い込まれるようだ、と表現するのが最もしっくりくるか。腰に据えた籠に次々と葉が重なっていく。まるで魔法のような手際だった。
二人はその後も作業を続け、正午と共に作業に区切りをつけた。
畑の反面は全て葉の摘み取りを終えた。
すっかり茎だけになったが、植物の生命力は侮れない。肥沃な土と湿潤な環境もあり再び葉をつけるだろう。放っておけば再採集可能だが――。
「さて、問題は根ですね」
「うむ。根の効能は未知数だ。現地でも根は使っていなかった。どの様な効能があるか研究したくはあるな」
「ではやはり抜根しましょう。まだ半面残していますし、この地で栽培が可能だと実証出来ましたからね」
「そうか。すまないな」
「何を仰いますか。私も根の力、楽しみにしていますので」
二人は採集し終わった葉を脇に避けると、植物を畑から抜きにかかった。
力強く大地に根を張っていた植物だったが、土が柔らかい事もあり労無く抜けていく。
1時間ほどで半面全ての抜根が終わった。
「では戻りましょうか」
土と戯れた事によほど満足したのか、依頼中では滅多に見られない爽やかな笑みを浮かべるハリスに、フェイサルは笑って頷いた。
●
収穫を終えた香草を持ち込んだのは、ゴールディの郊外にある作業小屋。
廃業した薬師の住居だったとの事で、ある程度作業環境が整っているというのが選んだ理由だった。
二人は早速摘みたての植物を持ち込み作業にかかる。
まず葉に手を付けたハリスが、臭いを嗅ぎ口に含んだ。
「ふむふむ、随分独特の苦み――といいますか、えぐみが強いですね」
「生葉はそうだな。そのまま使うのは向いてないと現地の人間も言っていた。だが、熱を通すと――」
そう言うとフェイサルはかまどの炎に葉をさっとくぐらせた。
「試してみてくれ」
「では」
フェイサルの差し出した炙りたての葉を受け取ったハリスが再び口にする。
「これは……シナモン、いえニッキ、いや違う。爽やかで辛みがあるのはシナモンに似ていますが、その奥に甘みがある。ふむ、癖は変わらずありますが面白いですね」
「マンネリ化してきた食味に変化を与えるのにはうってつけだろう?」
「ええ、これは面白い。少し加えるだけでも随分と味の変化が得られそうです」
「気に入ってもらえたようでよかった。ただ問題は保存方法なのだがな」
「そうですね……乾燥させても駄目なのですよね?」
「ああ、乾燥させると風味が全て抜けるらしい」
「ふむ……」
「ハリスならばいい保存方法も思いつくかと思ったのだが、やはり難しそうか」
ハリスが悩むのを見て、フェイサルも諦めかけるが。
「……萎凋させて、手揉みしてみましょう」
「萎凋……なるほど酸化させるのか」
「ええ、紅茶を作る方法ですが、もしかしたらうまくいくかもしれません」
そう言うとハリスは作業小屋の窓を全て開け放った。外から入る風が部屋を抜けていく。
二人は協力し風の通り道に葉を並べていった。
サウゼル大樹海の懐に抱かれたゴールディに、とある農夫と医者が訪れていた。
「発芽したのか」
「ええ、思っていた以上の成長です。やはりこの地を選定したのは正解でしたね」
畝から力強く伸びる芽を見て、フェイサル・セイフは驚き、ハリス・アル・ターミルは目を細める。
「あの砂岩地帯の植物がここで発芽するとは……気候も植生も違う異国だというのに、流石はハリスだな」
「はは、私の力ではありませんよ。全てこの地の土の力のおかげです。これを見てください」
と、土に塗れていたハリスが指ほども太いミミズを摘まみ上げて笑顔を作った。
「丸々と太ったミミズだな。これは確かに栄養が豊富な証拠だ」
王国の子女が見たら一発で卒倒しそうなそれを見ても、フェイサルは動じない。
そもそも、ミミズは立派な『薬』だ。フェイサルは慣れ親しんだ『素材』に目を細めた。
「それで、育つのにはどれくらいかかりそうだ」
「そうですね。フェイサル殿から伺った栽培方法で行けば三カ月~四カ月といったところでしょうか」
彼等がわざわざゴールディに持ち込んで栽培しているのは、とある香草の一種。
現地では香辛料として料理に使われたり、ハーブティにされたりする植物だった。
冒険者稼業の傍ら各地で見つけた珍しい植物の栽培を試みていた二人。今回はフェイサルがシグモル火山帯で見つけた種子を試していた。
現地ではありふれたものなのだが、この香草は摘んだ先から急速に劣化を始めるので、消費は現地のみに限られるらしい。
「ふむ……異国であるここでは、もう少し時間がかかるか」
「いえ、逆です。土に力がありますからね。早ければ二カ月で収穫できるかもしれません」
「そんなに早くか。流石はハリスだな」
「はは、私の力ではありませんよ。全てはこの大地の恵みです」
感心するフェイサルに、ハリスは照れたように笑う。
「そう言うが、原生地と違う環境下では発芽させることも難しいだろう。それをあっさりとやってのけるのは流石ターミル族。いや、ハリスの腕のなせる技だと私は思うぞ」
「これはこれは……貴殿にそこまで言われるのは、何かこそばゆいですね」
そう言ってハリスは立ち上がり土埃を払った。
「そういえばフェイサル殿。この子らの研究はどうですか?」
「うむ、それも進めているがやはり素材が足りないな。湯に煎じて飲むとリラックス効果があると現地では言われていたが、それも個人差があるようだし、明確な効能というには些か曖昧だ」
「なるほど、リラックス効果ですか。もし確かな効能が認められるのであれば、またフェイサル殿の診療所に患者が殺到しそうですね」
「患者など、来ないに越した事はないのだがな」
「はは、それは確かに」
二人はお互いを讃え、そして笑い合う。
ハリスは香草を食料や調味料として、そしてフェイサルは生薬として利用する。
目的は違えど、利害は一致。何より、気の許せる友人とこうして土と戯れるのは、冒険者稼業ですり減った精神を回復させるのにもってこいだ。
二人は時間も忘れ土いじりに精を出した――。
●
そして、月日は進み大陸に冬の訪れが訪れる12月初旬。二人は再びこの地へ足を運んだ。
「ほう、これは立派なものだ」
「ええ、この子達も頑張ってくれました」
畑一面に繁茂する緑。一年を通じて温暖で湿潤なこの地であるからこそ、早々と育った香草たちを見つめ、二人は満足げに呟いた。
ハリスは早速と膝を折る。そして、茂った葉の一枚をちぎると鼻先へと運んだ。
しばらく香りを感じていたハリスが、ふと顔を上げる。
「……いいのではないでしょうか」
「おぉ、それでは」
「はい、収穫と行きましょう」
二人は協力して茂った葉を丁寧に摘んでいく。
それほど広くない畑ではあるが、二人でやるとなると結構な重労働だ。
しかし、農作業に慣れたハリスの手際は流石の一言。瞬く間に葉を摘んでいく。一方、フェイサルは腰を庇いつつマイペースに作業を進めていた。
「――流石に腰に来るな」
「はは、どうか無理をせずに。医者の不養生などと言われては名折れでしょう?」
「ふむ、そうか。では、遠慮なく先達の言葉に従わおう」
そう言うとフェイサルは立ち上がり腰を伸ばす。それと共に中腰で作業を続けるハリスの手元を見下ろした。
吸い込まれるようだ、と表現するのが最もしっくりくるか。腰に据えた籠に次々と葉が重なっていく。まるで魔法のような手際だった。
二人はその後も作業を続け、正午と共に作業に区切りをつけた。
畑の反面は全て葉の摘み取りを終えた。
すっかり茎だけになったが、植物の生命力は侮れない。肥沃な土と湿潤な環境もあり再び葉をつけるだろう。放っておけば再採集可能だが――。
「さて、問題は根ですね」
「うむ。根の効能は未知数だ。現地でも根は使っていなかった。どの様な効能があるか研究したくはあるな」
「ではやはり抜根しましょう。まだ半面残していますし、この地で栽培が可能だと実証出来ましたからね」
「そうか。すまないな」
「何を仰いますか。私も根の力、楽しみにしていますので」
二人は採集し終わった葉を脇に避けると、植物を畑から抜きにかかった。
力強く大地に根を張っていた植物だったが、土が柔らかい事もあり労無く抜けていく。
1時間ほどで半面全ての抜根が終わった。
「では戻りましょうか」
土と戯れた事によほど満足したのか、依頼中では滅多に見られない爽やかな笑みを浮かべるハリスに、フェイサルは笑って頷いた。
●
収穫を終えた香草を持ち込んだのは、ゴールディの郊外にある作業小屋。
廃業した薬師の住居だったとの事で、ある程度作業環境が整っているというのが選んだ理由だった。
二人は早速摘みたての植物を持ち込み作業にかかる。
まず葉に手を付けたハリスが、臭いを嗅ぎ口に含んだ。
「ふむふむ、随分独特の苦み――といいますか、えぐみが強いですね」
「生葉はそうだな。そのまま使うのは向いてないと現地の人間も言っていた。だが、熱を通すと――」
そう言うとフェイサルはかまどの炎に葉をさっとくぐらせた。
「試してみてくれ」
「では」
フェイサルの差し出した炙りたての葉を受け取ったハリスが再び口にする。
「これは……シナモン、いえニッキ、いや違う。爽やかで辛みがあるのはシナモンに似ていますが、その奥に甘みがある。ふむ、癖は変わらずありますが面白いですね」
「マンネリ化してきた食味に変化を与えるのにはうってつけだろう?」
「ええ、これは面白い。少し加えるだけでも随分と味の変化が得られそうです」
「気に入ってもらえたようでよかった。ただ問題は保存方法なのだがな」
「そうですね……乾燥させても駄目なのですよね?」
「ああ、乾燥させると風味が全て抜けるらしい」
「ふむ……」
「ハリスならばいい保存方法も思いつくかと思ったのだが、やはり難しそうか」
ハリスが悩むのを見て、フェイサルも諦めかけるが。
「……萎凋させて、手揉みしてみましょう」
「萎凋……なるほど酸化させるのか」
「ええ、紅茶を作る方法ですが、もしかしたらうまくいくかもしれません」
そう言うとハリスは作業小屋の窓を全て開け放った。外から入る風が部屋を抜けていく。
二人は協力し風の通り道に葉を並べていった。