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キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年11月14日 11時16分48秒
「たんじょうび……?」
妹のノーノ君が小さな首をかしげている。
そんなに聞き慣れない言葉だったか? と、思わなくもないが、この子達の今までの境遇を考えれば理解できる。
かく言う自分自身だって――。
「誕生日、やりたいです! ありがとう、したいです!」
ノーノ君とは対照的に、姉のナーレ君は目を輝かせていた。
そうか、ナーレ君は知っているのか。それなら話は早い。
「そうか、それじゃやろうか。といっても、何をするかはまだ決めていないんだけどね」
ナーレ君も乗り気になってくれたし話を進めよう。もう『誕生日』まではそんなに日がない。
ヨル・スレイマンは少し伸びた無精髭を指で弄りながら二人を見た。
なんとなくここに落ち着いてから、この子達を怖がらせないようにと部屋の中では骨面を外すようになった。
そのおかげかチビちゃん達の態度は随分と柔らかくなった。まだ妹のノーノ君は少し怖がるそぶりも見せるが、それでも格段の進歩だ。
「ナーレ君は誕生日と言えば何か思い付くものはあるかい?」
「え、えっと、プレゼントとかですか……?」
「なるほど、プレゼントか。確かに誕生日には親しい友人や家族に贈り物をする風習があるというね」
それは知識としては知っている。冒険者ギルドでもちょくちょく耳にする話だ。
生誕の日を祝い贈り物をする風習。その話をする人間はどれも顔が輝いていた。そう、目の前のナーレ君の様に。
もちろん俺だって他人への贈り物をしたことがないわけじゃない。現にこの二人には『お土産』と称して、依頼で行った先で買った物を贈ったりもしている。
あの雨の日に買った青紫のモザイクランプは今も屋根裏のこの子達の部屋を照らしているし、つい先日渡した秋色硝子の耳飾りはベッドの下に大切にしまっているらしい。
「あと、美味しいご飯も用意するって聞きました」
「ふむ、晩餐か。ナーレ君はよく知っているね」
ナーレの意外な博識に驚きつつ、ヨルは考える。
しかし、この子達のご主人様が満足する晩餐と聞いて、酒しか思い浮かばないのは困ったものだ。流石に酒とつまみだけじゃ、俺達はいいとしてもこの子達が楽しめない。
誕生日とは、祝う側、祝われる側、双方が満足してこその宴だと聞いているから。
「例えば二人はどんなものが食べたい? いや君達のご主人様はどんな食事が好きかな?」
とりあえず情報収集だ。俺がいる時は料理番をするが、いない時は一体何を食っているのか。最近料理の腕をグングン上げて来たナーレ君にならわかるかもしれない。
「えっと……お酒、です」
と、淡い期待を抱いたものの、返ってきた答えはやはりかと思わせるものだった。
まったく、そのうち体を壊すぞと思わなくもないが、彼に言わせれば俺も同種だろうから強くは言えない。
「あの……お肉、だとおもう。尻尾のお肉」
ナーレの答えにヨルが悩んでいると、ノーノが声を上げた。
「ああ、確かに彼はテールスープが好きだったね。うん、それにしよう。よく覚えていたねノーノ君」
そう言うとチビちゃん達は嬉しそうに頷いた。
久しぶりに手の込んだ料理を作るのも悪くない。彼だけでなくこの子達も笑顔になるのならなおさらだ。
「それだけだと味気ないから他にも何か作ろうか。甘いものはあんまり好きじゃないだろうけど……」
と、ヨルは二人を見る。すると、その顔には「甘いものは無いの?」と残念そうな表情が浮かんでいた。
「いや、お祝い事だしね。甘いものも必要だ。砂糖も随分安くなったし、何か作ってみよう」
そんな顔をされたら用意しないわけにはいかない。ヨルは苦笑を隠しながら二人に応えた。
「そうと決まれば買い出しだ。二人も一緒に来るかい?」
ヨルが何気なく誘うと、二人は驚いていた。
何故驚くのかと逆にびっくりしたが、なるほど、ここは危険なゴールディの下町だ。一歩外に出るだけでそこは無法地帯。そんな事もあって、二人は普段この質屋から出ずに籠っている。
そのうち護身術も教えなくてはなとは思っているが、それも本人たち次第か。
そんなものを覚える必要もないくらい、平和に生きて欲しいとも思うけど……それは保護者面したおっさんのエゴか――。
「行っていいんですか……?」
そんな事を考えていたらナーレ君が恐る恐る聞いてきた。
「ああ、もちろんだよ。今日は護衛付きだからね」
大丈夫、今日は俺がついている。そう心の中で呟き、ヨルはウインクで答えた。
●
ゴールディの市は、一言で言えば混沌だ。
大陸広しといえども、ここ程『闇市』という名称が似合う場所もないだろう。
合法非合法が無秩序に混在している。置いてあるものの鑑定から入るのが、この素敵な市のルールだ。
ヨルはコートの端をぎゅっと握りながらついて来る二人を気にしながら、目的のものを探す。
幸い、牛肉を扱う露店はすぐに見つかった。何度か利用した事がある露店だから、品は大丈夫だろう。
ヨルは露店の親父との和やかな交渉の末、適正価格で牛肉を手に入れた。
「さて、メインディッシュの食材は確保と。他は店にあるものを使おうか。後は酒だね」
ヨルは改めて市を見渡す。酒を扱う店は沢山あるが、沢山あるだけに選ぶのが難しい。
どこの誰が造ったともしれないカラフルな瓶が店の棚に所狭しと並び、下手なものを手に取れば、まさに命の保証はない。
折角だから蒸留酒が欲しいが、さて――。
そんな事を思いながら露店を眺めていたら、コートがくいっと引かれた。
「ノーノ君、どうかしたかい?」
そう声をかけるもノーノはじっと露店を見つめている。どうやら、コートを引っ張ったのも無意識だったらしい。
それに気づいたのかナーレが慌ててノーノを注意し、ヨルに頭を下げる。
ヨルは二人の頭を優しく撫でると、ノーノの視線が向いていた露店を見た。そこは食器や雑貨を扱う店だった。
「なるほど、その店が気になるんだね。それじゃ、プレゼント選びは二人に任せようかな」
「え……」
驚くナーレの手を取り、ヨルは小さな袋を乗せた。
「俺は後ろから見ているから、彼が気に入ると思うものを選ぶといい」
困惑する二人の背中を押し、露店の前へと進ませる。
怪しげなゴブリンの親父が店番をする露店には、新品か盗品かわからない品々が並んでいた。そんな商品であっても、ほとんど外を知らない二人には輝いて見えるのだろう。姉妹であれやこれやと話し合いながら、一生懸命、品を選んでいる。
結構な時間選んでいるものだから、親父が早くしろよと舌打ちした。ヨルは笑顔で親父を黙らせつつ、二人の手元を見下ろす。
選んでいるものは食器だろうか。
「あの……これがいいです」
と、ナーレがようやく決めたものを見せて来た。
別に二人が選んだものなら断る理由はないと思いつつ、ヨルはナーレの手の中で光るそれを見た。
「へぇ、銀の匙か」
それは、くすんだ銀の匙だった。
二人がいいですか? と不安げに見上げてくるから、問題ないよと笑顔で答える。
何故それを選んだか聞きたくもあるけど、それは贈り先に渡してからでもいいかな。
「それじゃ戻ろうか。料理の用意をしないとね」
材料やプレゼントは全て適正価格で購入出来た。後はいよいよ彼を迎えいれる準備だ。
ヨルは再び二人にコートを掴ませると、賑やかなゴールディの市を後にした――。