【DA】竜の谷に吹く風

キャラクターノベル(グループ)制作 夜帷かもめ納品 2021年11月21日 12時35分41秒

●序幕
 ドワーフ王国とメルトウォールとの戦争は苛烈を極めていた。キサキ・アカネの企図の下、冒険者を戦力として巻き込む企みは功を奏し、緒戦はドワーフ王国がいくつかの都市を奪還した。だが、依然として大半の都市がメルトウォール勢力下にある事実には変わりなく、冒険者らは次の一手を打つ必要を余儀なくされていた――。

「――それで、次はカルドナスとテンゼン。それにヌバッフか」
「ああ。特にカルドナスは手ごわい」
「ハ! いやに弱気じゃねえか。音に聞こえたリトルセイヴァーズも苦戦しているのかよ?」
「蛮勇は勇猛とは違うぜ、ブレイブファング傭兵団の団長さんよ――というのはさておき、だ」
 冒険者ギルドによって発令された戦況を前に意見を戦わせているのは、ハヤト=ガラン=ヴォルファングとカズマ クレセントブラッドの二人だ。いずれも複数の授恵者を抱える有力ギルドの頭目である。
「ほら、ケンカは無しですよ。ハヤトさんも――えっと」
「カズマだ」
「カズマさんも」
 シルク・メイプルリーフが両手を伸ばして(ハグしようと)歩み寄ってくるのを見て、二人のシーフは飛び退る。包容力に溢れた彼女の身体であれば彼女(シルク)よりも身長の低いシーフ二人ぐらいまとめてギュッと出来るのかもしれないが、リーダーがそれではいかにも締まらない。
「揉めるつもりはない。ただこの戦争の後のことも考えるとな」
「――特定の授恵者や、集団が目立ち過ぎるのは良くない。そう言う事だろう?」
 掲示板を眺めていたベルク・オスマットが、横から口を挟む。彼女はレイウェスト皇子を主君と抱く授恵者である。帝国(シルトラース)と王国(リーンエス)の関係は諸国の注視するところであったが、この度の戦争は別の意味で大きな潮目になると、ベルクは考えていた。
 つまり。
「国が行う戦争に、冒険者ギルド(中立の戦力)を使うとはな」
 今回のケースは、相手がメルトウォール(蛮族紛いの連中)だからと言うのもある。だが、先例がある――と言うのは。今から戦後の話を考えるのは気が早いのかもしれないが、それでも看過できない胸騒ぎを彼女は覚えていた。

「何にしても、ほっとけないのだ」
 そんな事をしている間に冬はやって来てしまう。情勢が定まらないととばっちりを食うのは戦争に参加していない市民たちだ。ストレガ・L・リベルガストラとしては関係ない人々が空腹を抱えて不幸になるのは望まない。
「食は万世共通の幸福――とも言うのだ。さっさと行くのだ」
 ストレガにしてみれば、団長も兵長もへったくれも無い。ギルドで管を巻いている無駄な時間があれば、事態の収拾に向けて出来ることをする以外になかった。
「――ま、それもそうか」
 さっさと向かう先をピンで示してギルドを出ていったストレガに、毒気を抜かれたハヤト。少し思案の後に、彼はカルドナスへ向かう事に決めた。
「ハヤトさんはカルドナスですか。私はテンゼンに行こうかと」
 特に同じ傭兵団だからといって、行先や志まで同じわけでは無い。シルクがテンゼンへ向かうと告げると、ハヤトは笑った。
「おう。ヘマするんじゃないぜ? シルクも大切な一員なんだからな」

 授恵者らは集い、そして別れていく。幾度となく繰り返される依頼と依頼の合間の、そんな一幕がここにはあった。

●テンゼンにて
「いいですかぁ~みなさん。よく聞いてくださいね」
 シルクの声が街角へと響く。メルトウォールに占領された都市とはいえ、戦闘行為が発生していない間は市民生活もそれなりに行われている。戒厳令が敷かれているが、完全な封鎖ではない。

 ストレガを伴い、聖職者という体で(嘘は言っていない)テンゼンへと潜り込んだシルクは、街へ着くなり中心地から少し外れた場所にあるあばら家を徴発した。なぜわざわざボロ家を選んだかと言うと、所有権や何やらでもめ事を起こしたくは無かったからだ。とにかく、急いで行動を起こす必要がある。

 ――それはさておき。

 窓の陰から、裏路地から――無数の視線がシルクに突き刺さっている。それを感じながら、彼女はおもむろに宣言した。
「ここを、臨時教会とします!」

「……えぇ?」
 教会って、いきなりこの女は何を言っているんだ。そんな疑問が周囲の人々には浮かぶ。

「どこかのバカが、戦争だ戦争だと騒ぎ立てるからなのだ」
 あばら家の掃除を終えたストレガが、中から出てきて言葉を続ける。
「そう、そうなんです! 皆さんも困っているのではないですか? お祈りをして、お腹いっぱい食べましょう」
「だいじょうぶ、安心安全な公共事業なのだ」
 メルトウォールによる締め付けがきつくなればなるほど、市民からの反感は火種のように燻っているはずだ。それに目を付けたシルクとストレガは、都市攻略のための下準備として、まず人々の反戦感情や、反メルトウォールの機運を煽ろうとしている。
 無論のこと宗教は人それぞれではあるし、食事だって最低限はメルトウォールも保証している部分ではあったが……。

――・――・――

 シスターであるシルクが市民の悩みや懺悔を聞く。それは選別も兼ねていた。街中で突如として活動を始めた彼女たちは、メルトウォールにも注目されている。その動きを探ろうと、敵も手の者を臨時教会へと送り込んできた。
 硬軟織り交ぜたその対応をいなしながら、シルクとストレガは市民へと向き合う。大半の市民へ直接の危害は与えられていないとはいえ、彼らの苦労や困難は想像以上のものがあった。

「少しだけれど、お酒もあるのだ。内緒なのだ」
 よく煮込まれた肉のシチューには、パンや芋ももちろんだが、少し酸味の利いたエールがよく合う。だが、酒なんてものはメルトウォールの連中が真っ先に徴発していった。だから、テンゼンの市民はもう、久しくアルコールなんてものを口にはしていなかった。
 一般の市民だと二人が確認できた市民らへは、要望に応じてエールやワインが少量だが振る舞われた。長期戦を見越し、ストレガが多めに食材を持ち込んだのだ。
「ありがたい――ありがたい!」
 感謝の言葉を口々に伝える市民たち。
「困ったときはお互い様なのだ」
 そっと、鍋の底に残っていた肉をかき集めて。ストレガは空になった器を口惜し気に見つめていた子供へとそれをよそってやった。

「調子はどうですか。どうして、メルトウォールにあなたは参加しているのですか?」
 幼子をあやすように、シルクが問いかける。視線を落とした先には、満ち足りた顔をしたメルトウォール兵がいた。懺悔室はいくつかを用意してあり、よくあるように対面で衝立越しに話が聞けるよう設えたものもあれば、こうして楽に話が聞ける個室も整えられていた。いずれも防音はしっかりとされており、この中での出来事は部屋の外へは漏れ出ることは無い。
「メルトウォールの連中が、家畜を奪っていこうとしたんですが」
「ふむふむ?」
 そっと、膝枕した男の髪を撫ぜながらシルクは頷く。何も否定せず、ただありのままを受け止める。包み込むような彼女のハグを受けて、男は内心の悩みを吐露していた。
「兵力として俺が参加するなら、家族と家畜はそのままにしてくれるって――」
「なるほど。お家を守るために、あなたは望んでいないのに――戦争に参加しているんですね」
 男の子なんですから、しゃんと立って。そう言って男を立ち上がらせると、シルクは最後に彼を正面から抱きしめた。
「大丈夫。ちゃんと、神様は見てくれてますよ」

――・――・――

「ドワーフ王国も、テンゼンを見捨てはしないのだ」
 詳しい日時は伝えられないけれど、近いうちに必ず救いに来る。困窮を訴える女性に、そうストレガは声を掛ける。
「だから、その時には」
 奪還が無事に成功するよう、手伝って欲しい。兵の動きや数、士気の情報。それに門や通りがどのように走っているか。水や食料は十分か――町の人でも、戦争を左右する重要な情報を握っている。食料の提供を対価に、そういった――授恵者が必要とするものを市民からストレガは集めていった。
 直接に武装蜂起を扇動するのではなく、静かに、確実に。長く被差別種族として虐げられてきたゴブリンである彼女が持つ叡智の中には、そう言った教えも受け継がれていたのだ。

――・――・――
 
 手持ちの食材が心もとなくなった二人は、一旦テンゼンを後にする。今回撒いた反攻の種は、きっと然るべき時に芽吹くに違いない。

●ヌバッフにて
「救えない連中だ」
 降りしきる雨の中、ベルクは吐き捨てた。

 メルトウォールの侵攻を前に、ヌバッフでは反乱が発生し、太守が殺害された。その結果として、戦闘行為なくメルトウォールは都市を手に入れている。反乱の中、太守の家族は一人の幼き遺児を残して皆、亡き者となってしまった。ベルクは残された遺児の救出作戦にも参加し、首尾よくそれをやり遂げたのであったが――。

「手際が良すぎる」
 思い立ってすぐに、反乱なぞそう起こせるものではない。事前に、メルトウォールの蜂起を知り、ヌバッフの内部にて準備を進め、太守を死に至らしめた者がいるはずだ。そう、彼女は推察していた。その元凶(・・)を除かない限り、たとえヌバッフを奪還したとしても同じことが起きる。何度でも。
 だからこそ、ベルクは再度、ヌバッフを訪れていた。

 果たして彼女の目論見通り、本来であれば街の守備を担うはずの警備隊。その要職に就く男らが画策し、市民を扇動して武力反乱を起こしたというのだ。特に大過なくヌバッフを治めていたはずの太守とその一族は、芯(信)なき者らのエゴによって死んだ。
 ヌバッフの都市はベルクにとって特に縁がある土地という訳でもない。だが、その理不尽は彼女にとって見過ごすには些かばかり、耳障りが悪いものだった。あるいは、自身の境遇を太守らに重ねていたのかも、しれない。

「――まったく、救えない」
 造作もない作業だった。音もなく忍び寄り、短剣で一突き。それだけで男はこと切れた。指揮系統の要を握る男が死ねば、都市の体制にも乱れが生じるだろう。だが、もはやそれはベルクの関心事ではない。
 血に濡れた刃を拭い、ヌバッフを後にするベルク。ざあざあと流れる雨が、その足跡を跡形もなく流し去っていった。

●カルドナスにて
「遅れるなよ」
「そっちこそ」
 カズマとハヤトの二人が、宵闇籠もる路地を駆けている。戦争状態にあるカルドナスも、今は戦闘行為は落ち着いている。その隙間を縫って、シーフである彼らは工作活動を試みていた。
 温泉地で知られるカルドナスの攻略を困難にしているのは、都市全体を覆う湯煙と――入り組んだ路地。そしてそこに潜んだ伏兵である。更には、それに加えて街並みのそこかしこに歴史的な価値がある(メルトウォールにはどうでもいい)建造物や史跡がある、温泉としての運営に必要となる(左に同じく)高価な設備が残されているというのであれば――攻めるには難く、守るのは容易いのだ。

 都市に残るメルトウォールの兵力はそこまで多くは無いが、大兵力を一気に投入して制圧するという作戦が取りにくい。そんな事情があり、授恵者らによるカルドナス攻略戦は当初の想定以上に手間取っていた。

――・――・――

「最終的に連中が逃げる先としたら、どこだと思う?」
「それは――街の外か、温泉街の中心じゃねーのか?」
 強固な城郭や、幾重にも重なった壁がある訳ではない。単純な防御力では他の都市と比べても、そう高いわけでは無いのだ。カズマの問いかけに、ハヤトが答えた。カズマとて熟練の戦士ではあるが、場数でいえばハヤトに一日の長がある(判定的にレベルとスキルが有利だ)。
 いざ攻防戦となったときに、どう敵の首魁を追い詰めるか。予想を立てながら彼らは進む。

 中心街をぐるりと取り巻くように在る花街。その出入口は小さな門がいくつかあるばかり。高級宿や花街を、それ以外の区域と隔てるそれは、カルドナスの中でも特に街路が狭く、兵力の動きが読まれやすい場所でもあった。

 そんな花街の外周にある建屋を前に、ハヤトが言う。
「この建物を越えられれば、ラクなんじゃねーか?」
「馬鹿を言え。俺たちのようなシーフならともかく、他の連中は――いや」
 無理難題だ。そう言おうとしたカズマが、言葉を濁す。彼が視線を留めたのは、置屋の一角。増改築を繰り返したのであろうそこは屋根が複雑に入り組んでおり、外からは見えない空間となっていそうだった。
「あそこになら、仕掛けを残して置けるかもしれないな」
 簡易の衝角か、梯子か鍵縄だけでもあれば建屋を越える助けになるだろう。
「――試してみるか」

 狭い足場に、指を掛ける取っ掛かりも非常に狭い。ハヤトは途中で登頂を断念せざるを得なかったが、カズマはその類稀な身体操作能力を余すところなく発揮して目当ての空間へとたどり着いた。彼の目論見通り、屋根に囲まれたそこは1メートル四方程度の空間となっている。中へ潜り込んでみれば、街のどこからも視線は通らない。わざわざメルトウォールがここを確認するとも思えなかった。
 シーフツールを使い、簡易な仕掛けを作っておく。次からは、ここへ来るのも楽になるし――一人であれば短時間の潜入や監視も可能となるだろう。

――・――・――

「湯を運ぶ水路――使えないか?」
 ハヤトの提案に、カズマが首を傾げる。まだ、ハヤトの思考には彼は追い付いていない。その考えを補足するように、ハヤトは続けた。
「もし人が通れるようなら、潜り込む――そうじゃなくても、逃げるのには使えるんじゃねーかってな」
 今もまだカルドナスの湯元からは止まることなく温泉が湧き続けている。それは、温泉街の各所へと運ばれているはずだ。その水路がどう走っているかを理解できれば、陸の上の街並み以外にも通れるルートが増えることになる。
「それは、一理あるな」
 来るべき奪還戦に向け、手札は多い方が良い。カズマも頷くと、丹念に街並みや建屋を確認していく。景観のためか水路は巧妙に隠されてはいたが、いくつかの侵入口を見つけることが出来た。中を確認すると、湯が豊富に流れていて侵入できない所もあったが、いくつかは半ば枯れており人が通ることが出来そうだった。
 手応えを感じ、二人はカルドナスを後にする。今日の所は十分な成果だろう。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0