セロンとセリーヌの焼きビヒモーな休日
キャラクターノベル(グループ)制作 望月誠司納品 2021年10月30日 15時52分37秒
「焼きビヒモー?」
1220年の夏、セロンガード・シュタインドルフがノーナとお茶をした後で、そして帝国が崩壊し一斉に連絡を断つよりも少し前の頃の話だ。
「はい、ビヒモーのステーキとはちょっと違うらしいんですけど、そういう食べ方でビヒモーの肉を出すお店があるらしいんです」
セロンガードが家庭教師として本日分の勉強を見終えた後、教え子であるセリーヌがそんな事を言ってきた。
「今度カーミラとフィーネ殿と一緒に行こうって話してたんですけど、よろしければセラン殿もご一緒しませんか?」
「ふむ、興味があります。参りましょう」
ビヒモーのステーキが好きだというセラン・フェルゼンブルク青年の設定を踏襲し笑顔で頷く。
「あ、キャロラインも誘って良いですか?」
「ええ、是非」
という訳でそんな約束をかわしたセロンはセリーヌ達と共に王都内の肉料理店へと行く事になったのだった。
●
「お待たせしました、二人とも」
良く晴れている夏の休日、半袖丈の私服に着替え、待ち合わせ場所である学園正門前へと赴くと、茶色の長い髪を紺のリボンで後頭部に結んでいる小柄で華奢な少女と、薄紫色の長い髪を真っ直ぐに降ろしている小柄だが女性的な起伏に富んだ少女が立って雑談していた。
セリーヌとカサンドラだ。二人は待ち合わせ時刻よりもかなり先に余裕を持って集まっていたように見えた。
「あらセラン、今きたとこよ」
「セラン殿、恰好良いですね」
「一張羅を引っ張り出してきましたよ。セリーヌもキャロも綺麗ですね。流行りの奴です?」
実際の所は綺麗というより可愛らしい印象だったが、それを言うと偶に地雷な人がいるので無難な言葉を投げておく。
「ありがと。そう、王都で今こういうのが流行ってるらしいのよ」
「この前、皆で買ったんです。これお気に入りなんですよ!」
くるっと笑顔で一回転してセリーヌ。
新しい夏服を着てお出掛けとあってテンション上がってるらしい。
「よくお似合いですよセリーヌ。白と紺とが貴方に良く映えている」
微笑して言うとセリーヌがふふふっと嬉しそうに笑った。
「ところでカーミラさんとあとフィーネは?」
「お二人はまだですね――あっ、カーミラ来たかもです」
道の向こうからガラガラと馬車がやってきてセロン達の前で止まり、中から豪奢なドレス姿の金髪縦ロールのお嬢様が降りて来た。
地に降り立った金色ドリル少女はちょこんと礼をして、
「皆さん、ご機嫌麗しゅう」
と挨拶してきた。セリーヌの友人のカーミラである。
「ちょっと遅れてしまったでしょうか?」
「ううん、時間ぴったりよ、大丈夫ー」
と答えてセリーヌ。
「わたくし焼きビヒモー店とか初めてですの。楽しみですわ。皆さんはもう行った事おありですの?」
「いや、ないですね」
「私もないわ」
「多分、皆初めてだと思うよ」
そんな会話をかわしつつ、待つ事しばしとちょっと――あれ? 大分待ち合わせ時刻過ぎてね? と皆が思い始めた頃に小脇の小道よりたったかと小柄な娘が銀色のポニーテールを靡かせながら駆けて来た。
「ごっめーん! 遅れた遅れた! 皆、待った?」
「ええ、普通に待ったわフィーネ」
「時間は守れって普段から言ってるだろう、特に集団行動では」
ニコニコと微笑みながらカサンドラが見つめ、セロンは額に手をやって嘆息する。同じシルトラース帝国組としてはコノヤロウ、といった感である。
「えぇと、でもまぁ、お昼までには間に合いますよ」
セリーヌがなんとかフォローを捻り出して入れる。
「間に合わないようだったらさすがにきゅっと締める所でしたね」
「うわっセラン殿こわっ!」
「怖い目にあいたくなかったら時間は守りましょうねフィーネ殿」
「いたいいたいいたい! きゅってやってる! 髪セットしたんだからいじらないで~!」
セロンが反省の色が見えないゾフィーの頭部をがっしと掴んでぎりぎりと力を籠めてやると少女は悲鳴をあげた。
「まぁまぁセランさんそのあたりで。それよりも行きましょう?」
「ええ、そうですね。時間が勿体ない、行きましょう」
カーミラの言にセロンは頷くとゾフィーを解放し歩き出す。
「そのお店、目抜き通りから一本横に逸れた道でしたっけ?」
「ええ、ですから、正門をでたら――」
などと話しつつ学園の正門を抜け、一行は王都グランスパーダへと乗り出して行ったのだった。
●
焼きビヒモー店はわりと流行っているのか、昼時という事もあり、店内は大勢の客でごったがえしていた。
「五名様ごあんなーい! こちらへどうぞ~!」
威勢の良い店員に案内され、長方形のテーブルを囲む形の座席に腰を降ろす。
テーブルは特製の物らしく、中央が窪んでいて、窪みの底には鉄で作られた網が乗せられていた。
ごゆっくり~! と言って忙しそうに去ってゆく店員を見送りつつ渡されたメニューをテーブル上に広げて皆で覗き込む。
「メニュー……どれを頼めば良いのかしら?」
「とりあえずエールを頼むのが定番だね。肉は定番はカルビかなぁ? あっ、もしビヒタン頼む人いるなら焼くのそれ最初だからね。網は焼く場所仕切った方が良いかな」
「あらフィーネ詳しいのね」
「さすがフィーネ殿です」
「フィーネさんはこういうお店来た事あるの?」
「何度かあるよ! ん~、そうか、皆は初めてか。よしっ! ならばこの場の網は私が仕切らせていただく!」
「遅刻してきた癖に偉そうだなぁコイツは」
「ぐぇえっ、セラン首締めないで~! ふふふ、皆さんは初体験、私は経験者ですからっ!」
などとワイワイと騒ぎつつ各々注文すると、やがてエールが並々と注がれた杯がつまみと共に運ばれてきた。
「それでは、乾杯します?」
「何に乾杯しましょう」
「お肉と平和に」
「OK、ではお肉と平和に」
「え、それでOKなんですのっ?」
かんぱーい! と一同声をあげて杯を突き出し合わせてから、口をつけごくごくとエールを喉に流し込んでゆく。
爽やかな喉越しの液体が食道を通って胃の中に滑り落ちてゆき、五臓六腑に染みわたっていった。
やがて皿に下味がつけられ切られている生肉が乗せられ運ばれて来て、店員がテーブルの下をいじるとそれは紋具であったらしく蒼白い火が網の下に出現する。
「えぇと、ビヒタン……これか? この肉から焼いていけば良いのかな」
「そうそう」
セロンが経験者であるというゾフィーに確認して、白みがかったピンク色の肉を熱せられた鉄の網上に乗せてゆく。
じゅううぅという音と共に肉が焼けてゆき、こんなものかな、という焼け具合で網上から取り出し、小皿に満たされた専用の透き通ったタレにつけ、口元へと運ぶ。
弾力のある独特の歯ごたえ、肉の甘味と旨味、そしてタレの塩とレモンの味が良い具合に舌の上で混ざり合い、幸福を口の中に広がらせてゆく。
「うん……これは美味いな」
エールを合わせて飲みつつ頷いてセロン。
セリーヌなども頬に手をあてて「おいしー!」と至福の表情を浮かべている。
あっという間にビヒタンを平らげた一行は次に特上カルビなるものを焼き、口へと運んだ。
すると――消えた。
濃厚な肉の旨味と程よく甘じょっぱいタレの味を舌の上で溶け合わせ融合させつつ、肉そのものもまたスッ……といつの間にか口の中で溶け消えていた。
「これも……美味い!」
もぐもぐとカルビを次々に平らげつつセロンとセリーヌ達は至福の時を過ごしたのだった。
1220年の夏、セロンガード・シュタインドルフがノーナとお茶をした後で、そして帝国が崩壊し一斉に連絡を断つよりも少し前の頃の話だ。
「はい、ビヒモーのステーキとはちょっと違うらしいんですけど、そういう食べ方でビヒモーの肉を出すお店があるらしいんです」
セロンガードが家庭教師として本日分の勉強を見終えた後、教え子であるセリーヌがそんな事を言ってきた。
「今度カーミラとフィーネ殿と一緒に行こうって話してたんですけど、よろしければセラン殿もご一緒しませんか?」
「ふむ、興味があります。参りましょう」
ビヒモーのステーキが好きだというセラン・フェルゼンブルク青年の設定を踏襲し笑顔で頷く。
「あ、キャロラインも誘って良いですか?」
「ええ、是非」
という訳でそんな約束をかわしたセロンはセリーヌ達と共に王都内の肉料理店へと行く事になったのだった。
●
「お待たせしました、二人とも」
良く晴れている夏の休日、半袖丈の私服に着替え、待ち合わせ場所である学園正門前へと赴くと、茶色の長い髪を紺のリボンで後頭部に結んでいる小柄で華奢な少女と、薄紫色の長い髪を真っ直ぐに降ろしている小柄だが女性的な起伏に富んだ少女が立って雑談していた。
セリーヌとカサンドラだ。二人は待ち合わせ時刻よりもかなり先に余裕を持って集まっていたように見えた。
「あらセラン、今きたとこよ」
「セラン殿、恰好良いですね」
「一張羅を引っ張り出してきましたよ。セリーヌもキャロも綺麗ですね。流行りの奴です?」
実際の所は綺麗というより可愛らしい印象だったが、それを言うと偶に地雷な人がいるので無難な言葉を投げておく。
「ありがと。そう、王都で今こういうのが流行ってるらしいのよ」
「この前、皆で買ったんです。これお気に入りなんですよ!」
くるっと笑顔で一回転してセリーヌ。
新しい夏服を着てお出掛けとあってテンション上がってるらしい。
「よくお似合いですよセリーヌ。白と紺とが貴方に良く映えている」
微笑して言うとセリーヌがふふふっと嬉しそうに笑った。
「ところでカーミラさんとあとフィーネは?」
「お二人はまだですね――あっ、カーミラ来たかもです」
道の向こうからガラガラと馬車がやってきてセロン達の前で止まり、中から豪奢なドレス姿の金髪縦ロールのお嬢様が降りて来た。
地に降り立った金色ドリル少女はちょこんと礼をして、
「皆さん、ご機嫌麗しゅう」
と挨拶してきた。セリーヌの友人のカーミラである。
「ちょっと遅れてしまったでしょうか?」
「ううん、時間ぴったりよ、大丈夫ー」
と答えてセリーヌ。
「わたくし焼きビヒモー店とか初めてですの。楽しみですわ。皆さんはもう行った事おありですの?」
「いや、ないですね」
「私もないわ」
「多分、皆初めてだと思うよ」
そんな会話をかわしつつ、待つ事しばしとちょっと――あれ? 大分待ち合わせ時刻過ぎてね? と皆が思い始めた頃に小脇の小道よりたったかと小柄な娘が銀色のポニーテールを靡かせながら駆けて来た。
「ごっめーん! 遅れた遅れた! 皆、待った?」
「ええ、普通に待ったわフィーネ」
「時間は守れって普段から言ってるだろう、特に集団行動では」
ニコニコと微笑みながらカサンドラが見つめ、セロンは額に手をやって嘆息する。同じシルトラース帝国組としてはコノヤロウ、といった感である。
「えぇと、でもまぁ、お昼までには間に合いますよ」
セリーヌがなんとかフォローを捻り出して入れる。
「間に合わないようだったらさすがにきゅっと締める所でしたね」
「うわっセラン殿こわっ!」
「怖い目にあいたくなかったら時間は守りましょうねフィーネ殿」
「いたいいたいいたい! きゅってやってる! 髪セットしたんだからいじらないで~!」
セロンが反省の色が見えないゾフィーの頭部をがっしと掴んでぎりぎりと力を籠めてやると少女は悲鳴をあげた。
「まぁまぁセランさんそのあたりで。それよりも行きましょう?」
「ええ、そうですね。時間が勿体ない、行きましょう」
カーミラの言にセロンは頷くとゾフィーを解放し歩き出す。
「そのお店、目抜き通りから一本横に逸れた道でしたっけ?」
「ええ、ですから、正門をでたら――」
などと話しつつ学園の正門を抜け、一行は王都グランスパーダへと乗り出して行ったのだった。
●
焼きビヒモー店はわりと流行っているのか、昼時という事もあり、店内は大勢の客でごったがえしていた。
「五名様ごあんなーい! こちらへどうぞ~!」
威勢の良い店員に案内され、長方形のテーブルを囲む形の座席に腰を降ろす。
テーブルは特製の物らしく、中央が窪んでいて、窪みの底には鉄で作られた網が乗せられていた。
ごゆっくり~! と言って忙しそうに去ってゆく店員を見送りつつ渡されたメニューをテーブル上に広げて皆で覗き込む。
「メニュー……どれを頼めば良いのかしら?」
「とりあえずエールを頼むのが定番だね。肉は定番はカルビかなぁ? あっ、もしビヒタン頼む人いるなら焼くのそれ最初だからね。網は焼く場所仕切った方が良いかな」
「あらフィーネ詳しいのね」
「さすがフィーネ殿です」
「フィーネさんはこういうお店来た事あるの?」
「何度かあるよ! ん~、そうか、皆は初めてか。よしっ! ならばこの場の網は私が仕切らせていただく!」
「遅刻してきた癖に偉そうだなぁコイツは」
「ぐぇえっ、セラン首締めないで~! ふふふ、皆さんは初体験、私は経験者ですからっ!」
などとワイワイと騒ぎつつ各々注文すると、やがてエールが並々と注がれた杯がつまみと共に運ばれてきた。
「それでは、乾杯します?」
「何に乾杯しましょう」
「お肉と平和に」
「OK、ではお肉と平和に」
「え、それでOKなんですのっ?」
かんぱーい! と一同声をあげて杯を突き出し合わせてから、口をつけごくごくとエールを喉に流し込んでゆく。
爽やかな喉越しの液体が食道を通って胃の中に滑り落ちてゆき、五臓六腑に染みわたっていった。
やがて皿に下味がつけられ切られている生肉が乗せられ運ばれて来て、店員がテーブルの下をいじるとそれは紋具であったらしく蒼白い火が網の下に出現する。
「えぇと、ビヒタン……これか? この肉から焼いていけば良いのかな」
「そうそう」
セロンが経験者であるというゾフィーに確認して、白みがかったピンク色の肉を熱せられた鉄の網上に乗せてゆく。
じゅううぅという音と共に肉が焼けてゆき、こんなものかな、という焼け具合で網上から取り出し、小皿に満たされた専用の透き通ったタレにつけ、口元へと運ぶ。
弾力のある独特の歯ごたえ、肉の甘味と旨味、そしてタレの塩とレモンの味が良い具合に舌の上で混ざり合い、幸福を口の中に広がらせてゆく。
「うん……これは美味いな」
エールを合わせて飲みつつ頷いてセロン。
セリーヌなども頬に手をあてて「おいしー!」と至福の表情を浮かべている。
あっという間にビヒタンを平らげた一行は次に特上カルビなるものを焼き、口へと運んだ。
すると――消えた。
濃厚な肉の旨味と程よく甘じょっぱいタレの味を舌の上で溶け合わせ融合させつつ、肉そのものもまたスッ……といつの間にか口の中で溶け消えていた。
「これも……美味い!」
もぐもぐとカルビを次々に平らげつつセロンとセリーヌ達は至福の時を過ごしたのだった。