嵐下の疑惑
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年10月19日 16時33分15秒
荒れ狂う暴風が窓を激しく揺らし、豪雨が屋根を叩く。
灯一つない真暗な部屋を、轟く雷光が照らし出した。
「……母親は、誰?」
ベッドに横たわる男に馬乗りになった白銀の少女が、首をおかしな角度に曲げて問い詰める。光の無い鋭い眼光は、横たわる男を瞬きもせず睥睨していた。
「ですから、知らないと言ってるじゃないですか。何の事だか、さっぱり――」
「御託は、いい。答え、て……」
どこからともなく取り出したナイフを、男セロンガード・シュタインドルフの喉元に当てた少女ティト。
セロンガードは目を見開き、息を止めた。
「あの、ティトさん……話すとしても、この体勢はすこぶる会話に向いていないと思うんですが、貴女はどうお考えでしょう……?」
「……こうしないと、逃げる。答えるまで、逃がさ、ない」
「逃げません。逃げないと誓いますから、とりあえずナイフをしまいませんか?」
「考えて、おく。だから、答えて……」
「いや、あの……ティトさん?」
セロンガードは引くつく笑顔で語り掛けるも、ティトの瞳に光は戻らない。
再び雷光がティトの顔を浮かび上がらせた。
●
時は遡る。
双方ともに忙しく、中々会える機会のなかった二人が一月ぶりに再会できる見通しが立ったのが、その日の朝だった。
ティトは再会を楽しみに、待ち合わせ場所である街の噴水へと足を速めていた。
「……遅れ、ちゃう」
寝坊したわけではないのに、待ち合わせ時間ギリギリ。ただ、ちょっとだけ準備に手間取った。
久しぶりの再会だ。背は……伸びていないけど、少しでも可愛くなった自分を見せたくて、朝から気合を入れ過ぎた結果、遅刻しそうになるという大失態を犯してしまう。
ティトは思わずスキルを駆使してしまいそうになるのをぐっとこらえ、街角を曲がった。
――ドンッ!
「きゃっ!」
衝撃と共に小さな悲鳴が聞こえた。
見れば小さな女の子が地面に倒れている。
「ご、ごめん……大丈夫?」
ぶつかったのは慌てていた自分のせい。ティトは急いで少女を助け起こすとお尻についた土埃を払い取った。
「少し、急いでて……お母さんは?」
ぶつかったことをちゃんと謝らないといけないと、ティトは少女に尋ねる。
「……居ないの」
まだぶつかったショックから立ち直れていないのか、少女から返ってきた答えはとても短かった。
「居ない、の?」
居ないとはどういう事だろうと、ティトは頭を捻る。迷子なのだろうか。まさか、本当に居ない訳ではなさそうだが……。
と、ティトは改めて少女を見た。
身なりは良くもなく悪くもない。一般的な街の子供の装いだ。だから、孤児ではなく保護者は居るはず。ティトはそう思い、改めて聞いてみた。
しかし、答えは――。
「……わからないの」
の一言だった。
まさか、ぶつかった拍子に記憶が飛んだ……?
ティトは急いでいた事も忘れ、慌てて少女の手を取った。
「一緒に、探そ。きっと、近くに、居る、はず」
そうだ、身なりも悪くない子供がこんな所を一人で歩いているはずがない。
治安は悪くない街だと言え、悪人はどこにでもいる。ティトは不安げに見上げる少女の手を引き、慣れない大声をあげて少女の保護者を探した。
●
「ごめん、遅くなった……」
結局、約束の場所へとティトが現れたのは昼も目前の時間だった。
「気にしないでください。私も今来たところですから」
と、噴水に腰かけていたセロンガードが立ち上がり、ティトに笑顔を向ける。
「嘘……」
「嘘ではありませんよ。ちょっと寝坊して遅れて来たんですが……ティトがまだ来ていなくてホッとしました」
申し訳なさそうに俯くティトに、セロンガードは胸を撫で下ろす仕草で返した。
「それにしても、随分と可愛らしい恰好……のようですが、乱れていますね?」
「刺す、よ?」
「すみません、言葉選びを間違えました。ですが、本当にどうしたのですか?」
両手を挙げながらセロンガードは問いかける。
ティトのお洒落事情はよく知っている。自分と会う時に殊更おめかしする事も。
だが、今はどうだろう。確かに可愛らしい服装ではあるが、全速疾走でもしてきたのだろうか、その着こなしは随分と着崩れていた。
「ちょっと、トラブル……」
「トラブル? 大丈夫なのですか?」
「大丈夫……じゃない、かも」
セロンガードに答えたティトは困った顔で、手を後ろに回した。
「……子供?」
すると、ティトの手に押される様に、後ろから少女が恐々と顔をのぞかせる。
「どうしたのですか? まさか、貴方の――いえ、なんでもありません。子供が見ていますのでそのナイフはしまいましょうね?」
いつまでたっても下せない両手がちょっぴりダルくなってきたが、今はそれどころではない。
ティトが困った顔をして小さな女の子を連れている。これは、もしかして――。
「迷子なのですか?」
「……そう、みたい」
「ふむ、それでこの時間ですか。流石に3時間待ちは一般市民の視線が痛くて帰ろうかと思っていた所ですが、そう言う理由があるのでしたら仕方がありませんね」
「やっぱり、嘘、だった」
ジト目でセロンガードを睨み付けるティト。
「まぁ、それはいいじゃないですか。それよりも、ティトが3時間も探し回って見つけられないとなると、この子の保護者の方は……」
「パパ……?」
ティトに愛想笑いを浮かべているセロンガードをじっと見つめていた少女が、突然とんでもない言葉を口にした。
「「……はい?」」
当然、二人して呆気にとられる。
「なに……どういう事?」
ティトは二人を交互に見ながら、セロンガードの胸ぐらを掴んだ。
「ティト、街の人々が見ていますので、一先ず落ち着きましょう。それに、私にもなんの事かさっぱりわからないですよ」
ぐいぐいと胸ぐらを掴み上げるティトの手に、そっと自分の手を添えつつセロンガードは少女を見る。
どこにでもいそうな普通の少女。自分の事をパパと呼んだが、どこも似ていないように見える。母親似なの、とか言われればそれまでだし、身に覚えが……無い事もないが、それにしたっていきなりすぎた。
「貴女は、どこのお子さんですか? 何故、私の事をパパと呼んだのですか?」
「……」
セロンガードは放してもらえなかった胸ぐらに悲しみつつも、少女に問いかける。
しかし、少女の答えは沈黙だった。
「ふむ、困りましたね。ティト、どうしますか?」
「……」
「ティトさん……?」
「……探す、よ。セロンの子供じゃ、ないんでしょ」
「ええ、それはもちろん。神様にでも誓いましょうか?」
「……いらない。でも、それなら、このままにしておけ、ない」
「ティトは優しいですね。そういう事なら私もお手伝いしますよ。無実を証明しないといけないような気がしますし」
「……気がする?」
「いえ、なんでもありません。言葉の綾という奴です、綾」
「……二度目はないから、ね」
そう言って、ティトはようやくセロンガードの胸ぐらから手を離した。
この後、二人は日が暮れるまで少女の親を探すも、結局発見するには至らなかった。
街の自警団に引き渡すことも考えたが、ティトが自分の境遇と重ねたのか「それは可哀そう」と拒否した。
仕方なく、二人はセロンガードがとっていた宿へと転がり込む事となった。
灯一つない真暗な部屋を、轟く雷光が照らし出した。
「……母親は、誰?」
ベッドに横たわる男に馬乗りになった白銀の少女が、首をおかしな角度に曲げて問い詰める。光の無い鋭い眼光は、横たわる男を瞬きもせず睥睨していた。
「ですから、知らないと言ってるじゃないですか。何の事だか、さっぱり――」
「御託は、いい。答え、て……」
どこからともなく取り出したナイフを、男セロンガード・シュタインドルフの喉元に当てた少女ティト。
セロンガードは目を見開き、息を止めた。
「あの、ティトさん……話すとしても、この体勢はすこぶる会話に向いていないと思うんですが、貴女はどうお考えでしょう……?」
「……こうしないと、逃げる。答えるまで、逃がさ、ない」
「逃げません。逃げないと誓いますから、とりあえずナイフをしまいませんか?」
「考えて、おく。だから、答えて……」
「いや、あの……ティトさん?」
セロンガードは引くつく笑顔で語り掛けるも、ティトの瞳に光は戻らない。
再び雷光がティトの顔を浮かび上がらせた。
●
時は遡る。
双方ともに忙しく、中々会える機会のなかった二人が一月ぶりに再会できる見通しが立ったのが、その日の朝だった。
ティトは再会を楽しみに、待ち合わせ場所である街の噴水へと足を速めていた。
「……遅れ、ちゃう」
寝坊したわけではないのに、待ち合わせ時間ギリギリ。ただ、ちょっとだけ準備に手間取った。
久しぶりの再会だ。背は……伸びていないけど、少しでも可愛くなった自分を見せたくて、朝から気合を入れ過ぎた結果、遅刻しそうになるという大失態を犯してしまう。
ティトは思わずスキルを駆使してしまいそうになるのをぐっとこらえ、街角を曲がった。
――ドンッ!
「きゃっ!」
衝撃と共に小さな悲鳴が聞こえた。
見れば小さな女の子が地面に倒れている。
「ご、ごめん……大丈夫?」
ぶつかったのは慌てていた自分のせい。ティトは急いで少女を助け起こすとお尻についた土埃を払い取った。
「少し、急いでて……お母さんは?」
ぶつかったことをちゃんと謝らないといけないと、ティトは少女に尋ねる。
「……居ないの」
まだぶつかったショックから立ち直れていないのか、少女から返ってきた答えはとても短かった。
「居ない、の?」
居ないとはどういう事だろうと、ティトは頭を捻る。迷子なのだろうか。まさか、本当に居ない訳ではなさそうだが……。
と、ティトは改めて少女を見た。
身なりは良くもなく悪くもない。一般的な街の子供の装いだ。だから、孤児ではなく保護者は居るはず。ティトはそう思い、改めて聞いてみた。
しかし、答えは――。
「……わからないの」
の一言だった。
まさか、ぶつかった拍子に記憶が飛んだ……?
ティトは急いでいた事も忘れ、慌てて少女の手を取った。
「一緒に、探そ。きっと、近くに、居る、はず」
そうだ、身なりも悪くない子供がこんな所を一人で歩いているはずがない。
治安は悪くない街だと言え、悪人はどこにでもいる。ティトは不安げに見上げる少女の手を引き、慣れない大声をあげて少女の保護者を探した。
●
「ごめん、遅くなった……」
結局、約束の場所へとティトが現れたのは昼も目前の時間だった。
「気にしないでください。私も今来たところですから」
と、噴水に腰かけていたセロンガードが立ち上がり、ティトに笑顔を向ける。
「嘘……」
「嘘ではありませんよ。ちょっと寝坊して遅れて来たんですが……ティトがまだ来ていなくてホッとしました」
申し訳なさそうに俯くティトに、セロンガードは胸を撫で下ろす仕草で返した。
「それにしても、随分と可愛らしい恰好……のようですが、乱れていますね?」
「刺す、よ?」
「すみません、言葉選びを間違えました。ですが、本当にどうしたのですか?」
両手を挙げながらセロンガードは問いかける。
ティトのお洒落事情はよく知っている。自分と会う時に殊更おめかしする事も。
だが、今はどうだろう。確かに可愛らしい服装ではあるが、全速疾走でもしてきたのだろうか、その着こなしは随分と着崩れていた。
「ちょっと、トラブル……」
「トラブル? 大丈夫なのですか?」
「大丈夫……じゃない、かも」
セロンガードに答えたティトは困った顔で、手を後ろに回した。
「……子供?」
すると、ティトの手に押される様に、後ろから少女が恐々と顔をのぞかせる。
「どうしたのですか? まさか、貴方の――いえ、なんでもありません。子供が見ていますのでそのナイフはしまいましょうね?」
いつまでたっても下せない両手がちょっぴりダルくなってきたが、今はそれどころではない。
ティトが困った顔をして小さな女の子を連れている。これは、もしかして――。
「迷子なのですか?」
「……そう、みたい」
「ふむ、それでこの時間ですか。流石に3時間待ちは一般市民の視線が痛くて帰ろうかと思っていた所ですが、そう言う理由があるのでしたら仕方がありませんね」
「やっぱり、嘘、だった」
ジト目でセロンガードを睨み付けるティト。
「まぁ、それはいいじゃないですか。それよりも、ティトが3時間も探し回って見つけられないとなると、この子の保護者の方は……」
「パパ……?」
ティトに愛想笑いを浮かべているセロンガードをじっと見つめていた少女が、突然とんでもない言葉を口にした。
「「……はい?」」
当然、二人して呆気にとられる。
「なに……どういう事?」
ティトは二人を交互に見ながら、セロンガードの胸ぐらを掴んだ。
「ティト、街の人々が見ていますので、一先ず落ち着きましょう。それに、私にもなんの事かさっぱりわからないですよ」
ぐいぐいと胸ぐらを掴み上げるティトの手に、そっと自分の手を添えつつセロンガードは少女を見る。
どこにでもいそうな普通の少女。自分の事をパパと呼んだが、どこも似ていないように見える。母親似なの、とか言われればそれまでだし、身に覚えが……無い事もないが、それにしたっていきなりすぎた。
「貴女は、どこのお子さんですか? 何故、私の事をパパと呼んだのですか?」
「……」
セロンガードは放してもらえなかった胸ぐらに悲しみつつも、少女に問いかける。
しかし、少女の答えは沈黙だった。
「ふむ、困りましたね。ティト、どうしますか?」
「……」
「ティトさん……?」
「……探す、よ。セロンの子供じゃ、ないんでしょ」
「ええ、それはもちろん。神様にでも誓いましょうか?」
「……いらない。でも、それなら、このままにしておけ、ない」
「ティトは優しいですね。そういう事なら私もお手伝いしますよ。無実を証明しないといけないような気がしますし」
「……気がする?」
「いえ、なんでもありません。言葉の綾という奴です、綾」
「……二度目はないから、ね」
そう言って、ティトはようやくセロンガードの胸ぐらから手を離した。
この後、二人は日が暮れるまで少女の親を探すも、結局発見するには至らなかった。
街の自警団に引き渡すことも考えたが、ティトが自分の境遇と重ねたのか「それは可哀そう」と拒否した。
仕方なく、二人はセロンガードがとっていた宿へと転がり込む事となった。