ぼくときみはもういっしょ
キャラクターノベル(グループ)制作 菊華 伴納品 2021年09月02日 12時12分42秒
●影を追って、影に堕ちて
セロン……、セロン、セロン……。
ぼくには、もうきみしかいないんだ。
ぼく、知ってるよ。セロンが『メドゥの指先』に入った事。だから、追いかけてきたんだ。
セロン、セロン、セロン。会いたいよ、どこなの?
ぼくは、セロンを追って『メドゥの指先』に入った。けど、なかなか会えなかった。だから、胸の奥にずっと穴が開いたような気持ちを抱えていた。ぼくには、もう、きみだけなんだ。
ある夜、僕はとある作戦の応援として……先発隊にぼくの探し人『セロンガード・シュタインドルフ』がいると聞いて……森の中を歩いていた。地図なんてない。僅かな目印を頼りにぼくは歩いていた。途中で雨が降ってきたけれど、気にしていなられなかった。
――やっと、セロンに会えるかもしれないんだから!
「セロン、どこ? どこなの?」
セロン、セロン、セロン、セロン。
「ぼくだよ。……受け入れてくれるよね?」
セロン、セロン、セロン、セロン、セロン。
「会いたいよ、セロン」
セロン、セロン、セロン、セロン、セロン、セロン、セロン、セロン、セロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロンセロン!
「あっ……」
雨が止んだ頃、ぼくはやっとその姿を見つけたんだ。黒い髪、黒い瞳。そして、記憶と同じ笑顔。セロンは、ぼくを見たとたん目をちょっと見開いて驚いているみたいだった。僅かに震えていた気がする。少し、肌寒かったから、そのせいかもしれない。
「ティト、迎えに来ましたよ」
記憶通りの、穏やかな声。ぼくは、思わず駆けだした。夜風は冷たかったけど、セロンに抱き着いたらとてもあったかかった。
「セロン……会いたかったよ、本当に、会いたかったよ……!」
「ティト……」
セロンは、ぼくを受け止めてくれた。そして、ぎゅっ、と抱きしめてくれた。
「本当はもっと早く迎えに行きたかったのですが……」
そう言ってセロンは僕の頭を撫でてくれた。
それだけで、胸の中が満たされる。ぼくは、いつのまにか泣いてしまった。泣いたまま、セロンに抱き着いていた。
「セロン……」
「ティト……」
抱きしめたまま、絞り出すように出る、ぼくの声。
「ねえさんも、ライスも、みんな居なくなったんだ」
その時の光景が、今も脳裏をよぎる。身を引きちぎられるような痛みが、ぼくの胸の中で熱になる。足元が心許ないような感覚がして、セロンにしがみつく。セロンは、ぼくが倒れないように支えてくれた。
「セロンは、ぼくの前から居なくならないよね? ねぇ、もう、ぼくをひとりにしないよね? ねぇ!」
「えぇ……」
セロンは、ぼくをきちんと立たせると、手の差し伸べてくれた。
「仲間にも顔を合わせておかないといけませんね。こっちです」
「うん」
ぼくは、セロンの手を握り返した。
アジトは、薄暗かったけど案外清潔そうだった。
ぼくは、セロンによって共に戦うメンバーに紹介された。みんな、ぼくを受け入れてくれたけれど、やっぱり一番うれしいのは傍にセロンがいること。もう離れない、ひとりにならないって思うと、胸の中が暖かくなった。
顔合わせが終わると、先に休むようにぼくらは言われた。
誰もいない仮眠室で、ぼくはセロンの横に座って、ここに来るまでの事を思い出す。
――ここまで来たら後戻りはできません。いいですか?
いっしょに歩いてきた人たちを振り切って、何もかもかなぐり捨てる事になる。それでもいいのか、とセロンはぼくに聞いた。
――なんでもする、よ。だから……置いていかないで。
ぼくは、セロンと目を合わせて言った。
嘘じゃない。だって、ぼくにはもうセロンしかいない。もし、セロンがいなくなっちゃったら、ぼくはどうなっちゃうんだろう……?
怖い。
セロンを失うなんて、怖い。
その事を考えると、暖かかったものが抜け落ちてしまった。
怖くなって、正直に話したら、セロンは笑った。「大丈夫」って。
セロン、……あぁ、セロン。
セロンは、ぼくを、置いていかないよね……?
ぼくはいつのまにか、またセロンに抱き着いていた。
こうしていないと、ぼくが崩れそうな感覚がしていた。セロンは、僕の頭を撫でてくれた。けれどその眼差しは、とても悲しそうだった。
「どうしたのですか?」
ぼくは、セロンの問いかけに何も答えられなかった。けれど、何かを感じたのかもしれない。セロンは、もう一度僕の名前を呼んだ。
「……?」
「ティトには、私が『今ここにいる理由』を話さないといけませんね」
とちょっとだけ目を細めて、悲し気な笑顔を浮かべる。
「帝国崩壊の時に"鍵"を失い、私は"ある人物"をこの手で殺めてしまいました」
その言葉に、息をのむ。
一体誰を、どうして殺してしまったのか、ぼくにはわからない。セロンも話さない。だけど、これからずっと一緒にいるために、きちんと置かないといけないといけない、ぼくはそうおもった。
「私は、その罪を背負って……『裏切り者のリスト』を手に入れる為に、『メドゥの指先』の構成員になったのです」
告解。その言葉がぼくの脳裏に浮かんだ。
セロンは、耳元で「私とティトだけの秘密です」と言った。
誰にも言わない。セロンの告解は、ぼくだけの物。
「人も、殺すでしょう。汚い手も使うでしょう。でも、どんなことをしても、私はそれを手に入れる。私と一緒に来るならば、それを手伝ってもらうことにも、なりそうです」
それでもいいのか、と黒い眼がぼくに問う。
「いいよ」
セロン。あぁ、ぼくのセロン……。
「セロンと一緒に居られるなら」
セロン、お願い、セロン……。
「ぼくはなんでもやるよ」
だから、セロン、ぼくをもう一人にしないで……!
熱に浮かされたような感覚がする。胸の中が何かで満たされる。耳の奥で何かがごうごうと唸ってる。
「ぼくは、セロンの『共犯者』になるよ」
セロンの目が、ちょっと見開かれた。もしかしたら、否定されるとおもったのかな? でも、セロンはぼくを優しい眼でみて、頷いてくれた。
「これからずっと、セロンといるよ。セロンのためになんでもする。セロンが探しているものも探すよ」
「ありがとう、ございます」
セロン、ぼくはきみといっしょならどこだっていく。なんだってやる。いろんな感情をこめてもう一度抱きしめると、セロンは穏やかに笑った。
「ぼくは、セロンと、いっしょにいく」
「私も、貴方と一緒に行きますよ。置いていきません」
ぼくらは、その夜、誓いを立てた。セロンが話してくれたことは、ぼくらだけの秘密にする、と。
それから、ぼくらは二人で行動することが多くなった。
任務は必ず2人で出かけていた。
ぼくにはセロンが、セロンにはぼくが。
互いの背中を守り合いながら、世界を渡り歩いていく。
「次の任務は?」
「ティト、帝国南部での仕事ですよ」
セロンの言葉に頷き、ぼくは、セロンを追いかける。
あの日以来、胸の中にあった大きな穴は埋まった。きっとこれは、ぼくがセロンと共にあるかぎり変わらないだろう。
「セロン!」
追いついて、その手を握れば手袋越しにタコを感じる。弓を使う人特有の手とぬくもりを感じながらぼくはセロンの隣を歩く。
(もう、ずっと……一緒だよ)
(終)