新副長を迎えるに当たり

キャラクターノベル制作 革酎納品 2021年07月26日 12時24分17秒

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 つい先日、ロモズ歩兵団の副長選抜考査が実施された。
 この考査にて新たに五名の副長が誕生し、シルヴィア・A・カペル率いる遊兵9番隊には更にもうひとりの副長が加わる運びとなった。
 シルヴィアはこの新副長を迎えるに当たり、先任副長ウーリバー・マグスに諸々の指示を与えたり、或いは相談を持ち掛けるなどして、時々に於いて彼の力を頼っていた。
 そしてこの日もシルヴィアは、ウーリバー副長をロモズ歩兵団事務棟内の自身専用執務室へと呼び出し、新副長の為の制服支給とペンダント発注業務を任せると告げた。
「承知致しました。ところで新副長殿の採寸はもうお済みでしょうか?」
「あ、いや……そういえばまだだったかな」
 この新副長とシルヴィアは、実は冒険者という立場では同期の仲だった。冒険者個人として、新副長と一緒の依頼を初めて受けたのはもう何カ月も前の話だ。エドゥノーグ迷宮へ挑戦する、というものだった。
 あの当時はシルヴィアもまだ駆け出し冒険者のひとりでしかなく、治癒術師としての技量も今とは比べ物にならない程に未熟だった。その後、この新副長とは幾度と無く顔を合わせるようになり、今ではすっかり阿吽の呼吸で動ける仲だ。
 彼を遊兵9番隊副長に招きたいと思ったのも、冒険者として共に行動を重ねるうちに、実戦経験に基づいた彼の能力を間近で見て、可能であれば遊兵9番隊の任務を手伝って欲しいと願うようになったからだ。
 それなのにシルヴィアは新副長になる彼のことを、実はよく分かっていないのかも知れない。少なくとも服のサイズについては何ひとつ知らない。それもそうだ。シルヴィアは新副長の衣服を事細かに調べた記憶など無かったし、増してや彼の裸体をじっくり観察したことも無い、筈だ。多分。
 と、ここまで考えてシルヴィアは何故か頬が上気するのを感じた。どういう訳か新副長の裸体を頭の中で克明に描いてしまい、その素晴らしい肉体美が脳裏から離れなくなってしまったのである。
「どうしたんです? 具合でも悪いんですか? 顔が赤いですよ」
「いや、何でもない……ちょっとこの部屋、暑くないかな?」
 慌てて木窓を押し開き、襟元を掴んでぱたぱたと扇ぐ仕草を見せるシルヴィア。
「ところで選抜考査での新副長の考査結果は、どんな感じだった?」
「大したもんでしたよ。団長も彼なら大丈夫だって太鼓判押してましたから」
 自身の妙に浮ついた心を悟られない為に敢えて話題を変えたシルヴィアだったが、ウーリバー副長からの称賛の声には素直に安堵した。
 どうやら隊員達からの受けも良いらしい。これで増々、安心して迎え入れられるというものだ。
「うちの誰かがいってましたけど、隊長が包容力たっぷりのお母さんなら、新副長は冷静で頭が切れる寡黙なお父さんだなって。いい得て妙ですよね」
 何の気無しに笑ったウーリバー副長だが、シルヴィアの鼓動はより一層速まる。それってつまり、夫婦ということになるのだろうか。
 何だろう、この落ち着かない気分は――シルヴィアは更に全身が火照る様な暑さを感じ始めていた。

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 あぁそうだ、とウーリバー副長は不意に何かを思い出した様に両手を叩いた。
「歓迎会、やんなきゃいけませんね。確か新副長って野菜大好きなんでしたっけ?」
 何故そんなに情報通なんだろうかと内心で小首を傾げたシルヴィアだが、恐らく地獄耳で知られるロモズ歩兵団長からの入れ知恵か何かだろう。
 それは兎も角、ここロモズ旧村は難民キャンプとして機能し始めてから、既に三つの季節を経ている。その間に季節毎の野菜を幾種類も収穫しており、ベジタリアンな新副長ならきっと喜んでくれるんじゃないか、とウーリバー副長はにこやかに提案した。
「成程……それもそうだね」
 シルヴィアは、ウーリバー副長の気遣いもさることながら、新副長の為に彼の情報を早くも頭の中に叩き込んでおいてくれたその姿勢に、感謝の念を抱いた。ウーリバー副長も、そして遊兵9番隊員達も、新副長を心から歓迎してくれていることがこの一事だけでも容易に伺えた。
「新副長は特に、どんな野菜がお好きなんでしょう?」
「えぇと、確か豆だったかな」
 枝豆、エンドウ豆、さやえんどうならロモズ旧村でも収穫済みだから、歓迎会の食材を用意する分には全く問題無い。だが何故、豆なのか。野菜大好きベジタリアンにしては随分とニッチな好みだ、とウーリバー副長が不思議がるのも無理は無い。
 いわれてみれば、シルヴィアも何故新副長がそこまで豆派なのか、余り詳しく聞いたことが無かった。
「じゃあ、丁度良い」
 歓迎会では豆の魅力についてじっくりお話して頂きましょう、とウーリバー副長。得意な話題を披露して貰った方が皆と馴染むのも早い、という訳だ。
 流石だな――シルヴィアは感心すると同時に、ただ純粋に嬉しかった。

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