セロンとティトの主従な一日
キャラクターノベル(グループ)制作 空色みなも納品 2021年07月12日 11時12分03秒
●
なんなりと、お好きなことをお申し付けください。
ぼくはご主人様のメイドだから――。
●
「まっ……負けた……」
がくりと膝を突き、跪く形となったティト。
雪のように光を跳ね返すティトの髪が、だらりと垂れ下がって頬にかかる。
「さて……約束を守ってもらいましょうか」
その傍らにセロンガード・シュタインドルフが立ち、ティトに影を落とす。
太陽を背に半ばシルエットとなったセロンガードの顔には、勝ち誇るような笑みが浮かんでいた――。
●
「え、えっと。これでいいかな。その……ご主人様」
「うんうん、よくお似合いですよ」
白黒のメイド服に身を包んだティトが、部屋に入ってきて遠慮がちにセロンガードへ呼びかけた。
動きやすいよう少し丈を短くしたスカートに、フリルに彩られたエプロン。
その着こなしを見たセロンガードは、満足げに頷いている。
そう、セロンガードとティトの間で交わされた約束とは『勝負に負けたら一日執事、または一日メイドとして相手に仕える』こと。
二人は罰ゲームを賭けて海で釣果を競う勝負を行い、これを制したのがセロンガードだったのだ。
(普段と立場が逆なので正直不安ではありますが……)
こうした勝負を行なう場合、今までだいたいはセロンガードが負けていたため、立場上優位であるという珍しい状態にかえって戸惑っていたりもした。
それに、ティトにとっても誰かのために家事をこなすという経験は不慣れであろう。
見守るセロンガードが心配するのも無理からぬ話であった。
が、このような貴重な機会を楽しまずして何とする。
セロンガードは今日という一日を満喫するつもりだ。
「どんなお仕事を……ん。しましょう、ご主人様」
ティトもどうせならメイドになりきろうと、口調を畏まったものにしてみせる。
二人の主従な一日は、こうして幕を開けた。
●
「ふぅ……」
机を前に一息ついたティトが、額の汗を腕でぬぐう。
その手には乾いた布が握られており。
ティトが先程まで机を磨いていたことを示していた。
「お仕事は順調ですか、ティト」
「あ、ご主人様。これ、見て……ください」
背後にセロンガードが立ち、ティトにより磨き上げられた机を覗き込む。
すると、そこにはこちらを見つめ返す自身の顔が映っているではないか。
「すごいですね。鏡みたいにピカピカじゃないですか」
「えへん……」
仕事の出来栄えに、素直に感心を表すセロンガード。
ティトも得意気に胸を張る。
「ん……」
「はて、どうしました?」
ティトが近寄ってきて、何かをじっと待っているようなので。
セロンガードは不思議そうに、自分の胸元ほどの高さにあるティトの顔を見る。
「上手くできたら、ご褒美……あります、よね」
顔を赤らめて俯いたティトによる、上目遣い。
セロンガードは胸にグッとくるものを感じながらも、ここで悪戯心を起こした。
「おっと、そうでしたね……お給金ですか?」
「そうじゃなく、て。えっと……なでなで」
焦らすような態度のセロンガードに、ティトは痺れを切らして自らの頭をグイと差し出す。
「ふふ、よくできましたね、ティト」
「あ……」
そこに柔らかく触れたセロンガードの手が、優しくティトの髪を撫ぜた。
ティトはすっかり力の抜けきった様子で、狼耳をぴこぴこ揺らし、尻尾を振っている。
かわいい。
「さあ、この調子で他のお仕事も頼みましたよ」
「次はお洗濯……頑張り、ます」
セロンガードが頭を撫でていた手を、ポンと肩に置くと。
ティトはふんすと息を吐いて、パタパタと廊下を駆けて行った。
●
パンッ――。
シャツのしわを伸ばす音が、雲一つない青空に抜ける。
お日様がご機嫌な今日は、まさに洗濯日和だ。
「なでなで、よかった……」
手にしたシャツを物干しに吊るしながら、ティトは惚けた顔をしていた。
セロンガードの大きく温かい手が、自らの頭を包み込む感触が今も残っているようで。
気を抜くと、にやけてしまいそうになる。
「はっ、いけない、いけない。お仕事、ちゃんとしないと……ご褒美、もらえない」
気を引き締めねばと、ティトはピシャピシャと自らの頬を叩いたのだった。
●
「ご馳走様でした」
「お味は、いかがでしたか」
食卓に着いたセロンガードの前には、料理が綺麗に平らげられた皿が並んでいた。
ティトは食後の紅茶を淹れながら、恐る恐るといった様子で感想を尋ねる。
今しがたセロンガードが賞味したのは、他でもないティトの手料理なのだ。
「ええ、とても美味しかったですよ。またとないご馳走でしたね」
「なら、よかった……です」
セロンガードは淹れて貰ったばかりの紅茶の香りを楽しみながら、ティトの料理を絶賛した。
その言葉を聞けたというだけでティトは嬉しくなり、無意識のうちに尻尾が左右に揺れていた。
「ねえ、ご主人様……」
「な、なんでしょうか」
急に甘ったるい声を出したティトの、とろんとした瞳が妙に熱っぽい。
その展開は思いがけなかったのか、セロンガードがたじろいだ。
「ご主人様が、一番されて嬉しいこと……なにが、ありますか?」
「そっ、それは……」
そんなことを言ってティトが体を寄せてきたものだから、セロンガードの頭の中をぐるぐると妄想が駆け巡る。
邪念を振り払うように、セロンガードは大きくかぶりを振って。
「ま、まだティトには早いです」
「ふーん……ぼくには、まだ早いようなこと……して欲しいん、ですね」
セロンガードから子供扱いされたように感じたのか、ティトは頬を膨らませそうになる。
けれど、それではますます子供っぽく見られると思い直して我慢したようだ。
「ぼくはメイド、ですから……どんな、ご奉仕でもします、よ」
「ぐ……」
ティトの上気した顔が、すぐ目の前にまで近づいて。
ふわり、と鼻孔をくすぐる女の子の匂い――。
セロンガードの喉で、唾を飲み込む音がする。
「ご主人様、なんなりとご命令を、どうぞ……」
「ティト――」
潤んだ瞳で見つめてくるティトに、セロンガードが両の手を伸ばし――。
「命令します。ティトはご自分を大事にしてくださいね」
「う……」
セロンガードはティトを軽く抱き寄せると、ぽふぽふと背中を叩いた。
それで頬を真っ赤に染めたティトは、セロンガードの胸に顔をうずめ、押し黙ってしまったのだった。
●
「終わっ、たあ……」
「一日メイドお疲れさまでした、ティト」
約束の時刻を過ぎたと見るや否や、ティトの体から一気に力が抜ける。
その様子を見たセロンガードが、労いの言葉をかけると――。
「ねー、セロン……」
「おっとと」
体をふらつかせたティトが、ぼふっとセロンガードに寄りかかった。
それを慌てて受け止めるセロンガード。
「膝枕……して」
「はは、いいでしょう。後はゆっくりと休んでください」
ティトのおねだりに、セロンガードは快く膝を貸すことにしたようだ。
「すぅ……」
「おやおや、よほど疲れていたのですね」
膝に頭を乗せた途端、すやすやと寝息を立て始めたティトを見て、セロンガードの口元が緩む。
セロンガードがそっとティトの頭を撫でると、眠っているはずのティトが、幸せそうに顔をほころばせた。
なんなりと、お好きなことをお申し付けください。
ぼくはご主人様のメイドだから――。
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「まっ……負けた……」
がくりと膝を突き、跪く形となったティト。
雪のように光を跳ね返すティトの髪が、だらりと垂れ下がって頬にかかる。
「さて……約束を守ってもらいましょうか」
その傍らにセロンガード・シュタインドルフが立ち、ティトに影を落とす。
太陽を背に半ばシルエットとなったセロンガードの顔には、勝ち誇るような笑みが浮かんでいた――。
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「え、えっと。これでいいかな。その……ご主人様」
「うんうん、よくお似合いですよ」
白黒のメイド服に身を包んだティトが、部屋に入ってきて遠慮がちにセロンガードへ呼びかけた。
動きやすいよう少し丈を短くしたスカートに、フリルに彩られたエプロン。
その着こなしを見たセロンガードは、満足げに頷いている。
そう、セロンガードとティトの間で交わされた約束とは『勝負に負けたら一日執事、または一日メイドとして相手に仕える』こと。
二人は罰ゲームを賭けて海で釣果を競う勝負を行い、これを制したのがセロンガードだったのだ。
(普段と立場が逆なので正直不安ではありますが……)
こうした勝負を行なう場合、今までだいたいはセロンガードが負けていたため、立場上優位であるという珍しい状態にかえって戸惑っていたりもした。
それに、ティトにとっても誰かのために家事をこなすという経験は不慣れであろう。
見守るセロンガードが心配するのも無理からぬ話であった。
が、このような貴重な機会を楽しまずして何とする。
セロンガードは今日という一日を満喫するつもりだ。
「どんなお仕事を……ん。しましょう、ご主人様」
ティトもどうせならメイドになりきろうと、口調を畏まったものにしてみせる。
二人の主従な一日は、こうして幕を開けた。
●
「ふぅ……」
机を前に一息ついたティトが、額の汗を腕でぬぐう。
その手には乾いた布が握られており。
ティトが先程まで机を磨いていたことを示していた。
「お仕事は順調ですか、ティト」
「あ、ご主人様。これ、見て……ください」
背後にセロンガードが立ち、ティトにより磨き上げられた机を覗き込む。
すると、そこにはこちらを見つめ返す自身の顔が映っているではないか。
「すごいですね。鏡みたいにピカピカじゃないですか」
「えへん……」
仕事の出来栄えに、素直に感心を表すセロンガード。
ティトも得意気に胸を張る。
「ん……」
「はて、どうしました?」
ティトが近寄ってきて、何かをじっと待っているようなので。
セロンガードは不思議そうに、自分の胸元ほどの高さにあるティトの顔を見る。
「上手くできたら、ご褒美……あります、よね」
顔を赤らめて俯いたティトによる、上目遣い。
セロンガードは胸にグッとくるものを感じながらも、ここで悪戯心を起こした。
「おっと、そうでしたね……お給金ですか?」
「そうじゃなく、て。えっと……なでなで」
焦らすような態度のセロンガードに、ティトは痺れを切らして自らの頭をグイと差し出す。
「ふふ、よくできましたね、ティト」
「あ……」
そこに柔らかく触れたセロンガードの手が、優しくティトの髪を撫ぜた。
ティトはすっかり力の抜けきった様子で、狼耳をぴこぴこ揺らし、尻尾を振っている。
かわいい。
「さあ、この調子で他のお仕事も頼みましたよ」
「次はお洗濯……頑張り、ます」
セロンガードが頭を撫でていた手を、ポンと肩に置くと。
ティトはふんすと息を吐いて、パタパタと廊下を駆けて行った。
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パンッ――。
シャツのしわを伸ばす音が、雲一つない青空に抜ける。
お日様がご機嫌な今日は、まさに洗濯日和だ。
「なでなで、よかった……」
手にしたシャツを物干しに吊るしながら、ティトは惚けた顔をしていた。
セロンガードの大きく温かい手が、自らの頭を包み込む感触が今も残っているようで。
気を抜くと、にやけてしまいそうになる。
「はっ、いけない、いけない。お仕事、ちゃんとしないと……ご褒美、もらえない」
気を引き締めねばと、ティトはピシャピシャと自らの頬を叩いたのだった。
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「ご馳走様でした」
「お味は、いかがでしたか」
食卓に着いたセロンガードの前には、料理が綺麗に平らげられた皿が並んでいた。
ティトは食後の紅茶を淹れながら、恐る恐るといった様子で感想を尋ねる。
今しがたセロンガードが賞味したのは、他でもないティトの手料理なのだ。
「ええ、とても美味しかったですよ。またとないご馳走でしたね」
「なら、よかった……です」
セロンガードは淹れて貰ったばかりの紅茶の香りを楽しみながら、ティトの料理を絶賛した。
その言葉を聞けたというだけでティトは嬉しくなり、無意識のうちに尻尾が左右に揺れていた。
「ねえ、ご主人様……」
「な、なんでしょうか」
急に甘ったるい声を出したティトの、とろんとした瞳が妙に熱っぽい。
その展開は思いがけなかったのか、セロンガードがたじろいだ。
「ご主人様が、一番されて嬉しいこと……なにが、ありますか?」
「そっ、それは……」
そんなことを言ってティトが体を寄せてきたものだから、セロンガードの頭の中をぐるぐると妄想が駆け巡る。
邪念を振り払うように、セロンガードは大きくかぶりを振って。
「ま、まだティトには早いです」
「ふーん……ぼくには、まだ早いようなこと……して欲しいん、ですね」
セロンガードから子供扱いされたように感じたのか、ティトは頬を膨らませそうになる。
けれど、それではますます子供っぽく見られると思い直して我慢したようだ。
「ぼくはメイド、ですから……どんな、ご奉仕でもします、よ」
「ぐ……」
ティトの上気した顔が、すぐ目の前にまで近づいて。
ふわり、と鼻孔をくすぐる女の子の匂い――。
セロンガードの喉で、唾を飲み込む音がする。
「ご主人様、なんなりとご命令を、どうぞ……」
「ティト――」
潤んだ瞳で見つめてくるティトに、セロンガードが両の手を伸ばし――。
「命令します。ティトはご自分を大事にしてくださいね」
「う……」
セロンガードはティトを軽く抱き寄せると、ぽふぽふと背中を叩いた。
それで頬を真っ赤に染めたティトは、セロンガードの胸に顔をうずめ、押し黙ってしまったのだった。
●
「終わっ、たあ……」
「一日メイドお疲れさまでした、ティト」
約束の時刻を過ぎたと見るや否や、ティトの体から一気に力が抜ける。
その様子を見たセロンガードが、労いの言葉をかけると――。
「ねー、セロン……」
「おっとと」
体をふらつかせたティトが、ぼふっとセロンガードに寄りかかった。
それを慌てて受け止めるセロンガード。
「膝枕……して」
「はは、いいでしょう。後はゆっくりと休んでください」
ティトのおねだりに、セロンガードは快く膝を貸すことにしたようだ。
「すぅ……」
「おやおや、よほど疲れていたのですね」
膝に頭を乗せた途端、すやすやと寝息を立て始めたティトを見て、セロンガードの口元が緩む。
セロンガードがそっとティトの頭を撫でると、眠っているはずのティトが、幸せそうに顔をほころばせた。