お洒落は迷宮探索の後に
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年07月07日 13時21分30秒
「お洒落が……してみたいで、ございま……す」
「「えっ!?」」
ふと聞こえ呟きに、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとネーヴェ・グラヌローザは声を出して驚いた。
「ひゃわわっ!? ももも、もうしわけああありませんんっ!! 私が……私などがおおお洒落などと! わ、わしゅれてくだひゃい……!」
まじまじと自分を見つめてくる友人二人に、ララノアはフードを目深にかぶりしゃがみ込んでしまった。
「ご、ごめん、ラーラ! そういうわけじゃないんだよっ!」
「そ、そうですわ、ララノア様! ララノア様も女の子ですもの、お洒落に興味を持つのは当然の事ですわっ!」
ダンゴムシになってしまったララノアに必死のリカバリーを試みる二人。しかし、ララノアは固く閉じたフードローブに籠り出てこようとしない。
「これは困りましたわね……」
「ちょっと大きな声出し過ぎたね……どうしようか」
「そうですわね……」
二人は小刻みに震えるララノア団子を見やり思案する。
「ネヴェりん。あたし、この機会を逃したくないな。あのラーラがお洒落しいなんて言うって事は……ほんとに凄い事だと思うから。お手伝いしたい」
「ええ、同意いたしますわ。私もご本人様の口からその言葉が聞けるとは思っておりませんでしたもの」
「だからさ。この機会を逃してたら、次いつチャンスに恵まれるかわからないと思うんだよ……! ネヴェりん隊長!」
「隊長になった覚えはございませんが、そういう話であれば謹んで拝命いたしますわ! それに、実を言うと私も待ちわびていたのです」
「待ちわびていた?」
「はい、かねてより心の底で温めていたララノア様お洒落計画発動の日を!」
「ごくり……さすがネヴェりん隊長! そうと決まればこのローブをこじ開けないとね!」
「しかし、この頑強なフードは……一筋縄ではいきませんわよ?」
「任せてよ! あたしにとっておきの考えがあるだから!」
「とっておき……それは一体」
「ネヴェ隊長、お耳を」
「拝聴いたしましょう――」
と、サフィラはネーヴェの耳元に口を近づけると、何やらこそこそと話し始める。
「――そ、それは……!」
「ふふふ……どう、完璧な作戦でしょ」
「ええ……ええ、本当に。完璧すぎて戦慄すら覚えてしまいましたわ」
「それじゃ、異議なしという事で」
「はい。しかし、あまりに効果的すぎて、少し心配になりますわね……」
「うーん、きっと大丈夫!」
どこから来るのかわからない自信を胸にサフィラはララノア団子に近づく。
そして、大きく息を吸い込むと――。
「あ、レインっちだ!」
「え゛っ!?」
その名を聞いたララノアはローブを吹き飛ばす勢いで頭を上げた。
「お帰りラーラ。ごめんね、レインっちはいないんだ」
きょろきょろと辺りを伺うララノアの前にしゃがみ込んで頭を下げるサフィラ。
「さっき、ラーラが勇気を出して話してくれたのに、おっきな声出しちゃってごめんね。本当はあたしたちとっても嬉しかったんだよ」
「ララノア様、私達と街に行きましょう。あなたのその勇気、私達に後押しさせてくださいませ」
サフィラとネーヴェは混乱するララノアに、ゆっくりと話しかけた。
「サフィラ様、ネーヴェ様……」
頭だけを上げたララノアは、ずり落ちた眼鏡の隙間から二人を見上げる。
「うれしいです……私なんかに、そう言って……もらえるなんて。ありがとうございます……」
暖かな二人の心に触れ、ずびびと鼻をすすり上げるララノアは、ゆっくりと立ち上がった。
「ぁぁあの……よ、よろしくおね――」
――ガシっ。
「ふふ、楽しみだなぁ。ずっとかわいい服着せてみたかったんだよね!」
――ガシっ。
「ええ、わかりますわ、サフィラ様。これほどの素材ですもの、私も今、とても胸が高鳴っておりますわ!」
「……えっ? え、えっと、あれ……?」
ララノアは二人に両脇をがっちりホールドされ、街へと連行されていった――。
●
ところ変わって街のブティック。
サフィラとネーヴェは早速とララノアを試着室に放り込むと――。
「あたしとしてはアクティブさをプラスしたい所なんだよね」
「いえいえ、やはりここはエルフらしく優雅に落ち着いた色合いのこちらなどいいのではないでしょうか?」
「うーん、確かに似合うと思うんだけど、それじゃ普通エルフになっちゃわない?」
「普通エルフというワードを初めて耳にしましたが、普通ではいけませんの? かわいいは正義ですわ」
「……えっと、あの……」
「もちろん、可愛いは正義に同意するよ? でもさ、もうすぐ夏だし、ここは一気にイメージチェンジをぶちかまして、あのコミュ障の注目を惹かないといけないと思うんだよね」
「ふむふむ、確かにサフィラ様の言にも一理ありますわね。しかし、私は正統派エルフの愛しさと切なさと心強さを推しますわ。可憐なララノア様にはやはり、軽やかでふわりとした印象を与えるドレス系がよろしいのではないでしょうか」
「サフィラ様、ネーヴェ様……?」
「ネヴェりんが言ってる事はあたしにもわかるよ? 確かに妖精ちゃんみたいな幻想的な服は絶対に似合うと思う。でも、それはあんまりにも王道すぎると思うんだよ」
「王道では駄目でしょうか? 奇をてらったからといって、あの方が振り向いてくれるとは思いませんわ。逆に距離を置かれる可能性だってありますもの。ここはやはり、今の路線を更に昇華させるべきかと」
「今の路線を踏襲してしまうとさ、あの顔も覚えられないコミュ障に対するインパクト的なものが欠けると思うんだよね。ここは180度方向性を変えて攻めてみるのも兵法だと思うんだよ」
「まさにお洒落は戦。わかります。わかりますが、私もここで退くわけにはまいりません。搦め手も一時的には効果があるでしょう。しかし、やはり最後に勝るのは正攻法だと、私は信じております」
「あ、あのっ……!」
「「ラーラは少し黙ってて!」」
「はひぃぃ!!」
「「あっ!?」」
あまりの熱の入った議論に二人はまたやらかしてしまう。
再びダンゴムシになってしまったララノアに、二人は慌てて駆け寄った。
「ララノア様、申し訳ございません。つい熱が入ってしまいました……」
「ラーラごめんね。大丈夫だよ。お外は怖くないから、出てきて……ね?」
二人は必死で慰めにかかるも、ララノアはローブに籠ったままブルブルと震えている。
「ほんとにごめん……でもね、ラーラ。その臆病な性格もなおしていかなきゃと思うんだよ?」
「そうですね。確かに先ほどの言い方は私達に全面的な非がありますが、いつまでもびくびくとしていては、あの方も困ってしまいますわ」
「困る……」
「ええ、あの方も自らぐいぐい押していくタイプではありませんし、ララノア様はもっとそうです。お二人の距離を詰めたいのであれば、ララノア様が変わりませんと」
「うん、ラーラは元の素材がとってもいいんだから、もっと自分に自信を持って! しっかりお洒落して背筋を伸ばせば、あのコミュ障も絶対振り向くし、何ならそこらの男がほっとかないって!」
「そこらの男は気にしなくて結構ですけど、好いた方の為に美しくなることは女の使命ですわ。ララノア様、顔を上げてください。そして、私達にあなたの美しさの後押しをさせてください」
「お二人も……そうなのですか……?」
ララノアは説得してくる二人に向けてちらりと視線を上げ問いかけた。
「うっ……ま、まぁ、そうかな」
「ええ、最近のサフィラ様は本当にお綺麗になられましたよ」
「そ、それを言うならネヴェりんもでしょ!」
「そうですか? あまり意識はしていないのですが……」
「うわっ! そう言うとこだよ、そう言うとこ! これだから天然美人さんは!」
「お褒めに預かり光栄ですが、サフィラ様も十分美人さんですわよ?」
「ぴえっ!?」
――くすっ。
「も、もう! あたし達の事はいいんだよっ! 今はラーラの事でしょ!」
「そうですわね。ララノア様がお綺麗になればきっと――いえ、既にお綺麗ですので、その美を磨けばいくら鈍感な殿方であろうとも、振り向かずにはいられませんわ」
「あ、でもさ、あんまり可愛くなり過ぎたらあのコミュ障、眩しすぎて逃げていくかも?」
「はっ……それは思い至りませんでしたわ。しかし、その程度で逃げていくのでしたら、本気度が知れましてよ? 真にララノア様を想うのであれば、褒めることはあれ逃げるなんて……多分……えっ、しませんわよね?」
「えっ!? そこで自信なさげに聞き返さないでよ!」
「ぷっ……」
そんな二人の会話をじっと聞いていたララノアは、いつの間にか頭を起こし小さく笑っていた。
「やっぱりラーラは笑ったほうが可愛いよね」
「まったく同感ですわ。とても素敵な笑顔をお持ちです」
二人はララノアの笑顔に、手を差し伸べじっと待つ。
「あの……綺麗になったら……あの人に、顔を覚えて……いただけますか?」
ララノアは両手を差し出し二人の手をそれぞれとると、ゆっくりと立ち上がった。
「覚えてもらうも何も、一生忘れられなくなるよ!」
「忘れる事が出来な過ぎて、夜も眠れなくなりますわ」
二人は小さなララノアの手をぎゅっと握ると、ゆっくりと引き寄せた。
「さぁ、ララノア様変身計画、再始動ですわ!」
「おーー!!」
「よよよ、よろしくお願いしましゅ!」
ぐっと拳を握るネーヴェに、天に拳を突き上げるサフィラに、ララノアは精一杯大きな声を出すと、祖母の形見のローブと眼鏡に手をかけた。
森を出てからずっと身に着けていた心の防具。でも、もう必要ない。大事な目印はそっとタンスの中にしまって、新しい自分なってあの人に会いに行く。
だって、大切な友達が、こんなにも一生懸命になってくれているのだから。きっと彼にも覚えてもらえる。ううん、覚えさせるんだ!
心の中でぐっと拳を握ったララノアは、眼鏡とローブを脱ぎ捨てた。