始まりは森の中
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年06月29日 13時21分17秒
『俺が死んだら独りぼっちにさせちまうから』
『一人にさせないよう生き残る戦い方もあると思うけどね』
「なんて言っていたのにね」
森の中をゆっくりと歩きながらにセヴラン・クアルトはアーシェル・G・クラインに話しかけた。
「あの時はなんだ……まだその時じゃなかったんだよ」
アーシェルは見上げてくるセヴランから視線を外し森を見る。
森は薄暗く昨夜の雨で地面もぬかるんでいる。辺りを濃い緑の香りが包み、そこかしこから動物の鳴き声や葉擦れの音が聞こえた。
「しかし、今日は目的があったとはいえ、二人きりで出かけるのも久しぶりだね」
「今更かよ」
ぬかるんだ地面に足を取られないように歩きながら、今までの事を思い出す。この森へ辿り着くまで六日。久しぶりの二人旅とあって色々な事を話した。冒険の事、依頼の事、仲間の事……。散々話尽くしたのに、なぜ今改めてそれなのかとアーシェルは首をかしげる。
「他に人がいないから、かな」
「……なんだよそれ」
「僕と二人きりは嫌かい? やっぱりあの子達二人のどちらかとの方がよかった?」
「そ、そういう事言ってるんじゃねぇだろ」
セヴランの嬉しそうな笑顔に、アーシェルはなぜか気まずくなり視線を前に戻した。
「そんな事より、どの辺りにいそうだ?」
アーシェルは話題を変え、セヴランに問いかける。
「まだ森に入ったばかりだしね。もう少し奥に行った方がいいだろう。できれば若い子がいいんだろう?」
「ああ、そうだな。その方が少しでも長く一緒にいられる」
「……そうだね。君の本気を受け止めてくれる子に巡り合えるといいね」
セヴランはアーシェルの言葉に頷いた。
二人は緑深い森の獣道を草葉を掻き分けゆっくりと進んでいく。
「さて、この辺りはどうかな」
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。
「ララ、お願いできるかい?」
セヴランは相棒の頭を撫でる。応えたララは主の肩からぴょんと飛び出すと、空中の匂いに鼻を何度かひくつかせ、そのまま茂みの方へ駆けていった。
「ほっといていいのか?」
「ああ、大丈夫さ。奥はララに任せて僕達はここを調べよう」
「ここ?」
セヴランに言われアーシェルは辺りを見渡すが、鬱蒼とした森の中の少しだけ開けた場所という以外、ここが特別な場所である感じはしない。
「何かあるのか?」
アーシェルは首をかしげながらセヴランに問いかけた。
「ああ、沢山あるよ。まさに情報の宝庫だ」
答えたセヴランはにこりと微笑むと、小さな破片をアーシェルに見せる。
「なんだそれ」
「これは、痕跡さ」
「痕跡……?」
セヴランが掌に乗せたそれは、何かの木の実の破片のようだった。
「予想通り、ここにはいるよ」
「おっ、そうか!」
確信めいたセヴランの言葉に、アーシェルは表情を明るくする。
「捜索の方はララに任せて、僕達はもう少しこの場所で情報を探ろう。……あちらはまだ時間がかかりそうだしね」
と、セヴランはララの消えていった茂みの方を見つめた。
「エーテルリンクを結べばすぐわかるんじゃないのか?」
「残念ながら、探すにはあの子の鼻と耳が必要だからね。感覚共有してしまうと、あの子の強みが生かせなくなる。それにこの森は初めてだからね。あの子に任せて報告に戻ってくるのを待つよ」
「ふーん。エーテルリンクも万能じゃないんだな」
「はは、むしろ不便な事の方が多いよ」
セヴランはじっと茂みを見つめるアーシェルに苦笑で答えた。
それからしばらく、ララの帰還を待ちつつも情報収集は続く。結果、木の実の破片だけでなく、小さな足跡らしきものもいくつか発見できた。
「足跡で年齢は計れないのが残念だけどね」
と、セヴランが肩を竦める。森に入って既に2時間ほどが経過していた。
●
「結構かかってんな」
木々の隙間から空を見上げアーシェルが呟く。
陽は随分と傾き、森の中にも影が伸びてきた。
「待ちきれないかい?」
「そう言う訳じゃねぇけどよ……」
広場の痕跡探しはあらかた終わってしまった。後はララの帰還を待つだけなのだが、そのララがなかなか帰ってこない。
不安気に揺れるアーシェルの瞳を見たセヴランは一瞬考え込むと。
「うーん、そうだね。あまり音を立てて気づかれるのもあれなんだけど……」
手近にあった低木から葉っぱを一枚ちぎる。そして、それを口元に当てた。
「なんだそれ……?」
葉でも食べるのかと、不思議そうに見つめるアーシェルに微笑んでから、セヴランは息を吐き出した。
森の空き地に響いた甲高い音色。どこか懐かしさを感じさせるその音は、木々のざわめきに合わせるように心地よく響く。
「草笛って奴か……?」
驚く様に問いかけたアーシェルに、セヴランはウィンクを一つ。
強弱を付けられ響く葉の響き。単調なメロディなのに、セヴランが奏でるとちゃんと音楽に聞こえるから不思議だ。
アーシェルはいつしか瞳を閉じ、セヴランの草笛の音に聞き惚れていた。
「チッチッ」
「うん?」
演奏もしばらく続いたそんな時だった、音楽に混じって少し耳障りな音が聞こえてくる。アーシェルは瞳を開き辺りを見渡した。
セヴランも気付いたのか草笛の音はそのままに視線だけで周囲を探る。
しばらく視線を動かしていると、アーシェルが樹上に小さな影を見つけた。
「鳥……いや、ララか?」
それは小さな栗鼠だった。セヴランの奏でる草笛の音が気になるのか、枝の上からじっと二人を見下ろしている。
アーシェルはララが帰って来たぞと視線で伝えるが、セヴランは首を振って否定した。
「ララじゃねぇのか……」
遠目とあって個体差の区別がつかないが、どうやらララではないようだ。となると、野生の栗鼠か。
見た目はララによく似た毛色の栗鼠だ。セヴランの音楽に興味があるのか、それとも初めて見たヒトに興味があるのか、ともかく鼻をひくつかせながらじっとこちらを見ている。
アーシェルは驚かさないように様子を探る。すると、隣にもう一匹栗鼠が並んだ。
「あれは……ララか」
それは一目でわかった。首にトレードマークの青いリボンを巻き、片耳に小さな飾りを付けたセヴラン自慢の相棒だ。
ララは隣の栗鼠に体を寄せ、クンクンと匂いを嗅いでいる。
「おいで、ララ」
と、セヴランが枝に向かって手を伸ばす。いつの間にか草笛の演奏は止んでいた。
ララは隣の栗鼠に何度か鼻をこすりつけると、すたすたと木を降り自分の定位置に収まった。
「あの子かい?」
セヴランは戻ってきた相棒に問いかけると、ララは肯定する様に鼻をこすり付ける。
「アーシェル、おやつを出して」
「お、おう」
セヴランに言われ、アーシェルは慌てて背負い袋に手を突っ込んだ。
「落ち着いて、音を立てないようにゆっくりでいいから」
ガサゴソと中身を漁るアーシェルに、セヴランは苦笑しながら諭す。
「そ、そうか。わかった」
アーシェルはこくこくと頷くと、おやつを手に乗せゆっくりと腕を上げた。
樹上にいた栗鼠は、セヴランの肩に入るララとアーシェルのおやつを交互に見つつ、ゆっくりと木の幹を伝ってくる。そして、アーシェルが差し出した手の位置まで降りてくると、器用に身を乗り出しおやつの匂いを嗅いだ。
「アーシェル、ゆっくり近づけて」
セヴランの言う通りに、アーシェルは手をゆっくりと幹へと近づける。
しかし、栗鼠は警戒しているのか、なかなかアーシェルの手に移ろうとはしなかった。